Index(X) / Menu(M) / /

Z〜第7話〜

実験屋◆ukZVKLHcCE氏

もうあの人を憎むことが出来ない。
だって・・・
私はあの人に会いたかったから

『Z〜第7話〜』

私が生まれてすぐに母は亡くなった。父は私を育てるために男手一つで私を育ててくれた。
元来、身体が弱かった父が病気に倒れるのは当然で看病と内職の日々が続いた。

医者に診てもらえるお金が貯まり町に繰り出した時、事件は起きた。
王国兵に身体がぶつかり兵士の怒りを買った。
「ぶつかっておいてゴメンも無しかよ!!」
まだ幼かった私にとって怒りの感情を剥き出しにする屈強な兵士は
恐怖でしかなかった。
「スイマセン!!お許しを・・・」
「そんなんで済むかよ!!」
今だから分かる、彼らは最初から私達親子に絡むつもりでいたことを。
「がっ・・・!!」
父が殴り倒され私はそれを庇った。
「俺達を怒らせた報いをくれてやる。」
兵士の感情の矛先が私に向けられた。


「ゴメンなさい・・・」
誤っても無駄な事は分かってる。でも何も出来ない私は謝る事だけが
全てを終わらせる術でしかなかった。

「ちょっとオッサン達。ウザくてキモいんですけど〜。」

突然聞こえてきた声に私が驚いた。王国の兵士にそんな口をきく人間がいるなんて。
兵士にケンカを売ったのは私よりも5つ位年上の少年、兵士は10人以上いる、
とても勝てる訳が・・・

「小僧、痛い目にあいたくなければすっこんでろ!!」
「大の大人が無抵抗の親子に手ぇ出して情けないと思わないの?」
「何だと!!」
「王国の兵士さんってのは弱い物イジメが好きな変態さんだったんだね。」
「このガキが!!」

兵士達が少年を囲む。
「ホラ、子供相手にこんな数・・・情けな。」
「やっちまえ!!」
なぜ彼はあんなにも余裕なのか、答えはすぐに分かった。


「が・・・グハッ・・・」
彼は魔法使いだった。物凄いスピードで敵の攻撃をかわして
相手に触れて気絶させる。
「なんだ・・・痛い目にあわせてくれるんじゃなかったの?」
彼はいたって余裕そのものだった。
「助けてくれてアリガトウ!!」
思わず私は彼の手をとった。嬉しかった、彼の強さと助けてくれた
優しさに心が踊った。
「私エリスっていうの。アナタは名前なんていうの?」
今思えば不仕付けだったと思う。でも彼とのつながりが欲しかった。
「オイそこのお前!!」
「ヤバッ、逃げろ!!」
騒ぎを聞きつけた警官が向かってきた。
「じゃあね。元気で!!」
「あっ、待って!!」
名前を聞いていない。でも彼の姿はどんどん遠退いていく。
「また・・・また会えるよね!?」
「縁があったら・・・バイバイ!!」

これからの目標が出来た。”彼に会って名前を聞きたい”。
恥かしいけれど・・・彼のことを好きになってしまったみたい。


でも、そんな願いも現実の前に遠退くばかりだった。1年後に父が亡くなった。
身寄りも無い私は以前の騒ぎで保護してくれた警官の方の引き取られた。
悲しみに暮れたかったけども泣いてばかりいても何も始まらないと
”彼”が教えてくれた。
だから私は強くなろうと決めた。そうすればまた”彼”に会えると思ったから。
『白騎士団』への入団の話が町に届いたときチャンスだと思い警官のおじ様に
相談した。しかし、「女の身で白騎士になることは容易では無い」と難色を示されてしまった。
「女だから」この言葉に少し頭にきた。女であれば騎士にはなれないと言うなら・・・・

私は女である事を隠した。

髪も短く切った。言葉遣いも変えた。体つきもボディスーツを着て誤魔化した。
名前もエリスであることを止め、エリックと名乗った。
そして家出同然に騎士団に入団した。騎士になる為に訓練は厳しく私は何度も
挫けそうになった。 

でも耐えた。こんな事で挫けていては”彼”に会えないと思ったから。

剣も、魔法も習得した。素手で戦ったとしても並みの兵では太刀打ち出来ない位の力は
身に付けた。これならば”彼”に見合える存在に・・・


ふと思った。彼は今頃何をしているのだろう?
あれだけの実力があるにもかかわらず騎士団で彼に会うことは出来なかった。
確かに王国の兵士にケンカを売ったのだ、王国の戦士として会えるはずが・・・

