Plein Soleil

 青木がアイスを完食しても、まだ彼の方は食べ続けていた。ちまちま食べているのがなんとも微笑ましくて、目を細めながら見つめていると。
「うう……」
 残りが三分の一程になったところで、薪はスプーンを置いた。そして前かがみになって、米神を手で抑える。
「どうしたんですか?」
「……ちょっと、頭痛くなった」
「えっ、大丈夫ですか?」
「ああ。冷たいものを食べるとよくこうなるんだ。たいしたことはない」
 薪はそうは言うものの、彼の表情は辛そうだった。青木は何とかしてやりたくて、彼の首の後ろに手を回した。
「薪さん、ここを……」
「ひゃっ」
 ──ここを温めると頭痛が引っ込むらしいですよ。
 そう言おうとしたのだが、少し指先が触れただけで、薪はふるふると体を震わせた。青木は慌てて手を放す。
「す、すいません。あの、冷たいもの食べて頭が痛くなったときは、首の裏側を温めるといいって、聞いたことがあって、その、決して変なことをしようとしたわけでなくてですね……」
 青木はしどろもどろになって言い訳する。言葉がつっかえてすぎて、我ながら挙動不審だったが、薪はちゃんとこちらの言わんとしていることを分かってくれた。
「平気だ。ちょっとくすぐったかっただけだから。それよりここを温めたらいいのか?」
「はい」
 薪は自分でうなじを抑えるが、すぐに手を放してしまった。
「だめだ、自分の手じゃあまり温かく感じない。今の、もう一度してくれるか?」
「あ、はい、もちろん」
 薪は首をことんと前に倒して、うなじをさらす。そこは男性とは思えないほど、つややかできめ細かな肌をしていた。青木は緊張しながらそっとうなじを包み込む。手の甲にかぶさった彼の髪は、驚くほど柔らかかった。
「どうですか?」
「ん……確かにちょっと楽になってきたかも……」
「そうですか、良かった」
 シャワーで冷水を浴びた上に、極端に薄着をしていたために、体温が下がっていたのだろう。そこに来てアイスを食べたものだから、完全に冷え切ってしまったのだ。少し触っているだけで、みるみるそこは温かくなっていった。
 やがて薪はほうと息を吐きながら、ゆっくりと顔を上げた。痛みが引いたようだ。表情が柔らかくなっている。
 青木が安心して手を離すと、彼は上目遣いにこちらを見上げた。そしてはにかむように言う。
「……ありがと」
「あ、いえ……」
 思いがけず彼の可愛い表情を見てしまい、青木はぽかんとなる。すると、彼がくすりと笑った。
「青木、お前舌が青くなってる」
「え?」
「さっきのアイスの色が移ったんだな。この辺が真っ青になってるぞ」
 そう言って、薪は自分の口を指さした。唇の間から赤い舌がちろりと覗く。
 青木は思わずごくりと唾を飲みこんだ。彼の口元に目が釘付けになる。あの柔らかそうな舌に今すぐ吸い付きたくて仕方がない。
「あの、薪さん……」
「ん?」
 先に名前を呼んでから、青木はゆっくりと顔を近づけていった。薪はきょとんとしていたが、意味を理解すると、少し後ろに仰け反る素振りを見せた。しかし青木が肩に手を回すと、それ以上は逃げようとはしなかった。
 もう一方の手で、彼の顎を摘まんで顔を上向かせる。すると、睫毛を震わせながら瞼が閉じられた。
「ん……」
 唇を何度もついばんで、そのふわふわと柔らかい感触を楽しんだ後、青木は隙間からそろりと舌を差し込んだ。すると薪もそれに応えて、口をわずかに開けてくれる。青木は夢中になって彼の唇に吸い付いた。アイスで冷えた唇の中には、とろけるように柔らかくて熱いものが隠れていた。
 そのうちに、青木は段々もどかしくなっていった。こうして隣同士で肩を抱き寄せるだけでなく、どうせなら正面から彼を抱きしめたい。それに今の体勢では座高の差がありすぎて、キスをするにも窮屈だった。
 そこで青木は彼の腰に手をやり、そっと自分の方へと促した。すると薪もこちらの意図を察し、自ら腰を上げた。そしてキスをしたまま、青木の方へと移動する。
 青木の膝を跨ぐようにして薪が座り直し、二人は向かい合わせになる。彼が膝の上に乗り上げたおかげで、互いの目線の位置が近くなった。
「はあ……青木……」
「薪さん……」
 いったん顔を離して、至近距離で熱い視線を交わした後、二人はキスを再開させた。
 青木が強く抱きしめると、彼もまたすがりつくように青木の首に手を回してくる。二の腕の感触が首元に柔らかくまとわりつき、青木の気分をいっそう高揚させる。
「……ふ」
 息継ぎのタイミングで唇を離すと、青木は彼の喉元に口づけた。痕が残らない程度の軽いキスをする。
「あっ……」
 薪がくすぐったそうに身をよじらせ、喉を反らせる。青木はそれを追いかけて、下から上へと唇を這わせていく。やがて顎の先へと辿りつくと、顔を下ろさせ、再び唇に口づけた。
「ん……」
 顔の角度を変えるたびに、互いの息づかいが混じり合って、溶け合う。先ほどまで口の中を占めていた甘ったるいアイスの味はどこかに行ってしまった。今はただ彼の甘さだけを味わっていたい。
 そうしてキスにのめり込んでいるうちに、薪の座っている位置が次第に膝の端の方へずれていった。青木は彼の体を抱え直そうと、手を彼の腰に回す。
 その瞬間、彼ははっと息を飲んだ。

