No.27

DB

役立たずの戦い
 いやほんと、何となくなんですけどね。
 名前は悟飯そっくりな目で見つめてくる悟空にそう笑った。
 それはないと思うぜ。呟くクリリンを制し、悟空は名前から視線を外さぬまま問うた。
「何で、そう思うんだ……?」
 金色になるのは相当疲れるらしい。名前は当然ながら気合いで髪が金色になったり空を飛べたり出来るわけではないので、それが当人の体にどんな影響をもたらすかなんて分からない。
 だが、急激なパワーアップが身体に負担をかけることは分かった。目の前で悟空が実践してくれたのだ。
 お陰で悟飯が帰ってくる前に天国へと戻らなければなくなったらしい。どうやら現世に存在するのも力が要るようだ。
 名前の言葉を待っている今でさえ滝のような汗を流している。
「約束、したんで。生きて帰ってくんじゃないですか?」
「……そっか、そうだな」
 細められた目の奥。楽しそうな色がちらりと見えた。
 もしかして、自分の気持ちを知られているんじゃないだろうか。そんなことを考える名前は知らない。己の悟飯に対するほんのりあったかピンク色の思いが結構な勢いでだだ漏れていることに。そしてそれをこの場にいる鋭い方々に気取られていることを。
 知らぬが仏というやつだ。もし名前がブルマやヤムチャの脳内を覗けたなら、無表情に神殿から青空へダイブしていただろう。
 人の考えを完全に知ることが出来ない、というのは素晴らしいことだ。
 時間だ、と占いおばばに言われ、悟空が明るく片手を挙げる。いや待てお前それが死人のテンションか。思うが名前とて一応TPOは弁えている。父親との別れを寂しがる少年の前でそんなことを言うほど非道ではない。
 悟飯ももう一度会いたかったんじゃないだろうか。名前はこの場にいない同級生のことを考えた。
 死んだ父親の話は、実は悟飯との会話でよく出てきた。聞くと見るとでは大違いだったが。
 曰く。
 明るく豪快で優しい人。
 まあ間違いではない。
 どころが大正解ではあるが、色々と省略しすぎて逆に分かり辛い。当人を見れば「嗚呼成る程ね」と納得できるのだが。
 悟飯と名前の悟空に対する印象の違いはさておき。
 その悟空の事を話すときの悟飯は何をしている時よりも楽しそうだった。
 僕のお父さんはね。
 こんな事を言ってた。こんな事を教えてくれた。こんな事をした。こんな事でお母さんに怒られてた。
 一言一言に愛情を込めて。語られた言葉を覚えている。
 本当は、もっと違った再会にしたかったんだろう。簡単に想像がつく。なのに、今悟飯はおらず、悟空は帰ろうとしている。
 悟飯が悲しむ。
 それは名前を苛つかせるに足る充分な理由だった。
 例えばここで。悟空を殴りつけてその身体を縄で縛って神殿の柱にでも括りつければ彼が帰らずにいるというのなら、名前はきっとそうしただろう。
 自己満足と分かっていても、この別れ方はあんまりだと思ったのだ。
 お父さんっ子だったんですよ、と笑う顔を思い出す。二割増で幼くなる童顔が微笑ましかった。
 オカルトの本でも探せば甦りの方法くらい載っているかもしれない。有効かは別にして。何でもありのこの世界だ。本気で試せば何とかもしれない。が。
 件のドラゴンボールでどうにかならないのだろうか、とも思う。しかし可能だったなら彼らがそうしないはずもないだろう。
 実際には悟空が生き返ることを拒否したのだが、名前がそれを知って悟空と一悶着起こすのはまた別の話だ。
 空へと飛び立ちながら縁起でもないことをのたまう蟹頭に呆れた視線を送る。突っ込まなかったのは涙を浮かべている彼らへ対する名前の思いやりだ。
 悟飯とはまだ再会して欲しくない。早速フュージョンの修行を続けるちびっこ共に背を向けながら願う。それはつまり、悟飯もあの世にいるということだから。
 それはない、と思っている。願望かもしれないけれど、実感が湧かないのだから仕方ない。
 悟飯よりも先に名前と悟空が再会してしまう事態も避けたい。待っていると告げたのだから、待たなければならないのだ。名前は。
 あの世で悟飯と会ったって、それは再会なんてもんじゃなく。
 死んだ後で「やーまた会ったね」なんて言うのは数十年後でいい。まだまだ先の長いティーンズなのだ。
 そこまで考えて、数十年先まで悟飯と長々付き合っていくつもりなのか、と自分に突っ込みを入れて、名前はうがぁと頭を抱えた。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 感動だ。それ以外にこの思いを表す言葉があるだろうか。いやない。
 悟飯は胸に手を当て、悟空から聞かされた言葉を大事に大事に胸の奥へと仕舞い込んだ。
 帰ると悟飯が言った。名前が信じた。それだけだ。
 それだけが、酷く嬉しい。
「嬉しそうだなー」
「嬉しいですよ」
 嬉しいに決まってる。名前は既に気のことを知っている。悟空やクリリンたちが気で相手の存在を知ることが出来るということも。悟空は悟飯の気が全く感じられなくなったということも説明したという。
 だのに。
 悟飯が、帰ると。
 早く名前に会いたい。強く思った。
 今帰ったとして、名前ならば「無事か」の一言で終わらせるだろう。そこに問題はない。
