「母さん、は?」
?まだ二階でしょ、下りてきてないから」
 「ふーん」とは言うと、二階に向かって叫ぶ。
ー!早く下りてこいよー」
 返事はなかったけれど、返事の変わりに軽くトントンと階段を下りる足音が聞こえた。そしてガチャと扉が開く音がした。
、新しい家族だよ。ちゃん、って言うんだ」
 君は言わば他の家族のみんなと比べれば、一人だけ浮いていた。みんな笑顔が絶えないのに、だけ笑顔がなく目付きが怖い。
「……ふーん」
「挨拶は?」
「………今度は」
 静かに君は口を開いた。黒髪の髪の間から、漆黒の瞳が覗く。
「いつ出て行くんだ?」
「え?」
!!」
 セザールさんが驚いたように叫んだ。
「セザールは黙ってろよ。だってそうだろう?」
 の話によれば兄に当たるはずのセザールさんを一言で押さえ、あたしの方に向き直る。君は人を見下しているかのように、感情なくたたずんでいた。黒い瞳には何も映らない。
「今まで何人の輩がここに来た?そしてことごとく逃げていった奴は、誰だ?」
「え、どう言う…こと?」
「いつまでここにいられるか。見物だな」
 鼻で笑いはそう言うとお盆を手に取り、そこに母テルシェさんが作った夕飯を乗せる。
「二階で食べる」
「お盆と食器持って下りてきなさいよ?」
 「分かってる」と言ってはまた二階に上がって行った。あたしはその様子を呆然と見る。

「えっと…」
「ごめんなさいね、気にしないで。ああ言う子なのよ、
「テルシェ、諦めたように言うもんじゃない」
 そうね、と小さくテルシェさんは笑った。その笑顔はどこか哀しそうだった。
「…一度も、笑った顔を見たことがないんだ」
 セザールさんはもういない階段を目を細めて見た。その横顔がどこか寂しげだった。




 
足跡 10