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『女怪盗』

9_180氏

レオナルトはユーリを連れ、しばらく冬でも温暖なエダナムに行くことにした。
此処なら、前にいたコルスリフィルと同じ言葉の圏内だし、何より海に近いので港から新鮮な魚
介類や他国からの珍しい食べ物や品物も手に入りやすい。
潮風が山岳育ちのユーリの身体に合うか懸念はしたが、付いたとき、乗り物酔いでぐったりとし
ていたユーリに、塩の香りとともに身体を撫でる風が酔い冷ましに丁度良かったらしい。
しばらくすると元気になり、自分の荷物を両手に持ち物珍しげに屋台の売り物を見て回る。
一方のレオナルトも、上機嫌な様子を珍しく表情に出していた。
─────あの葉巻入れ
破格の値段で売れたのだ。
思いがけない値で売れたのは喜ばしいこと以上に
裏の仕事を減らした自分の目利きが老とろいていないことが何より嬉しい。
「とにかく宿を取ろう。」
診療所になる家を借り、道具をそろえるのにも時間がかかる。
その間の滞在先を決めないといけない。
安くて清潔で、できれば────風呂付きの宿があれば文句はないが、安い宿はやはりそれなり
で高い宿は清潔で手入れは行き届いているが、しばらく滞在するには金がかかりすぎる。
トランクに腰掛け、ぼんやりと空を見ているユーリを見、
此処まで来る間馬車のひどい揺れに、真っ青になりながら乗り物酔いに耐えた彼女を思うと
一、二泊はふかふかの寝台で手足を伸ばして寝かしてあげたい・・・。
彼女のせいでこういう事になったのだが、こんなに人が良かったかと自分に思わず笑ってしまう。
まあ、こちらとて、ユーリの『お願い』で奔走し此処しばらく寝不足だ。
大金も手に入れたし────



「すごーい部屋だね、あにさん良いの?」
「一、二泊くらい泊まったって金は無くならないよ。」
遊郭で来る貴族用にあつらえてある内装は、楽しめるように異国風になっていた
「これ、どの辺の国を基調としているのかしら?」
床に沢山のクッションに低いソファ
風呂場をのぞくと、床を掘り下げたような造り。
「砂漠の都辺りかもな・・・。」
中途半端は否め無いが、聞きかじりの貴族達には充分通用するのだろう。
栓を抜くと、お湯が湯気をたち湯船に流れ浅いのか、瞬く間に一杯になる。
「あにさん、身体流して良いん?」
「そのつもりで栓抜いたのだろう?」
ぺろっと舌を出すユーリの額をレオナルトは軽くゴツく。
ユーリはいそいそと入浴の準備をし、湯所の天幕を閉めた。

「・・・・?」
レオナルトは荷物を出す手を止め、天幕を見る。
楽しげに服を脱ぐユーリの姿が天幕に映し出されていた。

(丸見えじゃないか)
それに気付かないユーリもやはり抜けている。

「・・・・。」
幼い身体の線が映し出される。
そう言えば、こうやって全裸を離れてみるのは初めてだ。
幼い幼いと思っていたが
─────やはり幼い体つきだ────
しかし、一年前に比べたら腰の辺りなどはやはり肉が付いてきたな。
その辺はなかなか良い。


尻も小ぶりながら上向きでつんとして張りがある。
それは本人も気付いて、ゆったりとしたシャツを着ているし…。
レオナルトは何か思いついたようにニヤリと笑うと、自分もシャツを脱いで天幕を勢い良くあけ
た。

