さいこうのコ
■-5
ふと腕の中のアユルスがジダルドを見上げる。
「ごめん、ジダルドもいい加減風呂に入りたいよな」
ジダルドは名残惜しさを表情に滲ませて身を離しながら、アユルスの言葉に頷いた。
「うん、入ろっかな。なんか頭ぱりぱりするし」
「頭? どの辺?」
「この辺。どうなってる?」
下がってきたジダルドの頭を覗いたアユルスが驚いて小さな声を上げる。
「わ、血が固まってる」
頭を負傷した際の血が拭き取れず残っていたらしい。面倒臭さと心地悪さにジダルドは軽く悪態をつこうとしたが、その前にアユルスの声が降ってきた。
「洗おうか? これ、自分じゃ見えないし」
「えー、いいの?」
悪態が驚きに変わったジダルドが頭を上げると、何処か嬉しそうなアユルスと目が合う。
「うん。こういうのした事無いから、ちょっとやってみたい」
アユルスからすれば親の背中を流すような気分なのかもしれないが、初の対象に選ばれた事実はジダルドの胸中を擽った。
浴槽に湯を注ぐ音が響く。アユルスは服を濡らさない為に脱いだ上での再びの風呂となったが、先程とは大きく異なり楽しげな様子だ。タオルに石鹸を付けて泡立てるとジダルドの背中を優しく擦る。広い背中であると感じるのは、頼る事が出来ると改めて認識したからなのかもしれない。
「そういえば、なんでまた十階に?」
以前ジダルドから低層階を拠点にしたと聞いており、低報酬だが生活には困らないとも聞いていたのを思い出しての事だ。ジダルドは無理をするような人物でもなければ、必要以上を追いかける人物でもない。その点をアユルスも理解しての問いである。
「ちょっと高報酬が欲しくてね。それで低層階で少しでも楽したいなって思ったらこれでさ。欲は出すもんじゃないねえ」
その意図するところの終着点にはアユルスがおり、アユルスの中で喜びと悲しみが綯い交ぜになるが、楽しげなジダルドの様子は悲しみを温かく包むようだった。
「今度からもっと気を付けないと」
応援の意が篭もった声音にジダルドは口元を緩ませる。
「ふふ、アルに言われたんなら頑張れそう」
「そうしてよ」
笑い混じりに言いながらアユルスはジダルドの前に立ち、下げられた頭へまずはハンドシャワーで湯をかけた。髪を抜かないよう固まった血を丁寧に落としていくと、僅かに赤色の粒が排水口へ流れていくさまが見える。血を全て流したところで洗髪剤を付け、揉み込んで泡立てていった。
「はあー、ヒトにしてもらうと気持ちいー」
アユルスからジダルドの表情は見えないが、締まりの無い満足げなものなのだろう。もしエスパー特有の長い耳が動いたならば垂れていたのかもしれない。心地良さに浸るジダルドに可愛らしささえ感じ、アユルスは小さく笑いを零した。
「ふふ、流すよ」
「はーい、至れり尽くせりー」
シャワーを手に取り、まずは頭の泡を流される中で、不意にアユルスが体を震わせる。湯を被ってもいない体が冷えてしまったようだ。
「ありがとね、お湯溜まった? 浸かりなよ」
「うん」
シャワーを手渡してアユルスは湯の溜まった浴槽へと入る。かなり寒かったのか湯の中で縮こまっていたが、泡を流し終えたジダルドを見て浴槽から出ようとした。
「入ってていいよ? 二人くらいいけるでしょ」
ジダルドの言葉にアユルスはゆっくりと湯へ戻り、再びの温かさに息をつく。その横へジダルドも入ると浴槽から大いに湯が溢れ、音を立てて流れていった。
両者体が温まってきた頃、アユルスが何かを気にするようにジダルドの顔を見詰める。
「ん? なんか付いてる?」
ジダルドは頬を手でなぞるが泡の一つも付かない。其処にアユルスが小さくかぶりを振った。
「ううん。エスパーの青い肌って、あったまると濃くなるんだなって」
位置や形に個人差はあるが、エスパーの肌には黄緑色の幾何学模様に加え、広範囲に青色が表れる。ジダルドの体にも青色が広がっており、今はアユルスの言う通り青色が深い。