コメント

kahoriさん

沈丁花さんの書かれる青薪さんは2人ともとっても可愛らしいんです!
美猫と大型犬が戯れるのを微笑ましく (萌えつつ)見ているような気持ちになります。
薪さんの仕草がいちいち可愛くて、遠慮がちな青木君の反応も面白可愛く、本当に和みます(*^_^*)
いい意味でイヤラシさが無く、面映ゆいくすぐったいような糖度高めの甘さがあって、
そんな所が素敵な青薪だなと思うのです。
こちらのお話に慣れて原作を読み返すとギャップに打ちひしがれます。
萌える想像の余地(随所に仕掛けてある罠と認識しています)を楽しみながらいつも拝見してます♪
夏でも冬でも、肌色多目はいつでも歓迎します!

ひゃー、たくさん褒めて頂いてありがとうございます。照れる〜。
でもめっちゃ嬉しいです。多分このコメント何度も読み返しますよ?笑

> 美猫と大型犬が戯れるのを微笑ましく

私も薪さんを形容する文章を考えてて思うんですが、つくづく薪さんは猫っぽいです!
普段はつんけんしているのに気がついたらじっと青木を見てる。
するっと隣に来て体を密着させるので、わんこはどきどきしっぱなしです。

> こちらのお話に慣れて原作を読み返すとギャップに打ちひしがれます。

原作の二人はなかなか素直にならないですよね。あんなに想い合ってるのに(©雪子さん)。
薪さんが素直にならないなら、青木が強引にかっさらえばいいと思うんですが、
青木は青木できっと「少しでも薪さんの目線に近づきたい」みたいなことを思って、
薪さん口説くよりも、室長職にかまけている有様……。
薪さんの心を掴むにはそのルートが正解なんでしょうけど、回り道過ぎてもどかしい〜!
そういうフラストレーションを解消したくて二次創作してるので、
ギャップが生まれちゃうのは必然なんですよね……。
もう二人に説教したいです。時間は有限なんだよって。もう! もう!

> 夏でも冬でも、肌色多目はいつでも歓迎します!

はっ、そうでした。うちのサイトで薪さんが脱いじゃうのは、
全部kahoriさんのせいなんですよね? じゃあ私悪くなーいー。

 

しづさん

いやあああ!
なんて甘いの、おばちゃん、脳みそ溶けちゃううううう!!!
久々にこんな甘い青薪さん見た気がします。うれしい(*^^*)
これで青木さんが豹変したら、薪さん「えっ?」てなるんだ。さいこーだなっ!
青木さんの生殺し、楽しいよねえ? 

ご期待にお応えできてますか? わーい、やったー!
そうなんです、タイトルが「太陽がいっぱい」。
いろんな意味で熱くて、脳みそ溶けちゃうでしょ?笑

> これで青木さんが豹変したら、薪さん「えっ?」てなるんだ。

さすが、この先の展開が見抜かれてる〜。
青木は焦らしてなんぼですよねえ?
さて、この場合より悪いのは青木と薪さんのどっちなんでしょう?^^

 

kahoriさん

あーーーーまーいーー!(≧∇≦)*:.。. .。.:*・゜゚・*
沈丁花さんの本領発揮ですね(^^)ご馳走様です♪
ジェラートよりとろけてる青薪さんのチッスにうひゃーって(//∇//)なりました!
長いぞけしからん!もっとやって下さいm(_ _)m
もう何でこんなに質感想像できる表現エロスですね。
青木君に乗り上げる薪さんの太もももうっかり想像して萌え苦しいあーーー!!
え、この後もう修理屋来ちゃうんですか!?続きが気になります。全力待機です。

> 沈丁花さんの本領発揮ですね(^^)ご馳走様です♪

つまり、私の本領はエロ描写だと理解してくださっているわけですね?
ふふん、光栄です!

> 青木君に乗り上げる薪さんの太もももうっかり想像して萌え苦しいあーーー!!

そうなんです、私がなんで薪さんに露出度の高い格好をさせたかって、
目的がそれです。ずばり、触覚です。
薪さんのおみ足や二の腕が露わになる視覚的効果ももちろん最高なんですけど、
何より薪さんの柔らかい肌が青木の首筋やら布一枚隔てた太ももに当たるのを考えたら……
……いやーほんと夏って最高ですよね!
どうして私はこの話を冬に更新してしまったのだろう。
まあ萌えちゃったらしょうがないですよね。

 

なみたろうさん

いひゃーん。青木が驚いたこと想像ついちゃったかも〜。
青薪ってほんとにいいですね。
薪さんってほんとに敏感ですね。
青木にちょっと触れられただけで準備できちゃうなんて。なんて愛しい。
電機屋さん来る前に急いで下さい!(≧▽≦)

> いひゃーん。青木が驚いたこと想像ついちゃったかも〜。

マジですか? 7話でバラす予定だったのにー。
伏線のかけ方下手ですね、私。いや展開がありがちだからバレバレだったかな^^;

> 青薪ってほんとにいいですね。

ええ、本当にいいものですよねえ(しみじみ)。
水野晴郎さんばりに同意いたします。
この一年近く寝ても覚めても青薪青薪で、我ながら自分が気持ち悪いです。
どうしよう、もう普通に戻れないかもしれない……!(笑顔)

> 電機屋さん来る前に急いで下さい!(≧▽≦)

えー、せっかくのいちゃいちゃタイムなのに、急いだらもったいなくないですか?笑

 

 (無記名可)
 
 レス時引用不可