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ヤキモチはモチはモチでも食えないから始末が悪い 1

実験屋◆ukZVKLHcCE氏

・・・・・・・・

・・・・・・オギャーオギャー!!!

「う、産まれたぁ!!!」

『ヤキモチはモチはモチでも食えないから始末が悪い』


「「「「おめでとうございます!!」」」」
遂に升沢とレオの子供が誕生した。『ネバダ』の面々は学校に行く途中
病院まで押し掛けてお祝いに現れた。
「で、男の子?女の子?」
狂介が誰もが気になる所を聞いてみる。

「・・・娘です!!」

「「「「おぉーーー!!(・・・やっぱり・・・)」」」」
昔、『めちゃイケ』で遊び人の子供は女の子になると誰かが言ってたが
升沢とレオはつい最近までソレに該当する類の人間だったため誰もが内心納得していた。
「しかし、いつかこの子は誰かの下に嫁に・・・・イヤじゃぁぁぁ!!!」
いったい何年先の話をしているんだか・・・
「そしてこの子に『今日までお世話になりました』って・・・・俺ってば涙が止まんねぇ!!」
どうやら、「親バカ+花嫁の父シンドローム」にかかってますねこの男。
「レオさん、お疲れ様。」
「ありがとう有紀君。」
一つの生命をこの世に産み落とす大仕事を終えたレオだが、その目は幸せの輝きに満ちていた。
「有紀君も近いうちになるのかな? そのときは頑張ってね。」
「はい!!・・・・って、何でレオさん僕のこと!?」
「あっ、やっぱり図星!?前からアナタのこと女の子じゃないかなって思ってたのよ〜。」
簡単な誘導尋問に引っ掛かってしまった。


「うぅ・・しまったぁ・・・ねえ狂介、僕ってそんなに男の子のフリ、ヘタ?」
半泣きになって潤んだ瞳で狂介を見つめる有紀。
「いいえ、完璧ですよ!!」
狂介は有紀の手を取り紳士のごとく答えた。っていうか狂介は有紀本人に言われるまで
有紀が女と気付かなかったのだ。ああいう以外に答えようが無いだろう。
「フフ、二人はとっても仲良しなのね。」
「ハイ!!そりゃもう!!」
狂介はそう言いながら有紀を抱きしめた。
「ちょ、ちょっと狂介ってば!!」
有紀は狂介の腕の中でもがいたが狂介は有紀を離す気など一切無いのでその努力は無駄に終わった。
「ではこれで、旦那、園太郎、帰るぞ!!」
「ハイハイ。」
「わかりました。では失礼します。」
「今日はわざわざ来てくれてどうもありがとう。」
そして狂介たちは病室から出て行った。



「・・で連れてきた男は『よくもウチの娘に手ぇ出したな!!』って殴るわけよ!!
 そして、”四肢の骨を折って川へ投げ込んで”・・ってアレ?みんな帰ったの?」

どうやら升沢には黄色い救急車が必要のようだ。


「狂介ったらイキナリ抱きついてくるんだもん!!」
「悪かったよ、機嫌直せって・・・な?」
人目もはばからずにイチャついてきた狂介に有紀はご立腹の様子。
「まぁまぁ、でもユーちゃんだってそんなにはイヤじゃないんだろ?」
「・・・・・・ウン。」
藤澤ナイスフォロー!!
「やっぱりそうだったのか!!有紀ーーーー!!!!」
感極まって狂介は再び有紀に抱きついた。折角の藤澤のフォローも無駄に終わらせやがった。
「狂介の・・・・バカーーーーー!!!!!!!」
有紀の攻撃:狂介に∞の改心の一撃!!

「グフッ・・・・・・・・飛行試験型・・・」

グフシリーズはこれにて打ち止めと相成った。

「あ〜あ・・生きてます先輩?」
「ったく、ノロケるとこれ以上に無くバカになるからなぁコイツは。」
幸せそうな顔をしながら地面にめり込んでいる狂介を見ながら二人は溜息をついた。


「有紀ってば、いい加減許してくれよ〜(泣)」
「・・・」
学校に着いてから有紀は狂介に一言も口をきかなかった。
「うぅぅ・・・僕ちゃん泣いちゃう・・・」
狂介は机にうずくまって泣き出した・・・勿論、嘘泣きだ。

「あの・・・山崎先輩?」
「ん?」
狂介が顔を上げると見知らぬ女子生徒が立っていた。
「一年の田中って言います。あの・・・」
「はい?」
「これ受け取ってください!!」
田中という生徒は白い封筒を狂介に渡すとそのまま教室から走り去っていった。

「なんだこりゃ?」
突然の出来事に狂介は目を白黒させた。
「手紙かな?」
白い封筒を手に持ち中身を取り出す。
そこには一言

”好きです。付き合ってください。”