「そうだねえ。赤っぽくなって濃く見えるんだろうね」
「なんか不思議だな……」
「ふふ、ほんとにね」
人間と同じく血液は赤色だが、皮膚の深部まで青色に染まる理由は解明されておらず、突然変異する性質から不安定な存在でもあるエスパーには未だ不思議な点が多かった。
ふとアユルスが俯く。目を泳がせて何かを迷っているようだが、それを待つのは苦ではない。待っている間に見せるアユルスの表情の変化が楽しいと気付いたからだ。
唇を引き絞り、温まった頬が更に赤くなってからアユルスは口を開く。
「ジダルド……、あの……」
「ん?」
俯くあまり水面に口を付けそうになりながらアユルスが続けた。
「今回も凄く頑張ってたから、俺から何か出来ないかなって思ったんだけど、俺は何も持ってないから……、それで……」
つと顔を上げたアユルスが壁へ手を突き、近付いたと思った瞬間に唇へ触れるものを感じる。ジダルドとしては薄々期待があったものの、実際に事が起こると期待以上に歓喜するしかなく、アユルスが懸命に考えた結果だという事実は歓喜に拍車をかけた。
唇を離したアユルスが申し訳無さそうに告げる。
「このくらいしか出来なくて……」
身を引こうとするアユルスの肩をジダルドが掴み、引き寄せて抱き締めると湯が大いに浴槽から零れた。流れに排水口が音を立てるのを聞きながらジダルドはアユルスの耳元で囁く。
「ご褒美、もっと欲しいな」
告げて耳に舌を這わせるとアユルスの体が跳ねた。続けて唇で食むように挟み、吸い付く。
「あ、うぅ……ん……、此処で……?」
しゃぶる音と感覚にアユルスが身をよじるが抵抗するそぶりは無い。ジダルドの肩を持ち、その手にもどかしい力を込めるさまがジダルドの心を擽った。温まった為に吐息は既に熱いが、ジダルドの長い耳へ僅かにかかる息は徐々に甘さを宿す。
耳を弄びながらアユルスの腰を撫で回し、腰が揺らいだのを見計らって抱き寄せた。口を離したジダルドの両手がアユルスの胸を抱え、親指で先端を無遠慮に転がす。
「うぅ……ん、ふぅう……」
アユルスの視線は弄られている胸へと注がれており、ジダルドの煽りたい欲望が顔を出した。
「いつもこんな風にされてるんだよ」
告げながらジダルドは眼前の胸へ顔を寄せ、上目でアユルスを見ながら舌を出すと見せ付けるように片方の尖りを舐め上げる。
「あっあぁ……」
舌先で幾度かつつき、焦らすように周囲を舐め回してから吸い上げるとアユルスの体が震えた。弄る指は止めず、吸い上げながら舐めずる。
「はぁ、はっ……あ、んんう……うぁあ……」
アユルスの濡れた髪から雫がジダルドの指に落ちたところで胸を解放すると、アユルスは震えた息をついた。
「見ながらだと意識しちゃうでしょ」
見上げてくるジダルドの言葉に頷くアユルスの体は既に仰いでいる。
「ジル……」
乱れた息でアユルスが呼ぶが、その眼差しは多少遠くを見ていた。
「もう、のぼせる……」
「アハハ、風呂二回目だもんね。いいよ、向こう行こっか」
よろめきそうなアユルスを支えて湯から出ると、簡単に体を拭いて寝台へと歩く。歩調も不安定なアユルスは寝台へと倒れ込み、其処へジダルドが被さってくるのをぼんやりと見詰めていたが、ふと布を被ったルルムへ顔を向けた。
「寝てくれてるかな……」
「ルルムサマしか解んないだろうねえ」
冗談めかして告げ、ジダルドはアユルスへ顔を寄せて口付ける。アユルスから強請るように伸ばされる舌を絡め取りながら啜り上げると、渇いた喉が粘度を増した唾液ですら欲していた。
「んむ、んぅ……はふっ……」
絡み合いをその侭にジダルドの手がアユルスの硬くなった体に触れ、先端から滲んだぬめりを広げるように優しく扱く。途端にアユルスの腰が揺らぎ、手が強くシーツを掴んだ。
