自堕落のおさそい
■-2
温かな腕の中で頭を撫でられ落ち着いてきたのか、アユルスの嗚咽も収まってきていた。それを見計らいジダルドは少し身を離すとアユルスの頬に片手を添える。
「やっぱキスは駄目かなあ」
弄るように頬を撫で回しながら半ば冗談で、残りは本気で告げると、アユルスは手へ甘えるように首を傾げた。
「駄目、なのかな……」
アユルスの無自覚に、ジダルドは疑問の大声を寸でのところで呑み込む。
「解んないの?」
「そんな、するような人って、多分いないし……」
つまりナユルを異性としては今のところ見ていないらしい。其処も気になっていたが、今の答えにより浮上した新たな問題にジダルドは困り果てた。
「それならそれで、予定が無いんなら尚更駄目だと思うんだけど」
指でアユルスの髪を梳いて弄ると、擽ったいのかアユルスは伏し目がちになる。
「でも、後悔はしないと思う……」
身を一気に駆け上がるざわめきに、ジダルドは自覚無き蠱惑への敗北を心地良く認めた。動きへ気付かれるその前にアユルスのおとがいに指を添えて上げさせ、顔を寄せる。軽く吸うだけの口付けにアユルスの体が強張ったが、それも少しで終わった。一旦解放してやると多少熱の篭もったアユルスの吐息が唇に届く。
「どう?」
囁きにアユルスは目を逸らさず、やがて意を決したようにジダルドへ口付けた。行為へ驚きと喜びを感じる辺りに、ジダルドはアユルスへの期待を改めて自覚する。
舌先でアユルスの唇をつつき、僅かに開いたのを狙って舌を差し入れた。アユルスの体が大きく跳ねるが、背中を強く掴むだけで抵抗は無い。角度を付けて唇を開かせ、アユルスの舌を絡め取り吸い上げてみる。
「ん、んむっ……はふ、うぅんっ……」
次第にアユルスからも舌を伸ばし吸い付いてくるさまへ懸命さが窺えるが、まだそれだけらしい。夢中にさせてしまいたいとの欲望はジダルドの胸中に火を灯す。
口を離すとアユルスは肩を上下させて乱れた呼吸を繰り返し、垂れた唾液も拭えずにいた。半開きの口元には欲が宿り始めている。
アユルスの体を下方へなぞり、上着の裾へ手をかけて撫でるようにずり上げると、大して頑強でもない体が露わになった。魔法主体に戦っていた結果なのだろうが、やはり何処かか弱さを感じてしまう。
アユルスに両肩を持たせ、ジダルドは抱えるようにアユルスの両胸へ手をやり、先端を親指で押し潰して弄り始めるとアユルスがぎこちなく身をよじった。
「あっ、う……ううぅ……」
ジダルドの肩を持つ手に力が入る。
「声、我慢すると苦しいよ」
円を描くように刺激する手を徐々に速めると、指の下でそそり立ち硬くなる感触が伝わった。
「は、はぁっ、んぅあぁっ」
ジダルドはつと片手を外し、アユルスの腰を引き寄せると胸元へ口付け、其処にあった尖りを口に含む。
「ひゃっ……、あ、ああぁ……」
吸い上げながらざらついた舌で舐め上げると、アユルスが身を反らして震えた。其処でアユルスの下腹部へ手を滑り込ませると、案の定服の中で窮屈にしている体に触れる。触れられた事でアユルスの体がまた跳ねた。
「ジダルド、待っ、て……」
切れ切れに告げられジダルドが手を止めると、アユルスは自身の服に手をかける。
「汚れる、から……、ジダルドも……」
「ふふ、そうだねえ」
何処まで相手を誘えばアユルスは己の行為に気付くのか、出来る事ならば一生気付かないでほしいとも願ってしまうのは、アユルスの存在へ余程嵌まっているのだとジダルドは再確認するしかなかった。
脱いだ服を寝台の下へ無造作に放り投げながら、ジダルドは自身も同じ状態だったのだと気付く。強い高揚感は間違いではなかったらしい。
ジダルドはアユルスを丁寧に寝台へと倒すと、その仰いだ体を掴んで先端を指で弄る。既に透明な粘液が滲み始めており、それを伸ばすように全体へ広げると根元から擦り上げた。
「んうぅっ、はあっ……、はあぁっ」
徐々に動きと速さを増すと、アユルスは行き場の無い感覚に喉を反らし強くシーツを掴む。だが不意に手が離れ、苦しみにさえ襲われたアユルスは不安げにジダルドを見た。
「どう、して……」
「次は此処」
言ってジダルドは粘液に塗れた指で窄みに触れる。アユルスの乱れた呼吸の度に多少動いている其処を宥めるように撫でてから、指を一本差し入れた。
