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 小高い丘に一つ佇む城。周りを高い塀に囲まれ、いかにも街の民を拒否しているように見えるそれ。しかしその城の門が閉まる時はない。王の命令で出入自由になり、住民も入ることが簡単にできるのだ。その城から見る景色は眩いばかりの街の灯りがよく見えた。一つ一つ、命を持っているように。
 月の光りは窓から部屋へ、まるで意思を持っているかの如く舞い踊る。コンコンとドアを叩く音は、その静寂な部屋の空気を切り裂いて、よく聞こえた。
「お呼びでしょうか、次期国王」
「次の紅い満月はいつだ?」
「三日後の二月九日ですが」
「その日に、俺の十七の誕生日と、正式に俺に決まった王の決定式も踏まえて、舞踏会を催そうかと思う。それも盛大な舞踏会をな」
「承知しました、すぐにでも使いに招待状を配らせましょう」
「頼んだぞ」
「はい」
 少年王はまた窓の外を見る。一つずつ消えて行く灯りを見つめ、今は深夜二時。街角のカンテラは灯ったままだ。今宵は灯りが消えるのが遅いなと、そう思いながら、部屋の電気を消し、ベッドに入った。

 朝の日差しは風に乗り、この街まで届く。ここは氷海に近い最北の国、ノースカントリー。この東西南北の国の中で最小の国で最少の人口の国。だから住民たちの仲が良いのかもしれない。氷の海と、夏以外全ての季節に雪に埋もれる大地。とても恵まれているとは言えないこの街でも、住民の笑顔が絶えることはない。真冬にはそう、オーロラだって見れる。街を展望できる小高い丘の上には、我らが崇拝する家の城が建つ。この国で穏やかに過ごせているのも、この一族あってのことだと住民たちは思う。
 濃い藍色の鮮やかな髪を揺らし、少女は赤いポストの中を髪と同じ色の瞳で確認した。彼女の日課はここから始まる。いつもなら怪しいチラシやら家庭教師の誘いの手紙やら、溜息物ばかりが入っているそのポスト。しかし、今日は違った。
「か、母様、これ!」
「どうしたの、。そんなに慌てて」
「ほら!」
 の母は差し出された手紙を見るなり、みるみる顔色が変わった。も同様、驚きを隠しきれない。タイトルは「二月九日の舞踏会の件について」、差出人の欄にはと書かれてあった。手紙は細かく砕いたサファイアを高級羊皮紙に混ぜ込んだ便箋と封筒で、インクは陽光に当てるとレッドに輝き、白熱灯に当てるとグリーンに輝く。どうやらアレキサンドライトを加えてあるようだ。そして「」の文字とそれを象徴する雪の結晶の金の箔押し。封筒にはルビーの封印がしてあった。何て豪華なのだろう。
「母様、私達宛よね?夢じゃないよね?」
 は自分の頬を抓って母に尋ねた。
「夢じゃないわよ。良かったじゃない!貴方、様に会いたかったんでしょう?」
「うん!」
 とても、とても嬉しい。あの様に会えるなんて、この上ない喜び。ずっとずっと憧れていた、あの漆黒の瞳の眼差しに。一度呼ばれたパーティーの時に、遠くから見ただけ。だけどその光景は脳裏に焼き付いて、今でもはっきりと思い出すことができる。
「嬉しそうねえ、本当に」
「えへへ」
「ふふ…タンスの奥にしまってあるドレス、引っ張り出さなくちゃね」
「母様。私、ロザリーと一緒にドレス買って来る!」
 だからお金くださいと、は言った。母は苦笑いを浮かべながら、の手に財布ごと置いた。せっかく様からのご招待だし、だから綺麗になっていたい。ドレスも、うんと派手に目立っちゃうんだから!
「あ、姉ちゃん、ロザリー姉ちゃん!どこ行くのー?」
「あらあら、ちゃん、ロザリーちゃん、何だか嬉しそうねえ」
「嬢ちゃん達危ないぞー!」
「転ばないから大丈夫、平気よ!」
、早く早く――!」
 広い通りを嬉しそうに走っている、二人の少女がいた。