呼吸が苦しくなり口を離すと、ジダルドは屹立した己の体に気付く。毎度高揚感に新鮮味がある原因を思うと驚くが不思議ではなく、納得さえあった。高揚感はやがて悪戯心を刺激し、実行に移させる。
手の中へ己の体を招き入れると、互いをこすり合わせながら扱き上げた。
「は、ふぅ、ジル、の……、あつい……」
嫌がりもしないアユルスの体が手の中で大きくなる。
「ふふ、アルの所為だからね?」
耳元で囁かれたジダルドの声には若干揺らぎがあり、言葉も相まってアユルスへ事実を改めて教えた。
「はぁ、う……、じゃあ、もっと、する……」
頼みでもなく誘いでもなく、自発的な言葉にジダルドの理性が大いに揺さ振られる。欠片程度の理性だったが、アユルスに無理をさせたくないとの思いまで振り落とす勢いだった。
「アル、俺ね、我慢してたけど、もう無理」
手を離したジダルドは身を起こすと、アユルスの足を抱えて引き寄せる。これからの行為を察したアユルスからの苦情も覚悟の上だった。
窄みに宛がわれる感覚にアユルスの体が跳ねるが、それだけで終わる。それを意外に思ったジダルドの僅かな理性へ、アユルスから甘く告げられた。
「いいよ……」
最後の抵抗も敢え無く消し飛ばされ、この許しへ存分に浸る。慣らしもせずに侵入した内部は前よりも窮屈であり、ゆっくりと埋めるのが精一杯だった。
「うう、あ、ぐうぅ……っ」
痛みにアユルスが表情を歪めるが、やはり無抵抗でいる。やがて触れた体にアユルスが息をつくが、その呼吸を整える間も無くジダルドがゆっくりと動き始めた。
「うあっあ、あぐ、うぅんんっ」
苦悶の表情にすら擽られるものは、禁忌へ触れる際の背徳感に似ている。
「ほんと、いけないコト、してるよね……」
アユルスとの行為そのものも、誰にも許されないのだろう。知れば烈火の如く怒り狂う人物には大いに心当たりがあり、だからこそ高ぶりと緊張感は果てしない。遊びの面も否定は出来ないが、だからとアユルスを捨て去る事など考えようもなく、寧ろのめり込んでいるのはジダルド自身だった。
「んぐぅ、んぅっう……あ、はぁっ……」
アユルスの体が汗ばんできたと同時に声が色めいたのをジダルドは聞き逃さず、硬さを持ち始めた奥部を執拗に抉る。
「あ、ふぅう……あぁっあ、うあぁあっ」
次第にアユルスの腰が揺らめき、表情からも苦悶が消えた。内部では断続的に締め付けも始まり、感覚に慣れてきたのだろう。
揺さ振られるが侭でいたアユルスの仰ぐ体を手で包み、激しく扱きながら内部を突き上げるとアユルスから甲高い声が上がった。
「ひっあぁっ、だ、めっ、はぁっああぁっ」
「ふふ、良くなってきた?」
「んっう、あっ、きもち、いぃ……っ」
唾液を垂らしながら答える唇が扇情的であり、ジダルドの欲を掻き立てる。一旦体を離し、息の上がった声でアユルスへと告げた。
「後ろ、向ける?」
「ん、う……」
アユルスは鈍い動きで身を転がし、寝台へ手を突くと腰を浮かせる。広がった跡のある窄みがジダルドへ晒され、大いにひくつくさまはこれからを望むようだった。其処へ腰を寄せると先程よりは抵抗無く受け入れられ、全て収まると共に動いてみる。動きながらジダルドは手を下腹部へ滑り込ませ、耐えていたアユルスの体を再び刺激した。
「ふぅあ、は、ああっあ、んあぁっ」
「後ろもいいでしょ、例えば……」
言葉の途中でジダルドは律動を速める。肌の当たる音が一段と響き、激しい動きと感覚に耐えきれなくなったのかアユルスは前へ伏した。
「こういう事も、出来るしね」
「あっうっ、はぁっすご、いっ」
アユルスの蕩けた表情が見られないのは難点だが、それを差し引いたとしても損にはならず、ジダルドはまた一つ楽しみを増やす。
「あっうぅ、ジルっ、も、うっ、だめ……!」
アユルスは動きに合わせて腰を振りながら、枯れそうな声で訴えた。
「いいよ、イかせてあげる」
ジダルドは手を離すとアユルスの腰を両手で持ち、疼きの侭に強く突く。それを何度か繰り返す内にアユルスの体が痙攣を起こした。
