「Stray Sheep」あらすじ
■-22 呪縛
やめられないしもどれない
当時、まだアースラに息があった時。
血塗れのアースラは、寝かされていた寝室へ臾僖を呼んだ。
「俺……、あの人を、生かします……」
「そう言うと思った。君は優しいから」
臾僖は、アースラとの関係を此処で終わらせる事も了承した。それがせめてもの抵抗だった。
「貴方が、これじゃ、一人に……、約束……したのに……」
「大丈夫だよ。君は嘘ついてなんかいないよ」
「ごめんなさい……」
臾僖の為に生きる事すら出来ないアースラへ、触れる事も出来なかった。
アースラの棺が埋められていくさまを見遣る。
1階の文化に、自身がエスパーである事に、これ程感謝した日は無かった。
深夜、臾僖は邸のあの部屋から部分的にテレポートする。
窮屈な暗闇を探り、探し当て、すぐさま転送させた。
吹き飛ばされた右腕と両足。内容物を押し込み直して縫われた腹。眠る表情。
無事に連れてこられた事に安堵している暇は無かった。
臾僖はアースラを連れ、16階を歩く。やがて探し当てた建物に入る。
解体した生物の内容物が積み上がる室内に女がいた。
「剥製にしてくれると聞きました」
「するよ。どれ」
台へアースラを丁寧に横たえる臾僖は、希望する状態を告げる。
「あんたの注文だと、剥製よりプラスティネーション標本が一番希望に沿える」
体を真空下に置き、数種の樹脂で固めたもの。水分は無く、無臭、耐久性に優れ、色や細胞の構造はほぼ元の侭。女から説明を受け、臾僖はその方法で依頼する。
標本の完成を待つ間、邸の使用人・メイシスを臾僖の自立との名目で円満に解雇する。
依頼から一ヶ月後、アースラの死から31日目。
標本となったアースラを部屋へと連れ帰る。
「今君は何をしてるのかな。遠くにいるのかな。消えちゃったのかな。今側で僕を見ているのかな」
「僕はおかしくなったのかな」
「僕は……」
「泣いてもいいのかな……」
「酷いのは僕の方だったんだ、君をいつまでも離さないで、我儘だった、君の気持ちなんて解ろうとしてなかった……。こんな事も君はきっと嫌なんだ、けれど僕が離さないから、君は、受け入れるしか、ない……」
「あの人が認められて、君はもう見向きもされなくなった……。もう君を君と見るのは僕だけ、君が映るのは僕だけ」
「愛してるよ、君だけを……」
確実に狂う己を止めるものも、理由も無かった。
Previous Next
Back