Plein Soleil

 それまで熱心だった青木の反応が急に返ってこなくなったので、薪は口元を拭いながら、顔を離した。
 本当のことを言うと、もう少し続けていたかったが仕方がない。これ以上やると、本格的に火が付いて止まらなくなりそうだ。それは困る。今日はこれから予定が詰まっているのだから。
 青木が理性的に切りあげてくれたことに感謝しながら、薪は彼の膝から下りようとした。しかし、彼の手が腰に絡みついたまま離れようとしない。
「青木?」
 薪が呼ぶと、青木は困ったような目をしてこちらを見つめてきた。
「どうした?」
「あの……これってそういうこと、ですか」
「そういうことって?」
 その時、ヒップに当てられていた彼の手がもぞりと動いた。
「こら、青木」
 彼の冗談だと思って、薪はたしなめる。しかし青木は手を止めようとしない。円を描くように薪の腰を触り続けている。
「ん、だめだって」
 このまま触られ続けていたら、おかしな気分になってしまいそうだ。薪は彼の腕を掴んで無理やり放させる。
 すると今度は、上の服の裾に手が潜り込んできた。
「薪さん……」
 青木は薪の首筋に鼻面を押し付けて、すんすんと匂いをかいでいる。まるで犬のようだ。薪はしつけのなっていない大型犬を押しのけようとするが、今度は青木は素直に諦めなかった。薪の身体をしっかりと捕まえて、愛撫をやめようとしない。
 脇腹の弱いところを微妙なタッチで撫で上げられて、背筋がぞくっとなる。
「もう、いい加減に……あっ」
 薪が叱りつけようとしたときだった。青木の右手がタンクトップの裾を持って、一気にまくり上げてきた。胸板が上まで露出される。
 青木は身をかがめて、胸の尖りに吸いついてきた。一方を唇で挟むようにしながら、もう一方の手も指先でころころと転がしてくる。舌と指の両方で擦り上げられ、そのむずがゆい感触に、薪は思わず身を震わせる。
「青木……!」
 薪は本気で彼を止めようとする。両手で彼の頭を抑えつけるが、青木はびくとも動かなかった。だめだ、力では到底彼にはかなわない。背中をのけぞらせて距離を取ろうとしても、青木が更に前のめりになって追いかけてくるだけだった。
 彼の膝の上でほとんど押し倒されたような状態になって、余裕のなくなった薪はとうとう声を上げた。
「何を考えてるんだ! 今日はでかけるんじゃないのか!?」
 薪は上司の顔に戻って彼をしかりつけた。たとえプライベートの時でも、青木ならばこれで一発で利く──はずなのだが。
「薪さん、薪さん……」
 なぜか青木の耳には届いていないようだった。熱に浮かれたように名前を連呼しながら、薪の肌に手を這わせている。彼の手のひらの熱さに煽られて、薪の呼吸も徐々に乱れていく。
「本当にだめ、だって……むぐ……」
 後頭部を引き寄せられ、そのまま唇を塞がれてしまった。
「んん、ん……んー!」
 薪はどんどんと彼の身体を強く突くが、青木は一向に意に介さない。それどころか腕の抵抗を奪おうとするかのように、外側から体を抱きすくめてくる。薪が身をよじらせると、太ももの下にごりっと硬いものが当たった。
 薪ははっとなる。
 それまで青木の態度がいきなり変わったことに戸惑っているだけだったが、ここにきていかに彼が切羽詰まっているかが分かった。今も彼は薪の耳元ではっはっと荒く息をついている。
 薪自身も男性だから、彼の状況が非常に辛いものであることは分かる。だがここで最後までするのはどうしても無理だと思った。何よりこんなことで体力を使い果たしてしまったら、今日の遠出ができなくなってしまうかもしれない。それは困る。彼があんなに楽しみにして、ずっと前から計画していたのに。
「なあ、青木。お前が……」
 ──どうしても辛いというのならせめて手か口でするから、今はそれで我慢してくれないか。
 薪がそう持ちかけようとしたときだった。
 不意打ちにくるっと視界が回った。天井が見えたと思ったら、次の瞬間背中に柔らかい感触が当たる。
 気が付くと薪はソファの上に押し倒されていた。身を起こす暇もなく、膝の間に彼の身体が割り入ってくる。
「薪さん……」
 青木の喉が嚥下する動きがはっきりと見えた。こちらを見降ろしてくる彼の目がぎらついている。まるで獣のような目をしていると思った。
「や……」
 咄嗟に体の前に腕を交差させるが、それも軽くいなされて、顔の横に縫い止められる。そして青木は首筋に顔を埋めてきた。
 彼の熱くなった唇が肌の上を這いまわり、鎖骨を通って、肩口にまでいきつく。そしてタンクトップの肩ひもをずらして、露出した部分に噛みつくようにして口づける。肉の薄いところを強く吸い上げられて、ちくりと痛みが走った。
「ばか……痕を、残すな……!」
 薪が叱っても、青木は言うことを聞かなかった。ひたすら薪の身体をまさぐっている。
 本当に一体どうしたのだろう、今日の青木は。今までこんな風に扱われたことはなかった。どんなに余裕がないときでも、彼はいつも薪のことを気遣ってくれた。まるで宝物のように、大切に触れてくれていたのに──。
 やがて青木の手が薪の左足を根元から持ちあげ、胸元につくようにして折りたたんだ。そして太ももの裏側に何度も手を滑らせる。
 やがて青木は薪の耳元に口づけるようにして言った。