「あ、あぅっ、あぁあっ、あんぁあっ……!」
押し出されるようにアユルスが白濁を散らすさまを見遣ってからジダルドは身を離し、アユルスの体を転がして仰向けにさせると限界だった己の欲を放つ。勢い良く飛び散った白濁はアユルスの体や顔までも汚し、主張するようにまとわり付いた。
荒い呼吸で茫然としていたアユルスがふと唇を薄く開き、舌を出して口元の粘液を舐め取る。そのさまが酷く扇情的であり、ジダルドは新たに湧き上がる欲を知った。
「やばいね、それ……」
ジダルドは独り言のように言葉を零し、粘液も気にせずアユルスへ覆い被さると嚥下に動いた喉へ唇を押し当て、跡を残さない程度に軽く吸い付く。
「んう、う……、ジル……」
「どうしよっか……」
粘液を指で掬い取り、両胸の先端へとなすり付けて弄ぶとアユルスが身をよじった。
「は、ああぁ……」
「もっと、しよっか?」
ぬめりに任せて指の動きを速めるとアユルスが喉を反らして喘ぐ。
「んはあぁ……ふぁ、もっと……」
「ふふ、そうだね……」
この無自覚な蠱惑の前に、最早無理でさえもしてしまいたかった。
後ろを向かせたアユルスを膝の上に乗せ、足を抱えて開かせた際にジダルドは姿見の存在を思い出す。多少向きを変えれば丁度二人が映り込む位置だった。
「ねえ、アル。あそこに鏡があるでしょ」
「う、ん……」
熱に揺らぐ赤い瞳が鏡の中の自身を捉える。それを確認してからジダルドは鏡を見ながら囁いた。
「よく見てて」
向きを変えて正面を映してから、ジダルドは再度硬くなった体をアユルスの窄みへと宛がう。その様子にアユルスは恥じらいと高揚感を煽られ、心無しか呼吸が更に荒くなったようだった。
やがてジダルドの体がゆっくりと埋まるさまを、アユルスはじっと見詰める。
「んん……う、ふぅう、あぁ……」
窄みが前よりも蠢動を繰り返し、アユルスの緊張と興奮をジダルドへ伝えた。奥深く突き込んだ体が疼く欲に膨張する。
「その侭、最後まで、見ててね」
言葉へアユルスが頷くのを確認してから、ジダルドはアユルスの体を揺さ振った。
「あっ、はぁっ、ああぁっ」
ジダルドが腰を引く度に肉が僅かに引き摺り出され、その光景にアユルスが更に悦んでいる事実がジダルドの欲望を擽り続ける。アユルスの足を片手で支えると、律動に揺れるだけだったアユルスの体を空いた片手で包み込み、無遠慮に扱いた。
「んぅああっジルっ、あんっあぁっ」
「残りは、自分で出来る?」
ジダルドの囁きにアユルスの両手が動き、自らの胸をまさぐる。
「はぁっあ、すご……っ、んぅうっ」
赤い瞳が激しい感覚を与えられている己を懸命に捉え、更なる情欲を灯すさまはジダルドへも強烈な高ぶりを呼んだ。内部は心地良く締め付けが次々に起こり、その健気さにジダルドから満足げな吐息が漏れる。
「はぁ……、アル、この侭、イかせてね……」
「んあぁ、いい、よ、はぁっ、いい……」
答えに腰と手の動きを速めると、アユルスが悦びの声を上げた。
「あっあっうっああぁっ、あぁああああっ……!」
腰を痙攣させ、ジダルドの手の中にあったアユルスの体が白濁を勢い良く撒き散らす。同時にジダルドも限界を迎え、蠢動するアユルスの内部へと欲の丈を注ぎ込んだ。
「あぁ、ああぁ……はぁあ……」
尾を引く感覚に浸りながら欲を受けるアユルスと鏡の中で目が合うと、その蕩けた表情が僅かに微笑む。愛らしささえ感じる笑みはジダルドただ一人が目にしたものであり、特別感は果てしない多幸感を呼んだ。
ジダルドが体を抜くと、窄みから水分と空気の音を立てて白濁が溢れ出てくる。
「いっぱい……」
鏡を見ての呟きも、アユルスが腹を撫でるさまも、全てがジダルドの欲を大いに揺さ振った。
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