と書かれていた。


「ラブレター?」
「!!」
狂介がそう呟いた瞬間、有紀がピクリと反応した。心なしか怒りのオーラが
有紀から発せられているように見えるのは気のせいではないだろう。
「こんなんもらったの初めてだ・・・。」
「(オイオイ、ユーちゃんキレてるぞ・・気付けって・・・)」
呆けている狂介を尻目に有紀の怒りのボルテージは上がる一方だ。
「しっかしなー、どうしよコレ・・・」
田中さんとやらはいなくなってしまったが最初から断る気なので狂介にとってはいらないものだ。

「良かったじゃん、もらっとけば?」

「!!」
そう言ったのは有紀だった。
「今のコ結構可愛かったし、狂介だってイヤじゃないんでしょ?」
八つ当たりなのは有紀にも分かっていた。しかし、今朝から狂介に好き勝手されて
こうでも言ってやらなければ気が済まなかったのだ。

だが、

「・・・・お前、本気でそう思ってるのか?」

狂介の反応は以外にも冷たいものだった。


「きょ、狂介?」
「お前は俺がさっきのコに本気なってる思ってんのか?」
「お、おい狂・・・」
「旦那は黙ってろ。」
狂介は有紀ににじり寄った。
「あっ・・・」
「オイ・・・どうなんだ?」
有紀を見つめる狂介の瞳には暖かさが無く冷め切ったものだった。
「だ、だって全然嫌がってないじゃないか!!だから・・・」

「ふざけんな!!」

狂介が声を荒げて叫んだ。普段学校では声を上げて怒る事の無い狂介が
声を上げたことに教室中が騒然となった。
「お前は俺の事、そんなに軽い男だと思ってたのかよ!!」
「やめろ!!このバカ!!」
有紀に掴み掛かろうとした狂介を藤澤が取り押さえる。
「チィッ・・・離せ・・・」
狂介は藤澤を振りほどいた。
「気分悪い・・・帰るわ。」
狂介はそのまま有紀に目を合わせる事無く教室から出て行った。
「大丈夫かユーちゃん?」
「・・・・・・・」

有紀はそれに答える事無くただ黙り込んでいた。


「クソッ・・・」
狂介は家には帰らず近所の河川敷の草むらに寝そべっていた。
「何で・・・あんな事に」
考えても後悔ばかりが出てくる。100%悪いのは自分だ。だけども有紀が、狂介が有紀より
田中をとると思っていたと言う事が狂介の頭の中から冷静さを消した。
しかも、それだけじゃない。狂介は有紀に掴み掛ろうとしていた。もしあのまま
藤澤が止めなければ・・・
「俺はアイツに何をしたんだろう・・・・・」
あの時の狂介の頭の中は怒の感情だけが溢れ出ていた。あのまま狂介の感情が有紀に
向けられていたならば・・・・・
「どのみち・・・お終いだな・・・」
もう有紀は自分を見ることは無い。有紀が自分に声をかけることは無い。
自分自身の軽率な行動で有紀との関係を全て壊してしまったのだ。
「やっぱ俺ってサイテーだな。」
狂介の頬に涙が一筋流れた。

「おーい!!山崎じゃないか?」
「升沢さん・・・」
病院からの面会帰りの升沢が通りかかった。
「どうしたんだ?こんなトコで・・・学校は?」
「・・・サボった」
「ふ〜ん・・まぁ俺も昔はやってたし何も言わねぇけど。」
「どうも。」
「南と一緒じゃないのか?」
「!!」
升沢の一言に狂介が反応した。
「・・・・・なるほどね。」
何かを察したらしい升沢が狂介を真上から見下ろす。

「ウチ来いや。」


狂介は升沢に連れられて升沢のアパートに上がっていた。
「ホレ、コーヒー。」
「・・・あんがと。」
狂介がコーヒーを一口飲んだ。
「・・美味い。」
「そうか?うれしいねぇ。」
気が変わる前に升沢は本題を切り出した。
「ケンカでもしたのか?」
「!!」
ストレートに突っ込まれて狂介は俯いた。
「お前らでもケンカするんだな。人の事は言えないがお前さん方も結構なバカップル
 だってのに・・・コリャ珍しい。」
「うるせぇ・・」
物笑いの種にされたようで面白くない狂介はソッポ向いた。
「悪かったよ。そんなに不貞腐れるなよ。」
「もういいよ。」
「原因は何なんだ・・・?グチくらいなら聞いてやるから教えてくれよ。」
「・・・・はぁ・・・」
はぐらかすのも無理そうだと思った狂介は原因を離すことにした。
「実は・・・」


