渾然一体の暗闇がゆっくりと回り出し、やがて闇と光に分かれる 
 今やはっきりと別れた白と黒の明滅 段々明滅する速度が早くなる 回転するプロペラの生み出す影 
 長い夢を見ていたようだ はっと我に返る 
 甲板で出撃準備の様子を見る 空は一足先に血の色に染まっている 夕暮れ 太陽を背に進む 足の前に長く黒い影 
甲板には暗い顔の兵士たち 雲行きが良くない 
 攻城戦はただでも防衛側有利 攻勢の不利を飛空挺が補えるはずだったが、どうも今ひとつ巧くいっていない感じ 
※新しく就任した隊長の作戦 飛空挺を投石機的に使用 飛空挺からの砲撃で門を開くまで壁の守備を引き付ける・どこか一箇所でも壁を壊せれば上々 後は物量作戦で押し潰す 
 ところが、正規空軍の地上部隊は、先のダムシアン戦で疲弊 代わりの地上部隊の兵士達は練度が低い 戦力不足を補うためにモンスター入れて混成軍になったが統率バラバラでなお悪い 
 頼みの主力・海兵団は、今作戦の最重要拠点である港湾施設の制圧に当たっている 制圧が終わり次第援軍に来てくれる予定だが、それを当て込むわけにはいかない・そもそも、援軍到着までにそれなりの形になっていないと意味が無い ※作戦は、まず港湾施設制圧 基本、ファブールは海からの攻撃を想定してる(山越えがきついから) 今回山越えて兵力送るわけだが、港湾警備と挟み撃ちされると困る&クリスタル持って海に逃げられたら困るからと、海軍に取り返しに来られたら困るし ついでに、本来の城攻めのデコイ的にも 
 
戦闘開始 闇雲な爆撃で壁の守備を叩き手一杯にしている間に地上部隊第一陣投下 半ば艇から放り落とされる形で城壁内部へ降下したゴブリンが、情けない叫びを上げモンク僧から逃げまどい門へ殺到 門を開く 
異形の兵士がもんどり打つように飛空挺から垂らしたロープを伝ってラペリングを試みるが、ロープから振り落とされる者が少なくない 無駄な犠牲 整然としたバロン軍の行動とまるで違う醜さ 同じ艇に乗り合わせた人間の士官(航海士)が溜息を吐き目を背ける。 
※新隊長は有能だが、用兵に難があると言わざるをえない 魔物で手っ取り早く増員するのはいいが、それによって出来上がるのは意思疎通が図れない混成軍 言葉は悪いが、こんなものは軍ではなくただの寄せ集め、烏合の衆にも等しい こんな戦いは、従事する人間の兵の心を削り、士気が著しく落ちる。そこらへん進言しておくべきだろう 崇高なる目的を遂行するために、バロン軍は正しく用いてほしい 
※新隊長の説明 バロン王の肝入りで赤い翼新隊長に就任した男 その男のもたらした大儀に、バロン王をはじめ皆が甚く感銘を覚えた 素晴らしい就任演説が耳に蘇る――クリスタルは本来一所にあるのが正当であり、所有諸国は星に生きる全ての民の宝と言うべきクリスタルを不当に分断し、独占している。聡明なるバロン全民は国という枠に捉われることなく、全ての生きとし生ける命のため速やかに行動すべき――これこそ真の大儀。あまつさえ、就任式を終えたその足で、男は軍の再編に着手 
 素晴らしい手腕と賞賛するより他ない バロン軍は元来、守りの戦に強い軍隊 典型的な陸軍国 飛空挺の登場でやや変わったが、完全ではなかった 分散していた指揮系統を彼の一手に集中・陸海団の指揮権を統合する大英断により、より高機動にそして外征向きになった 
 話を戻して 眼下に見えるファブール攻城戦の様子 最悪は免れているが良くはない 入り組んだ内部構造を熟知した相手に翻弄され、犠牲が多い 入り口の混乱を片づけるだけで既に三分の二を費やした 損耗が早すぎる 
