No.12

DB

初めてのキス、最期のキス(永遠の恋人へ十の言葉)
 見開いた瞳の奥、空色の青の中に海色の青が見える。
 見詰め合って、と言えば聞こえはいいがこれでは自分が隙をついて襲い掛かったみたいだ。色気もへったくれもあったもんじゃない。
 もういいかな。そろそろいいかな。タイミングを見計らっていたというのに、これだ。
 恐る恐る唇を離すと、ずっと同じ体勢で固まっていた少年はぱちぱちと瞬きをして。
 
「悟飯さん大好き……っ!」
 
 悟飯の首っ玉に齧りついた。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 まさかあれが最後なんて。
 悟飯は睫毛に落ちる雨を瞬きで頬へ避けながら思った。思いだした。
 走馬灯だろうか。縁起でもないな、と言いたいけれどどうも実際縁起でもない状態らしい。すでに指が動かない。
 雨は冷たいはずなのだけど、それすらもう感じない。人造人間たちはもうどこかへ行ってしまった。とどめを刺す程でもないということらしい。
 屈辱を感じるよりも、絶望と、これでもう闘わなくていいのだという安堵感。そして置いて逝ってしまう子供への罪悪感。自分が重い重いと感じていたもの。すべて。
 手に入れた安堵はぜんぶをあのこにあのやさしいこにおしつけるとしっていてでもどうしようもなくちからがぬけていった。ごめんごめんとくちびるがなんかいもつぶやくかたちをしたけれどそれがつたわることもおとになっていないこともわからないまま。ただくちびるのすきまからはいってくるみずがつめたくて。
 だいすきなこいびとがここにいてくれたらいいのにとおもいながら。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 冷たい唇は微かに血の味がした。雨は悟飯の中の血までは洗い流せなかった。というのに。
 この人の身体にはまだぎっしり赤い命が詰まっていて、暖めればこの雨で凍えた体をもう一度暖めさえすればまた。また。思うのに。
 暖かいと思っていた悟飯の体が自分の体温が移っているだけだということなど知っている。理解したくないだけで。理解してしまえばそれは悟飯とのさよならだ。
 嫌だ。
 トランクスは髪を揺らした。誰がさよならなどするものか。水が跳ねる。強く握り締めたせいで滲んだ手のひらの血は悟飯の胴着に染み込んでいた。さっき触れた拍子に。胸の辺りに滲んだそれがまるで悟飯から溢れ出ているようでトランクスは慌てて上着を脱がそうとした。しかし雨で濡れた服は張り付いて脱がせることができない。
 橙が泥で灰色になった頃、漸くトランクスは諦めた。
 悟飯を抱えてよろめきながら空を歩く。
 重いですよ悟飯さん。太ったんですか。メタボですか。若い身空で。ぶつくさ呟きながら泣いた。雨雲はもうどこかに行ってしまっていた。
 二人でよく来た場所に降りると小さな穴を掘った。右手で一発どかんだ。その穴に悟飯のお尻を入れる。足が入らなかったので曲げた。体操座りみたいだ。
 窮屈でごめんね。言ってちょっと手で掘り広げた。
 ぎゅ。抱き締める。固い。
 トランクスはそれが死んだ人間が固まる現象だとは知らなかった。ただその固さと冷たさが無機物めいていて悲しくなった。
 ふにっとしていて暖かくてとろんとしちゃうようなキスはもうもらえないということだ。
 泣きそうになって、そういえばと思い出した。
 人造人間がまだ生きているということに。
 悟飯の命を奪っておいて、トランクスから悟飯を奪っておいて、あれらはのうのうと生きているのだ。
 許されることじゃない。はずだ。罪は償わなければならない。自らそうしないのならば、トランクスが断罪者となるだけだ。
 審判の門で土下座させてやろう。あいつらが悟飯さんと同じ場所になんて行けるはずないから。
 だからそれまでちょっとの間、我慢しててくださいね。
 トランクスの腰より低い場所にある悟飯の頬。腰を屈めて首を伸ばして。優しく甘く。黄泉がえりさえ起きそうなキスをした。

#DB #飯トラ

back