かかあ天下
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No.3
DB
落下注意報
オレンジスターハイスクールの図書室は半地下にある。なるべく直射日光に本を当てないように、との配慮かららしい。
名前
としては湿っぽい匂いも個人的には嫌いではないのだが、他人はそうは思わないようで。お陰で図書室の利用者が少ないと言われているらしい。
しかし、本を読みたいやつだけが利用すればいい、と
名前
は思っている。それにテスト前はどうせ大盛況なのだ。図書室で昼寝、なんて連中も少ないというなら、素晴らしいと思う。
名前
は別に図書室で寝ている連中がいようとも構わない人間だ。どうせ席なら利用者に反比例してごっそり空いているし、例え自分の座る隣で寝られようが気にも留めない。
ただし、鼾さえなければの話だが。
図書室で寝るやつは何故か鼾をかくやつが多い。他の学校や図書館は知らないが、少なくともオレンジスターハイスクールでは。
奥まった席で盛大な鼾をかきながら安眠していた男子学生を、百科事典で殴り飛ばしたのは記憶に新しい。勿論角は使っていない。念のため。
寝るなら静かに寝ろ、とは、家で父親の鼾に悩まされている友人の言だ。
……無呼吸症候群が心配である。
それはともかく。
その日、昼の当番だった
名前
は弁当片手に図書室へと向かった。教室や学食で食べた後に行っていたのでは、
名前
が図書室に行く前に借りに来たりする人がいるのだ。勿論、滅多には無いのだけれど。
早食いに自信のあるヤツはそれでもいいが、生憎
名前
はよく噛んで食べる性質だった。
それに司書室には給湯器があるので、自分で好みのお茶を煎れられる。委員たちがそれぞれコーヒーやら茶葉やらを持ち寄って出来た棚まである。だから、司書室での昼食は結構好きなのだ。
教室のある三階から降りようと階段へ一歩踏み出した時。
「おい急げ! オレンジプリンなくなっちまう!」
「何で俺らのクラス三階なんだよ!」
そんな声が聞こえたと同時に。
『うわ!?』
肩に何か触れたと思ったら重いものにのしかかられた。その次の瞬間には足元に階段の感触は無く。
何が起きたのか理解する間もなく心臓が跳ねた。
「大丈夫ですか?」
くるはずの衝撃は無く、頭上から聞こえてきたのは優しい声。背中に当たる温かさに首を捻れば、声で何となく予想していた通りの顔がそこにある。
数日前、一度しか聞いたことはないけれど、何となく忘れ難いような、孫悟飯、の声。そして顔。
しかし心配そうに
名前
を見つめていたその目がふいに厳しいものに変わる。
「危ないじゃないですか。廊下は走っちゃ駄目でしょう。
こんなに人がいる所で、しかも階段なんて、大怪我してたかもしれませんよ!」
「わ、わりィ……」
名前
にぶつかってきた男子は肩を落とし、素直に謝る。自分もまさかこんなことになるとは思っていなかったのだろう。思っていたなら最初から走りはしないだろうが。
その姿に満足したのか悟飯は視線を和らげた。
「ケガ、しないようにしてくださいね」
少年たちは
名前
に「ごめんな」と謝り、
名前
が頷いたのを見て今度はゆっくりと歩いていった。
「ありがとう」
「どういたしまして」
ゆっくり離れる悟飯の腕に、意外と逞しかったのか、と
名前
は思う。そしてふと、両手が軽いことに気付いた。
「あ、弁当」
「落ちそうだったんでキャッチしましたよ」
はい、と差し出されたのは確かに
名前
の弁当箱。
やっぱり運動神経いいんじゃないか、と思いつつ、恩人にそんなことを言うのもナンだし、
「重ね重ね、ありがとうございます」
ぺこりと大人しく頭を下げる。
「午後から体育なのにお腹空かせて出るとこだった」
「あはは、そりゃ災難だ。うん、無事で良かった、キミも、弁当も」
「そういや学食? プリン狙いなら早く行かないと」
オレンジスターハイスクールには名物と呼べるものがある。それは、某世界を救った英雄の娘だったり、一日二〇個限定のプリンだったりする。
