「ラクスは僕の婚約者です」
婚約者――――その言葉に今更何の拘束力があるだろうか。
「僕が彼女を護ります」
それでも、世間の人々は何も知らない。
俺たちが婚約を破棄されていることも、ラクスが“スパイ”の手引きをしたことも、そのスパイの正体も・・・
ならば




奪ってしまえばいい――――――






略奪




今、実質ラクスの護衛をしているのはイザークだ。
キラはザフトには顔を出せないし、イザーク以上の適任者は俺にも思い当たらない。
イザークは優秀だ。ザフトを信じ、ザフトのやり方で今までの戦争を乗り越えてきた。
信頼に値する実績の持ち主。
それは裏を返すと上の決定には逆らわないということでもある。
ならば、上からの命令により俺がラクスの護衛につくことになれば――――俺と彼女を邪魔する者はもう誰もいない。
俺は早速、父の権威を使って上層部を落としにかかった。
“ザラ”の名はまだ使えるらしい。しかも今の上層部には婚約破棄の事実や経緯を知るものはいなかった。
好都合だ。
俺のはったりは見事に通用し、晴れて俺はラクスの護衛の任につくことになった。




「私は反対しましたのに・・・」
開口一番、目線を逸らしながら彼女はそう言った。
俺が護衛につくことに不満があるらしい。
「貴女の発言力がいかに強かろうとも、その分彼らは貴女のことを心配しているのですよ。貴女が必要ないと言ったところで、僕の力を知る彼らにとっては願ってもないことだ、僕が貴女の護衛につくなんて。それに・・・」
彼女の目に俺が映るように、彼女の頬に手を添えて顔をこちらに向かせる。
少々強引なその方法に彼女の瞳が揺れた。
「彼らはまだ僕らが婚約関係にあると思っている」
頬から顎に手を滑らせる。
少し上を向く形になった彼女の顔には、拒絶の意思が表れていた。
「私は、貴方との関係は最初から夢のようだったと・・・そう考えています」
「それは今の貴女の見解だ」
空いているもう片方の手で彼女の髪に触れる。
彼女が俺から逃げられないように。
もう2度と手放さないために。
「明日の貴女はもう違う考えを持っているかもしれない」
髪を撫でるように手を下ろし、首の後ろで止める。
これでもう、逃げられない。
「私が好きなのはキラです」
俺の狂気に気付いたのか、脅えるようにして顔を背けようとするラクス。
けれど抵抗は俺の手の中へと消え、俺は嫌がる彼女の口を塞ぐように無理やり口付けた。
彼女がこれ以上、他の男への愛を囁けないように。




「・・・っ、・・・っく・・・・・・」
声を殺して泣く彼女を見て、嬉しいと思った。
「キラ・・・ごめんなさい・・・・・・」
征服欲が満たされたとでも言うのかもしれない。
以前に、キラの元で泣く彼女を見てしまったからだろうか。
俺が肩に手をかけると、彼女はビクリと震え息を詰まらせた。
俺は構わず彼女を抱き寄せ、そのまま華奢なその背へと口付けた。
「っ・・・・・・」
彼女は声を抑え、必死に俺を否定しようとする。
今更そんなことをしても何の意味も為さないのに。
「キラが・・・好きですか?」
彼女はコクリと頷いた。分かりきったことだ。
「でも俺とこんなこと、してしまいましたね」
彼女は俺の方へ振り返ると、涙を溜めた目で俺を睨み付けた。
「貴方が・・・無理矢理・・・っ」
言葉は続かず、彼女は口を押さえまた泣いた。
「・・・キラとも、するんですか?」
聞きたくないとも思うのに、どうしても聞かずにはいられなかった。
彼女の全てを知るのは俺だけで充分だ。
「っ・・・・・・」
彼女は言葉にはしなかったが、赤く染まったその顔を見れば分かる。
キラは彼女を抱いたのだ――――
どこかで、何かが切れる音がした。














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