 だが、地球的には大問題だ。
 大してパワーアップなどしていないことはよく分かる。このままじゃブゥに勝てるわけも無い。わざわざ殺されに戻るようなものだ。
 つまり本末転倒。意味が無い。
「お父さん、ご飯食べたら付き合ってもらえますか?」
 さっさと。とっとと。ブゥに勝てるだけの力をつけて、戻らなければ。
「おう、いいぞ。早くアイツに会いたいんだろ」
 デリカシーなどという単語は悟空の辞書には無い。
 悟飯が敢えて言わなかった事を明るく暴露する。悪気がなければいいというものでもない。
「何言ってるんですか!」
「うわ刺さる刺さる!」
 悟飯は真っ赤になってゼットソードを悟空に投げつけた。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
「飯だ」
「っわぁい!」
 喜びすぎだろう。名前はお玉で肩を叩きながら思った。
「さっさと食え! 食ったらすぐにフュージョンの特訓だ!」
「急ぎつつよく噛んで食え」
「……名前、それ、難しい」
「顎の筋肉をフルに使え」
名前さんてば……」
 我鳴るピッコロ、子供たちを案じているのか急かしているのか分からない名前、突っ込むミスターポポ。
 よく分からない組み合わせだな。デンデは思った。
 デンデの前のテーブルには所狭しと料理が並べられている。それらは全て名前が作ったものだ。
 わざわざ名前が作らずとも、ポポが用意してくれるのだけれど。ブルマ曰く「手を動かしていたいのよ」らしい。
 自分ではどうにもならない状況。少しでも手助けをすることで、この場にいてもいいのだと思いたいのだろう。
 いてもいいのに。いてくれて嬉しいのに。
 名前がこの状況に後ろめたさを感じていることは、神としてというよりも、デンデ自身の感覚で何となく分かる。それは人の気持ちに敏感なデンデ自身の資質だ。だからこそ神に向いているのだと、元神であるピッコロなどは常々思っている。言わない辺りが元大魔王様だが。
 確かにこの場にいるのはビーデルを除けば古馴染みの仲間ばかりだ。名前は悟飯とビーデル以外とは今日会ったばかりだという。チチとは電話で話したことがあるらしいが、それでも会ったことは無い。
 しかも名前と彼らの接点である悟飯はいない。
 名前にとっては居心地の悪い空間なのかもしれない。
 デンデはちょっと悲しくなった。
 名前のことが好きだと思う。悟飯の友達ということらしいが、それだけじゃなくて。デンデが、名前を。
 神様業だって辛いことはある。けれど皆強い人たちだから、デンデは弱音を吐けなかった。それが嫌だなんてことは勿論ないけれど、名前は零した弱音を静かに聴いてくれた。それがとても嬉しかったのだ。
 神様なんだから、と叱られてもおかしくはなかったのに。甘やかしてるわけでもなくて、神も愚痴るのかと納得しただけ。
「デンデも食うか?」
 あの後も色々話した。悟飯の話になると何故かそわそわしだしたりしたけど。気付けばお互いに敬語なんて殆ど使わなくなっていた。
「いえ、僕たちナメック星人はお水だけで充分なんです」
「ってことはピッコロさんもか」
 目の前の料理を名前の言うとおり急ぎつつ良く噛んで食べる子供たち。を、イライラした顔で見つめるピッコロ。
 にこやかなピッコロを見たことが無い名前としては何処がどう違うのかは分からない。だがこの状況でのんびりしていられるのは余程の大物か大馬鹿のどちらかだろう。
「それより名前さんは食べないんですか?」
 昨日の夜から殆ど食べていない。流石にちびっ子たちと比べることは出来ないが、デンデと話しながら食べたウェハース数枚というのはいくらなんでも少なすぎだ。
「いや、私はそんなに腹減ってないし。あの食いっぷり見てると逆に腹いっぱい? みたいな」
「……お腹空いたらちゃんと食べてくださいね?」
 本当は空いてなくても食べて欲しいけれど、地球人の食生活についてあまり詳しくないデンデとしてはそう言うしかない。サンプルが極端に少ないのだ。
 デンデの知っている地球人の女性といえばブルマ、チチ、一八号だが、一八号は食べなくとも生きては生けるらしく参考にはならない。かといってブルマもチチもそういつも会っているわけではない。要するにどれくらいの食事量なのか分からない。
「そりゃ空いたら食うなぁ」
 だから心配するなと後頭部を撫でられた。
 デンデは小さく肩の力を抜く。名前を安心させる為に。デンデが安心したと思って。
 悟飯さん、早く戻ってきてください。
 名前が悟飯は生きているというのならそうなのだろう。気は感じられないけれど、悟飯が約束を破る人ではないと知っている。
 七年前、絶対遊びに来てねとねだった自分との約束どおりいつも遊びにきてくれた。今と状況は全く違うけれど、悟飯の人柄は昔から全く変わっていないのだ。今回だって約束は守るに決まってる。
 だから。
 僕には荷が重いです。
 ちびっ子たち以外への食事を作るべく再びキッチンに戻る名前を見送りつつ、何処にいるのか分からない悟飯に向けて泣き言を洩らした。

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