かかあ天下
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No.2
DB
出会いは静かに待っている
彼は異質だった。何処がどう、というか。その言動の端々が。
だって、転入試験満点の、自称運動神経からっきし。のくせに、何mもジャンプして顔面デッドボールくらって、ケロっとしてる田舎者!
クラスは違ったけど、変なヤツの噂はすぐ広まる。その辺り、どんなに人の集まる大きな学校と言えど他と同じだ。
故に勿論、
名前
の耳にも入っていた。
「変でしょ」
名前
は本にテープを貼りながら言った。
オレンジスターハイスクールの図書室。図書委員である
名前
とその友人は、二人して教師に古い本の修繕を頼まれてしまった。
迂闊に「今日も暇だー」「帰って何するー?」なんて口走らない方が身のためだ、という見本である。
背表紙が割れてしまっているもの、ページが外れそうになっているもの。そういったものを選別し、粘着性の強いテープで補正する。壊滅的なものは表にチェックし、違った籠に入れて買いなおすのだ。面倒この上ない。
もっと丁寧に扱え、と思うのだが、中には本当に古くなりすぎただけのものもあったりする。
諦め半分というやつだ。口を動かしながらも手は止まらない。何もここで女の底力というやつを発揮しなくても、なんてことを言う命知らずはこの場にはいない。
「でも可愛い顔してるじゃない。結構背も高いし」
「うんそうね。私が言いたいのはそういう事じゃないけどね」
にっこりと笑顔を張り付かせて言えば、友人はちょっと肩をすくめてみせた。
「いいじゃない。悪い子じゃなさそうだし。
そんなに気になるの?」
「気になるっつーか……妙っつーか……違和感あるっつーか……とにかく変」
「変という字は恋に似てる」
「あ?」
手を止め、睨みつけると友人は唇の端を吊り上げて笑っていた。この友人はすぐにこうやってコイバナに繋げるのだ。
迷惑なことに。
「あんたが男の子気にするなんて珍しいじゃない」
「別に孫君が女でも気にしてたっつーの」
「でも現実に彼は男の子でしょ。きっかけなんてそんなもんじゃない」
「何のだ!」
「恋の」
さくっと返され、
名前
はガクリと肩を落とした。
「アホか」
何でそうなる。頭をかきながらため息を落とす。そもそも、こちらは知っていても、向こうはこっちの顔も知らないだろう。今も、多分これから先卒業するまで。隣のクラスと言えど、こうやって噂が流れてでも来なければ同じクラスの人間を覚えるだけでも精一杯なのだ。この学校には、それだけの人数がいる。
しかしその姿にも友人はめげることなく笑いかける。
「何で~? 私たち年頃の女の子だもの。そんな話題があっても楽しいじゃな~い?」
にひひひひ、と笑う姿は到底年頃の女の子ではないのだが(ちなみにここでおっさん臭いなどと言うと殴られる)。
女の子はロマンスを求めるのよ。
ちょっとばかし夢見る瞳の奥には、悪戯直前の悪ガキの輝き。
駄目だ、からかいモードに入っている。
こんな時の友人に口で勝つのは至難の技だということを身に染みて知っている
名前
は、悪友をもう一度じろりと睨み、積まれた本に手を伸ばす。あと二〇冊程度。
放課後にこんなこと延々やっていられない。誤魔化し半分に黙々と手を動かす。
友人もそれは同じ気持ちらしく、
名前
が完全に自分を意識の外に追い出したのを知ると、からかうのを止めて手元に集中しだした。その時。
「あのぅ、すいませ~ん」
受付カウンターから控えめな声が聞こえてきた。
名前
達は修繕要員として連れてこられたのであって、受付カウンターには当番の図書委員がいるはずである。
二人は手を止め、顔を見合わせた。
「今日の当番誰ヨ」
「サリーとチェザーレ」
良く言えば要領のいい、悪く言えば、サボり癖のある二人である。
名前
たちがいると知って逃げたものと思われる。
「サボりやがったなクソが」
口汚く罵り、ご丁寧に舌打ちまでして
名前
がカウンターへと向かう。友人はその背中に小さくため息をついた。
この口の悪さと行動の荒さが無ければ、素材は結構いいセン行くのに。言えばまた睨まれるから言わないけれど。
現に今も、何だかんだ文句を言いつつも真っ先に立ち上がったのは彼女だ。
「はい」
「あの、メルカの『動物行動学概論』はありますか? 所定の本棚にないみたいで……」
受付窓口から顔を出し、
名前
は一瞬固まった。
目の前で眉を八の字にしているのは、たった今話題に上っていた孫悟飯なのだ。
