「Stray Sheep」あらすじ


■-28 悪夢の終わり

異端児生存記録
 丸一日経ったが、ジダルドは戻ってこなかった。
 アユルスは以前言われたジダルドの言葉に、これから己がしたい事を考える。そうして罪を償う為、1階・ベーシックタウンへ戻る事を決意する。ナユルへ伝えると反対されたが、何のしがらみも無くナユルの隣にいたいアユルスの意思を最後には尊重した。

 ベーシックタウンに戻り、自首しようと三人で街中を歩いているさなかだった。
 不意討ちされ、アユルスは胸を刺される。
「赤目の吸血鬼め!」
 刺した人物は今では珍しい差別主義者でもあった。
 ナユルとルルムは強く突き飛ばされて転んでしまう。更にアユルスを刺そうとする腕を掴む手があった。
「何してくれてんの、ああ!?」
 行方不明だったジダルドが満身創痍で其処にいた。掴んだ腕を投げ飛ばす。
 すぐさまアユルスの治療を試みるジダルドだったが、傷へかざした手をアユルスが退けた。
「もういいよ……、もう、いい……」
 それは諦めだった。
 騒ぎになるが、助ける者は他にいなかった。動かなくなったアユルスへ縋り付くナユル。
「あのさあ」
 ジダルドは四人を取り囲む人々へ怒りをぶつける。周囲の全員が共犯だった。
「アンタら、こんなガキに全部諦めさせて、そんなに偉いのか」
「でも、そいつは殺しをしたんだぞ」
「だからってアンタらがアルを殺っていい理由にはなんないよ。もしそれが正しいって言うんなら、俺だってアンタらを殺っていいよね?」
 言い放つなり、周囲の人々の足元から光の柱が発生し、体の自由を奪う。ジダルドが発動させたテレキネシスだった。
 地に転がる人々を見下ろすジダルド。
「でも殺ってやんない」
 嫌悪を吐き捨て、しかしナユルを見遣るしか出来ず、ジダルドは歯噛みした。
 不意に、縫いぐるみのように転がっていた筈のルルムがアユルスの傍らへ飛んでくる。呼ぶように一声鳴くが、返事は無い。
「あえ、あえぇ、あえぇああああぁぁぁぁ!」
 絶叫と共にルルムの体が燃え盛った。炎はやがて大きな鳥の形を成し、美しい尾羽をなびかせて其処にいた。
 フェニックスが羽ばたき、火の粉がアユルスの傷へと集まる。傷は瞬時に癒えた。
 薄く目を開けたアユルスへルルムが告げる。
「きせきは、ないから、いきることは、むずかしい」

 一旦家路へ就くアユルス。
 ルルムはまた小型の姿に戻り、やはりジダルドの頭の上にいた。
 ジダルドが今になって現れたのは最上階での戦いが原因だった。強大な魔力同士の衝突により時空が歪み、その裂け目へ一人落ちてしまったのだという。時間の乱流を彷徨い、漸く辿り着いたのがこの時だった。
「あの人は、臾僖は、どうなったんだ」
「無事だろうね。ちょっと置き土産もしてきたし」
「置き土産?」
「まあ、開けてびっくりしてくれたらいいってね」
 悪戯を仕掛けたような口振りに不穏なものは感じられなかった。
 玄関をノックすると程無くして開いた。驚くルイセへ、アユルスは確かに告げる。
「ただいま、父さん」
 まだ父と呼ぶ事に、望んだ場所へ帰り着いたとの言葉に、ルイセは泣き崩れた。
 この後アユルスは様々な事情を加味された結果、三ヶ月の禁錮刑を経て自由の身となる。



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