・・・・オズマリア

王国に反逆し転覆を狙う組織。もし”彼”がオズマリアに組していたら・・・・
いや、そんなことは無い。私を救ってくれた彼が反逆者になるなんて・・・。

何も知らなかった私はその時、そう思うことしか出来なかった。


正式に騎士として認められて戦闘に参加してしばらく経つ。今では多くの部下の命を
預かる身になり、責任と統率力が求められる毎日を送っていた。
でも、本当は辛かった、自分はそんな事が出来る人間ではない。
誰かに自分を守って欲しかった。優しく抱きしめて欲しかった。

その相手に”彼”を思い出してしまう。

私は最低だ。よりにもよって欲情の対象に彼を思い浮かべるなんて。
しっかりしなくては、彼に情けない姿を見せたくは無い。
彼に見合う心身ともに強い人間にならなくては・・・。


今度の戦闘は油断ならない。
なぜなら相手が悪名高き『ゼット・ルーファス』だからだ。
突如としてアズマリアに台頭し、こちらに多大な被害を及ぼしたゼット。
数えるほどの人員で千を越す軍勢を倒すという人並みはずれた戦果で
王国軍は劣勢に追い込まれた。
私も勝てるかどうか分からない。でもここで負けるわけにはいかない。
勝利を手にしなくては・・・・彼にも会えなくなる。

でも、現実はそう甘くは無かった。


何の前触れも無くこちらの本陣が火に包まれた。
あちこちで爆発が起こり、部下が次々に死んでいった。
私は、火の中を馬で駆け抜けた。そしてその先にゼットを見つけた。

そしてゼットと戦い・・・・負けた。

それからは地獄の日々だった。生きたまま捕らえられた私は
女であることを知られ、玩具扱いされゼットに連日犯された。
奉仕を強制されゼットの前で何度も絶頂を迎えさせられた。
決して見せまいと我慢してきた涙さえゼットの前で晒してしまった。
・・・悔しかった、ゼットに犯されて快感を感じてしまう自分が。

でもそれ以上に・・・・”彼”に一番をあげることが出来なかった事が悔しかった。

「ごめんね・・・ごめんね・・・・」

こんな自分を晒してしまって”彼”に会わせる顔が無い。

王国を憎悪するゼットにとって私は低のいい捌け口だったのだろう。
何かにつけては私のところに出向いて私を襲った。
でも、なぜゼットは王国を憎むの?

そこで教えられた事実に私は今までの自分の浅はかさを呪った。


ゼットが私の追い求めていた”彼”だった。彼の記憶を頭に流された私は
彼が今まで生きてきた経緯を知り騒然とした。
王国が身内にすら隠していた裏の顔、民を苦しめて自由を求める人々を
反逆者扱いし討っていった事。
そして何より・・・

彼が王国にお母さんを奪われて殺された事。

私は彼の何を見ていたのだろう。ただカッコ良かったから、恩人だから、
勝手に自分の中でで彼を作り上げていた。
知らなかっただけでは済まされない。私は彼の心を苦しめる王国に組していたのだから。
だから罰が当たったんだ。何もしらないクセに彼を勝手に追い求めて・・・
白騎士団に入団したことを後悔し、汚らわしいと思った。

だから、いいの。もう決めた。

こんな自分は犯されて当然、むしろこうなるべきだったんだ。
自分の一番は彼に・・・ゼット様にあげていたんだもの・・・むしろ嬉しい。
やっと名前を知ることが出来たゼット様の心を私で晴らしてもらえれば・・・。
ゼット様にお仕えしてあの時の恩返しと今までの罪滅ぼしをしなくては。

物以下の扱いでもいい。ゼット様の傍にいられるなら・・・


「・・・・エリス?」
まさか気付かれるとは思っていなかった。
「やっぱり・・・・・エリスなんだな?」
黙っていた事を問詰められる。許しを請う事も出来ずにゼット様を見つめていた。
「あ・・ゼット様・・・」
ゆっくりとゼット様の手が私に向かってきた・・・・ぶたれる!!
「!!」
「エ・・・エリス・・・」
痛みに身構えた私にゼット様は悲しげな声を上げた。
叩くつもりではないと理解したときにはもう遅く、ゼット様は部屋から飛び出してしまった。
「ゼット様!!」

なぜ怒らなかったの?
どうして罰を与えなかったの?

疑問は残るけど、分かったことが一つだけある。

ゼット様を傷付けてしまった。
どうすればいいのだろう・・・・どうすれば・・・・

                                第7話〜完〜


Index(X) / Menu(M) / /