しかし彼はそんな
名前
の様子には気付かず、本の蔵書Noとその位置をプリントアウトした紙を差し出した。
そして、
名前
も腐っても図書委員、仕事はする。逃げた二人の分まで、というのが腹が立つのだが。
どれどれ、と覗き込んでみれば、あまり貸出しも無く、移動の少ない棚の番号に、はて、と首を傾げた。そしてふと思いつく。
「少し待っててください」
大また気味に今まで作業をしていた部屋に舞い戻る。友人の三日月形の目は無視し(やっぱり見てたし聞こえてた)、積み重なった本から青い背表紙を引っ張り出す。
分厚いそれは箔押しで『動物行動学概論』。著者は勿論メルカの名。
「お待たせしました。すいません、古書の修繕中でこっちに持って来てたもんで」
「そうだったんですか。いえ、あって良かったです。
あの、もう借りられるんですか?」
「これはもう終わってますから。
学生証、いいですか?」
差し出された悟飯の学生証と本のバーコードを読み取る。返却日時を紙にスタンプし、図書新聞と一緒に挟み込んで差し出す。
「返却日は一週間後です」
「ありがとうございます」
本を鞄に押し込む悟飯を見やり、
名前
はくるりときびすを返して奥へと戻る。
そして待ち構えていた三日月二つ。
吊り上った唇が妙に不気味だ。
「貸出ししただけだっつの」
「はいはい」
先制攻撃もさらりと流された。子供をあやすような言い方が癪に障って、荒い音を立てて椅子に座る。
「図書館ではお静かに」
「ならお前が黙ってろ」
憮然と本を手に取り作業再開。
友人は肩をすくめてちょっと笑った。本当に口が悪い。
そんな彼女が嫌いじゃない自分の趣味を、脳みその隅っこでちょっと疑ってみる。
別に自分だって、孫悟飯が
名前
の運命の人、だなんて思っているわけではない。もしもの話だ。 だけどでも。
ロマンスを求めるのが女の子、ってやつなわけで。
大切な友人の、ちょっとした側面を見てみたいという、そしてついでに、ロマンスなんか見れたら、っていう。ただの希望である。ちょこっと欲望交じりの。
だから。もし、
名前
を少しでも変化させる存在が、現れるのなら。
「悟飯君が理想的なんだけどな」
「あん?」
ぽつりと呟き、怪訝な顔をする男勝りな友達に笑って誤魔化すことにした。
#DB
#孫悟飯
2024.12.30
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だって、転入試験満点の、自称運動神経からっきし。のくせに、何mもジャンプして顔面デッドボールくらって、ケロっとしてる田舎者!
クラスは違ったけど、変なヤツの噂はすぐ広まる。その辺り、どんなに人の集まる大きな学校と言えど他と同じだ。
故に勿論、名前の耳にも入っていた。
「変でしょ」
名前は本にテープを貼りながら言った。
オレンジスターハイスクールの図書室。図書委員である名前とその友人は、二人して教師に古い本の修繕を頼まれてしまった。
迂闊に「今日も暇だー」「帰って何するー?」なんて口走らない方が身のためだ、という見本である。
背表紙が割れてしまっているもの、ページが外れそうになっているもの。そういったものを選別し、粘着性の強いテープで補正する。壊滅的なものは表にチェックし、違った籠に入れて買いなおすのだ。面倒この上ない。
もっと丁寧に扱え、と思うのだが、中には本当に古くなりすぎただけのものもあったりする。
諦め半分というやつだ。口を動かしながらも手は止まらない。何もここで女の底力というやつを発揮しなくても、なんてことを言う命知らずはこの場にはいない。
「でも可愛い顔してるじゃない。結構背も高いし」
「うんそうね。私が言いたいのはそういう事じゃないけどね」
にっこりと笑顔を張り付かせて言えば、友人はちょっと肩をすくめてみせた。
「いいじゃない。悪い子じゃなさそうだし。
そんなに気になるの?」
「気になるっつーか……妙っつーか……違和感あるっつーか……とにかく変」
「変という字は恋に似てる」
「あ?」
手を止め、睨みつけると友人は唇の端を吊り上げて笑っていた。この友人はすぐにこうやってコイバナに繋げるのだ。
迷惑なことに。
「あんたが男の子気にするなんて珍しいじゃない」
「別に孫君が女でも気にしてたっつーの」
「でも現実に彼は男の子でしょ。きっかけなんてそんなもんじゃない」
「何のだ!」
「恋の」
さくっと返され、名前はガクリと肩を落とした。
「アホか」
