自堕落のおさそい
■-3
予定時刻に設定していた目覚まし時計が鳴り、ジダルドは時計のボタンを軽く叩いて止める。傍らにはアユルスがまだ眠っており、この侭眠らせてやりたい心を抑えてその肩を軽く揺すった。
「アル、朝だよ」
「う、ん……」
薄く目を開けたアユルスの眼差しは何処か熱を帯びており、ジダルドは念の為尋ねてみる。
「大丈夫?」
「なんかちょっと……ふわふわして、じんじんする……」
やはり昨夜の感覚が尾を引いており、ジダルドは慰めるようにアユルスの頭を撫でた。
「あー。ごめんね、それ結構続くと思う」
「そうなんだ……、多分大丈夫だけど……」
アユルスはまた眠りへ落ちそうになるが、やがて徐に身を起こす。その体に口付けの跡を付けなかったのは多少仕損じたかとジダルドは密かに後悔し、次の機会に試みようと画策した。
宿の支払いを済ませ、一階へテレポートする。転移先はあの小さな白い花が咲いている場所だった。やはり通行人が驚き、ジダルドの種族に納得して去っていく。場が落ち着いたところでジダルドはアユルスへ告げた。
「ありがとね。俺のほうが楽しんじゃった」
言葉にアユルスは昨夜を思い出したのか、僅かに俯く。
「うん……、俺も楽しかったよ。有り難うジダルド」
「あ、戻っちゃった」
普段通りの呼称に残念がるジダルドへ、アユルスの頬が徐々に赤くなった。
「また、また呼ぶよ……」
半ば以上次を約束された事実に、ジダルドは出かけた驚きの声を苦心して呑み込む。
「ふふ、楽しみにしてるよ。じゃあ、またね!」
「うん、またな」
ジダルドが手を振り、アユルスが手を振り返したところでジダルドの姿は掻き消えた。
ジダルドは主に各階のアドベンチャーズギルドで戦闘関連の依頼を受けており、仕事は常に危険と隣り合わせなのだろう。それを思うと不安になるが、ジダルドの強さを知っているのもまたアユルス自身だ。その強さに助けられた事も数えきれない。
アユルスは職場への道を歩き出す。今日は特に上手くいきそうだった。
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