「Stray Sheep」あらすじ
■-12 雨の日
Stray Sheep
やまない雨の中、八人はベーシックタウンへと辿り着く。
この町出身であるアースラ達へリッツレー達が何処か泊まれる家は無いかと言い出し、半ば強引に臾僖の邸へ向かう。
邸は唯一臾僖の味方だった使用人のメイシスが守り続けており、訳を聞いたメイシスの快諾もあって邸で一晩を明かす事に。
「此処が、僕の育った場所」
臾僖の案内で、アースラは邸の一室にいた。床に血痕の残る其処は、事実上の仕置き部屋だった。
「気付いたんだ。僕があの二人をまだ、生かしてるんだって。消そうと意識しすぎて、忘れられなくなっちゃった」
一方でアースラは両親を忘れていく。苦しみは違うが、苦しんでいる事実は共にあった。
「前に臾僖さんが言った通り、みんなが忘れていっても、俺が覚えていればって、思いました。でもそれがもう、出来ない……」
苦悩するアースラへ、臾僖は優しく告げる。
「僕達はもう、何が出来るんだろうね……」
メイシスの足取りは重い。
あの少年が、この短期間で臾僖を変えた。驚きと喜びと、嫉妬が渦巻く。
だが、最早自身に出来る事は何も無い。あの少年へ望みを託すしかなかった。
Creatura Triste
「今さっきね、メイシスが見てた。物凄い顔だったよ」
「俺、嫌われましたか」
「ううん。好きになってもらわなきゃ。僕が此処へ連れてきた人なんだから」
明かり取りの窓さえ無い部屋で、ランプの光に臾僖の影が揺れる。
「此処には僕の怖さとか、恐ろしさとか、そういうものしか無いんだ。だから……うん、だから……一つだけ、一度だけでも……、君と此処で過ごしていい?」
アースラは臾僖を抱く。
「臾僖さん」
臾僖の首筋に頬を寄せ、初めて甘える。
「怖いんでしょう」
「うん。でもね、もう耐えられない」
「臾僖さん。貴方の側にいますよ」
温かさが何処か気味悪いのは、生々しい命を初めて感じたからなのかもしれなかった。
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