「あっ、うぅ……」
「ゆっくり息してごらん」
アユルスが震える息で深呼吸するのに合わせて奥まで入れ込み、内部で動かす。
「はぁ……はぁ……」
頃合いを計って指を増やし、また動かす事を繰り返す内にアユルスは感覚へ僅かながら慣れ始めていたが、その矢先に指を抜かれた。熱くなっている体を意識する間も無く腰を持ち上げられ、宛がわれたものに短く声を上げる。
「ひっ……」
「最初はきついから、それだけごめんね」
告げられて徐々に圧迫感に襲われ、アユルスは詰まりそうな呼吸を辛うじて繰り返した。
「うあ……っは、はぁ、はぁっう、ふうぅ……」
此処で性急にしてはアユルスを傷付けてしまうだけだ。ジダルドは感覚に耐えながらゆっくりと腰を寄せる。それすら高揚感を擽るのは、相手がアユルスだからなのかもしれない。やがて触れ合った体にアユルスが一段と深く息を吐いた。吐息が僅かに落ち着きを取り戻したところで、ジダルドはアユルスへ囁きを投げかける。
「動くよ」
不安と熱の中でアユルスが小さく頷き、ジダルドは僅かに腰を引いた。
「ひぃっ!」
恐怖の滲む悲鳴が上がり、アユルスの足が動揺に強張る。動きはまだ緩くに留め、奥を軽く擦る程度でいるが、それだけでもかなり負担がかかっているだろう。
「はっ、はっあ……あ、あっ……」
か細く上がる声の中にあった揺れるものをジダルドは聞き逃さず、断続的に奥部を押し上げた。汗ばんだアユルスの腰が跳ねる。
「ふあ、んっう、うぅあっ、あぁっ」
恐怖が消え、代わりに明らかな熱が篭もり始めた声にジダルドは安堵さえした。もしアユルスが逃げるような事があれば素直に逃がす心づもりでいたが、その必要が無かった事に対してもなのだろう。
やがて大きく動いて突くと、一段とアユルスから声が上がった。
「ひあっ!」
アユルスの体が痙攣し、感覚の強さを物語る。ジダルドは己の望む侭にアユルスを責め立てた。
「あっ、やあ、はふっ、ああぁっ」
突きながらジダルドは片手を伸ばし、アユルスの胸元を撫でてから其処にある尖りを指で弄る。
「うああっ、はぁあ、だっ……め……」
「此処好き?」
「あ、うぅ、んんっ……んはぁあ……」
僅かだが確かに頷かれ、ジダルドの身の奥に更なる疼きを呼んだ。
「……そんなの、堪んないよね」
ジダルドは呟くとアユルスの体を起こし、膝の上に乗せる。そうして引き寄せたアユルスの胸に吸い付きながらまた突き上げた。
「あんぅっ、はぁっ、はああ、ジダルドぉ……」
縋り付いてくるアユルスの声に心地良く心を揺さぶられ、ジダルドは多少我儘をぶつけたい欲に駆られる。
「ね、アル、二つ、お願いしていい?」
「ふあ、なっ、に……?」
動きを僅かに緩め、ジダルドは続けた。
「一つはね、中から追い出そうとしてみて」
「え、と……、こう……っ?」
内部で力が加わり、締め付けがジダルドへ強い感覚を寄越す。
「ん……、いいよ、すんごくいい」
「ジダルド、もっ、気持ち、いい……?」
その点を不安に思う辺りにまたアユルスの性格を感じ、ジダルドは心身の心地良さを隠さずに微笑んだ。
「うん。とってもね」
「ん……、良かった……」
熱の中に喜びを揺らすアユルスの表情がジダルドへ更なる欲望を呼び、それを抑えずとも良い事実に胸中で歓喜する。
「もう一つはね、俺は大切なヒトから、ジルって呼ばれてたんだ。だからアルにも、今だけでも、そう呼んでほしいなって」
アユルスは荒い呼吸で迷いがちにしていたが、やがて唇を動かした。
「は……う、ん……、ジル……」
途方も無い喜びに押し流されそうになりながら、ジダルドは軽く笑う。
「ふふ、ありがと」
言ってアユルスの胸へ口付けを落とし、また吸い付いて弄んだ。動きも再び激しくなり、アユルスの腰が合わせて動く。
「あぁあっ、はあ、あんんっ、ジルっ、んはあぁっ」
アユルスの縋り付くに任せ、ジダルドは放っておかれた片胸を指で弄り回し、余った手は仰ぐ体に添えて扱いた。滲む粘液が僅かな水音を立てる。
「やっあ、ジルぅ、はあぁ、も……、もっと……」
激しい感覚に押し出された求めの言葉へ、ジダルドは寧ろ甘えているのは自身なのだと知った。どう足掻いても勝てないとはこのような状態を言うのだろう。
