「Stray Sheep」あらすじ


■-29 はじまり

 戦いの中でジダルドにかけられた特殊能力・ヒュプノシスは、臾僖の精神を大いに掻き乱した。
 どうとでも良くなり忘れていた筈の過去も引き摺り出される。全てを思い出した臾僖は、声を聞いた。
「アンタの大事なものって?」
 ジダルドの声とは気付かずに答えていた。
「……アースラ」
「そう。ところでアンタ気付いてる?」
 深く精神干渉するジダルドの思念を振り払う気力さえ無かった。
「アースラって、いつ笑ったっけ?」

 目覚めた時には寝台にいた。雲の隠れ里の家だった。月明かりが眩しい。
 傷一つ無い臾僖の傍らには眠るアースラがいる。
 常時靄がかっていた思考は鮮明になっており、やがて臾僖は己の行いを恥じた。恥じる心が戻っていた。
 今からでも間に合うのだろうか。今からでもそうしたいと思う。
 ふとアースラが目を開ける。不安げな眼差しに臾僖は微笑んだ。
「大丈夫」
 今はそれだけを伝えた。



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