「Stray Sheep」あらすじ


■-27 夢

異端児生存記録
 アユルスは10階・空中世界におり、狩りをして得たものを売る日々を生きていた。
 ある時、森で小さな鳥系モンスターを狩ろうとした際に別の誰かから攻撃を受ける。魔力による強力な念動波・サイコブラストをまともに受けたが、体に宿る魔力が一定量相殺した事で致命傷は避けられた。普通の人間ならば即死していただろう。
 上位の能力であるサイコブラストに危機感を覚えるアユルスへ軽く声がかかる。
「俺が見付けたコ、殺らないでくれるかなあ?」
 姿を現したのはエスパーの男だった。逃げようとしたが負傷した体は動かなかった。
「アハハ、その侭だと死んじゃうねえ」
 無邪気に笑うエスパーはアユルスへ歩み寄ると、乱暴にアユルスの頭を掴んだ。アユルスは母を思い出し、最早生きられない事へ謝る。
 するとエスパーは嬉々として問う。
「オマエのかあさん、どんなヒト?」
 思考を覗き見たエスパーはアユルスを特殊能力・ヒーリングで治療し、アユルスを待っている。不気味なエスパーへアユルスは嘘をつく事も出来なかった。
「優しかった……」
「それだけ?」
 長く思い出していなかった母の存在に懐かしさと悲しみが込み上げる。
「だから死んだ……俺の所為だ……」
 涙を零すアユルスへ、エスパーは再度手を伸ばす。
「大好きなんだねえ。それなら俺にも解るよ」
 ただ頭を撫でる手が、どうしようもなく涙を促した。

 エスパー・ジダルドはアユルスへ興味を示し、勝手気侭に付いてきた。そして小型の鳥系モンスターにルルムと名付け、頭の上に乗せて連れ回していた。
 逃げようともしないルルムへ、アユルスは話しかけてみる。
「名前、無かったのか?」
「あえ」
 一切言葉は返ってこない。其処にジダルドが告げる。
「ルルムの頭ん中は真っ白、なーんにも無いよ」
「知識も?」
「うん。面白いよねえ」
 そう言ってのけるジダルドの事を、僅かに知った気がした。

 ある時、街中を歩いていると突如ジダルドがアユルスを呼び止める。
「アル。なんか呼んでるよ」
 何も聞こえないアユルスへ、ジダルドは続ける。
「妹って、いるの?」
「……ナユル?」
 蒼白になるアユルス。
「アルを探してる。どうするの?」
「逃げないと……」
 反射的に動くアユルスだったが、ジダルドに腕を掴まれる。
「それってアルのやりたい事? それってつまんなくないの?」
 問われて固まるアユルスへ、ルルムが一声鳴く。責められるような心地になり、アユルスは覚悟を決めた。

 人混みにナユルの姿を見付け、ナユルもアユルスへ気付く。
「お兄ちゃん!」
 呼び声に全てを悟り、アユルスは抱き付いてきたナユルを受け止める。
「ごめんね、あたしが弱かったから、お兄ちゃんにあんな事をさせて……」
「あの時はああするしかなかったんだ。ナユルが無事ならそれでいいんだよ」
 再会を喜ぶもジダルドからの指摘でこれからに悩む。やがてアユルスが口を開いた。
「俺の母さんが此処で生まれたんだ。けど、変な事を幾つも言っていて……。どんな人達なのか確かめてみたいんだ。今もこの階に住んでると思う」
 僅かな情報を頼りに全員で探し回り、雲の隠れ里へ。

 目的の家を見付け、玄関先に立った直後。空間が歪み、四人は白く広い空間にいた。
 目の前には椅子が一つあり、体の大部分を失った人物がいた。
「勝手をごめんなさい。此処は塔の最上階。此処くらいしか、話の出来る場所が無かったから」
 まだ少年に見える人物がアユルス達を転送したらしい。
「よく此処まで来てくれましたね」
「その体……、まさか貴方が……」
 寛鷺の話を思い出しながらアユルスが尋ねると、少年は暗い顔で頷く。
「アースラ・カースといいます。寛鷺を生んだのは、俺です」

 アースラが神の力を持つと聞いた瞬間、アユルスはアースラへ詰め寄る。
「どうして母さんを助けてくれなかったんだ!」
「事故があったと知らなかったんです。俺が知ったのは、寛鷺の命が尽きた瞬間だけでした」
 アースラは疲れたように椅子に沈んでいる。
「寛鷺に頼まれたんです。どんな事があっても、もう自分に触れないでくれって」
 寛鷺の頼みに神の力を都合良く使えなかったアースラは、当時を振り返る。
「俺は寛鷺の事を信じるしかなかったんです。それは寛鷺の生物としての営みで、モノではない証でもありました」
「……解ったよ。貴方だって悲しいんだよな。それが生きてるって事だから、悲しくない筈無いよな」
 アースラの寛鷺への思いは確かだと知り、アユルスは項垂れた。

 アースラから様々な話を聞く。この世界と神の事、アースラが狂わせた人物の事も聞いた。
「何をしているんだい」
 アユルス達は突如姿を現した人物の正体を悟る。臾僖だった。
「ねえ、その子を返して、ねえ!」
 咄嗟にジダルドがアユルスの前に立ち塞がり、特殊能力を書き換える。臾僖の放った炎を無効化し受け止め、アースラへテレパシーを飛ばした。
『そのコ達逃がして』
『貴方は』
『悪いようにはしないよ。アルに感謝しな』
 アースラが三人を転送し、ジダルドは臾僖と対峙する。
「アンタ、少しは痛い目見たほうがいいねえ」
「痛い……死ぬ? もう嫌だああぁぁっ」
 両者から射出されたサイコブラストが衝突する。アースラは戦いを見遣るしか出来なかった。



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