カインを始めとして、上級将官たちの懸念 港湾施設の制圧を終え、合流した海兵隊と地上部隊の連携が巧く取れるのか? ちょうど海兵団が到着 中央の陥落待ち 予定通り地上部隊の第二陣を投下し、待っていれば勝てるだろう しかし―― 
 
※カインは下を見る。第二陣降下のために高度が下がっている今なら、風を乗り換えて城内へ降りられる 
 今回竜騎士に与えられた役目は対地レーダー+爆撃照準だが、この目が必要な段階はもう過ぎた 少し留守をしても許されるだろう 
 カイン決断 スタンドプレイ・移動にかなり自由の効く自分が単独降下して、クリスタルだけでも先に奪取 本丸(正面)落としの手間を省く これ以上自軍の犠牲を増やして何かいいことがあるとは思えない 新隊長は「屍でクリスタルまでの道を作る たとえその屍が自軍兵のものでも構わない」とか勇ましいこと言ってたが、まさかっちゃ本当にそれをやるつもりじゃなかろうし 
 指揮を取る士官に歩み寄る 
「意見を構わないか?」 
「どうぞ!」 
 士官は敬礼でカインに応じる 本来階級は自分の方がずっと上だ 
「第二陣は降下後しばらく待機 二時間経って戻らなければ、当初の作戦通り正面突破を実行」 
「作戦外行動を?」 
「そうだ。巧く誤魔化しておいてくれ。」 
 第二陣投下のために用意されていた懸垂降下用のロープを利用させてもらう 高飛び込みの要領で略式敬礼投げて甲板の縁から身を躍らせる 一気に船体下部まで降下 海から吹き上げる風を捕まえたところでロープを離す 山から吹き下ろす風に乗り換え、落下速度・余剰な位置エネルギーを殺す 目算過たず、尖塔の屋根に着地 塔の張り出し部分を跳び伝い中庭に下りる 
 海兵団の到着と第二陣降下で城入り口の防御に目が向いている この隙に窓から城内侵入 こんな盗賊のような真似をするなんて、父が見たら何と言うか やれやれ 
 横目に見る戦闘跡 広場の床にも壁にも夥しい血痕が残っている 崩れた瓦礫の下に呻き声 ふと気になるものを見た・あるものが目を引いた ゴブリンを押し潰している瓦礫に残った火薬跡 砲撃のものじゃない、爆薬とも違う 
――あいつがいるのか…… 
彼は祖国に対する慈悲を捨てたようだ 柔和な顔をしているが決断は冷静で頑固な暗黒騎士 
※暗黒騎士・暗黒剣 ダムシアンの装甲ホバー船に対抗するために開発された 弓と大砲のいいとこどり・中距離射程高威力 個人兵装の中では現状最も高火力を誇る まともに食えば、その牙は重装兵の盾をもたやすく砕けることだろう その開発には暴発事故により何人もの犠牲者が出た 幾人もの血を吸った力 その破壊力も相まって、いつしか闇の剣――暗黒剣と称されるようになった※※味方はおろか、扱う当の暗黒騎士さえも恐れる闇の力 実戦投入された暗黒剣実験部隊の隊長をして、戦果を目の当たりにしてすっかり恐れおののき脱走してしまったのは有名な話※※ 改善が重ねられてきたが、未だに扱い至難のため、使える人間(暗黒騎士)はごく少数 
広場から奥へ続く狭い通路 この先がクリスタルルーム 神経がぴりぴりと張り詰める 僅か数歩で歩き切れる通路が長く感じられる 扉を開く 
「久しぶりだな。」 
 喉元に突きつけられた歓迎の剣を押し下げる。馴染みの顔から警戒が薄まった。 
「カイン! 無事だったのか!」 
 この通り、と示して見せる。セシルはほっと息をつく。 
「一緒に戦ってくれるか?」 
「ああ、無論。だが――」 
 単身乗り込んできたことが大分功を奏したか 確かに、このままでは三対一だ 勝ち目は無い しかし。 
「一騎打ちだ、セシル!」 