「ひゃあ!?」
驚いたのは、既に湯船に使って身体を流していたユーリだ。
思わず無い胸を隠す。
「あっ、あっ、あにさん?」
顔を真っ赤にしてどもるユーリにレオナルトは
「お背中お流ししましょうか?」
うやうやしく頭を下げる。
「えっ?えっ?」
いつもと違うレオナルトにますます訳が分からず、戸惑うユーリ。
この一年共に生活していたが、実は風呂は別々に入っていた。
風呂というのは無く、簡易シャワーみたいな物は付いていたが、一人がようやくは入れる大きさ
だったので、順番に身体を流していたのだ。共同浴場な物は街中に行けばあるのだが、人里離れ
た場所に診療所を構えていたし、男に扮しているユーリに共同風呂は無理だった。
なので、こういう場面は今まで残念なことに無かった。

「上流のお嬢様方は皆、小姓やメイドに身体を流して貰っていますよ。」
そう言いながらユーリが持っていた洗い布をひったくると、ユーリの背中を洗い始める。
「────ひゃ!良い! 良いです!一人でやれます!」
レオナルトの態度にユーリも思わず丁寧な言葉を使ってしまう。

ユーリには寝耳に水だ。
年頃の娘が異性と一緒に風呂に入るなど自国の習慣にはないし、結婚してもそんなことはしない。



「まあ、そう言わずに─────おっと失礼!」
手が滑った振りしてわざとらしく胸を触る。
「一人でやるってば────!!」
こんな事態になるとは思っていなかったユーリは、洗い布を取り返そうと必死に引っ張る。
「なにを今更恥ずかしがっているのですか?
お互い隅々まで知った仲ではないですか。」
面白がって小姓の真似を続けるレオナルトだが、どうにも、手つきがいやらしい。
洗い布なんかあっても無いと同じ。
石鹸は手に付け、ユーリのようやく膨らできた胸を持ち上げるようになする。
「あっ・・・あっ・・・やっ。」
湯で温まった事に付け加え、手での刺激に身を捩るユーリの身体から甘い香りが強く放出されだ
した。
─────この香りに弱いレオナルトも、洗い布を放り出し身悶えするユーリを後ろから抱きし
め、首から背中にかけて大量の口付けの後を付けながら、指で乳首を撫で回す。
「あっ・・・ああ・・・ん・・あ・・・にさ・・ん。
もう・・・。」
「────もう?」
むさぼるような、手つきと口付けの嵐に息を荒くしながら、快感を逃すようにレオナルトの手を
握りしめる。
「身体・・・流せないよ・・。き、綺麗に・・・してから・・じゃ。」
「だから、するついでに綺麗にしましょうか?────と。」
香りに酔っても冷静に話すレオナルトに、ユーリはずるいと、息絶え絶えに伝えた。

「何がずるい?」
「私ばかり・・・こんな風にして─────あっ!」
前触れ無く、レオナルトの腕が自分の股間に入り、太く長い指の感触に思わず身体が反りあがる。
「私にもこんな風にしてくれるのかな?─────できるの?
私に触れられるだけでこんなになるのに。」


はあはあと荒い呼吸をしながら首を振るユーリ。
「教えてくれたら・・・・できるもの・・。」
「────ほぉ・・・・ではして貰おうか?」
レオナルトはユーリの身体から手を離すと、ズボンのボタンに手をかけ脱ぐ。
誇張した男の物が目の前に現れ、ユーリは思わず目をそらす。
レオナルトはユーリの前で腰掛けると、彼女に石鹸を持たせこうやって洗うんだ、と教えた。
恥ずかしさで頬と瞳を真っ赤にさせながら、
教わったとおりに泡立てた石鹸をレンナルトのその物にそろそろとなする。

「もう少し強めに。」
言う通りにすると自分の手の中で固くなっていくのが分かった。
「────生き物みたい・・・。」
恥ずかしさを忘れ、ぱちぱちと長い睫をと黒い瞳を瞬き、ジッと反り上がったその物を、感心したように見つめ、呟くユーリを見て、羞恥心が出たのか
に呟くユーリを見て、羞恥心が出たのか
「生き物です。」
と、行き場のない自分の両手で彼女の髪を撫でる。