「ここに……ずっと触りたくて、たまらなかった……」

 いつもよりも低い声で囁かれて、薪の背筋がぞくりと粟立つ。これは一体誰だ。こんな声は知らない。こんな欲情を露わにした声は、薪が知るいつもの彼ではない。
 太ももの感触を存分に堪能した後、青木の手は次第に足の付け根の方へと移動していった。裾から指先が潜りこんでくる。さすがにそこはまずい。薪は腰を浮かせてなんとか拒否しようとするが、上から体重をかけて抑え込まれては、どうすることもできなかった。
 青木はそのまま手を差し込んで、尻たぶを強引に揉みしだいた。
「あ、いやだ……そこは本当に、いやだって……」
 薪の必死の懇願も、今の彼を止めることはできなかった。無遠慮な手が執拗に薪の下半身を荒らす。
「あっ、あ……や……んん……」
 自分の意志とは反して声がこぼれてしまう。薪は唇を噛んで堪えようとするが、敏感な部分を触られるたびに吐息が漏れ出て、口が勝手に開いてしまう。もうどうすることもできず、薪はひたすら彼の肩にしがみついて、この時間が終わることを待つことしかできなかった。
 やがて青木が荒い息をつきながら上体を起こした。ようやく彼の蹂躙から解放された薪は、ソファの上でぐったりとなる。体を離した彼が今、何をしているのかも分からなかった。
 やがて再び青木の身体が折り重なってきた。そして彼は何かおかしなことをした。
 今手を差し入れていたところを、ぐいっと大きく捲ってきたのだ。散々片側から押し広げられたせいで、そこはゆるゆると伸びきってしまっている。足の間が空気に触れてすうすうとした。
 すると青木は再度薪の左足を持ち抱えた。それと同時に、足の間に何か質量のあるものが当たる。
 それが何か分かった時、薪の顔からさっと血の気が引いた。
 ──まさか、このまま突っ込む気か……?
 身の危険を感じた彼は、咄嗟に大声で叫んだ。


「ばかっ、やめろ! 女じゃないんだから自然には濡れない!!」

コメント

なみたろうさん

す、すいません、なみたろうの予想は「薪さんも〇ってる」とゆうゲスいものでした(笑)
意外と冷静だった!
ところで薪さんが実はM、とゆうのは禿同ですっ!!(°▽°)
普段ドSでベッドでは…って王道のたまらんパターンですよねっハアハア。
薪さんのことですから、ギリギリまで意地でも出さないで欲しいですけどね。
沈丁花さんのお話では、そのMの見え隠れっぷりが絶妙だから最高です!

ところでわんこ、いいのよ?もっとやれ。

> 意外と冷静だった!

すいません、ここめっちゃ噴きました(笑)。
青木がいちゃいちゃするのが好きなので、普段から割とちゅっちゅしてるんですよ。えっち関係なく。
なのでいつものそれかなと思って、薪さんも気軽に応じてたんですね。
てかどんだけ仕込んでるんだ、うちの青木は(笑)。

> ところで薪さんが実はM、とゆうのは禿同ですっ!!(°▽°)
> 薪さんのことですから、ギリギリまで意地でも出さないで欲しいですけどね。

分かります、めっちゃ分かります……!
Mにも色々あると思うんですが、「虐めて〜」なタイプじゃないですよね。
自分にそういう願望があるのは薄々気づいているけど、心の奥底にそっと秘めて、青木にも言わないで、
でもちょっと乱暴に押し倒されたり、息が詰まるほどきつく抱きしめられたりしたら、
胸がきゅんとなってしまうような……それぐらいのMじゃないかと思います。
私以外に薪さんM説に同意してくれる人がいて嬉しい〜!><

> ところでわんこ、いいのよ?もっとやれ。

わーい、お許しをもらえた!