声高に宣言する セシルには受諾せざるを得ない事情がある 国の後ろ盾が無い今、セシルの信用担保はその人間性のみに依存していると言える 一騎打ちを断れば信頼に翳りが生じる 
 そして、決闘を設えることで、二人の共闘者を単なる見学者へと変え、数の不利を片付ける。後は、騒ぎを聞きつけた援軍が到着する前に終わらせればいい。 
「何故だ、カイン!?」 
「問答無用!」 
 セシルの考えを改めさせることができれば、崇高な目的達成の大いなる手助けとなるだろう――だが今は説明している時間が無い。そしてこの一騎打ちを派手な見世物として仕立て上げなければならない。派手に打ち倒すことで抵抗は無駄だと諦めさせる。 
戦闘 遅い 暗黒の牙がこちらを捉えることは出来まい そして連射も利かない 一撃で片を付ける 風を切る中で金属部品の噛みあう音が耳朶を掠めて頭の後ろへ飛び去り 
 ふと既視感覚え 奇妙な感覚が背筋を凍らせる 
――前にもこんなことがあったような……? 
咄嗟に突進の威力を殺ぐため床を突こうとした足が宙を空回る 床が無い 肩ごと目標にぶつかる 槍の穂先から伝う鈍い貫通 カランと床に剣が落ちる音 独特な形をした暗黒剣が床を滑る 
 間近に鮮明に見えるセシルの顔 信じられないとその瞳が瞬く 
「カイン、何故……」 
違う――言いかけた舌先が凍る 手にした重い衝撃ごと槍を手放す 
よろよろと後退り 違う、もう終わったはずだ、こんな―― 
闇の鎧を纏ったセシルの体が床に崩れ落ちる 床に落ちた体からみるみる血が流れ床に広がる 右手に返り血 火を掴んでいるように熱い 
「てめえ!」 
エッジの声 鼓膜にぶつけられた怒りは耳鳴りを伴って頭痛を引き起こす 投げられた苦無を弾く 咄嗟に翳した腕に鋭い痛みが走る。弾かれた苦無が床に跳ねる。はっと我に返る。 
封印の洞窟入り口 左手に闇のクリスタル 冷ややかな感触 
――いや違う待ってくれ 何かがおかしい――何かではない、何もかもだ。 
 気をしっかり持って何とかしなければ 落ち着いて冷静に考えろ 
違う、終わったはずだ、こんなことはもう―― 
 動機が激しくなり視点が定まらない 倒れたセシルの体から血が流れ床に広がる 床に広がった血が爪先に迫る 思わず足を引く 一度床を離れた足はどんどん体を後退らせる リディアが悲鳴の形に口を大きく開く エッジは剣の柄に手をかけたまま次の行動を決めかねている ローザの涙に濡れた目 その唇は白く微かな笑みにも見える呆然を浮かべている 
 皆の声が聞こえない 誰の声も聞こえない 何も聞こえない 
 闇のクリスタルと返り血 腕を振って振り払う 
――もうたくさんだ! 
 暗闇を走る 何も見えない ひたすら走る 
 漆黒の闇の中 どんな夜とも違う、途方もなく広大で、同時に押しつぶされそうなほど窮屈な闇 ここには何もない 
 足がもつれ倒れる 膝が痛い 全身痛い 
「俺のせいじゃない……そんなつもりじゃなかった……」 
弱々しい言葉が口をつく 
 いっそ全て夢であってくれればどんなにか良かったのに だがこの痛みは夢じゃない 
そうだ、これは夢じゃない―― 
 
 ゆっくりと体を起こす 顔を上げると砂浜が見える 砂を払って立ち上がる 
まるで長い夢を見ていたようだ 
一体どれくらい気を失ってた? 長いようで短いような 
気付けば一人砂浜にいる ここは何処の砂浜だ? 見覚えがあるような 砂浜の向こうに丘が見える バロンの東海岸に似ている 首を捻り、場所を特定するためのランドマークを探す 海を背にした右手に岩礁、左手にバロン城の尖塔がうっすら見える 間違いない、ここはバロンの東海岸だ 
 流されて打ち上げられたのか みんなは一体どうなったんだ? 
