「………はあ」
こうやって隣の部屋のドアの前に立っている。インターフォンに指を乗せて押せないまま、もう五分が経とうとしていた。押せないなら帰ってもいい。だけど今日だけは一人きりにはなれなかった。
「っくそー…!」
怖いのを我慢して、今日は何も考えずに眠ってしまおうか。明日になったら恐怖すらも忘れて、またいつもと同じような毎日が繰り返されるのだから。インターフォンから指を離したらドアが開いた。
「…あれ、?何してんの?」
「あ、う…いや、別に」
「もしかして怖いってか?」
「う、煩いな!もとはと言えばアンタのせいだろ!」
君はニヤと口角を上げて薄く笑んだ。その表情を見てあたしは怒りで真っ赤になって、つい声を荒げてしまう。そんなあたしを見てはいはいと言いながら、部屋の中に入れてくれた。
「責任取りますよー。お前が落ち着くまで傍にいてやる」
「……うん」
靴を脱いで上がった。そしてリビングに通してもらう。男の割りに綺麗に片付けられた部屋、真ん中に置かれた黒いソファに腰掛けた。
「何飲む?」
「何でもいいよ」
「じゃ、紅茶で」
「うん」
まだ出会ってから一週間も経ってない。だけど、何でだろう?ずっと前から知っていたような気がする。ほどなくして紅茶の甘い香りが漂ってきた。
「砂糖は?」
「いる」
「何個?」
「んー三個?」
「うわ、すげェ甘党」
「うっさいな」
もらった紅茶に受け取った砂糖三個を全て入れてスプーンでかき混ぜた。君はスタンダードな砂糖も何もないっていない紅茶。あたしの紅茶を凝視している。
「それ、紅茶か?砂糖水じゃねェ?」
「紅茶だよ」
「ちょっとちょうだい」
あたしが一口飲んだ紅茶を奪い取るように手にして、君は一口口に含んで苦笑い。
「甘すぎだろ!」
「普通だって!」
「嘘だ!」
彼はいや絶対紅茶じゃねェと、首を傾げながら自分の紅茶を飲んだ。そして飲んだ後でこれが紅茶だと、独り言のように呟く。
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