エブラーナ 
「殿下!」 
じいや点滴がらがら引いてエッジの元へ歩み寄り 
「おうっ、調子はどうよ?」 
エッジ、書類を丸めて置く 各地に散らした”草”からの報告書 ダムシアン、ファブール、トロイア、そしてミシディア ステュクスが活動停止した旨が記されている 
また、トロイア・ミシディアの共同開発ワクチン完成 治験第一号じいや 経過は順調 程なく他三人の治療に移れる 
「心配には及びませぬ! それより、殿下。」 
うぇっ、この話の流れは…… エッジじりじり後ずさり、くるっ背を向け歩き出し 
「どちらへ行かれます、殿下。」 
「あー、ちっと気分転換に山の空気でも……」 
「それは結構ですな。では手短に参りましょう。」 
じいやのターン 
「爺はつくづく思ったのです。いつまた此度のような事故に見舞われ、動けなくなるやもしれませぬ。ですから、殿下におかれましては、より丁寧な言葉遣いに改め、意地悪をしたりせず、真面目になっていただきたい。」 
「はいはい……」 
 徐々に歩を早めるが、老人の健脚は振り切られる気配を見せない。 
「そして、早急に跡継ぎをですな――」 
「分ーってる分ーってるって!」 
 いよいよエッジは駆け出した。 
「分かっておられたら、毎日娘どもを悪戯に追い回すばかりでなく、迅く妃をお決めくだされ!」 
老人に見合わぬ健脚じいや 点滴がらがら鳴らして追いすがってくる 
「病人は大人しく寝てろっつーんだ!」 
「生憎病ではございませんので、お気遣いには及びませぬ。殿下、まだ話の途中ですぞ、お待ちくだされ、殿下!」 
待てといわれて待つ馬鹿はいない。エッジは開いた窓に向かい一目散に逃げ出す 
 
ミシディア 
「その時だぜ! オイラが得意のブリザドで――」 
ぽかっ!の代わりに、頭を撫でる長老の手が被さる 
「また一回り、大きくなったのぅ。」 
「あったりまえだろ! コドモはあっという間にセイチョウするもんだぜ!」 
後背にパロムの自慢話 目の前に、千日手のままのケッズ盤 駒を手遊びながら、ポロムは空の向こうを見つめる 
世界は再び平穏を取り戻した。あの旅は決して懐かしく思い返して良いような呑気なものではなかった。なのに、過ぎた時間はいつでも愛おしい。 
「ポロ!」 
「うん、分かってる。」 
 旅を終え、皆がそれぞれ居るべき場所へ戻った。自分たちはミシディアに。エッジはエブラーナに。 
 そして、彼はバロンに―― 
 自分たちと一緒に、ミシディアへ戻る船に乗るのだとばかり思っていた しかし、タラップを渡って振り返ると、船着場に残る彼の姿があった。「長老によろしく」そう言伝て、手を振る彼の姿は、波の向こうに呆気なく見えなくなった 
※パロム、手すりに背を凭れ掛ける 
※「……あーあ。ほんっと、やんなっちゃうよ! オイラ書き取りで忙しいってのに、バロンへ行かなきゃいけないんだぜ?」 
※ポロムはてな顔 パロム、少女の様子をちらちら伺いながら、大仰にため息をついてみせる 
※「ヒクーテイに乗せてくれるって約束したのにさあ、ニィちゃんきっと忘れてるんだ! とっちめてやんなきゃ。」 
※パロム鼻の下を擦り上げ 
※「……もし、どうしてもって言うなら……特別に、ポロも乗せてあげてもいいんだけどなぁ〜? ……一緒にバロン行く?」 
「パロム……」 
※ポロムくすくす 弟はいつのまにこんな気遣いが出来るようになったのか 
 姉と頬をくっつけたパロムは、姉の眼差す雲の彼方を指さした。 
※「デビルロードでひとっ飛び、すぐ行けるもんね!」 
「うん!」 
会いたければいつでも行ける 同じ空の下、隔てる距離は遠くない 弟の指さす空に、少女は笑いかけた 
 
バロン 
ローザ、トロイアに宛てて手紙書き中 ペン置いて重石の位置替え 「今度は二人で参ります」って綴り 
ばーんっ扉開く音が響き 
「おぅっ、いかん!」 
ばーんっ扉閉まり こんこんっとしゃっちょこばったノックの音 ローザくすくす 
「どうぞ、入って。」 
ばーんっ再び扉開き 
「邪魔するぞい!」 
「シド、自伝の執筆、進んでる?」 
ローザの先制攻撃 シドはうっと呻いた 
「それなんじゃが……どうしても書かなきゃいかんか? ワシゃ書き物が苦手なんじゃ……。」 
「これから先の未来を生きる人たちに、シドの技術をシドの言葉で正しく伝えてほしいの。お願い。」 
シド唸り そう言われると悪い気はしないが、やっぱり書き物は苦手 シド咳払い 
「……それで、奴らはどこじゃ?」 
ローザふふっ笑い 
「二人だけで会議ですって。やぁね、男の子は秘密主義で。」 
懐かしい景色を思い起こすかのように、娘は笑窪を刻む頬に手杖を当てた。 
 