丁寧に黒みがかった金色の恥毛も洗い、湯で流す。
「・・・ユーリ・・・。」
白百合のようなユーリの手が包むように自分の物に触れ、擦る。
それだけで、今回は良い────と、思っていたが、すぐ、ちょっと前に突き出せばユーリの唇
に触れる・・・・。
レオナルトは彼女の両の頬を優しく掴むと
「・・・・口に含んでごらん・・・。」
口を開けさせ、迫る。

「─────!?」
ユーリはいや、と、後ろに下がり、はっとした顔になり
「ごめんなさい・・・・。」
と、申し訳なさそうに謝った。


切り替えの早いレオナルトは、それじゃあと湯船にジャブジャブ入り、ユーリを持ち上げ湯船の
縁に座らせ、足を大きく開かせる。
「交替・・・・。」
と、一言、言うとユーリの股に顔を埋めた。
躊躇無くあっと言う間のレオナルトの行動に、ユーリはとっさに腰を引いたがすぐに元の位置に戻さ
れた。
これは・・・・

────あの時、自国にいた頃主人にされた行為─────

ユーリの心の傷となっている行為・・・・
「やっ、やめて・・・・あにさん!
それは嫌!─────嫌なの!!」
ざらついた舌の感触を思い出す。
身震いする恐怖感。

「知ればもっと欲しがるようになる・・・・。」
しかし、いつも嫌がれば止めてくれるレオナルトが、今回は聞かなかった。

舌先とたまに全体を使い、余すことなく、ユーリの黒い茂みの中に隠れた秘所を舐める。
「────はっ・・・・あ!
あにさ・・・・ああん!」
強い刺激に座っていられなく、横になって仰け反る。
レオナルトの舌先は怯えるように隠れていた小さい突起を見つけた。
隠していた薄皮を指の腹でめくり
それを舌先ではもちろん
唇も使い、吸い上げたり、甘噛みする。
「いやあ!・・・・ いや!・・・んん。」
もはや、ユーリの『嫌』は嫌悪や過去の記憶の痛みによる物ではなかった。


レオナルトが自分の股間に顔を埋めている羞恥
ひどく恐ろしかったこの行為

─────今は止めてほしくない────

その部分から這い上がってくる熱い痺れが、寄せては引き────を繰り返す。

そのたび痙攣する股を撫で、レオナルトは落ち着かせる。
滴る液体は、身体から零れる湯でも無く、捩って流れる汗では無い。
舐めると、ねっとりと舌に纏わり、女の匂いと、ユーリの甘い香りが混じり────これが、
ユーリの国の長寿の秘薬と言われた物なのか?と、否定しながらも、止められず、貪る。

何、か大きな快感が迫ってきそう・・・
小刻みに、来ていた快感─────例えば、寄せては引いていた波が砂浜に残していく貝殻のよ
うに小さな痕跡を残すように、少しずつ余韻を残してそれが溜まっている────

今、今・・・・そう、今・・・
「あにさん…きて!私の中にきてえ!!」
震え泣きながら懇願するユーリを抱き起こすと、
限界まで我慢していたレオナルトの誇張していた物に一気にあてがう。

─────頭の中が真っ白になった


分かるのはレンナルトと繋がった、腰の中の鋭い快感
その感覚が強すぎて、彼がどう自分の他の部分を愛撫していようが
綿でくるまれた身体に口付けされてるようで何も感じない程・・・・
何か叫んだかも知れない。
レオナルトが何か言っているような気がしたが、それもよく聞き取れない。
快楽というなの夢の中にいるようで
─────ただ、その気持ちよさにユーリは浸っていた・・・・



チクッ─────
お腹痛い・・・・
刺すような痛みにユーリは目が覚めた。
お腹の中心をさする。
痛みは一瞬ですぐ治まったが、下半身に違和感を感じだす。
「あにさん・・・・。」
呼んだが、隣で寝ているはずのレオナルトはいなかった。

