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◇◆ 幼馴染の定義 3 ◇◆
 第40章 そして2人は恋に落ちる…… っと。

 シャーペンの芯をカチッとしまって、1人ほくそ笑みながらノートを閉じる。
「由香、何その顔? もしかして 幼馴染の定義が40章になったとか?」
学校帰りに寄ったミスドで、携帯をいじり メールに勤しんでいた久恵が言い出した。
「それは内緒」
きっと傲慢に映るだろう笑みを浮かべて、下目使いで返事をすれば
「感じわるぅ〜!」
左の親指をせっせと動かしながら、意味深な笑い顔で私を見る ――

 福島由香 人よりお先に16歳になった、4月4日生まれの獅子(しし)。
小学校高学年辺りから、囁かれ始めたあだ名は『メンズ バービー』
  別に自慢するわけじゃないけれど、そりゃ傑作なあだ名だな。と思う今日この頃。
 とにかく、やることなすことに男気を感じられやすい性格で
バレンタインには恐ろしいほどのチョコを本命としていただき
中学2年のとき、3年生を送る会というイベントで 栄えある王子様役をゲットしたため
ますます宝塚の男役トップスター並みの扱いを受ける羽目になった……
 高校へ入学したときは、知り合いも限られていることだし 人生のリセットボタンを押して
可愛らしい女の子に生まれ変わろう! そう意気込み決意したにも関わらず
チビッコ文子が私の周りをウロチョロとするから、結局は地が出てしまい
中学時代にセーブした私のファイルをロードするだけに終わった。

 初めて文子を見たとき、小さい頃に憧れ続けた『月に代わって!』と毎回叫ぶ
テレビアニメの主人公(の子供)に似ていると思った。
だから文子を『ちびふみちゃん』と呼んでいるのだけれど、本人がその経緯に気が付いてないから これがまた可愛い。
だけど、ルパンが文子に 変なスティックを強引に持たせ
言葉巧みに騙しながら、そのスティックを文子に振り上げさせ喜ぶ姿を見て
あいつと同じ思考回路を辿っている自分が恐ろしく怖くなった。
 私は決して ふみふみ病ではない!

 ルパンと初めて目が合ったとき、派手な火花が散った。
自己紹介の席で、自分をルパンと呼んでくれなどと言い放った彼を、ただ単に面白いやつだと思ったけれど
文子のことになると、無意識のうちに かなり神経質に目を配っていて
ルパンとよく目が合うようになったのは、向こうが私を見ているからであり
それは、私が文子にとって 『 安全な人間 』 かを分析している品定め視線だったからこそ
同じ意味の視線をぶつけてやったために火花が散ったのだ。
お前こそ、文子にとって安全な男なのか?
そうやって私もルパンを観察しはじめることとなる。結果はすぐに安全だと解ったけど。
 こうして、アフォな2人を観察し続け、その観察記録をつけることにした私は
2人独特の妙な定義があることに気が付いた。
 翔也も小学校から一緒だったと聞いたものの、なぜか翔也と文子には その定義が当てはまらない。
よくよく聞けば、翔也は転校生。 10歳からの付き合いだということが判明。
とすると、この2人の定義は10歳以下に作られたもの。 すなわち 『幼馴染』 がもたらす定義だ!

 実は私にも幼馴染がいる。よりによってそいつも同じ高校で、同じクラスだったりする。
そして私はそいつのことが、ずっと好きだったりするんだ……
 もはや男女は違えど、ルパンと同じ境遇 なおかつ 同じ思考回路な私。
更に やることなすこと裏目に出て、怒らせる様なことしかできないところまでそっくりかも。
最悪なのは、文子同様 そいつもムカツクほど鈍感で、全く私の気持ちに気が付いてくれない事。
だから私は、ルパンを密かに応援し 文子とくっつけようと躍起になっている。
 あいつらがうまくいったら、私もうまくいく気がするじゃない?

「あ、きたきた! こっちこっち!」
 久恵がいきなり叫びだし、ガラスの向こうの誰かに笑顔で手を振っている。
 叫んだところで外までは聞こえないだろ?
来たのが誰だかわかっているけれど、とりあえずその方向を振り返った。
 横断歩道を渡りながら手を振る恵子。
けれどその隣を歩く文子の様子がなにやらおかしい。
いつもなら溜息がでる様なテンションで飛び跳ね手を振るくせに、今日は眠そうに俯いている。
基本的に、危なっかしい女ではあるが、いつもとは明らかに違う種類の危険度……
「危ないっ!」
だから叫んでも聞こえないって! と思いつつ、立ち上がり叫ぶのはこの私。
横断歩道の縁に蹴躓いて、どこかのスーパーヒーローのごとく宙を舞う文子に放った言葉。
けれど壁際の、店内からでは見えない場所から伸びた腕が、地面に叩きつけられる前に文子をすくい上げ
ゼリーみたいにグニャグニャしている文子の体を支えながら、手のひらで文子のおでこを触った。
その場に駆けつけようとする私を引き止める様に、花の形をしたドーナツをかじりながら久恵が言った。
「ルパンに任せておけば平気だって! てかさ、あ〜ゆ〜の見るとなんだか羨ましくならない?」
 伸びた腕の持ち主は当然ルパンで、額に手を当てたところからして文子は熱を出しているのだろう。
たまたまその場に居たのではなく、こうなることを予測した上で、付かず離れず文子を見守るルパン。
久恵が言う様に、そんな彼氏の存在は女の子の夢であり、憧れなのだが
当の本人が気づいてないのだから、ただのやり損だ。
 ルパンよ、お主も報われない男よのぉ。

