「Stray Sheep」あらすじ


■-21 秘匿

メタ
 これ以降ところどころ書き起こしあり。

やめられないしもどれない
 パーズの元へ戻ったアースラは疲弊していた。その様子にパーズは恐怖すら感じ、遂に自らの秘していた想いをアースラへ打ち明けてしまう。
「ありがとう。けれど、違うんだよ」
「違うって?」
「私はもう……いいや、最初から。私は、アースラじゃないんだよ」
 アースラはパーズへ己の出生を話し、次に愛した人の話をする。
「アースラには、愛する人が二人いた」
 複数を愛する存在にパーズは驚く。
「その、臾僖さんってどんな人?」
「優しい人だったよ。所謂お坊ちゃんだったから、最初の頃は上手くいかない事も多くて……」
「待って、お坊ちゃんって?」
「ああ、臾僖さんは男の人だよ。名前からは解りにくかったな」
 パーズに衝撃はあったが、自らの感情を思うと否定出来なかった。
「臾僖さんは、死体となったアースラを今でも愛してくれていた。だから……だからさっき、アースラを生き返らせてきた」
 事実にパーズはアースラの考えを悟り、これまでに無かった恐怖に襲われた。
 アースラはパーズに微笑む。
「私はアースラじゃない。誰でもないんだ」
 言いたい言葉も浮かばず、パーズは泣く。
「私の存在だけを無かった事にする」
「何も残さないから、お前にも悲しみは無いよ」
 この侭ではアースラは独りで消えてしまう。パーズは腕を伸ばした。
「いかないで」
 腕の中のアースラは動かない。まだ此処にいる。
「俺が好きになったのは父さんだけだ」
「誰でもないのなら、俺の中で生きてよ……!」
 必死に訴えるパーズの言葉が臾僖の言葉と重なる。パーズが見ているのは、今此処にいるアースラだけだった。
「お前はそれで、いいのか?」
 恐れすらある問いにパーズは頷く。
「いいよ。それでいいんだよ」
 安堵にまた泣くパーズは、ふと考えを口にする。
「名前、考えなきゃ」
「名前?」
「うん。確かアースラって、ウルスラって読みもあったよね。その侭だと『その侭』だから……、少し削って、『ルスラ』。駄目かな……」
 聞いた直後、嗚咽が止まらずにただパーズに抱き締められる。
「大丈夫、此処にいるよ、此処にいるんだよ、ルスラ……」
 初めて生まれた気がした。

 その後、ルスラとパーズは旅に出る。
 秘め事を抱えながら、神の力で二人は悠久を生きる。



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