ユーリは驚いて寝台から飛び起き、部屋中を探し回る。
寝台の横の窓を開け、外も覗いてみる。・・・・が、外は闇で遠く海の音が聞こえ、時々、灯台
の薄い灯りがかろうじてこちらまで届くだけ。

ふと、サイドテーブルに果物が入った籠を見つけ、その中に手紙が入っているのに気付いた。
開けてみる─────レオナルトの字だ。
『情報収集に行ってくる。
食事の時に話したが、聞いているかどうか定かではない様子だったので、手紙を置いておく。
お腹空いたらこれでも食べてなさい。
支配人が注意していたように、くれぐれも窓を開けっ放しにしないこと。』


・・・・・?
ぼんやりと思い出す。
あの風呂の情事の後部屋で食事を取ったけど、旅の疲れと重なってあまり食が進まなく
それはあにさんも同じで、すぐに二人寝台の布団に潜り込んで熟睡したんだ。
そう言えば、食事が来た際に支配人が話してた。

『エダナムには男性のみを襲う女怪盗がいまして・・・・寝る際には窓の戸締まりをするよう、
くれぐれもお気をつけください』

情事の余韻で夢心地だった───はた、と、思いだし慌てて窓を閉めようと踵を返したとき

内股を何かが伝う。

「・・・・?」
恐る恐る覗くと
伝っているのは血─────
「─────!?」
あまりの驚きに声が出ず、それでも震える手で、下着を脱いで見て愕然とした。下着は血痕で赤
く染まっている。

(ど、どうしよう・・・!)

何かの病気?
それとも、怪我?
いや、一番の可能性は─────
今日の情事・・・・

あにさんがあんな事するからだわ!
だから嫌と言ったのに!!


しかし、怒りたい相手はこの場にいないし
看てくれるのも、レオナルトだ
どうすることもできず、ヘナヘナとその場に座り込み、しくしくと泣き出してしまった。

────気が動転して、すっかり窓の戸締まりを忘れてしまっていた─────

音もなく優美な曲線を持つ女が入ってきたことなど
今のユーリに分かるはずもなかった・・・・。



この部屋に泊まっているのは金を持っていそうな医師とその助手
そう、情報屋から聞いている。

医師は大抵男だし、女を助手として使う医師はまだまだ少なかった。
一応情報屋に確認を取ったが
『可愛い顔立ちはしてましたがね、ありゃ〜男ですな』
身体のどの部分で確認を取ったのか分かる動作を情報屋はして、カラカラと笑った。

なら問題はない
今、医師は外出しているのは知っている。
マスクを付け音もなく忍び寄る────助手と思われる少年に

「・・・?」
少年はぺたんと床に座り込んでしくしくと泣いていた。
男のくせに一人が怖いのか?
呆れたが、情報屋の言う通り可愛い子で好みなら、ちょっと遊んでやろうか、と、少年の肩に手
を添える。


一瞬びくん!と、少年の肩が上がり
「・・・あにさん・・・?」
と、ゆっくり振り向いた。
薄闇でもこの子の妖艶さは分かった…。
涙で濡れる瞳を隠すように目尻に向かって長くなる睫が、
息を飲み、引き込まれるほどの視線を作り
程良い厚みの唇は、紅をさす必要がない位、艶やかな赤みを出していた。

─────そして何より
この甘い香り・・・・花ではなく何かの果実を連想させる
香水かと思ったがどうやらこの子の体臭らしい
例えれば、酒に漬けた果実を食した時に、鼻を通り抜ける芳香に近いが
もっと、熟成極まり、洗練された甘い匂い・・・・。
一瞬くらりとしたが、慌てて正気を保つ。

