「ビアージョ老師、お出でですか?」
「ああ。おるよ、おるよ。どうしたんじゃ、?」
「彼女が聞きたい事があるそうで…」
「こ、こんにちは。ビアージョ老師…」
ビアージョ老師は思ったより優しそうだった。白い顎髭が長く、長く続いている。身長の約三倍程は軽くありそうだ。しわしわな顔にもっとしわを寄せて、優しそうに老師は微笑んだ。
「これはこれは。また大層なお客さんじゃ。どれ、そこに腰かけておくれ」
「はい」
「では老師」
「ああ、分かっとるよ」
老師はよっこらせ、と言って腰を下ろす。その姿がまるであたしのお祖父ちゃんみたいだと心の中で笑った。
「で、お前さんの名前は?」
「です」
「何と…、とは…」
「?」
老師はさっきの優しそうな笑みとは打って変わって、真剣な眼差しであたしを見た。
「昔々の言い伝えじゃ。どれ、この書物を見てもらおうかの」
老師が目の前に垂れ下がっていた紐を引っ張ると、そこから棚が下りてきた。棚を丁度良い高さに下ろすと、何やら古惚けた紙の束を見せてくれた。そしてまた棚を元に戻す。
「ここの、三十二行目じゃ。儂の先祖のディ・パルマがな、予言したんじゃよ」
「予言?ですか、これが?」
全く読めない字。英語なら少しくらい分からなくても、読める字を繋げて行けば大体意味は通る。でもその書物の文字は、英語とは言いがたい字体だった。
「ここはアルベルツじゃがな、儂らはドヴィッツィオーゾから移住して来た民族なんじゃ」
「ドヴィッ…?」
「聞き慣れないかな」
老師は、ほっほ、と驚いているあたしを見ながら笑った。
「老師、この子は日本と言う所から来たらしいのです」
「――な、日本じゃとっ!?それは真か!!」
「は、はい。この子がそう自分からいいましたから…」
老師の態度が一変する。穏やかな態度から、少し焦りの出た態度へ。それは誰の目から見ても同じだろう。
「ディ・パルマの言う通りじゃ…」
「老師?」
「え?」
「この書物にはな、こう書いてあるんじゃ―――…」
老師は目を細めてその書物を読み上げた。
幾百年の遥か時の流れより、一人の心優しき汝現るる。
温かきその者が力より、苦しき争いこそ絶えりけれ。
その者、フミが意思を引き継ぐ者なり。
その者、遥か来世が日本より時を越える。
「…ディ・パルマの、最期の言葉じゃ」
「その者と言うのが…彼女、だと?」
「…そう言える」
あたしは静かに俯いた。…嘘だ。だってあたしは普通の人間だもの。……信じない、信じたくないよ。
「あの…」
「ん?」
「フミ…って誰ですか?」
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足跡 04