 世界は静かで何も変わらない 何も分からない 
 もうとっくに全て終わった? いや、終わったのならここに自分が放置されていたりしないだろう 
 皆を探さなければ―― 
嫌な考えを振り払い歩き出す 途方もなく広がる砂浜 一人歩く距離にめげかける心を励ますためになるべく楽しいことを考える 東海岸にまつわる記憶 父とよく散歩した 前を歩く父の背が鮮やかに蘇る 
「行こう、カイン」 
手を引く父の姿や、その声さえ聞こえるよう あの時自分は5才くらいだった 今はもう父と背が並ぶはずなのに、今でも父の背中は見上げるほど大きい 
 自分は永遠に父を追い越せない 今の自分を父が見たら何と言うだろう 
 ふと足元を見たら瑠璃色の魚がいた 砂浜に打ち上げられた魚 助けてやるため手を伸ばしかけ、ためらう 
 俺に何ができる? 
 自分の手には何もない 空の両手を空虚な風がすり抜ける 全てなくしてしまった 
 父が残してくれた誇りも 
 少女たちが命がけで手に入れてくれた希望も 
 伸ばした手の先で閉ざされる扉、中に消えるヤンの姿 伸ばした手の先に落ちていくシドの姿 あの時も、あの時も、自分は彼らを助けられなかった いつでもこの手は届かなかった 自分には何も救えない―― 
「逃げるのか?」 
すぐ耳元で声がした 背筋ぞっ悪寒走り 辺りを見回すが誰もいない この砂浜には自分と魚だけ まさかこの魚が?そんなわけがない 魚は口をぱくぱくさせている 死にゆく魚の死にゆく目 絶望を宿した目 自分が裏切った時のローザやセシルの目 
 堪らず顔を背ける 
「だから逃げ続けるのか?」 
再び響く魚の声 魚の?違う この声には聞き覚えがある 
「海へ還してあげなさい」 
次いで、力強い声が頭上から降ってくる 
 魚を助けた後、父と手繋いで帰り道 魚の感触が残る自分の手を翳し、矯めつ眇めつ不思議な気分 父が笑いながら言った 
「拳を握ってごらん、何がある?」 
「何もないよ」 
「いいや、握った拳には勇気が宿る。決して手放すことのできない武器だ」 
――その手には何でも叶える力がある。手を伸ばすことを恐れるな 
父の言葉が腕を掴み、魚へ向かって手を伸ばさせる 逆らわず、魚の体に触れる 意を決して魚の目を見据える 自分を信じる眼差し 仲間が自分に向ける眼差し 
 自分はこれまで一体彼らの何を見ていたのか? 自分を見る皆の眼差しはこんなに暖かいのに 
 見えなかったわけでも、隠されていたわけでもない 砂浜に置き去られたこの瑠璃の魚のように、いつでもそれは同じ場所にあった 目を向けようとしなかっただけだ 
 見ようとしなければ眼を閉じているのと変りない 自分は犯した過ちの影を恐れるあまり、見ることを避けていた ずっと背を向けていた 
 魚の体を波へ向かって押す 重い 微塵も動かない 両手を添えて押す まだ重い だが、確かに魚の体は動いている もう少しだ 
 渾身の力を込めて腕を伸ばした瞬間、赤い海の中に投げ出された 
 掌に暖かな脈拍が触れる その小さな温もりは確かな強さを備え、手を掴み返してくる 
 
「カインさん!!」 
 少女の声が、目の前を覆う赤い海を切り裂いた。彼女の腕に篭る力が渾身のものである証拠に、その幼い顔は紅潮している。 
ポロムの方へ動こうとして動けない 辺りを見回す 今やこの目を覆うものは何もない 望むだけ何でも見える 
