『貴女はこれからどうしたいですか?』 ラクスさまの言葉が耳に返る。 『君はこれからどうするんだ?』 アスランにも同じことを聞かれた。 あたしは、一体どうしたいんだろう・・・ もしもミーアさんが生きていたら、その2 しばらくしてアスランも部屋を出て行って、あたしは1人病室に取り残されることになった。 ずっと、同じことを考えている。 あたしはどうしたいのか。どうすればいいんだろう。 答えは見つからない。 「しずかなー・・・このよるにー・・・」 ふと口をついたメロディーはオリジナルのものだった。 『君とラクス・クラインは似ているが同じではない』 議長に言われた言葉が蘇る。 『だから、それを気付かれないようにわざとイメージを変えてみようと思うのだが・・・』 正直、最初は悔しかった。 ラクス・クラインの歌なら完璧に真似られるのに。 気付かれなんてしないのに。 『どうだね?』 それでも、そう問われれば「はい」と答えるしかなく、程なくアレンジされた曲を渡されることになる。 ―――――楽しかった。 アレンジを覚え、それに見合った振りを付けて踊るのはあたし。 “ラクス・クライン”の復活をどうやってみんなに知らせるか。何をするか。ライブの構成はどうするか。 話し合って、ぶつかりあったりしながらみんなで良い方法を導き出す。 それはあたしがラクスであってもミーアであっても変わらないんだと思っていた。 あの時までは。 『こんにちは、ラクス・クラインです』 モニターに映し出された堂々とした姿。 そこにいるだけで安心できるような、落ち着いた声、動き。 そして、その存在感。 何もかもが違っていて―――――ひどく、怖かった。 あたしなんかじゃ代わりにはなれない。ラクスさまの代わりになんか、誰もなれない。 ・・・わかってる。あたしはラクスさまの代わりにはなれない。それはラクスさまが許してはくれない。 偽りのラクス・クラインは、もうただのミーアに戻るしかないんだ。 「ミーアさん」 ふいに呼びかけられ、声のした方へと振り返る。 ラクスさまだ。ラクスさまが、扉の向こうにいる。 「は、はい!」 それだけで緊張してしまって、声が上擦ってしまう。 「入っても、よろしいですか?」 「ど、どうぞ」 シュンと扉が開く音がして、ラクスさまが姿を現す。 今度は、1人で来たみたいだ。 「ど・・・どうしたんですか?」 何をしに来たのだろう。何を言いに来たのだろう。 何を、言われるんだろう。 「ミーアさんと、お話がしたくて。先程は、途中で終わってしまいましたでしょう?」 ―――――本物なんだ、と今更ながら思う。 昔はどこかでラクスさまだって作り物なんだろうと思っていたところがあった。 だから、代われると思った。 けれど目の前のラクスさまは昔見ていたラクスさまそのもので、それが偽りではなかったことを示していた。 「あたし、謝らなくちゃ・・・ラクスさまに」 「あら、いいんですのよ」 どうしても俯いてしまうあたしに、驚いたような顔を見せて否定の言葉を投げ掛ける。 それはあたしを否定しているようで、なんだか身を切られる思いがした。 「あたしがっ、謝りたいんです・・・本当に、ごめんなさい・・・」 頭を下げて涙を堪える。 泣くのは狡い。泣くのは卑怯だ。あたしに、ラクスさまの前で泣く権利なんて、ない。 「あらあら」 大仰に驚いて見せて、それから何故か微笑んだ。 「顔を、上げてくださいな」 請われると、抵抗することもできず、あたしは顔を上げる。 ラクスさまはあたしの目を見ながら、また微笑った。 「・・・本当は、怒っていたんですのよ、私」 その言葉に、先程感じた恐怖は間違いではなかったことを知る。 「ご、ごめんなさいっ」 どうしよう。謝っても許してもらえないのかもしれない。 もう、元には戻れないのかもしれない。 けれどラクスさまはくすくすと笑いながら続きを告げた。 「でも、なんだかどうでもよくなってしまいました」 思わず顔を上げる。 あんなに怒っていたことを・・・どうでもいい? なんだかラクスさまがわからない。 こんなに・・・なんというか、ズレた、人だっただろうか。 「私だって人間ですから、怒ったり泣いたりだってするんです。そうしても良いのだと教えてくれた方がおりました」 でも、ラクスさまが泣くところなんて、なんだか想像ができない。 ラクスさまはいつだって微笑っていた。 『ラクスはっ・・・こんなことはしないっ』 アスランの言葉に“そんなはずないじゃない”と思っていた頃のあたしは、まだラクスさまを作り物として見ていた。 ラクス・クラインを演じているだけで、どこかに本当のラクスさまがいるんだと、それをアスランには見せるのだと、そう思っていた。 けれど作り物じゃなかったとしたら。今目の前にいるラクスさまが本物なのだとしたら。 “ラクス・クライン”が怒ったり泣いたりするところなんて想像できない。 でも、なんとなくわかることはあった。 「それを教えてくれたのが・・・“キラ”?」 あたしの問いにラクスさまは答えなかった。 代わりにすごく嬉しそうに微笑った。それだけで、充分だった。 「人間ですから・・・間違えたりもしますわ。間違いは、正さなければいけないのかもしれません」 静かな声が耳に届く。 まるで教えを受けているような不思議な気持ちになる。 目の前にいるのは、ただ普通の女の子なのに。怒ったり泣いたりする、女の子なのに。 「けれど、大切なのは間違いに気付いた後どうするかなんですわ。間違えたことを悔やんでも恨んでも戻るものはない。けれど間違いに気付けたら、そこに留まらないで振り返ることができたら・・・きっと、次に進むことができるんですわ。今度は間違えずに」 ラクスさまが微笑う。 「ミーアさんを見ていて、気付いたことですわ」 嬉しそうに、微笑う。 ―――――どうして、こんなにも前だけを見つめていられるんだろう。 どうして、あたしを許してくれるんだろう。なんでこんなに優しいのだろう。 怒っていたはずなのに、それを越える強さがある。 まっすぐに人を信じる強さがある。 あたしも―――――こういう人になりたい。 ラクスさまのようになりたい。 そう思って、そういえばそれが始まりだったことを思い出す。 長い遠回りをして、やっと原点に還れた。 「あたし・・・」 願いが溢れてくる。 「あたし、ラクスさまのお傍にいたい。ラクスさまを近くで見ていたい。ラクスさまに・・・近くなりたい」 ラクスさまの代わりになりたいとはもう思わない。 憧れて、手の届かない存在だったラクスさまが今ここにいる。だったら、離れたくない。 何故だか涙が出た。 こんなにも求めてやまないものを前に、あたしにできることはあまりにも少ない。 「では、共に平和の歌を歌いましょう」 あたしにできることはなんだろう。 「はい」 何をすればいいか、何ができるか、あたしにはまだわからない。 でもこれだけははっきりと言える。 あたしはもう、ラクスさまを裏切らない。ずっとラクスさまについていく。 だってラクスさまは、あたしの憧れた女の子だから。 あたしの、理想だから。 |
ミーアはこのあとラクスのマネージャーみたいな形でラクスの活動を支えていくんじゃないかなぁと思います。 ミーア盲目的かなぁ?実際私がそうだからよくわからんわ(笑) ちなみにこれは+α。 |