それはそれはいつかの記憶でした。振り返れば、深く深く刻んだ道しるべ。また、歩き出す。
「よし、これでいいかな」
 綺麗さっぱりした部屋を一望して、が言った。塵一つ残っていない。これは、の性格のせいかな。
「あ――!!終わった!」
 うーん、と伸びをして部屋にかかっていた時計を見ればもう二十二時。十時かもしれなかったけど、吃驚して思わず飛び上がってしまった。
「い、今って何時!?もう夜なの朝なの??え、だって、まだ」
「今は六時だよ、十八時。もうすぐ夕食かな」
「え?」
「何せ掃除もしてなくて荒れ放題だったからね。止まってたんだ、時計」
「ほー」
 納得したように、ぽん、と手を叩く。その行動が見た目よりも幼かったらしく、はクスクスと笑った。
――――――――――!!!!!」
 その部屋のドアがバァンと勢いよく開く。入って来たのは、やセザールさんによく似た人。だけど、少し大人びて見える。それに赤い目だった。
「セザールに聞いたぞ!お前が私の家に…女の子をたらし込んだって!!」
「「…え?」」
「いやー、もやっとその歳になったか…」

 最初は理解できなかった、本当に。にしては開いた口が塞がらないとでも言うようにその人を凝視している。
「何でそうなるんだよ!!」
「…あれ?違うんだ?」
「断じて違います。…はあ…全く、兄さんときたら…何を吹き込んだんだ?」
 半分呆れ果てるように、へなへなと頭を抱えてしゃがみ込む。を横目に、その人はあたしの肩をがしっ、と掴んだ。
「君がちゃんか!可愛い子だね。私にも息子じゃなくて娘が欲しかったよ」
「…お父さん…ですか?」
「正解!むしろ本当にお義父さんと呼ばんかね?をもらってくれないかな?」
 スパンといい音がしたかと思うと、が父の頭をスリッパで殴っていた。
「父さん!いい加減にしろよ!!」
「え――、じゃあお前じゃなくて父さんの妻にならないかね?」
 スパン!また部屋中にいい音が木霊する。何てお茶目なお父さんなんだろう。お父さんもセザールさんと一緒の銀髪に赤い瞳だった。だけど、どことなく雰囲気が違う。
「ふふっ、あははははっ!!」
?」
とセザールさんのお父さんだから、もっと誠実な人だと思ったのに」
 面白い人ー、とあたしは笑った。つられて、それから父、というように笑いが連なっていく。
「いやー、家族が増えるのはいいなあ!」
「これからお世話になります。といいます」
「ああ。私はエスモンド・ケラーだ、よろしくな」
 そしてまた三人で笑う。久しぶりに笑うことがこんなにも楽しかったと感じた。いつもなら他人に気をつかってばかりで、嫌われたくないから嘘でも微笑んでた。苦しかったし、寂しかった。でも今は、こんなにも楽しく、こんなにも嬉しく、笑うことができる。
「もうすぐ夕食だから下りてきなさい。他の奴らの自己紹介はその時だ」
「あ、でも」
「大丈夫、もう用意してあるよ。セザールが手配してくれていた。後で礼を言っておきなさい」
「はい!」
 エスモンドさんは優しく微笑むと、階段を足早に下りて行った。その笑った顔がセザールさんによく似ていた。やっぱり親子なんだなあ、と思った。
 あたしの場合は、お父さんやお母さんや母と似ている所なんてあった?最近話してないなあ…。帰ったらすぐ「ただいま」って、それからこのことを話そう、って思った。




 
足跡 08