「そりゃお前さんが悪い。」
升沢はアッサリ言い切った。
「考えても見ろ。南のことが本気で好きならその場で手紙破るなりなんなり出来たはずだ。
 それをしなかったんだから南はお前を疑っちまったんだよ。」
「でも・・・」
「でもも、へったくれも無い!!」


「そういう事があるとな、不安になるもんなんだよ。相手の気持ちが自分に
 向いてないんじゃないかってさ。本気で好きな相手ならなおさらだ。」
「俺は本気だ!!」
「だったら南の気持ちが分かるよな?どう思ったと思う?目の前で好きな男が
 他の女からラブレターもらってさぁ。」
「・・・・」
「ニヤけてたら分かりやすいが何も反応を示してないってのは、自分と相手の
 どちらかを考えられてるって思われても仕方が無いぞ。」
「そんな・・・」
「その結果がコレだ!!お前さんの決断力の低さが今回の問題を起こしたんだ!!」
「くっ・・・」
「んで・・・・どうする?」
升沢は狂介に問いただした。
「このまま終わりにするなら何もしなけりゃいい、でもそれが嫌なら・・・する事あるだろ?」
「・・・・」
狂介は走り出した。
「サンキュー升沢さん。」
「礼は仲直りしてからでいいぞ。」


狂介がいなくなった部屋で。

「さ〜て娘の名前を考えないとね。」


「有紀!!」
学校に戻ってきた狂介は有紀に会うために教室まで走った。
と、人気の無い廊下で藤澤に会った。
「狂!!お前どこ行ってたんだ!!」
「んなことより旦那!!有紀はどこだ!!」
「ユーちゃんなら帰ったぜ。」
「なんだと!?」
「・・・お前なぁ!!」
藤澤が狂介の胸倉をつかみ上げる。
「ユーちゃんが男の格好してる理由、知ってるんだろ?
 お前に裏切られたら・・・・ユーちゃんどうなると思う?」
「旦那・・・」
「これ以上ユーちゃん苦しめたら・・・・殺すぞ?」
狂介はそのまま床に投げ捨てられた。
「分かってる・・・ゴメン。」
「そう言うのはユーちゃんに言え。」
「あぁ!!」
狂介はそのまま走っていった。

「ったく、世話かかる奴だねぇ。」
そういう藤澤の顔からは笑みがこぼれていた。


「はぁ・・はぁ・・・」
狂介は有紀の家に着いた。しかし、気まずさから玄関前で立往生していた。
「ゴメンって言ってダメだったらどうしよう・・・」
最悪の結末を思い狂介は最後の一歩が踏み出せない。

 ガチャ

「狂介!!」
「あっ・・・」
突然扉が開かれその向こうから有紀が現れた。
「・・・・」
「・・・・」
二人とも気まずさから何も言えないでいる。
「・・・出掛けるのか?」
「うん・・そうだけど・・・」
やっとの思いで出た一言、しかしギクシャクしていて会話として成立しているのかどうか・・。
「でもいいや・・・やめる・・」
有紀が踵を返し家の中に戻ろうとする。

「有紀!!」

狂介が後から有紀を抱きしめた。
「狂・・介・・?」
「悪いのは全部俺だ。俺がはっきりしなかったから・・・・ゴメン・・・
 もう遅いとは思うけど・・・嫌いにならないでくれ・・・頼む・・・。」
有紀を抱きしめる狂介の指に力が入る。もし、ここで有紀に捨てられたなら
もう有紀を抱きしめることは無いからだ。
「狂介は・・・悪くないよ・・・僕が勝手に怒っただけだもん。」
有紀の手が狂介の手に触れた。
「嫉妬・・・したんだ・・・絶対にしないって決めてたのに・・・」
「有紀・・・」


「だから・・狂介を困らせてやりたかったんだ。ちょっとしたイタズラのつもりだったんだ。
 でも・・・・僕・・バカだった。狂介を・・・本気で怒らせちゃった。」
有紀の声が震えた。
「狂介・・・いつも優しいのに・・・あんなに怒らせて・・・何が何だか
 分からなくなっちゃった・・・ゴメンなさい・・・ゴメンなさい・・・。」
最後の方は言葉になっていなかった。
「有紀は悪くない。絶対に悪くない・・・・俺の方こそゴメン・・・有紀を
 こんなに悲しませて・・・・『何があっても守る』って約束したのに・・・」
「きょうすけぇぇーー!!」
有紀は大声をあげて泣き出した。
「有紀・・・ゴメンな・・・」
しゃくりあげる有紀を抱きしめて狂介は悟った。自分は有紀にとってかなり
大切に思われている人間だ。そんな有紀の気持ちを守っていてる人間になりたいと。


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