よろよろと、今聞いてしまった言葉のショックに足元を奪われる。
『俺だって、貴女以上には――――
それがどんな想いからきた言葉なのか、カガリには知る由もない。
しかしカガリにとって、その言葉が全てであることは事実だ。
「アスランが・・・そんな・・・・・・」
自分の言葉を聞いて、それが思ってもみなかったことではないことに気付く。
「・・・やっぱり、そうなんだ・・・」
2人の間にあったことを嘘だと思いたくはない。
けれどあの2人の間にはカガリには触れることのできない何かが流れているように思う。
それはキラとラクス、キラとアスランであっても同じことで――――
(なんだか、私だけ置いていかれたような気分だ・・・)
その気もないのに、涙が零れ落ちそうになる。
それを止めたのは、キラであった。
「カガリ?」
カガリが声に驚いて顔を上げると、そこには困ったような顔をしたキラが立っていた。
「キラ・・・」
何がなんだか分からないまま、カガリはキラに駆け寄りしがみついた。
涙を流すのだけは必死で堪えながら。
「ど、どうしたの?カガリ、何か・・・何か、あった、の?」
心配そうな声で、優しく問いかける。
それだけでカガリはどうしようもなくなってしまった。
「キラ・・・っ」
泣きたくない。泣きたくなんかない。
泣いてしまえば認めることになる。
これは意地だ。
泣かない。絶対に泣かない。
そう、思っていたのに。
「カガリ・・・?」
キラの声に押されるように涙が溢れ出てきた。
止まらなかった。
「泣きたいときは、思いっきり泣いちゃった方がいいよ」
――――――キラは?
ふと、キラはどれだけの涙を我慢してきたのだろうかという疑問が頭を過ぎった。
キラはいつだって泣きそうな顔をしていたのに。
キラはもっと泣きたかったはずなのに。
声に出して聞いてみようとしても、それをキラに伝えることはできなかった。
キラがあまりにも優しく頭を撫でるから。
キラの優しさに、甘えてしまった。




「落ち着いた?」
「ああ・・・悪かった」
カガリが泣き出してしまってから、キラはずっとカガリの頭を撫でながら優しい声を掛けていてくれた。
「何が?何も謝ることなんかないよ」
それでもまだ、優しく。どこまでも優しく。
「だって、いきなり泣いてしまったし・・・」
キラにしてみれば訳が分からないだろうに、何も聞かずに傍にいてくれた。
ラクスの言葉が甦る。
『キラは、カガリさん以上には――――
それって、どういうことなんだろう?
キラが私を――――
「なぁ・・・キラ」
「何?」
穏やかな顔でカガリを見るキラ。
それを見つめ返すカガリ。
同じような顔をしているはずなのに、2人はどこか違った。
何故だろう?
キラはカガリがいいと言う。カガリはアスランが好きで、そのアスランはラクス、ラクスはキラが・・・。
どうして、上手くいかないのだろう。
誰かが想いをぶつければ簡単に壊れてしまう危ういバランスが、今崩れかかっている。
どうやって直せばいいのかなんて分からない。
だって、誰も間違ってなんていないのだから。
「キラは・・・・・・」
だから、こんなことを言うのはすごく卑怯だ。
「ラクスが好きなんだろ・・・?」
カガリのその質問に、キラが一瞬目を見張る。
そして、すぐにいつもの顔に戻って微笑んだ。
「どうしたのカガリ、急にそんなこと言って」
正直、カガリだけには答えたくない。カガリにだけは、聞かれたくなかった。
だから、はぐらかす。
本当のことなんて言えないから。
本当のことを言えば、みんなが傷つく。カガリも、傷つく。
「あ、いや・・・悪い。何でもないんだ」
そう言って、罰が悪そうに俯く。
何か、聞いてしまったのだろうか。
ラクスに告げた自分の気持ち。それとも、見ない振りをしている、アスランの気持ち――――
だとしたら、これはチャンスなのかもしれない。
こんな機会なんて、二度とない。
「カガリ・・・僕は」
そこまで言って、カガリの瞳に気付く。
カガリの、拒絶するような瞳に。
言わないで欲しいと訴える、必死の瞳に。
「僕は・・・・・・」
本当のことなんて、言えない。
でも、嘘も言えない。カガリの前では言いたくない。
「僕は・・・・・・」
言えない気持ちがつっかえ棒になって、とうとうキラは何も言えなくなってしまった。









    




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