「さあ、今日はパーティだ。ほら、笑った笑った!」
 エスモンドさんはどこからかクラッカーを出してきた。パァンと大きな音がダイニングいっぱいに広がる。
「…そうだね。、座ろう」
「…うん」
 空いている君の席に腰を下ろして、美味しそうな料理を見る。
「エスモンド、ワインもあるわよ」
「おお、セザール飲むかい?」
「じゃ、一杯だけ」
 グラスに注がれるワインの赤。あたしのグラスにはオレンジジュースが入っていた。それに自分の顔を映して見ると、眉が垂れて情けない表情。わざと笑ってアダルと乾杯した。
ちゃん、肉は好きかい?」
「はい、少なくとも魚よりは」
 「好き嫌いはいけないぞ」とエスモンドさんは微笑む。エスモンドさんがくれた肉はとても美味しくて、今まで食べたことがないくらいだった。
「それ、ねずみの腸だよ」
「ごほっ!」
「アダル!!」
 「嘘、嘘」とアダルはけらけらと笑った。が「この馬鹿」とアダルに言うのが聞こえた。
「嘘だよ、誰もそんなの出たら食べないって!普通の牛肉だよ」
「野生の牛だから身がいっぱい詰まって美味しいんだよ」
「…野生の牛なんかいるの?」
 ベルが「知らないの?」とでも言うような表情であたしを見た。だって普通牛って言ったら小屋の中にいるでしょ?
「野生だよ、その辺を歩き回ってる。この辺りが飛び抜けて都会なだけさ」
「へえー」
 そう言えばアルベルツの風景しか知らない。この世界はどれだけ広いのだろう?山はあるのだろうか、海はあるのだろうか?それに学校は?
「明日からみんな学校だろ」
「うん、そうだよ」
「あー、すっかり忘れてたな」
「ちょうどいい時に来たね、ちゃん。明日から新学期なんだよ」
 そう言えばあたしの世界では冬だったような気がする。もうすぐ冬休みが近いから、みんな嬉しそうだったのを覚えている。
「今は…冬、ですか?」
「うん?そうだよ」
「え…でも寒くない、ですけど?」
 あたしが言った言葉に、アダルはまたしても笑う。どうやら頭が悪いとでも思われているに違いない。
「ここでは寒くて雪が降るのは夏だよ」
「え!そうなの!?」
 どうやらここでは暑いのが冬で寒いのが夏、桜が咲くのは秋で葉が落ちるのは春らしい。そして新学期は一月一日、今日はちょうど十二月三十一日だ。お盆が新年を迎える日だそうだ。そしてクリスマスが八月五日。
「八月のクリスマスだ――…」
「なかなか素敵だろう?」
「はい!」
 エスモンドさんはあたしに優しく微笑むと、もうすぐお風呂に入りなさいと言った。服を貸してあげるから、と。
「僕、お姉ちゃんと入る!いーい?」
「もちろん、いいよ!」
 「わーい」とベルはぱたぱたと走り回った。

「ん?」
「ベル、ちょっと変態だからさ。胸触られないよう気をつけろよ」
 アダルがあたしに耳打ちする。途端にあたしは真っ赤になった。
「なっ、ななななな…」
「じゃーな、忠告はしといたぜ!」

 案の定、ベルは変態だった。まあ、この年頃はまだ母親が恋しいのかも知れないけど。そしてまたアダルに笑われる、そしてアダルはに叱られる。エスモンドさんとセザールさんは二人で酔いつぶれていた。君が食器を持って下りて来て、顔をしかめていた。
「懲りねーな」
「本当のこと言うなよな、ー」
「だから言うんだよ」
 どうやら君が兄弟の中で一番仲がいいのはアダルらしい。みんながお風呂に入り、面白いと評判なテレビを見たあと、テルシェさんが言った。
、寝る前に学校のこと、に説明しておいてね」
「分かった」
 そしてばたばたと階段をみんなで上がる。あたしはアダルと小突き合いながら上って行った。




 
足跡 11