少年は望んでいた医師ではなく、見たことのない女に心底驚いたらしく、身を固くした。
「ご希望に添えなくてすまなかったね──あにさんとはあんたの先生のことかい?」
「・・・・貴女、誰?」
先ほどまで『あにさん』を求めてしくしく泣いていたとは思えないような鋭い視線で自分を見る
少年を押し倒す。
「─────!?」
「何、痛いことはしないよ。
少しばかり『寄付』して頂きたいのさ・・・・お礼に『女』を教えてあげるよ?」
そう、少年の股に手を当てた時、ぬるっとした手触りにぎょっとし、まじまじと少年の股間を見
る。
「・・・・あんた・・・。」
唖然と自分を見つめる女にユーリはとうとう貯まらず
「うっ・・・・。」
と声を出し、ぶるっと震えると声を出して泣き出した。


「心配することはないよ、これであんたも大人の女に仲間入りさ。」
ヒャックリを止めようとハンカチ口に押さえているユーリに諭すように話す。
泣きじゃくるユーリにこれは生理だと言うことを伝え、
診察鞄や持ち物をひっくり返し、脱脂綿を見つけると処置の仕方を教えた。
「────まあ、実際に初潮が来るまで教えない大人が多いからね、性の方は早くから教えるの
にさ・・・・ねぇ?」
意味深な言い方に、ユーリはさっと顔を赤らめる。

助手というより愛人
しかも、髪を短くし、わざわざ男の格好をさせとくなんて
何か訳ありな事は簡単に推測できた。

おそらく、この体臭・・・に関わることだ。
女の私でも惹きつけられ、酔わせる香り────男ならどうなるか予想は付く。
「面白いな・・・・。」
一攫千金の予感に背筋がビリッとした。ここは取り合えず恩を売っとこう。

「・・・・気が変わった。」
「?」
「金目の物でも頂戴しようかと思って忍び込んだけど、初潮騒ぎで気がそれたよ。」
「ありがとうございます・・・・。」
ようやくシャックリが治まりユーリはぺこりと頭を下げた。
(未遂だが盗みに来てお礼を言われるのは初めてだよ)

女は肩をすくめクスリと笑うと、お祝い、とクチナシの花を一輪ユーリに渡す。
ユーリの体臭とはまた違う甘いがすがすがしい香りがユーリの鼻腔をくすぐる。
「クチナシの花言葉は『沈黙』─────この花をあんたは受け取った。
分かるかい?
あんたはこの花言葉通り誰にも、勿論あにさんに私のことを話してはいけないよ。」


何故話してはいけないのか?
疑問に思いつつ、その雰囲気に押され頷くユーリ。

「それじゃあ、また会おうよ、ねっ?」
「・・・・はい───あっ!」
窓から去ろうとする女をユーリは慌てて引き止める。
「何だい?」
「名前!聞いてませんでした!」
「行儀の良い子だね・・・・、このエダナムに住んでれば、聞かずとも分かるのに。」
そう言うと、ユーリにあげたクチナシの花を指さした。
「ガルデーニア。」
そう告げるとサッと、窓から飛び降り、暗闇の中に消えた。

「生理時の処理の仕方を知っていたのか?」
「うん・・・・お屋敷にいた頃に・・・・。」
「ふーん・・・・・。」
後に帰ってきたレオナルトに、診療鞄などがかき回されている事を訪ねられ、初潮がきてそのた
めに綿と布切れを探したのだと話した。
本当はガルデーニアがひっかき回したのだが、
黙っとくように言われたので、どうにか言い訳を考えた。

レオナルトは食卓の中央に生けてあるクチナシの花にも目がいく
「─────これは?」
「・・・・目が覚めたら、あにさんいなかったから、部屋の外に出ようと扉を開けたら、あった
ん・・・・。」
「・・・・ふーん。」
クチナシの花を手に取り、くるくる回しながら窓際に移動し、縁を見つめる。


「・・・・何件か酒場を回って聞いたのだが、支配人が話していた女怪盗はガルデーニアと言う
らしい。
マスクで目元を隠しているが容姿端麗でなかなか頭も回ると言うことだ。────それに、虜に
なっている男達が大勢いるそうで、その者達の陰の協力もありなかなか捕まらないそうだ。」
「女怪盗ガルデーニア・・・・さん。
あにさんと同業者が此処にはいるんだね。」

言ってしまえばいいのに─────此処に来ましたって・・・。
明らかにあにさんは私の言い分に疑惑満載って、態度で示してる。
何故言えないんだろう?
言おうとすると、喉に何かつかえた感じがするからかしら?

