「Stray Sheep」あらすじ


■-26 願う

やめられないしもどれない
 1階を離れ、10階・空中世界にある雲の隠れ里へ移り住む臾僖とアースラ。
 臾僖の望みから二人は不老不死となるが、望めば死ねるので永遠ではない。

 幾年も経過した。
 神の力を駆使し、アースラは自身と臾僖の細胞を使用した事実上の子・寛鷺を生む。しかし臾僖は寛鷺の存在を徐々に煩わしく思うようになる。
 臾僖への感情と寛鷺への感情の板挟みに疲弊するアースラへ、成長した寛鷺は決意を伝えた。
「私は私の幸せを見付けたい。幸せの形なら教えてもらったから。だからどうか、どんな不幸があったとしても、私に触れないで」
「……解りました。貴方を信じます」
「ありがとう。それだけで充分よ」
 寛鷺がアースラの姓を名乗ったのは、寛鷺なりのアースラへの誠意だった。

異端児生存記録
 1階・ベーシックタウンへと下りた寛鷺は、やがてエスパーマン・ルイセと出会い結婚する。息子・アユルスも生まれ、幸せのただ中にいた。
 だがある日、出先で建物の崩落に巻き込まれ、寛鷺はアユルスと生き埋めになる。
 やがてアユルスが空腹を訴えた。寛鷺は自らを傷付けると、アユルスに血を飲ませる。
 傷が増え、時が過ぎ、救助される頃には寛鷺は息絶えていた。
 血を飲んでいたアユルスに周囲は恐怖し、次第に彼を吸血鬼として問題視するように。

 寛鷺を亡くし絶望するルイセは更に追い詰められていた。吸血鬼の母とされた寛鷺を弔う場所が無かった。
 其処へ一人の女が近付く。寛鷺を弔う事と引き換えにルイセの持つ多額の財産を要求し、ルイセは条件を呑むしかなかった。
 更に女はアユルスを捨て置く事を提案し、ルイセへ強引に了承させる。
 アユルスは事態を全て聞いていた。

 義母となった女には連れ子・ナユルがいた。素直なナユルを邪険に出来ず悩むアユルス。
 女からは時折暴力を振るわれた。生活は一変し、二人には極限状態が続く。その中でアユルスはナユルから告げられる。
「あたしね、うれしいの」
「どうして?」
 ナユルはアユルスの赤い瞳を見て言う。ナユルの瞳も赤かった。
「おにいちゃんと、おそろいだから」
 それは見知らぬ年上の少年へではなく、兄への言葉だった。
 あの女に対しては深い憎しみがある。しかしナユルはナユル以外の誰でもなかった。
 アユルスはナユルへの感情を自覚する。
「ナユルは僕が守る。きっとだよ」

 アユルスはルイセの留守中、女が戯れに襲いかかる時、部屋の鍵が開く瞬間を狙った。
 女の腕を掻い潜り目指したのは、記憶にあった魔法書を収めた棚だった。
 魔法書を持ったアユルスを嘲笑う女。魔力の無い人間は魔法書を発動出来ない。
 しかしアユルスは自身の力を知っていた。
「約束したんだ」
 迫り来る女へ叫んだ。
「いもうとを守るって!」
 発動した雷の攻撃魔法・サンダーは、激しい閃光と共に女を焼き焦がした。

 アユルスはルイセの持ち物である魔力に反応する剣・サイコソードを手に取る。魔法書とこれでなら、幼くとも幾らか戦える。
「おにいちゃん……」
 ナユルの涙声には振り返らなかった。振り返れば決心が揺らぎそうだった。
 罪人となったアユルスはその場を後にする。

 ルイセは多大なる後悔と、一欠片の安堵を覚えていた。罪に塗れながら自由を手にしたアユルスの無事を願うしか出来なかった。



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