極道用語の基礎知識

 あ行

垢 【あか】
  博奕による収入のこと。博奕に限らず博徒の収入を指すこともある。
「村岡がなんなら。おどれ一人羽ぶりようしよって。博打の垢ならわしのほうが古いんじゃいうてよう云うとけ」 時森勘市
足を洗う 【あしをあらう】
 掟で縛られた社会から抜け、他の社会へと転じること。必ずしも堅気になることを意味せず、問題を起こしたやくざが博徒の足を洗ってテキヤになったり、テキヤの足を洗って博徒になるケースも多かった。
遊人 【あしばー】
 沖縄におけるやくざのこと。沖縄には戦後になるまでやくざは存在しなかったため、本来は遊び人・不良・無職のフータローといった程度であるこの言葉を当て嵌めた。
姐さん 【あねさん】
 親分や目上の女房のこと。姐御、おアネエサン。 親分が渡世上の親ならば、姐さんはいわば母親であるが、母親よりも格の低い姉と呼ばれることが女に権力を持たせないやくざ社会を象徴している。やくざは女性を大切に扱いはしても男と対等の存在であると見てはいないので、『極道の妻たち』シリーズの岩下志麻やかたせ梨乃のような姐さんは存在しない。
 夫である組長が死亡した後、妻である姐さんが女組長となったり(松田組・松田芳子)、時代の組長が決まるまで姐として権力を振るった例(小原組・小原光子、山口組・田岡フミ子)もあるがこれらは例外中の例外のケースといえる。
「あいつ、明石さんの直盃の舎弟にして貰えんかちゅうて、人を介して姐さんに頼み込んでるそうなんや」相原重雄
アンコ 【あんこ】
 刑務所内の男色関係における女役。深海魚のアンコウ(鮟鱇)は悪食で知られ、口に入るものならなんでも飲み込んでしまう。そのアンコウのように男性器をくわえ込むのでアンコと呼ばれる。“アンコ椿”のようにあねこ(娘)が音便変化して「あんこ」になったという説もある。
アヤ 【あや】
 因縁をつけたり文句をいうこと。「アヤをつける」のように用いる。
安全装置 【あんぜんそうち】
 銃器の暴発防止装置。セーフティ。解除しない限り弾丸は発射されない。
「おう、なにしとるんな、そんとらもん持ってから。安全装置が外れとらんど」 広能昌三

 い行

いなげな
 変な、おかしな。
「鳥めの外道が突つきおって、いなげな格好になっとるわい」 神原精一
いびせい
 怖い、恐ろしいという意味。いびせー。
「明石組がいびせいけん、シッポ振っとるんじゃ」 松永弘
一本独鈷 【いっぽんどっこ】
 大組織に所属せず独立を維持している組織のこと。単に「一本」とも言う。
 仏具の独鈷に由来する用語であり、博多織の一本独鈷と語源は同じである。
イモを引く 【いもをひく】
 怖気づくこと。恐れて物事から手を引くこと。薩摩芋を収穫するために蔓を引っ張っていると、当然のことながら体が後退することに由来する。「芋引く」のように用いることもあり、臆病者のことを「芋引き」という。
「指揮官が行かんのなら、イモじゃ、イモじゃ」 広能昌三
「天政会の外道らが攻めてきたら、イモ引くこたぁねえんぞ。やれぃ、やりあげちゃれぃ」 市岡輝吉

 う行

牛の糞にも段々がある 【うしのくそにもだんだんがある】
 すべての物事には序列が存在することのたとえ。牛の糞にも段がある。
「牛の糞にも段々があるんで。おどれとわしが五寸かい」 大友勝利
唄う 【うたう】
 自白すること。謳う、歌う、などとも書く。
「神原が全部うとうてしもうた」 若杉寛

 え行

ええとこ付き 【ええとこづき】
 八方美人。作中では親分を乗り換えること。
「早川も早川よ。わが親分が詰まらんけんいうてよ、今度はあっちの親分にいうてええとこづきするようなもんは、わしゃ好かんわい」 松永弘
絵 【え】
 計略や策略、作戦や計画のこと。「絵を画く」のように使う。陰謀を企むことを絵を書くことに例えている。
絵図を画く 【えずをかく】
 計画や策略を企むこと。 「絵」と同義。
MP 【えむぴー】
 アメリカ軍憲兵隊。military police。戦後、進駐軍には日本の警察権が及ばないため、進駐軍兵士の犯罪を日本の警察官は傍観しMPが来るのを待つのが日常だった。米軍絡みの犯罪の捜査権もあるため、日本人が扱う盗難物資などを摘発することもある。また警察の手におえない凶悪犯や、やくざの組事務所の手入れ、暴動事件などの際には要請を受けて出動することもあった。
「MPじゃ、逃げぇ」 坂井哲也

 お行

大物をたれる 【おおものをたれる】
 大口を叩くこと。
侠気 【おとこぎ】
 義侠心、正義感といった任侠の精神のこと。
おとしまえ
 失敗の後始末のこと。
「位を云うんなら、死んだ杉原さんのオトシマエをきっちりつけとくことが、極道の位いうもんでしょうが」広能昌三
おどれ
 お前の意。
小父御 【おじご】
 親分の兄弟分のこと。現代では「おじさん」と言うことが多い。
小父貴 【おじき】
 小父御よりもやや格上の人間に用いる。
おちょくる
 からかうこと。
オメコ
 女性器のこと。西日本で広く使われている方言。
「いうならぁ、あれらはオメコの汁で飯食うとるんど」 大友勝利
オメコ芸者 【おめこげいしゃ】
 水商売の女性への蔑称。
「オメコ芸者、われはだまっとれ」 江田省一
親父 【おやじ】
 親分のこと。
親分 【おやぶん】
 やくざ組織の代表者。その肩書きは組長、会長、総長、総裁など様々なものがある。日本のやくざ社会は代表者が親となり、その下に弟分 【舎弟】と子分 【若衆】が従属する擬制的血縁関係を結ぶ。
 元々は血縁関係のない武士が擬制的血縁関係を結ぶ“寄親・寄子制”に由来する。