何でそうなる。頭をかきながらため息を落とす。そもそも、こちらは知っていても、向こうはこっちの顔も知らないだろう。今も、多分これから先卒業するまで。隣のクラスと言えど、こうやって噂が流れてでも来なければ同じクラスの人間を覚えるだけでも精一杯なのだ。この学校には、それだけの人数がいる。
しかしその姿にも友人はめげることなく笑いかける。
「何で~? 私たち年頃の女の子だもの。そんな話題があっても楽しいじゃな~い?」
にひひひひ、と笑う姿は到底年頃の女の子ではないのだが(ちなみにここでおっさん臭いなどと言うと殴られる)。
女の子はロマンスを求めるのよ。
ちょっとばかし夢見る瞳の奥には、悪戯直前の悪ガキの輝き。
駄目だ、からかいモードに入っている。
こんな時の友人に口で勝つのは至難の技だということを身に染みて知っている名前は、悪友をもう一度じろりと睨み、積まれた本に手を伸ばす。あと二〇冊程度。
放課後にこんなこと延々やっていられない。誤魔化し半分に黙々と手を動かす。
友人もそれは同じ気持ちらしく、名前が完全に自分を意識の外に追い出したのを知ると、からかうのを止めて手元に集中しだした。その時。
「あのぅ、すいませ~ん」
受付カウンターから控えめな声が聞こえてきた。
名前達は修繕要員として連れてこられたのであって、受付カウンターには当番の図書委員がいるはずである。
二人は手を止め、顔を見合わせた。
「今日の当番誰ヨ」
「サリーとチェザーレ」
良く言えば要領のいい、悪く言えば、サボり癖のある二人である。名前たちがいると知って逃げたものと思われる。
「サボりやがったなクソが」
口汚く罵り、ご丁寧に舌打ちまでして名前がカウンターへと向かう。友人はその背中に小さくため息をついた。
この口の悪さと行動の荒さが無ければ、素材は結構いいセン行くのに。言えばまた睨まれるから言わないけれど。
現に今も、何だかんだ文句を言いつつも真っ先に立ち上がったのは彼女だ。
「はい」
「あの、メルカの『動物行動学概論』はありますか? 所定の本棚にないみたいで……」
受付窓口から顔を出し、名前は一瞬固まった。
目の前で眉を八の字にしているのは、たった今話題に上っていた孫悟飯なのだ。
しかし彼はそんな名前の様子には気付かず、本の蔵書Noとその位置をプリントアウトした紙を差し出した。
そして、名前も腐っても図書委員、仕事はする。逃げた二人の分まで、というのが腹が立つのだが。
どれどれ、と覗き込んでみれば、あまり貸出しも無く、移動の少ない棚の番号に、はて、と首を傾げた。そしてふと思いつく。
「少し待っててください」
大また気味に今まで作業をしていた部屋に舞い戻る。友人の三日月形の目は無視し(やっぱり見てたし聞こえてた)、積み重なった本から青い背表紙を引っ張り出す。
分厚いそれは箔押しで『動物行動学概論』。著者は勿論メルカの名。
「お待たせしました。すいません、古書の修繕中でこっちに持って来てたもんで」
「そうだったんですか。いえ、あって良かったです。
あの、もう借りられるんですか?」
「これはもう終わってますから。
学生証、いいですか?」
差し出された悟飯の学生証と本のバーコードを読み取る。返却日時を紙にスタンプし、図書新聞と一緒に挟み込んで差し出す。
「返却日は一週間後です」
「ありがとうございます」
本を鞄に押し込む悟飯を見やり、名前はくるりときびすを返して奥へと戻る。
そして待ち構えていた三日月二つ。
吊り上った唇が妙に不気味だ。
「貸出ししただけだっつの」
「はいはい」
先制攻撃もさらりと流された。子供をあやすような言い方が癪に障って、荒い音を立てて椅子に座る。
「図書館ではお静かに」
「ならお前が黙ってろ」
憮然と本を手に取り作業再開。
友人は肩をすくめてちょっと笑った。本当に口が悪い。
そんな彼女が嫌いじゃない自分の趣味を、脳みその隅っこでちょっと疑ってみる。
別に自分だって、孫悟飯が名前の運命の人、だなんて思っているわけではない。もしもの話だ。 だけどでも。
ロマンスを求めるのが女の子、ってやつなわけで。
大切な友人の、ちょっとした側面を見てみたいという、そしてついでに、ロマンスなんか見れたら、っていう。ただの希望である。ちょこっと欲望交じりの。
だから。もし、名前を少しでも変化させる存在が、現れるのなら。
「悟飯君が理想的なんだけどな」
「あん?」
ぽつりと呟き、怪訝な顔をする男勝りな友達に笑って誤魔化すことにした。
#DB #孫悟飯