「もしさ、私がああなったら、由香が私を助けてね?」
文子の様子が気になるものの、しぶしぶ腰を下ろした私に向かって久恵がウインクする。
「は? なんで私が? そんなものは男が助けてナンボだろ?」
スケさんが印籠を悪党に向け出すごとく、ずっと手にしていたコップを久恵に突きつける。
我ながら素晴らしい拒絶を示したつもりだったのに
ちょっと体を前に出し、突き出した私のコップからアイスティーをすすった後
「いやだ。 だって、そこらへんの男より由香の方がカッコイイもん」
平然とそう言い返された。
 実際、私もあのルパンの行動に憧れる。私だってあんな風に助けてもらいたい。
だけど170cm近いこの身長じゃ、可愛げなどどこにもなく
やっぱり久恵の言う通り、私は助ける側の人間なのだろう……(男気あるし)
 文子は背が伸びないことを悩んでいるが、伸びすぎるのもどうかと思う。
あのデカイ目を潤ませながら、私の全てが羨ましいと真剣に文子は言うけれど
逆に私は、文子の全てが羨ましい。世の中、チビッコイ方が絶対に有利だ!(チビ万歳!)

 そうこう話している間に、文子を背負ったルパンが恵子となにやら話し終え
店内にいる私たちに向かって軽く手を挙げた後、今度はここからでは見えない誰かに手を振って、そのまま見えなくなった。
「壁の向こうにルパン一味がいるのか……」
当たり前なことをつぶやけば
「だろうね。次元と五右衛門は確実にいるよ。あの3人が一緒にいないところを見たことがないもん」
何がおかしいのか、クスクスと笑い出しながら久恵が続ける。
「でもさ、なんでワトソンがあの輪の中にいるのかがわからないよね。仮にも敵だよ?」
 漫画のルパンではなく、小説の方でなら、確かにワトソンはルパンの敵だ。
宿敵ホームズの助手なのだから……
「あ、そうそう! それで思い出したけど、由香ってホームズっぽいよね!」
なんでそうなるんだと久恵に聞こうとしたとき、店内が急に騒がしくなり
恵子とルパン一味が爆笑しながらこっちに向かってきた。
「なぜだか解らないけど、ルパンのインフルエンザが移っちゃったみたいよ 文子」
絶対に、どうして移ったのかが解っているくせに、解らないフリを楽しむ恵子が開口1番言い出した。
「でも痺れるねぇ! 好きな女が倒れる寸前を助ける男の図?」
当たり前だといわんばかりに、私の隣に腰を下ろす次元が笑いながら言う。
「普通なら、ここで恋に落ちる場面だよね? ま、文子じゃ無理な話だけどぉ」
久恵の隣に座りながら次元に返答する恵子。
「遅かれ早かれ気づくんじゃないの? なんせインフルちゃんが移ってる関係だしぃ」
そんな恵子に久恵が返答し、ルパンと文子の恋物語ネタで花が咲く。
「オレはルパンが文子を好きになる理由がわかんねぇ!」
トレーてんこ盛りのドーナツを手にしたゴエモンが、後から会話に加わってきた。
そしてなぜか一同が、ゴエモンの放ったその言葉にうなづいた。
ところがそこに割って入るワトソンの声。
「そんなことないですよ。久島さんは、めちゃくちゃ可愛いじゃないですか!」

 文子が可愛いということは、皆が認める周知の事実。
けれど敢えて言おう。あいつを手なずけるのは素人じゃ無理だ。
そして、ルパンの様な奇特なやつじゃなきゃ あいつは愛せまい。
「なに? ワトソンは文子に気があるの?」
反対側の私の隣にしぶしぶ座ったワトソンに向かい、ドスを聞かせて言い放てば
真っ赤になったワトソンが両手を大きく振りながら言い返す。
「ち、違いますよ! ただ一般的に見てですね? 久島さんは可愛いと言ったまでで……」
語尾がゴニョゴニョとおぼつかなくなるワトソンに、ツッコミを入れ始める次元と五右衛門。
「フミヒコちゃん、名前が似ているからって文子を庇うなよ。あいつはどうしようもないだろ?」
「ダブルチビッコふみふみだもんな お前ら。てか、あいつよりお前のほうがマシだけど」
笑いながら文子を罵倒する2人の言葉に、久恵と恵子も笑い出す。
そんな4人に向かって、ワトソンが言った。
「とかなんとか言いながら、みなさんも久島さんを可愛がっているじゃないですか!」
そんなことは解っているとばかりに、更に皆が笑いを深め
「そこが文子の凄いところなんだろ?」
笑いながら何気なく言った次元の言葉に、私だけが時を止めた。

「やっぱり男はチミッコイ女の方がいいの?」
考えもなく、気づけばそんな言葉を発していて、そんな私の言葉に固まる一同。
 あれ? 何を言っちゃったんだ私?
てか、このセリフは文子専用じゃなかったの?
私が使うことになるとは思わなかったよ――


〜その頃のルパンと文子〜
「ルパン…… 私、ずっと言いたかったことがあるの……」
「ん? なぁに? オレのことが好きだとか? 感謝しちゃって泣きそうとか?」
「ううん。泣くじゃなく、吐く……」
「は?」
「……吐きそう ゲホ」
「え〜〜〜〜〜〜〜〜〜っ!」
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photo by ©Four seasons