「着いたよ。ここが、僕たちの家」
「うわ……すご、おっきー…」
 あたしの家を軽く五倍してみた感じだ。家はもちろん大きいし、門も馬鹿でかい。広い家、優しくてかっこいい。あたし…とっても幸せかも…。
「どうぞ、上がって」
 豪華な家は、中も豪華だった。この家の見た目は凄く豪華で、レンガ仕立ての四階建て。そして三メートルばかりの大きなドアを潜ると、まず目に入ってくるのは素敵なシャンデリア。宝石が散りばめられていて、蛍光灯の光で眩しく光っていた。天井は見上げるばかりに高くて、四階まで軽々見れてしまう吹き抜けオープン。三階には多くの部屋のドアが並んでいた。に聞くと、あれはどうやら兄弟の部屋らしい。
「左から順にセザール兄さん…で末のベルナール。綺麗に並んでるだろ?母さんが決めたんだよ」
 はそう言って苦笑していた。
「確か一つ空き部屋があったなあ」
 はそう言って三階まで上がると、末のベルナールの部屋の隣のドアを開けた。ぷーん、とほこりとかびの臭いが立ち込める。
「うわ、思った通りだ。母さん…ずっと掃除サボってたな」
 そう言ってその部屋に足を踏み入れる。
「うっ」
 くさっ…凄い臭いだよ。でも、臭いとは裏腹に部屋は何もなくて意外とすっきりしていた。
「これは掃除から始めるしかなさそうだな…」
 は部屋を一望して言った。それにあたしも首を縦に振って答える。
、廊下の東の突き当たりに小さな倉庫があるから。そこから箒取っておいで」
「はーい」
 うわ、こりゃ酷い。はタンスの中を開いて顔をしかめた。
「取ってきたよ」
「じゃ、さっそく取りかかろうか」
「うん!」

「…何やってんだ?
 掃除を始めて何分か経ったころ、ドアの付近で声がした。手を止めて顔を上げてみると、そこには銀髪で赤目の青年が立っていた。髪はあちこちに跳ねていて、どうやら寝癖がついているらしい。
「ああ、兄さん。帰ってたんだ」
「…お兄さん、てことは…セザール…さんですか?」
「何だ、から聞いてるんだ?こりゃあ自己紹介するまでもないかなあ」
「そんなことないよ、兄さん。は兄さんのこと何も知らないんだから」
 セザールはうーむ、と呟いた。かあ、と言った声が微かながら耳に届いた。
「僕のことを聞いても得なことはないけど…。僕はセザール・ケラー、こう見えてまだ二十歳だよ」
「えっ!…もっと歳行ってるように見えた…」
 小さく呟くと、セザールは「やっぱり…」と哀しそうに答えた。
「どうもこの髭のせいかなあ…歳相応に見られたことがないんだよ…」
「……それは身形のせいもあるかと」
「えっ?」
 セザールは不意を突かれたように目を丸くする。
「それは僕が格好を気にすれば二十に見えなくもないと?そう言いたいのか、ちゃん?」
「まあ…そう言いたいです」
 苦笑交じりで答えたあたしに、セザールさんは満面の笑みを浮かべる。余程嬉しかったらしい。それをみたが、少し呆れながらもセザールに声をかける。
「でもその髭は剃らない方がいいと思うよ」
「何でだ?このせいだと僕は思うんだけどなー」
「ベル、相当へこむと思う」
「うーむ」
 セザールは軽く腕を組むと低く唸り始めた。ベル…って言うのは、老師をサッカーに誘ってたベルナール君のことかな?
「髭を剃るのはベルナールがもっと大きくなってからだな」
「それでこそ兄さんだ」
 は笑顔でそう言うと、また部屋の掃除へと移る。
ちゃん、ゆっくり気ままにしていってくれよ」
「はい!」
「まあ、ここでは毎日が戦争みたいなものだけどね!」
 セザールはそう言い残すと、片手を振って階段を下りて行った。

「セザールさんって、本当いい人そうだよね」
「そうだね、外でも内でも態度変わらないからね。もちろん老若男女問わず」
もいい人よ、もちろん!」
「…あ、あは。そうかなあ、そう言われると照れちゃったりして…。……う、わああっ!」
 ドサドサと景気のいい音を立てて、タンスの上からダンボールの山が落ちる。どうやら中には服がやらタオルやら、布類が入っていたようだ。また派手にぶちまけて。
「いてて…」
って意外に照れ屋さんなのね」
 ダンボールの山の下から這い出したに、あたしはダンボールをどかしながら言った。途端にの顔が赤く染まる。
「ま、まあね!たまにそうやって言われないこともないんだけど…」
 明らかに動揺して先程までの冷静さは欠片もない。でも、これはこれでの一つの顔が見れた、と、あたしは笑った。
「あーもー、!そんなにも笑うなよ!!」
「はーい!」
「はい、掃除掃除!手が止まってるよ」
 またとセザールさんにしか会ってないけど、この家の人たちはみんな優しいのかな、と思う。心が弾んで、また弾む。こんな思い、ここずっとしてなかった。この国の、もっと知らないことを、知りたいよ。アルベルツって本当に不思議な所…。




 
足跡 07