Plein Soleil

 その瞬間、相手の体からふっと力が抜けるのが分かった。
 すかさず薪はどんと青木の肩を突く。特に強い力で押したわけではなかったが、彼はそのまま上体を起こして、膝立ちになった。
 二人は無言で互いを見つめ合った。青木はまだ肩で大きく息をしている状態だったが、なんとか正気には返ったようだった。目を丸くしたまま、ぽかんとこちらを見ている。
 それは驚きもするだろう。我を忘れて暴走した結果、気が付いたときには上司兼恋人が自分の下でぼろぼろになっていたのだから。
「……とりあえず、僕の上からどいてくれ」
 薪が低い声で言うと、彼はのろのろと薪の上から退いた。ようやく手足を押さえつけていた重みがなくなり、薪はソファの上に体を起こす。
 改めて自分の状態を確認すると、なかなかにひどいことになっていた。散々舐め回されたせいで、肌はべたべたするし、関節も痛む。彼の手に掴まれたところは、後で痣になっているかもしれない。服の裾もあちこち伸びきってしまっている。
 関節の状態を確かめるために、手首をゆっくりと回す。すると、それを見た青木が泣き出しそうな顔になった。薪はじろりと彼を睨みつける。
 全く泣きたいのはこちらの方である。朝っぱらから恋人にレイプされかけたのだから。めそめそ泣いている暇があったら、床にはいつくばって土下座しろと言いたい。しかし、彼がいまだ一言も謝らずに口を噤んでいる理由も、薪には分かっていた。
 青木はソファの端で、悄然と縮こまっている。だが膝の上で組み合わされた彼の手が、何を隠そうとしているのかは一目瞭然だった。
 行為を無理やり中断したせいで、まだ彼の中では熱が鎮まっていないのだろう。今も一刻も早くトイレに駆け込みたくて仕方がないはずだ。しかしそれをするとあまりに薪に対して失礼なので、必死に耐えているのだろう。
 そんな彼の事情を理解した上で、薪はゆっくり時間をかけて、自分の両手両足に異常がないことを確かめた。それから青木の方に向き直る。途端に彼はびくりと身をすくめた。まるで親に怒られる子供のように。
 ──僕はお前の親か。お前は自分の親を襲うのか。この馬鹿。
 心の中で毒づきながら、薪はこう続けた。


「……とりあえずここじゃ無理だから、寝室に連れていってくれ。あと、服は全部脱がせてくれ、頼むから」


 青木がはっとしたように顔を上げる。
「え?」
 ぽかんとした間抜け面が見ていられなくて、薪はため息をつく。聞き返されても、二度同じ台詞を言う気にはなれなかった。
 やがて彼の中で今の言葉が咀嚼されたらしく、青木は急におろおろとしだした。
「えっと、あの……え? いやでも、そんな……そんなわけには……」
 彼はとんでもないとばかりに首を振る。しかし前かがみになった状態でそう言われても、さっぱり説得力はなかった。
「まだ治まってないんだろう?」
「そ、それは、その……」
 薪がそこに視線をやると、青木は赤面し、慌てて服の裾を伸ばした。
「でも、俺、薪さんにあんなひどいことしたのに……いくら薪さんが許してくれたからって、これ以上ご迷惑をかけるわけには……」
 青木は俯いて、ぐずぐずと言い訳をしている。さっきはあれほど強気にことを進めていたのに、一度臆した途端こうなるのだから、その変わりぶりに呆れてしまう。
 だが苦し気に歪められた表情と、膝の上で固く握りしめられた拳を見れば、彼の言葉が見せかけの反省でないことだけは確かだった。青木は自分のしたことを心から後悔して、薪に対して申し訳ないと思っている。今はそれが分かっただけでいい。
「……青木」
 薪が名前を呼ぶと、彼は恐々と顔を上げた。薪は彼に向かって片手を差し伸べる。こんな目に遭わされても、まだ彼に対して甘い顔を見せる自分に、ほとほと嫌気を差しながら。
 青木は目を潤ませながら、両手で押し包むようにその手を取った。
「薪さん、ごめんなさい……」
「もういいから、早く」
「……はい」
 青木がソファから下りて、薪の足元に跪く。薪が頷くと、彼は今度こそ優しく薪の体を抱きあげた。
 その仕草はいつものように思いやりに満ちていたので、薪は安心して彼の肩に腕を回すことができた。

コメント

あやさん

青木が我に返って良かった^^;
やはり薪さんは野獣のようなHはお好きじゃない(すごくドキドキしましたけど)
傷だらけの痛々しい薪さんは嫌だし。
すっかり、耳の垂れたしょぼんとした犬が浮かびました(笑)
そういう姿を見るとまた可愛くなっちゃうんでしょうね。薪さんてば( *´艸`)