限定品というだけあって、手間も暇もかけたそのプリンは毎日昼休みになると争奪戦が起きる程。
名前
も多少気にはなっていたが、そこまでして食べたいと言うほどプリン好きでもないし、そもそも
名前
達一年生は最上階に教室があるのだ。
学食は一階。学年が上がる毎に階が下がるこのクラス分け、当然三年生が有利になる。
これがもし逆だったのなら、上級生と下級生で抗争が起こるやも、なんていう想像が出来てしまうほど、その争奪戦は鬱陶しい、もとい、激しいものなのだ。たまにクラスメイトが勝利の雄叫びを上げて歓声に包まれているのも、他人事ならば微笑ましいものではあるが。
しかし悟飯は首を横に振った。
まあ、今から行っても売り切れは確実なのだが。
「いえ、図書室に新刊が入ったそうなんで、借りようかと思って」
「あぁ、昨日買ってきたんだ」
「あれ、図書委員さんだったんですか?」
ああ、忘れてる。やっぱり、というのと残念、というのと半々だ。何となく。
別に友人が言っていたような感情は無い。全く。
名前
は頷き、歩き出した。
「目的地同じなら、一緒行こうか」
「はい」
悟飯も並んで歩き出す。頭二つ分高いところにある頭に、見上げるのも大変だ。
「そういえば、オレンジプリンって何です? オレンジが入ってるんですか?」
「別にオレンジが入ってるわけじゃ……無いと思うけど。私も食べたことはないから味は知らないけど。この学校の名物プリン。さっきの男子もそれ狙って学食に走ってたんだけど、すごい美味いらしい。食べたやつに聞いてもまったりとかコクがとか蕩けるとかそんなコメントしか言わねーし」
「へぇ~、食べてみたいですね」
「三年になったら少しは有利だろうけど。一年は三階だから、学食に行ってる間に売り切れが殆どだろうな」
それでも一縷の望みをかけて猛ダッシュするヤツもいる。はた迷惑ではあるが、その情熱には敬服する。
「空でも飛べるんなら窓から出て一階行けばすぐ食堂だけど」
普通に無理だけど。
肩をすくめてみせる。前を向いていた
名前
は気付かなかった。その時悟飯が引きつった笑みを浮かべていたことを。
#DB
#孫悟飯
2024.12.31
No.3
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名前としては湿っぽい匂いも個人的には嫌いではないのだが、他人はそうは思わないようで。お陰で図書室の利用者が少ないと言われているらしい。
しかし、本を読みたいやつだけが利用すればいい、と名前は思っている。それにテスト前はどうせ大盛況なのだ。図書室で昼寝、なんて連中も少ないというなら、素晴らしいと思う。
名前は別に図書室で寝ている連中がいようとも構わない人間だ。どうせ席なら利用者に反比例してごっそり空いているし、例え自分の座る隣で寝られようが気にも留めない。
ただし、鼾さえなければの話だが。
図書室で寝るやつは何故か鼾をかくやつが多い。他の学校や図書館は知らないが、少なくともオレンジスターハイスクールでは。
奥まった席で盛大な鼾をかきながら安眠していた男子学生を、百科事典で殴り飛ばしたのは記憶に新しい。勿論角は使っていない。念のため。
寝るなら静かに寝ろ、とは、家で父親の鼾に悩まされている友人の言だ。
……無呼吸症候群が心配である。
それはともかく。
その日、昼の当番だった名前は弁当片手に図書室へと向かった。教室や学食で食べた後に行っていたのでは、名前が図書室に行く前に借りに来たりする人がいるのだ。勿論、滅多には無いのだけれど。
早食いに自信のあるヤツはそれでもいいが、生憎名前はよく噛んで食べる性質だった。
それに司書室には給湯器があるので、自分で好みのお茶を煎れられる。委員たちがそれぞれコーヒーやら茶葉やらを持ち寄って出来た棚まである。だから、司書室での昼食は結構好きなのだ。
教室のある三階から降りようと階段へ一歩踏み出した時。
「おい急げ! オレンジプリンなくなっちまう!」
「何で俺らのクラス三階なんだよ!」
そんな声が聞こえたと同時に。
『うわ!?』
