09
「…ここ?」
「え?うん、そうだけど」
 大学から徒歩十分くらいの所にある普通のマンション。君は目を丸くして呟いた。そんなに驚く所でもないと思うけど…。
「うお、何だそれ。俺もここに住んでんだよ」
「ええ!?今までここで会ったことないじゃん」
「ことごとくすれ違ってたんだなー」
 引っ越しした時も、ゴミを出す時も、家を出る時も、家に帰る時も、姿は一回も見たことがない。こんなすれ違いあるんだと驚いた。そしてマンションに入ってエレベータに乗った。
「五階?」
 エレベータに乗って「5」のついたボタンにタッチした。それを横目で見ていた君は、嘘だろとでも言いたげな顔で言ってくる。
「うん、五階」
「ええ?俺も…」
 これだけ共通点がるのに、今まで会わなかったことが不思議だ。
「…で、部屋のナンバーは?」
「512」
「…………」
 ちょうど「512」という札がかかった部屋の前で、あたしはそう言った。と同時に、君は隣の「511」の部屋のドアに体当たりをする。ゴンという鈍い音がして、そのまま蹲った。何だ、どうしたんだ?
「ちょっと、中に人いるかもしんないじゃん!」
「大丈夫、ここ俺の部屋」
「―――……何ですと?」
 ここまで来ると、会わなかったことは奇跡に近いと思えた。いや、しかし。これもまた運命なのだろうか?
「じゃ、うん。ちゃんと送り届けたから」
「まるであたしが荷物みたいな言い方だね」
「そんなことないよ」
 溜息をついたあたしに向って、君は座り込んだままニコリと笑った。
「まあ、何でもいいよ。おやすみ」
「おやすみー」
 ガチャとお互いドアを開けて部屋の中に入った。真っ暗な部屋に入って電気をつける。シーンと静まり返る。物音一つしない。ここで物音がしたらそれはそれで恐怖なんだけど。

「はーあ!つっかれたー!」
 独り言を言うのもつらかった。自分の返答に誰かが答えてるような気がした。いつもは普通なのに、今日ばかりはこんなにも平常心が乱れる。こんなにも怖いのはさっきの大学での出来事のせいなんだろうな。悔しいなあ。