 自分の置かれた状況を把握する 右半身の肩から下がステュクスに埋まっている 
「カイン!」 
セシル、斧を振るい触手を退ける エッジも触手処理に奮闘 セシルが斧を振りかぶり触手を切り裂くが、再生早い 
「ニィちゃん頑張って! こいつバイオ効かないんだ!」 
ポロムを保持するパロムの悲鳴 
ポロム、カインを引っ張り出そうと必死に腕を引っ張っている 頑固な彼女は、決して手を離すつもりはないだろう 
 カイン、ふとガラス瓶の冷たさを右掌の中に確かめる 満足に身動きすることはできないが、手に力を込めるだけなら出来る 指を丸くし、瓶をしっかり握る 
※「セシル、頼みがある!」 
※セシル厳しい顔 
※「今、右手に瓶を持ってる。合図をしたら、俺の手ごと瓶を叩き切ってくれ!」 
※「信じていいんだな!?」 
※セシルの真摯な問い 胸を張って答えられる 
※「ああ、当てにしてくれ!」 
 カイン、ガラス瓶を割るため握力強め 長柄武器を扱う握力を以ってすればガラス瓶を握りつぶせるはず 
 同時に、まるでこちらの意図を知り、そうはさせじと阻もうとしているかのようにとてつもない力で腕を締め上げられる 骨が砕け、千切れ飛びそうだ ※セシルは万一のために斧を構えている 痛い思いをするのはもちろん嫌だが、彼らの元へ戻れるなら、腕の一本失ったところで惜しくない  
 渾身の力を拳に込める 掌中で砕ける感覚 清廉で冷ややかな炎に掌を炙られる 指の隙間から赤青入り混じった炎が滲み溢れる 
 内部に直接聖水を打ち込む形 脳の神経が弾け飛ぶような、耳をつんざく激痛が走る しかし長くは続かない 
 拘束が緩んだ隙に、ポロムとパロムがすかさずカインを確保して引っ張り上げる 聖水による破壊と再生が拮抗 触手ボコボコ茹だり、形を崩しながらも壁に触手伸ばし悪あがき セシル、咄嗟に壁へ走りパネルばんっ叩き 
※「下へ参ります!」 
 上から半ば滑り落ちるようにして降りてきたリフトが壁を拭う 最下層からドスンとステュクス付きリフトの到着音 
「カインさん!」 
 胸に飛びこんできた少女を抱きとめる 
「ニィちゃん!」 
「冷や冷やさせてくれやがるぜ!」 
「どうなることかと思ったよ……」 
 勝利の余韻を味わう間もなく、足元を震動が掬う 頭上から水がぽたぽた垂れてき 水滴はややもせず細い水柱になり、壁面に細かい罅入り始め 全エネルギーの光への変換により、いよいよ構造維持バリアが停止したらしい 塔が水圧に耐えられなくなる。 
「急いで脱出――」 
「あっ!!」 
パロム突然叫び、辺り見回し 
「どうした?」 
「ニィちゃんの槍がない!」 
ポロムもきゃあっ悲鳴上げ 
「お父様の形見ですのに!」 
何だそんなことか――カイン双子をしっかり抱き寄せ 
「いいんだ。」 
「「でもっ――」」 
双子が顔上げた先にカインの笑顔 
「いいんだ。」 
 武器の無いカインは双子の運搬担当 二人の背中から腕を回して抱き上げる 
「準備完了だ!」 
「いっちょ凱旋行進と洒落込みますか!」 
「よし、派手に行こう!」 
セシルとエッジ、それぞれの得物を抜き払い、両腕の塞がったカインの前に立つ 
リフト壁の螺旋階段駆け下り 搬出口ホールへ出ると、至るところで動きを止め形を崩しつつあるステュクス種子がうようよ プラントからでも涌いて出てきたか? 赤い斑に埋め尽くされた床を見敵必滅の刃が掃き退ける 
