「カガリさん・・・?」
今一番会いたくない顔だ、とカガリは思った。
だって、どんな態度を取ればいいのか分からない。
自分の好きなアスランは、まだ彼女を、元婚約者の彼女を忘れられないでいるというのだから。
その渦中の元婚約者も、想い人に『彼女以上には』と評されたカガリの前で平静を装えるほど大人ではなかった。
「私、聞いてたんだ」
カガリが告白をする。
「何を、ですの?」
ラクスも、不安の色を隠せないままカガリの告白を受け止めた。
「アスランと、話しているところ。アスランは今でも、ラクスのことが・・・っ」
声が震える。
何を言おうとしているのか、それでどうするつもりなのか、自分でもよく分からない。
けれど、彼女には言っておくべきだと思った。彼女がキラを好きであるのなら、尚更。
「でも、でもな!」
これは間違いなく本心だ。
誰に気兼ねすることもない、カガリの本心。
「私、私は!・・・私は、アスランが好きなんだ!アスランが誰を好きでも、私はアスランが好きだ!」
そう、これ以上の想いはない。これ以下の想いもない。
アスランの気持ちがどうであれ、カガリは今アスランが好きだ。それが受け入れられるかどうかは問題ではない。
「私、それをアスランに伝えようと思って・・・だから」
ラクスはカガリの話を真摯な態度で受け止める。
カガリもラクスも状況は同じだ。お互いに、ライバルなのだ。
「ラクスも、自分の気持ちを正直に言えばいいんだと思う!キラに、でも、アスランに、でも・・・正直に、言って欲しい」
段々と語尾が小さくなる。
言いたいことはあるのだが言葉が出てこない。これではラクスに顔を向けられない。このままのもやもやとした状態のままでは、何よりもラクスと顔を合わせられない。それは嫌だった。
「私が」
言葉を探すカガリを遮って話し始めたのはラクスだった。
「アスランに、想いを告げても、後悔しないということですか?」
後悔は、する。カガリは瞬時にそう思った。けれど、伝えたかったことが伝わっていることも、同時に分かった。
「後悔はする。でもいい。嘘つかれるほうが嫌なんだ、私」
これが正直な気持ち。そうだ、カガリはラクスに遠慮をして欲しくなかったのだ。
キラが誰を好きとかアスランが誰を好きとか、そんなことは考えないで、自分の気持ちに正直でいて欲しかった。
自分も、正直であるために。
「分かりましたわ」
ラクスはふわりと微笑んだ。
「自分の気持ちに正直に、ですね」
「ああ」
笑いあう2人。先程までのぎこちない空気はどこかに消えてしまっていた。
「そうしましたら、私、カガリさんにも言わなければならないことがありますわ」
「え、なんだ?」
自分から言い出した手前、何も言われても仕方がないとカガリは身構えた。
そしてラクスは、カガリの手をそっと取ると一言こう言った。
「カガリさんを羨ましく思います。私、好きですわ」
そう言い残して、彼女はキラの元へと向かった。
自分に正直になるために。
ラクスの取った行動にあっけに取られ、しばらく呆然と自分の手を見つめていたカガリも、ふっと笑うと、真っ直ぐにアスランの部屋へと向かった。
自分の正直な気持ちを伝えるために。




「キラ」
呼ばれて、ようやく振り返る。
カガリは逃げるようにキラの前から去っていった。「すまない」とだけ言い残して。
動くことすら適わなくなったキラをその場に残して。
「ラクス・・・・・・」
「カガリさんから、力を貰いましたの」
「カガリと、会ったの?」
ラクスは微笑むだけで何も言わなかった。キラも何も言わなかった。
沈黙だけが2人をただ包んでいた。
互いに、揺れる瞳を見つめ合いながら。




「アスランっ!」
扉が開くことすらもどかしいと言ったように、カガリが部屋に入ってくる。
「カガリ・・・」
そのまま、アスランの反応などお構い無しに、しかし傷に触らないように、そっとその肩に抱きついた。
「私はっ・・・」
アスランからは、カガリの表情は伺えない。
ただ必死な声だけが伝わってきた。
「私はアスランが好きだ!」
ストレートなその告白に、アスランも驚きを隠せない。
「例えアスランが誰を好きでも、私はアスランが好きだ!この気持ちに嘘はないし、どんなことになっても・・・後悔なんてしない!」
最後の言葉は半ば意地だったが、必死なその言葉からはカガリの真っ直ぐな気持ちと、それから隠しきれない恐れが伝わってきた。
「ありがとう、カガリ・・・」
アスランは、震えるその肩をそっと抱き返してやった。
アスランにはカガリほどに正直な気持ちはないのかもしれないけれど。
「俺も・・・カガリのことは好きだよ。それは嘘じゃない」
これが、精一杯の気持ちだ。
真っ直ぐな想いに、嘘は返せない。
不器用なのだろうか、自分たちのしていることは。
「そうか・・・なら、いい・・・・・・」
カガリがゆっくりと目を閉じる。
アスランも、合わせるように目を閉じた。














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4ページ・・・最長。これも、書いたのはリアルタイムの頃です。
話長い割に特にオチもない・・・むしろ中途半端?な感じですが、でもこの話はちゃんとここで終わっているつもりです。何しろこの話の前提に「本編沿い」ってことと「キラ→カガ→アス→ラク→キラ」というのがありますから。(つまり続きを書いたらそうではなくなるということね・・・)
ラクスとカガリのシーンは、なんか4ページ目だけ話が短くなってしまったので後から付け加えました。(ということは他のシーンと1ヶ月くらいの時差が軽くあるということか・・・?)
何にせよ日の目を見ることができてよかったです(笑)私が本編沿いな話を書くのって珍しいですからね。



2005/11/2


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