バロン城廊下 
 若き王の表情は、問う前から存分に委細を知らせる。カインは苦笑し、疲れきった顔に労いの言葉を送った。 
「お疲れさん。」 
「一生分の小言を聞かされて来たよ……」 
親友は深い溜息で長椅子の隣に腰掛ける 
 陸侯たちに散々絞られたセシル、再度深いため息 会議の内容は、先の緊急避難指示に伴う市民への補填について 独断専行をセシルが謝ったら、陸侯が「恐れながら陛下」ときて 「謝らんで結構。率直に申し上げて、昨今の陛下は素直過ぎて気味が悪い! 戴冠よりこちら、かつての生意気さはどこへ消え失せてしまったやら。何か悪い物でも食べたのか、それとも別人になってしまったのかと皆案じておったのです!」とキッパリハッキリ 鳩鉄砲顔するしかないセシル 居合わせた諸侯ははは大笑い 
「シドといい陸侯といい、別人別人て……僕が大人しいのはそんなに変なのか……!?」 
セシル頭抱え カイン笑い 諸侯もシドも、先帝の時代からそんなもんだ 
「ところで、今回の件の報告だが――」 
「それなんだけど……どう書いたものか、見当が付かないんだ。」 
肩を落とすセシルに、手にした紙束を振って示す 
「だろうと思ってな、目を通してくれ。」 
カインから手渡された書類にざっと目を通したセシルは眉を顰める ページを繰る音の締めに不満げな溜息 
「これじゃあまるで、全て僕の手柄みたいじゃないか……。」 
「ああ、それでいい。」 
「しかし――」 
「これが、俺達の総意だ。」 
セシルの反駁を遮り、カインはフッと笑う 
「もっとも、それ以上に説得力のある報告を作れるというなら、話は別だがな?」 
 そもそも作文が苦手なセシル 論文の得意なカインが全ての情報を得て仕上げた報告書に太刀打ちできるわけがない 
筋書きはこうだ――地下水路に封じられていた古代の魔物の復活をいち早く察知し、見事討ち果たした英雄王セシル。難しいのは”古代の魔物”の実在証明だが、もちろん、シドとケルヴィンが証言を惜しまない 
各地で散発していた怪異を結ぶ糸の重要な結び目は全てカイン達の手にある 結び目をどんな形に解いてみせるかはカイン達次第 そして、カイン達の結論として、絡まった糸の解き方はこの形が一番 セシルならきっと巧くやれる 
「でも、よく分かったね? ウルのこと。一体どうやって?」 
カイン肩竦め 開いた手で宙に描いた世界を一撫でする。 
「大変だったぞ。世界中回って、月まで行った。」 
「そうか……。」 
セシルははは。軽い笑いで頭の後ろに両手を組んだセシルは冗談めかして。 
「いいなぁ、僕も一緒に行けばよかったよ。」 
「そうとも。」 
カインはっきりときっぱりと一言答え。セシル笑ったまま俯き。 
「――そうだね。」 
皆を信じれば良かった 
 誰かに頼ってはいけないと思ってしまっていた 信じることができなかった 独善に陥っていたせいで、危うくこの星に酷い災難を招いてしまうところだった 
※「お前こそ、ウルの遺跡の存在をどこで知った?」 
セシルの苦笑い 
「力を受け継いだ時、父の記憶が少し見えたんだ。」 
苦笑を崩さない幼なじみ いつもそうやって心を隠す ”少し”ではない、恐らく記憶の多くを見たのだろう。 
突如明かされた己の出自 確かに両足を付いていたはずの地面から突然投げ出されたに等しい 長年疑いすらしなかったアイデンティティが揺らぐ恐怖 クリスタル戦役時、最終ボス戦後に月の民と別れ、「僕らの星に帰ろう」と言った時のセシルの表情を印象深く覚えている 穏やかに笑って滅多に自分の感情を見せない親友の、心から安堵したような横顔 
「僕は冷たいのかもしれない。」 
帰路へ向け操縦桿を手にしたセシルが、不意に浮かべた自嘲の笑み なぜそう思うのかを問うと 
「月の民が去ると聞いて本当に安心したんだ。実の兄と伯父なのに、彼らと会えなくなることより、僕まで月に残れと言われるかもしれないことが恐かった。」 
※あの時と同じように、静かに語り出すセシル 
「自分は王の器ではない 英雄という輝きがいつまでも続くわけがない 大体、あの戦いは僕一人ではなく、皆の協力を得られたからこそ戦い抜けた」 
