俺の好きな場所の一つに、城の一番上にある展望台がある。そこが一番安心できるから、いつもそこで一日の半時を過ごす。今も、俺はそこにいる。
「次期国王」
「ああ、ザックか」
「国全ての者に招待状を送りました」
「ありがとう、ご苦労だったな」
家の執事の一人に、秘書役のリリー家のザックがいる。代々王家に仕えてきた秀才一族で、その中でもザックは群を抜いて頭が良い。若き国王の俺のため、色々とその知恵を使ってきたのだ。それ故、影では「国王のパシリ」とまで言われることもしばしばあるが、それでもザックはそう言われても構わないらしい。そう言われるほど、自分は王に仕えている、という実感が沸いてくるからだ。と、ザックは俺に言ったことがある。
「ザック、もう敬語はよせと言ったはずだ」
「今度国王をなられるお方に、普段語を使うのはどうかと思いますが」
「その国王になる奴がよせと言ったら?」
「…はいはい」
ザックは唯一俺が心を許せる友であり、兄弟のように慕っている仲でもあった。しかし、俺がそう思っているにも関わらず、ザックは誰よりも「身分」を気にする者であった。ある時を境に、ザックは急に俺に敬語を使い始めることになる。それまで夢を語り合って、共に歩いてきた仲間だったのにも関わらずだ。王とその執事という関係でなければ、俺達はどこまで親しくなれたのかな?時々ザックは俺にそう言った。
「まったく、もだ。何でこんなにも急に言い出すんだ」
「仕方がないだろ、昨日思い出したばかりなんだから」
「王の決定式の日付くらいは、覚えていて欲しかったな」
「まあ、結果思い出したんだからいいじゃないか」
「まあ、らしいと言えばらしいけど」
そう言ってザックは俺の隣で、街を一望した。空はどこまでも澄んでいて曇りがない。俺はこの景色をいつまでも見ていたいと思った。この景色を、いつまでもみんなと一緒に守って行きたいと。
「なあ、」
「何だ」
「舞踏会を開いた理由、他にあるんだろ?」
最初は真面目な顔をして言っていたザックも、言い終わるにつれ、顔が意地悪くなる。俺は平然な顔を装っていたが、ザックには何もかもお見通しだ。すぐに心の内を打ち明ける羽目になってしまう。
「何でだよ?」
「…十年前のことだよ」
俺は遠くの空を眺めながら呟いた。
「あるパーティーに呼ばれたことがあるんだ」
「パーティー?」
「ザックも行っただろ?イーストカントリーでのオータムパーティーだよ」
「ああ、あのパーティーか」
秋に行われたそのパーティー。そのパーティーはイーストとノースとが同盟を結んでから十年という年を祝って開かれた。本当の名はオータムパーティーではなかったが、今となってはザックでも思い出すことはできない。文献にも、載っていない。
「その時に同い年の奴と友達になったんだ」
「へえ、お前が友達か」
「煩い。そいつは女だったんだけど、女の中の女みたいな奴だった」
「俺も見てみたいな、そいつ」
本当の所、俺はあいつに一目惚れをしたのかも知れない。元気よく、そいつは声をかけてきたんだ。可愛い顔をして、性格もとても可愛くて、だけど俺より男勝りだったのを覚えている。服はピンクのレースのついたドレスを身にまとい、とても印象的だった。
「もうそろそろディナータイムだけど…降りるか?」
「…………」
「……聞けよ」
「…………」
「!」
耳元でザックの声が聞こえたものだから、吃驚した。少し耳鳴りがする。
「何だ?」
「まったく、もうディナータイムだから降りようって言ったんだよ」
「あ、ああ。もうそんな時間か」
「さっさと行くぞ」
ザックに言われるがまま、俺は展望所を後にした。だが、さっきからあの笑顔が離れない。太陽のように愛らしい…、
「ゆう…」
「ゆう?」
「あ、いや、何でもない」
螺旋階段を下りる最中にふと思い出した。でも一瞬浮かび上がっただけで、すぐに弾けて消えた。
ゆう…?