自分の好きなことだけやって、嫌いなことを捨てたかった。だけどそれは人をよりいっそうわがままにしてしまう。
「えっと…グラウンドから行こうか。グラウンドは基本九教科あるんだ」
嫌そうな表情になったのは、それはそれで勉強が嫌いだから。それを見てはクスッと笑った。
「入るクラスにもよるからね、あまり詳しいことは言えないよ」
はそう言って一つずつ多少の説明をつけて教えてくれた。
「主に国語、社会、数学、理科が一般的かな」
「うえー」
「あとドヴィッツィオーゾの古代語のラナ語を習うんだ」
「あの意味不明な文字?」
「うん、あれ」
嫌いな四教科出たよ、これ毎日やってると疲れるんだよね…。英語がないだけいいや、うん。
「あとは保体、技家、音楽、美術…かな。で、マンス学園は寮だからね、土曜日も午前授業があるんだ」
「え――っ、そんなあ…グラウンドにはなりたくない、絶対!!」
「そんなにも勉強嫌い?」
「大嫌い!」
自分でもびっくりするくらい大きな声になっていた。がぱちくりと目を見開いている。
「んじゃ、次はスカイね。いっぱいあるよ。まずは基本四教科ね」
「やっぱりあるんだ…」
少し悩まされてしまう。グラウンドに入っても、スカイに入っても、やって行ける自信がない。
「あとは心理学、薬学、占い学、動物学、魔法学、変身術、錬金術、飛行術、呪術…かな?」
…どこの世界?魔法…あの、魔法?しかも錬金術かよ!
「大丈夫、すぐ慣れるよ」
「そーかな」
「みんなそんなもんだよ」
の笑顔だけが、今は頼り。クラスに入るなら、のいるプランがいい。あたしはそう心に決めた。
「言い忘れてたけどね、四月に校対抗体育祭、十月にクラス対抗体育祭があるんだよ」
「体育祭!?それは面白そう!」
が優しく微笑んだ。それほどあたしは嬉しそうだったんだろうか?
「体育祭と言っても試合とか喧嘩に近いんだけどね。は棒取りでいつも一位さ」
「棒取り?」
「でもは殴って奪い取ってるんだけどね」
「殴って…!!?」
本当の殴り合いなんか、見たことがない。それ以前に殴られたことすら、殴ったことすらあたしはないのに。
「え、え、女子も?」
「男子だけだよ。いつも口から血を流して帰って来るんだよ、」
は苦笑混じりに答えた。
「女子は…何だろう。それでも激しいよ」
「…し、心配になって来た」
そう言うとは含み笑い、椅子から降りてベッドに座っているの隣に座った。
「大丈夫だよ。は逃げてればいいから」
「……逃げるの、嫌いなんだけどな。負けたみたいで」
「その意気込みだよ、」
大きくて優しい掌で、頭を撫ぜてくれる。…何でこんなにも優しいんだろう?
「もう十一時か…明日は早いんだし、もう寝ておいで?」
「うん」
「眠れなくなったらいつでも来ていいよ」
「あたしそんなにも子供じゃありませーん!」
あっかんべーと舌を出し、わざとドア思い切り閉めて、大きな音を立てた。そしてふと、の部屋の前で止まる。
今度は、いつ出て行くんだ?と言った、あの言葉、あの瞳。多分一生忘れられない。
「…」
きゅ、と口を真一文字に結んで、無意識にドアの取っ手にかけようとしていた右手をもとに戻す。重い足取りは、自分の部屋まで続いた。どさ、とベッドに寝転ぶと、すぐに瞼は閉じて行った。明日は、ついに学校が始まる。
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足跡 14