「そう────現れた後、必ずクチナシの花を一輪置いておくそうでね・・・・だから、ガルデ
ーニアと呼ばれることになった───そうだ・・・来たんだろ?此処に。」
「さあ・・・知らない・・・もしかしたら来たけど、扉の前まで来て帰ったのかも・・・。」
目線を合わさず喋るユーリの目の前にずいっと近づくとおもむろにクチナシの花をユーリに近づ
ける。
甘い花の香りが・・・ユーリの鼻をかすめた時
パチン
と、レオナルトが指を鳴らす。

びくんとユーリが身体を震わすとじっとレオナルトの方を見た。
「?あにさん?」
「作り話を考えるのが下手なユーリを味方にしようなんぞ・・・・人選見誤ったな。
もう一度聞く、来たんだね?」
「・・・・うん・・・・。」
今度は素直に声が出た。
「変だな・・・さっきまで返事しようとしても言葉が出なかったん。」
咽喉もとの不快感が無くなり、自分の首を擦るユーリ。


「軽い暗示をかけたらしい・・・素人の域で良かった
玄人のかけた暗示だったら私では対処できなかった。────何があったか話せるね?」
頷くユーリを椅子に座らせ、此処であった女怪盗のことを話した。

一通り聞いたレオナルトは口を手でさすりながら唸る。

手荷物と診療鞄を確認したが何も取られていなかったし、半分だけ部屋に残した金も手つかずだ
った─────初潮騒ぎで気が削がれたと言うのは本当らしいが・・・・
ユーリが男装しているが女で、香りを放つ特殊な子だと知った怪盗が、このまま黙って見過ごし
てくれるとは思えない。

これから何かの形で接触してくるだろう。
「また、会おうよ・・か、御免こうむりたいね。」
「でも、そんな悪い人には見えなかったよ。」
「暗示をかけられといて何が悪い人に見えなかっただ・・・。」
ユーリの人の良さにレオナルトはこめかみを押さえる。

また、近々移動しないとならないかも知れない危機に
そんなに深刻な問題なのかしらと、不思議そうにレオナルトの顔を覗くユーリ

桃娘を手放せないのなら
もう、いいかげん腰を据えて厄介事と向き合えば、頭を悩ます事もなかろうと思うのだが
厄介事をもたらす張本人がその意識が薄く、無防備でかつ抜けているのが何とも腹立だしい。

白々と明るくなってきた空は寝不足の眼には攻撃的に眩しい。
レオナルトは荒々しく窓を閉めるとユーリに「寝る」と一言告げると寝台に潜り込んだ。

何もかも面倒臭くなっているときは寝るのに限る
寝て、気力も体力も充実したらまた考えよう


機嫌を取るかのようにもそもそと潜り込んできた桃娘を抱きしめ、1つ欠伸をすると
発情しない程度の微量の香りを嗅ぎながら深い眠りに落ちていった。




さて、後日談になりますが、ユーリ、状況が状況だけあって
間違った性と月のものの知識を身につけてしまっていました。
レオナルトが情事の際にユーリの股に顔を埋めたその時、「────駄目!あにさんの激しい
もの!生理が来ちゃう!」と、のたもうて

その日の情事はそこで終了
レオナルトの月のものの講義を寝台の上で受けることとなったそうです。


                                         『女怪盗』 終わり


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