 カインの両手装備・双子も強力。 
「凍て付け、ブリザド!」 
 無数の氷礫を浮かばせ 
「エアロ!」 
 少女の三拍子に踊る巻風が氷礫を散弾雨の壁に変える。一つ一つは小指の先ほどの礫でも、高速を伴うとなれば話は別だ。出現した局地的暴風圏は、領域内に入り込んだ敵を粉砕する 双子の協力魔法アイスストーム 
 搬出口の扉駆け抜け 崩壊は海中通路にまで及びつつある 余力を考える必要は無い 全力を疾走に代え、家路をひたすら駆け抜ける 
 壊れた天井の光る破片が降り注ぐ カイン、背を丸めて双子を破片から庇い 
復路にして初めて気付いた緩やかな登り傾斜 ほんの僅か爪先を持ち上げる甘勾配が呼吸を削る 
 錆びた鉄兜が目の端にちらり映り 
「もうすぐだ!」 
 言った矢先 急速回転する脳が光景をスローモーションにする 水圧によって握りつぶされる生還への道 音の消えた世界に一気になだれ込む奔流 呆気なく天地を失い、壁に押し付けられる 
程なく、全身を壁に押し付けていた力が薄れた 急流が流れ去り、温い暗闇に包まれる 重石となる鎧を外すため、双子を手放す 
 しかし次の瞬間、まるで見えない巨大な手のひらに掬い上げられるかのような勢いで海面へ引き上げられた。 
 
眼前一面に広がる星空の元、胸の周囲を光る波の輪が取り巻いている。周囲を見渡すと、光に全身を包まれた仲間たちが、一様に驚きの表情で海面に浮いているのが見える。 
「これは一体……?」 
「あっ!」 
 パロム、胸元に吊っていたお守り小瓶を取り上げる 空になっている 双子、顔見合わせ 
 体にまとわりついた光が徐々に薄れてゆく 光の減少と共に体が徐々に沈んでいく 波が段々荒くなり顔に飛沫がぶつかる 
「まずい!」 
光が浮力を保っているうちに浜へ避難しなければ うっすらと見える浜辺へ向かい、慌てて水を掻く 
 砂浜へ引き上げた体を高い波飛沫が叩く 肺に滲みる外気の冷たさと潮の辛さに咳き込む 
「皆、大丈夫か?」 
エッジぜえぜえ 砂地に疲れた足を投げてへたり込む セシルもカインもぜえぜえ体折り休み 双子も座り込み 
 姿勢を正すカイン 意識の隅に音も無く飛んできた白い塊を右手で受ける 
「相変わらず神経切れてやがんな。」 
掴んだそれは掌に萎れ、見る間に赤が染みて広がる 
「ああ、全くだ。」 
苦笑して答える 掌一面に傷 棘果を鷲掴みにしたような刺突傷 砕いたガラス瓶の破片が食い込んでいる ※傷を押して破片を取り出す 異物さえ取り除けば傷自体はたいしたことない 聖水による皮膚のかぶれはごく軽度だ 貰った布を手早く巻きつける 
 簡易処置を終えたところでカイン海の方を振り返り 海と空共に全体が柔く光っている まるで夜明けのようだ 
呼吸整えながら見とれていると 沖で光の柱が立ち、夜空の漆黒切り裂くようにへ伸び 同時に恐らくエブラーナの方向からも これが終末の光でなければ良いが 
 双子それぞれ保護者にひっつき、光が消えるまで見届け 
「巧くいったかね?」 
「……分からん。だが――」 
光が収まり暗闇が戻る いや、完全な暗闇ではない 明星が薄明かりに溶ける 日が登る 




LastModify : February/27/2016.