誰かに聞かせるというより独り言 自分と対峙するためには時として味方・耳が必要 カインはあえて相槌を打たない 
「試験飛行に飛んだ飛空艇が帰ってこなかったから戒厳令を敷いた そこへ運悪くミシディアから使者が来たと聞いて、それがお前たちだと知って、しかし王命を真っ先に王自身が破るわけにはいかない 牢獄へ送らないわけにはいかない ……もうだめだ、耐えられないと思った」 
※今件の発端となったミシディア飛空艇事件 バロンでも当初遭難事故として調べ始めたが、ほとんど燃料を積んでいない機体だったため、計画的な国外逃亡に扱いが切り替わった 少し考えれば分かる道理 なまじステュクスの存在を知っていたがために、飛空艇失踪と戒厳令発令の因果関係をごっちゃにしてしまっていた 自分も、ありもしない陰謀論に足を掬われ、親友を疑ってしまった かつての大叔父のように 
「王の位は僕には重過ぎる 月の民としての精算を全て終えたら退位しようと、そう決めたんだ」 
木漏れ日の中に長い影が引かれる 
「それがまさか、そんな大事件と繋がっていたなんてね……。」 
「ああ。”主亡き玉座の間に現れた赤い腕”の謎もやっと解決だ。」 
「赤い……あの場所で何か見たのか?」 
セシルがびっくりするからカインもびっくり 
「覚えていないか? クリスタル戦役の一年前に起きた兵士の失踪事件だ。壁から赤い腕が伸びて――」 
「壁から腕……赤い?」 
セシルきょとん 赤い腕、赤い腕としばらく呟き繰り返した後、宙に文字を二段に分けて綴る 
「……もしかして、片腕の『隻腕』を、赤い『赤腕』と勘違いしてるかい?」 
「片……セキ腕?」 
 音の響きのよく似た言葉 まさかセシルがこんなことで自分を騙して何の得があるとは思えない 報告書を再確認するかというセシルの好意を断ったカインは頭を抱える 報告書はあの時ちゃんと見た筈だ 綴りを見れば間違えようがないはず 一体どこで、いつ、伝言ゲーム状態を起こしてしまったのか 
 らしからぬ勘違いにセシルふふっ笑い そこにノックの音が響く 
「お話中失礼します、陛下。※皆、陛下と会うのを楽しみに城の前に集まっています」 
「分かった、すぐ行くよ。」 
返事をするセシル。王の返事を賜った若き近衛兵、セシルとカインそれぞれに敬礼して去る 
カインフッ笑い 新調した竜槍の石突きで床を軽くとんとん具合確かめ 
「ああ、そろそろ――」 
 親友の旅立ちの時間が訪れたことを知ったセシル、振り返ってカインの笑みに気付く 
「どうかしたかい?」 
「お前に、皆の前で退位を言い出す勇気が、果たしてあるかと思ってな。」 
セシル口をへの字に曲げ しかし一転、その顔は晴れ晴れとした笑みに塗り換わる 
「もう当分、頑張ってみるよ。」 
 君主の宣誓を受けたカインは気取って立ち上がり、竜騎士団式の最敬礼を王に捧げる 竜槍を一回して肩に立て掛け、石突きで床を一度突く  
敬礼を納め、足下に纏めた荷物を肩に負うカインに、セシル座ったまま声を掛ける 
「またミシディアに戻るのかい?」 
「ああ。痛感したよ、力不足をな。」 
自分にもっと力があれば、回避できた筈の危険がたくさんあった――肩を竦める 
「修行のやり直しだ。」 
「そうか……。」 
セシル眩しげにカイン見 あの日並んで旅立った門から、今一人旅立つ友人に手を向ける 
「また会おう、カイン!」 
「ああ、また会おう!」 
親友と交わす挨拶 成されるとも知れぬ確かな約束を胸に、カインはバロンを後にする。 
 
 背に遠く、王を迎える人々の晴れやかな歓声が聞こえる。健やかなる故郷。快い笑みが口元を解く。それは暖かな日差しのように、前へ進む気持ちを力強く後押してくれる。 
 この一歩へと繋がり、この一歩から続く道を歩いていく。故郷を過ぎ、目前にどこまでも大きく広がる世界。その空を仰ぐ竜騎士の瞳に、深淵の青が照り返った。 
 
 
 
   ・THE END・ 
 




LastModify : February/26/2016.