薪さんが傷つくのは絶対にダメですよね。
プレイとかでちょっと痛くするぐらいならいいんですが、マジのやつは絶対にダメ。
4巻の目隠しの時、薪さん全然楽しそうじゃなくて、むしろ辛そうだったから、
青木とするときは、ただただ気持ちいいだけの幸せなエッチをしてほしいです。

> そういう姿を見るとまた可愛くなっちゃうんでしょうね。薪さんてば( *´艸`)

薪さん、なんだかんだ言って青木には甘いですもんね(笑)。
もしそういうのを狙ってやってたら、逆に愛想尽かされるだろうけど、
青木にはそういう裏がなさそうな気がします。バカ正直。

 

すばるさん

はじめまして。なみたろうさんのところから飛んで来ました。
毎回こっそりと覗いては幸せな気分に浸っておりました。

こちらの薪さんは、セリフが!! いかにも薪さんが言いそうなセリフで。
加えて薪さんの仕草が!! いかにも薪さんがしそうな仕草で。
もうこちらの設定が公式でいいのでは..と思ってしまうほどです。アメージング!!

薪さんの、青木に手を差し伸べたり、頷いたり..の姫っぷりが堪りません。
従者青木よ、報われて良かったね。
気を落ち着けて、おとなしく続きをお待ちしております。

あ、もしかしてあれかな...青木は太ももフェチとか。いや、膝裏フェチ?

すばるさん、初めまして! コメントありがとうございます。
わあ、なみたろうさんのご紹介からいらしてくださったんですか。
なみたろうさんに感謝です^^

> こちらの薪さんは、セリフが!! いかにも薪さんが言いそうなセリフで。
> 加えて薪さんの仕草が!! いかにも薪さんがしそうな仕草で。

ありがとうございます。めっちゃ嬉しいです!
原作の薪さんは青木の襟首つかんだり、点滴の管ひきちぎったりと、何かと男らしいんですが、
プライベートでは結構甘えたさんになるんじゃないかな〜と思ってて。
ほら、薪さんってなかなか人を自分のそばに寄せ付けない人だから、
いったん懐に入れたら、すごく情が深くなるんじゃないかなって思うんですよね。鈴木の時みたいに。
すばるさんの薪さん像と合致しているようで良かったです。

> 従者青木よ、報われて良かったね。

公式で丁稚体質ですもんね(笑)。ほんと良かったな、青木!

> あ、もしかしてあれかな...青木は太ももフェチとか。いや、膝裏フェチ?

それ私もすごーく考えてるんですよ。青木は一体何フェチなんだろうって。
原作の薪さんって上半身は割とオープンにしてくれるんですけど、
下半身のガードはかなり固いので、そういう薪さんが見たくて今回脚を出して頂いたんですけど、
ものの見事に喰いついてくれました。ほんと素直すぎです(笑)。
でもまあ、それが青木ですよね☆

 

なみたろうさん

薪さん、甘ーーーい!!(°▽°)
いやでも原作でも薪さんて怒鳴り散らかす割には青木の言うこと最後にはきいちゃいますよね?
ほんとに大好きですよねっハアハア
そんな、ほとんど完璧に見えるあなたが時々見せる「ダメなところ」がたまらん好きです( ;∀;)
でもほんとはちょっとドキドキしたでしょ?でしょ?ね?

ところで青木がスイッチ入った理由って、薪さんが実は〇ーパ〇だったからですか?
えっ?違う?(゜ロ゜)

> いやでも原作でも薪さんて怒鳴り散らかす割には青木の言うこと最後にはきいちゃいますよね?

そうそう、そうなんですよね!><
青木が薪さんにメロメロなのは第九公認ですが、
普段厳しい顔見せといて、実は薪さんが青木にだけは甘いってのも
第九公認ですよね〜(よく言ってくれた、小池!)。
ここでわんこをしつけないところが薪さんの「ダメなところ」、
でもそんな所も含めて愛しいっていうのにまるっと同意です!

> でもほんとはちょっとドキドキしたでしょ?でしょ?ね?

言わずもがなです^^

> ところで青木がスイッチ入った理由って、薪さんが実は〇ーパ〇だったからですか?

さすが、なみたろうさん。大正解です☆
……と言いたいところなのですが、惜しい、半分正解で、半分不正解です。
詳しくは次の回までお待ちください。
いや、そんな引っ張るほどたいしたネタバラシでもないのですが^^;

 

 (無記名可)
 
 レス時引用不可