「つけるの?」
「Yes」
 青年は首を縦に振りあたしの掌にピアスを乗せる。あたしはピアスを受け取って左耳に付けた。途端に青い光があたしを一瞬包み込み、空気に吸い込まれるように消えた。
「…今の何…?」
「僕の言葉、分かる?」
「…え…に、日…本語?」
 ピアスを付けると青年の言葉が分かるようになった。驚きすぎただろうか。青年は一瞬驚いたように目を見開いた。そのすぐ後には面食らったようにクスクスと笑い出す。
「それは通訳ピアスだよ」
「通訳…ピアス?」
「だから僕には君の喋る言葉が僕らの言葉で聞こえるんだ」
「へえ…」
 そんなに凄い力持ってるんだ、と、左耳につけたピアスを鏡越しにまじまじと見た。

「…ところで、君はどこから来たの?」
 軽く腕組みをして、あたしの目をじっと見る。黒い瞳だった。
「え?どこから?」
「聞き慣れない言葉を喋ってたでしょ?ニホンゴだ、って」
「それは日本から来たに決まってるじゃない」
 それを聞いた少年はまた驚いたように目を見張る。
「ニホン…?」
「ここはヨーロッパじゃないの?」
「…ヨーロッパ?残念だけど、ここはヨーロッパじゃないよ」
「え?」
「それにこの世界にはニホンと呼ばれる場所は存在しないんだ」
 ヨーロッパじゃない?しかも日本が存在していない?ありえない、ありえないわよ…。
「じゃ、どこなの?ここは…」
「アルベルツだよ」
「アル…、って、え?」
「……アルベルツ。知らない?」
「…」
 …何で、こんな所にいるの?
「…」
「どうしたの?どこか痛い?」
 俯いた顔は上げようと思っても中々上げれなかった。初めての土地、しかも自分の祖国が、ない。
「…誰?」
「ん、何?」
「………この辺で一番物知りな人って、誰ですか?」
「…ディ・ビアージョ老師、だよ」
「…あの」
「ついておいで。案内してあげるから」
「…はい!」
 なぜそんなことを思ったか自分でも分からないけど、物知りな人なら知ってると思った。
「ちなみに僕は・ケラーって言うんだ。よろしくね」
「あ、あたしは。こちらこそよろしくお願いします。ケラーさん」
、でいいよ。みんなもそう呼んでくれるし」
「はいっ!」
 何だろう?傍にいるだけでほっとする、この安堵感は…。




 
足跡 03