アスランとラクスは、定められた婚約者として出会った。
そこに恋という過程はなく、2人の間には、ただ愛だけがあった。
アスランもラクスも恋愛という空間にその身をおいたことはなく、ゆっくりと育っていった愛情は確かに本物だったのだと思う。
けれど、そうして育てていった愛情はあくまでも愛情でしかなく、それが何かに変わることはなかった。
そしてそれは、今も2人の中に確かに残っている。
「アスラン」
「ラクス」
「お体の具合はどうですか」
そうやって話しかけてくる彼女は昔と何ら変わりなく、一歩間違えればタイムスリップでもしたかのような錯覚に捕らわれそうになる。
しかし、ここにいる2人は昔の婚約者関係にあった頃の2人ではない。何もかもが、確実に変わっていってしまったのだから。
「大丈夫です。キラは?」
曇った笑顔を見せるラクスに、アスランは戸惑った。
こんな彼女は見たことがない。あの、キラの前で泣いた彼女の姿以外には。
「ラ、ラクス・・・?」
何か悪いことを聞いてしまったのだろうか。キラと彼女は上手くいっていない?
いや、そんなはずはない。2人の仲の良さは、今しがたこの目で確認したばかりだ。
では何が――――・・・
『そうだよカガリに面倒見てもらえばいいじゃない』
ふいにキラの言葉が甦る。
あの言葉の意味は、そこに含まれた真意は、何だったのだろう。
「キラは・・・」
これをラクスに話したところで何か変わるのだろうか。
そういった疑問が頭を過ぎったが、何故だか話さずにはいられなかった。
「カガリに俺の見張りをさせたかったらしいですよ」
そして、言ってから、ラクスの顔を見てそれはすぐに後悔へと変わる。
「キラが・・・そう・・・?」
「・・・・・・え、え」
言葉が途切れる。息がつげない。
どうして彼女はこんな悲しそうな顔をしているのか。
こんな、見たこともないような、悲しそうな顔を。
理由は、すぐに分かった。




「アスラン」
「え、あ、はい」
しばらく途切れていた会話を繋げたのは、ラクスの方だった。
「先程キラは、私に謝りました」
見たことのない、曇った顔。
これは本当にあの婚約者と同じ人なんだろうか・・・
離れてみて、婚約者でなくなって初めて、ラクスの姿を知る。
自分には見せなかった、あるいは見ることのできなかったラクスの姿。
けれどこれが、本当の彼女なんだろうとも思う。
彼女と過ごした時間を、偽りのものだとは思いたくないけれど。
「キラが、謝った?」
「はい・・・」
「何故?」
問うた言葉に、苦しみはより一層深くなる。
こんな姿を見ることができるのは、正直、嬉しい。
しかし、それを引き出すものは全て、キラだ。
そう思うと、どこか憎らしくもある。キラが。自分が。
どうして自分はもっと昔にこういったことに気がつかなかったのだろうか。
こんな、ラクスの姿に。
見つけられなかったものは、何だったのだろうか。
「キラは・・・」
ラクスは語る。ここにはいない、キラを見つめて。
「カガリさん以上には私のことを愛せないと、そうおっしゃいました」
その言葉に、アスランはすぐには納得がいかなかった。
「キラが?カガリ以上にはって・・・」
その言葉の意味を、ゆっくりと考える。
「キラは・・・カガリを・・・・・・?」
ラクスがアスランを見る。
アスランが、その視線を受け止める。
「キラが・・・」
言葉の意味をすぐには理解したくなくて、言葉を噛み砕く。
けれど、そうしたところでそのことでラクスが苦しんでいることには変わりなかった。
そして、そんなラクスを見ていて、アスランにも気がつくことが一つあった。
「キラが、カガリを・・・思っているのだというのなら・・・」
言ってはいけないのではないかという思いと、言いたい気持ちが交錯する。
「俺だって」
ラクスの視線が酷く気になった。
「貴女以上には誰も愛することなんてできない」
まっすぐに見つめるアスランの瞳の奥で、ラクスの瞳が微かに揺れた。









    




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