 

あやさん

ついつい、気になって続けて読んでしまいました。
おばちゃん、鈍くて青木の言う「そういうこと」が分からないのがもどかしいです( ;∀;)
青木が何故か豹変してしまったとはいえ、蹴とばしたりしないでされるがままになっているのは
やっぱり、愛するが故なんですね( *´艸`)
青木も薪さんの身体を傷つけるような乱暴な交わりはしないと思うのですが・・
でも、たまにはしつけのなっていない大型犬になっちゃうのもドキドキしていいですね(*´▽`*)
今、Hするより遠出を楽しみにしている薪さんも可愛らしいなあと思います。

続けて読んでくださってありがとうございます^^
「そういうこと」は7話で明かされる予定です。
全然たいしたことじゃないので、気にしなくていいですよ〜。

> 蹴とばしたりしないでされるがままになっているのはやっぱり、愛するが故なんですね

はい、惚れた弱みなんです^^
あやさんの仰ってる通り、薪さんにとっては大きな犬に飛びつかれてるようなもので、
たいして脅威でもないんですが(本気で嫌だったら指の骨折るとかしてると思います笑)、
最後の下りだけはぎょっとなっちゃったんですよね。
何の準備もなしでいきなりは、さすがに怪我をしてしまいますから……。

> 今、Hするより遠出を楽しみにしている薪さんも可愛らしいなあと思います。

そうなんです、何気に。
あと薪さん自身も行くのを楽しみにしているんですが、それよりもまず、
「行けなくなったら青木が可哀想」って思いが先に立ってしまってるんですね。
つくづくうちの薪さんは青木に甘いです。アホな子ほど可愛いってやつでしょうね。

 

kahoriさん

このままラブラブ甘い感じに進んで行くんだと思っていたので完全に油断していました。
まさかこんな攻め攻めしい青木君が出てこようとは!
理性の切れたワンコの反撃ターン激しくてびっくり!他のR作品より衝撃的でした。
圧倒的な体格差はこういう時に有利ですねー。
青木君に囁かれてうっかりときめいちゃった薪さんは実は征服されたい派ですね?
後で激怒するんでしょう、今から青木君の方を心配してしまいます。

> このままラブラブ甘い感じに進んで行くんだと思っていたので完全に油断していました。
> 理性の切れたワンコの反撃ターン激しくてびっくり!

びっくりさせちゃってごめんなさい。
でも前回までとの落差を狙ってたので、そう言ってもらえて書き手冥利に尽きます^^

> まさかこんな攻め攻めしい青木君が出てこようとは!

わんこプッツンしちゃいました☆
でも青木自身は普段から割とエッチにはノリノリなんですよ。
ただ、その時は薪さんも同じぐらいノリノリなんですね。
今回薪さんが置いてけぼりになっちゃったので、
それで相対的に攻めっぽくなっちゃったんだと思います。

> 青木君に囁かれてうっかりときめいちゃった薪さんは実は征服されたい派ですね?

うわあ、kahoriさんの言葉の選び方が素晴らしいです!
そうそう、まさにその通りなんですよ。青木に征服されたい。
「抱かれたい」とか「愛されたい」よりも一番ぴったりくるなあって思いました。
そして困惑しながらも、その裏で実はときめいてしまった薪さんの心理を
ちゃんと見抜いてくれてありがとうございます^^

 

lilithさん

ここでは初めましてです
はぁっはぁっはぁっ・・・* ̄д ̄*(落ち着け)
ちょうどHの最中にどんなときでも敬語を崩さない青木が、「もう待てない」とか、
薪さんに無意識にタメ口使っちゃうとエロいよなぁと妄想してたんですけど。
ばっちりですね* ̄д ̄*
いつもならツッコミを入れるであろう薪さんが、ピク・・・って感じちゃうところがまたいいなぁと。
部下ではなくて、性的に青木を好きなんだなぁって。
青木に殺されたいって台詞に繋がるなぁと思います。上手く言えないですが・・・
はふはふ* ̄д ̄*
今日もいい夢見れそうです♪

わー、lilithさん初めまして!
コメントありがとうございます!^^

> 薪さんに無意識にタメ口使っちゃうとエロいよなぁと妄想してたんですけど。

普段言葉遣いが丁寧な人が、態度をころっと変えるとどきっとしますよね。
私の中でプライベートの薪さんはM寄りなので、
手荒に扱われるとむっとする反面、ドキドキしてしまうんじゃないかなあとも思います。
今回ちょっと乱暴な展開だったので、読み手さんにどう受け取られるか心配だったんですが、
lilithさんに受け入れてもらえて良かったです。
てか普段ツイでお話してて、萌えツボが似てるなあと感じてましたw

> 部下ではなくて、性的に青木を好きなんだなぁって。
> 青木に殺されたいって台詞に繋がるなぁと思います。

青木も体格差で抑え込んではいますが、本気で拘束してるわけじゃないので、
薪さんも本気で嫌なら柔道の技とかかけて逃げると思うんですよ。
でも青木に触られること自体は嫌じゃない……というか、彼のことが好きだから拒否しきれない。
「青木に殺されたい」って台詞は、本編で唯一出てきた薪さんの告白ですよね……。
そんなに青木のことが好きなんだなあ、青木が特別なんだなあって思いました。
だから青木の手を拒否できない薪さんの心情がそれに通じてるっていうのは、すごく納得しました。
素敵な感想をありがとうございます!

 

 (無記名可)
 
 レス時引用不可