更に強く突き上げてやるとアユルスが堪らないのか天を仰いだ。
「あはぁっジルぅっ、もうだめ、んああぁっ」
「いいよ、イっちゃいなよ」
手の動きも速めてやるとアユルスが悲鳴のように歓喜の声を上げる。
「ひいっあぁあっ、あっあぁっジルぅっ、んああぁあっ……!」
息を詰まらせてアユルスが仰け反り、突き上げられると共に手の中の体が耐えていた欲を撒き散らした。痙攣を繰り返す体は内部も蠢動する。
「ん、うっ、は、はぁあ……」
やがて脱力したアユルスを圧迫感から解放し、体を抱き留めて頭を撫でてやるとアユルスから呼ばれた。
「ジル……まだ……」
張り詰めているだけの体を思っての事だ。気にしないようジダルドが言葉を言いかけたところで続きがあった。
「だから……」
アユルスがジダルドの体を押し、ジダルドはされるが侭に倒れてみる。アユルスが目の前にした屹立する体へ向ける潤んだ瞳が、かつて無い程に扇情的に映った。
「きつくない?」
「うん……」
応えながらアユルスは膝で立つと、体に手を添えて窄みへ宛がう。そうして少しずつ腰を落とし、内部へと招き入れた。
「ん、ふうぅ……」
アユルスへ埋まっていくさまがジダルドへ酷く疼きを呼ぶが、決して腰は動かさない。やがて全てが収まるとアユルスは肩で息をする。
「はぁ、はぁ……」
赤い瞳が不安定ながらジダルドを見詰め、生々しい血のようだと思った頃にアユルスが腰を使い出した。
「ふあ……あっ、はぁっ、あんん……」
覚えたのは先程だというのに、的確に締め付けてくるさまにジダルドはアユルスへ恐ろしささえ覚える。
「あ、あっ……ふあ、ん……」
「無理しちゃ、駄目だよ?」
アユルスへ告げてから、自身の声が揺らいでいると気付いた。
「ジル、も……、出して、いいん、だよ……」
相変わらずの誘いにジダルドは思わず尋ねる。
「……中に?」
あまりに愚かな問いだとは自覚があったが、アユルスは気にしていなかった。
「出し、て……」
ジダルドに衝撃が走る。この無自覚な蠱惑に喰われても構わないと思いさえした。
「あー、あーもうっ」
ジダルドはアユルスの腕を引き、倒れ込んだアユルスの尻を鷲掴むと一気に突き上げる。
「あぁっ!」
「そんなんがっつきたくなっちゃうじゃんっ」
「あんっあっ、ふか、いっ、はあっきもちい……っ!」
激しい律動の中でアユルスの表情が蕩け、それを満足そうに見遣るジダルドはアユルスに魅了されて心身を満たされている自身を知った。
「アル、おいで」
告げて突き出された舌へ、アユルスがしゃぶり付く。
「んふ、んんっ、んぅうっ」
口内はやはり熱くぬめり、舌を擦り合わせるとアユルスが応えるように吸い付いてきた。暫くは絡まり合っていたが、息が苦しくなったのかアユルスが口を離す。
「ぷあ、はっ、あうぅっあんぅっ、ジルぅもっとっ、ジルぅっ」
腹にまた硬くなったアユルスの体がこすり付けられているが、恐らく無意識なのだろう。
「出すよ、いい?」
「あっあ、んんぅっ、いいよ、いい、からぁ……!」
甘い誘いに溺れ、ジダルドは目を細めた。最後に一際強く突き上げた其処に欲の全てを放つ。
「ああ、あっ……!」
アユルスもまた白濁を存分に散らし、痙攣する体をジダルドへ預けた。互いに収まった頃に内部から出ていったものへアユルスが小さく喘ぎ、広がった跡からは音を立てて粘液が溢れ出てくる。
「アル、大丈夫?」
尋ねてみると熱い吐息混じりの答えがあった。
「大丈夫じゃ、ない、かも……」
「え、どっか痛い?」
するとアユルスは小さくかぶりを振る。
「そうじゃ、なくて……、やめられなくて、ちょっと怖かった……」
答えにジダルドは思わず呻いた。
「うー、ううーんっ」
アユルスの体を掻き抱いても抵抗は無い。
「ほんともうどうしてこんな可愛いかなーっ、俺おかしくなりそう」
するとアユルスが小さな声で告げる。
「おかしくなっても、酷い事しないだろ……」
「もー、またそういう事言うんだからっ」
拗ねるようなジダルドの言葉にアユルスが楽しげに笑った。その笑顔は今はジダルドだけのものだ。
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