肩に何か触れたと思ったら重いものにのしかかられた。その次の瞬間には足元に階段の感触は無く。
何が起きたのか理解する間もなく心臓が跳ねた。
「大丈夫ですか?」
くるはずの衝撃は無く、頭上から聞こえてきたのは優しい声。背中に当たる温かさに首を捻れば、声で何となく予想していた通りの顔がそこにある。
数日前、一度しか聞いたことはないけれど、何となく忘れ難いような、孫悟飯、の声。そして顔。
しかし心配そうに名前を見つめていたその目がふいに厳しいものに変わる。
「危ないじゃないですか。廊下は走っちゃ駄目でしょう。
こんなに人がいる所で、しかも階段なんて、大怪我してたかもしれませんよ!」
「わ、わりィ……」
名前にぶつかってきた男子は肩を落とし、素直に謝る。自分もまさかこんなことになるとは思っていなかったのだろう。思っていたなら最初から走りはしないだろうが。
その姿に満足したのか悟飯は視線を和らげた。
「ケガ、しないようにしてくださいね」
少年たちは名前に「ごめんな」と謝り、名前が頷いたのを見て今度はゆっくりと歩いていった。
「ありがとう」
「どういたしまして」
ゆっくり離れる悟飯の腕に、意外と逞しかったのか、と名前は思う。そしてふと、両手が軽いことに気付いた。
「あ、弁当」
「落ちそうだったんでキャッチしましたよ」
はい、と差し出されたのは確かに名前の弁当箱。
やっぱり運動神経いいんじゃないか、と思いつつ、恩人にそんなことを言うのもナンだし、
「重ね重ね、ありがとうございます」
ぺこりと大人しく頭を下げる。
「午後から体育なのにお腹空かせて出るとこだった」
「あはは、そりゃ災難だ。うん、無事で良かった、キミも、弁当も」
「そういや学食? プリン狙いなら早く行かないと」
オレンジスターハイスクールには名物と呼べるものがある。それは、某世界を救った英雄の娘だったり、一日二〇個限定のプリンだったりする。
限定品というだけあって、手間も暇もかけたそのプリンは毎日昼休みになると争奪戦が起きる程。名前も多少気にはなっていたが、そこまでして食べたいと言うほどプリン好きでもないし、そもそも名前達一年生は最上階に教室があるのだ。
学食は一階。学年が上がる毎に階が下がるこのクラス分け、当然三年生が有利になる。
これがもし逆だったのなら、上級生と下級生で抗争が起こるやも、なんていう想像が出来てしまうほど、その争奪戦は鬱陶しい、もとい、激しいものなのだ。たまにクラスメイトが勝利の雄叫びを上げて歓声に包まれているのも、他人事ならば微笑ましいものではあるが。
しかし悟飯は首を横に振った。
まあ、今から行っても売り切れは確実なのだが。
「いえ、図書室に新刊が入ったそうなんで、借りようかと思って」
「あぁ、昨日買ってきたんだ」
「あれ、図書委員さんだったんですか?」
ああ、忘れてる。やっぱり、というのと残念、というのと半々だ。何となく。
別に友人が言っていたような感情は無い。全く。
名前は頷き、歩き出した。
「目的地同じなら、一緒行こうか」
「はい」
悟飯も並んで歩き出す。頭二つ分高いところにある頭に、見上げるのも大変だ。
「そういえば、オレンジプリンって何です? オレンジが入ってるんですか?」
「別にオレンジが入ってるわけじゃ……無いと思うけど。私も食べたことはないから味は知らないけど。この学校の名物プリン。さっきの男子もそれ狙って学食に走ってたんだけど、すごい美味いらしい。食べたやつに聞いてもまったりとかコクがとか蕩けるとかそんなコメントしか言わねーし」
「へぇ~、食べてみたいですね」
「三年になったら少しは有利だろうけど。一年は三階だから、学食に行ってる間に売り切れが殆どだろうな」
それでも一縷の望みをかけて猛ダッシュするヤツもいる。はた迷惑ではあるが、その情熱には敬服する。
「空でも飛べるんなら窓から出て一階行けばすぐ食堂だけど」
普通に無理だけど。
肩をすくめてみせる。前を向いていた名前は気付かなかった。その時悟飯が引きつった笑みを浮かべていたことを。
#DB #孫悟飯