five
「…すいませんでした、本当に申し訳ありませんでした」
力なく土下座をして、頭を床すれすれにまで下げる。周りから笑い声が上がるけれど、そんなの今は気にしている余裕も何もなかった。ただ、助かりたい、その一心で。
「いいぜ」
「…!」
「なんて、言うと思ったか?」
俺がどういう奴か知らねェのかとでも言いたげな冷酷な目付きに、ここから逃げ出したくなるのに動けなくなる。崖から深い深い谷底に突き落とされた気分。血の気が引くとはまさにこのことだ。冷たい。
「謝ったら許されるなんて間違いにも程があるぜ」
やっぱりと熊川は思った。そして半ば半分諦めたようにの目を見つめ返す。その瞳にはやはり何も映らない。光も意思も何もない。無だった。広がるのは漆黒の闇。
「謝って済むなら警察なんて要らない、信用や信頼だった失わない、ボコられる必要もない。今までどれだけの奴が許しを媚びて来たか知らねェだろ」
はカフェに集まった生徒を見渡して右手を高々と上げた。合図。
「全校生徒による血祭りの刑。只今、執行する!」
の声と同時に生徒が一斉に熊川に殴りに掛かった。ここでのルールは一発でも良いからチェックメイトされた人間を殴ること。殴らないのならBTに逆らったことを意味し、今度は自分が被害に遭う。無論自分は今までに本当に殴ったことなんてない。殴った振りをして生徒に紛れ混雑するカフェを抜け出す。今回も上手く抜け出せたと思った、ハズだった。
「オイ、そこの一年女子」
今回ばかりは本当に運が悪い。
「テメェ、いい度胸だなァ、オイ。ここから抜け出すなんて、あァ?」
の目に留まってしまった。その声をきっかけに殴っていた生徒たちの手も止まる。熊川が驚いた表情をしてこちらを見た。全校生徒の目が私に向けられ、が面白くなさそうな顔をして近付いて来る。
「博喜」
「。一年A組、学力は『優』。父は匡、母は美絵」
「?聞いたことねェな」
私は虐めが嫌いだった。喧嘩も嫌いだった。つまり暴力と言うものに吐き気を覚える程に嫌悪感を抱いている。やBTの連中は暴力そのものだった。イコール、私の大嫌いな人。同じ空気を吸っているだけで眩暈が起きそう。これは少し大袈裟に誇張した表現だが、それほど嫌いな人間だ。
「オイ、何か言えよ」
「貴方にくれてやる言葉なんて、何一つないわよ」
「あ?」
「天下の様がこんな器の小さいことやって何やってんの?皆で寄って集って一人の丸腰の人を殴って蹴って、日々の鬱憤を晴らしたいだけなんじゃないの?単なる憂さ晴らしだよ、ストレス発散じゃん。こんなの、小学生以下だよ」
この人は危険だ。今まで出会って来た人の中で危険な人物の頂点に君臨する。危険なのに、自分の身が危ないのに、腸が煮え繰り返ってどうしようもなかった。
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