クリスタルを手に入れた一行は、ジオット城に別れを告げ再びバブイルの塔へ足を向けた。目指すは地上。 
前回来た道を戻るだけ リフトに乗って地上部へ連絡する可動通路へ 
 長い通路を歩いてる途中で、元々明滅する壁面だが、なんか不規則に暗くなったり明るくなったり まるで忌際の呼吸のように 息も絶え絶えという形容が当てはまる 
「ヤバげじゃねえ?」 
 嫌な予感が自然と一行の足を早める カインは春先の嵐のように不安定な壁に懸念顔を映す。多分、設置した充電池のエネルギーが終わりかけているのだろう 緊急措置だったとはいえ、もう少し保ってくれるという見込みは甘かったようだ エッジがパロムを、カインがポロムをそれぞれ抱き上げ 
「オーケー、オレ様が勝ったら一杯奢れよ。」 
「フッ、早駆けはお前だけのものじゃない。」 
言って、子ども抱えての約五十メートルの直線レース用意ドン 駆け出してしばらくも経たぬ内に、彼らの不安は的中した。 背後のモノリスが一つ一つ消えていく 消える時に発されるヒューンて音が踵を追いかけてくる スライディングで間一髪通路抜け 背後で最後のモノリス消え、何もない壁となる 
カインは床に擦った肩なでなでしいしい、息を整える。 
「同着だな。」 
 間一髪。まぁ今はクリスタル全部揃ったし、設置すれば電池クリスタルはいらなくなる。 
 上下動のリフトでエネルギー切れのリスクを冒すべきではない。地上一階最寄の地上出口からとっとと外へ出てしまう。出た先は山のてっぺん。 
 
 下山の手間を煙玉でショートカットし、挨拶も早々にエブラーナ城の裏庭のデビルロードへ直行する。城でも足を止めることなく、デビルロードでミシディア試練の山へ直行直帰。 
 暗い道を抜けた先に橙の空が見える 懐かしさを感じる山の景色がテレピン油をぶちまけられた油彩画のように溶けて降り注いでくる カイン野晒し大使館の軒下まで身を下げ この季節には珍しくかなりの降りだ 
「きゃ!」 
「わっ!」 
 次いで、雨粒の出迎えを受けた双子の悲鳴を屋根の下へ手招く。 
「うぉ!」 
殿のエッジも揃い、四人軒下に顔揃え 
「上がりそうにねぇなぁ……」 
 晴れなければ煙玉も使えない、煙が雨に散らされてしまう。ここまで来て夜雨の中強行軍して子供達の体調崩させたら元も子もない。 
「過ぎるのを待とう。」 
 カインの決定に従い、一行は野晒し大使館内へ向かった。濡れた衣を着替え、茶で体を暖める。 
 日が稜線を駆け下った後も、足を止めたままの雨雲 
「泊まりだな。」 
「ああ。」 
 明朝には天候がどうでも出発を決定する。日中になれば、例え雨でも体力の消耗は少ないだろう。 
貯蔵食糧を使った携帯食と変わらないメニューの夕食だが、熱を入れて皿に盛れば見違える。 
 食休みの後、風呂で本格的に体を温め 
 体力を取り戻した双子はカインの室内服を借りて寝着代わり 色違いお揃いワンピース姿を思い思いの格好に呪文書読み 冷たい雨は子供達を本の前に閉じ込める ベッドに寝転がっていたパロム、読んでいた呪文書鞄にぼふっ突っ込み 
「退屈だー!」 
 ごろごろと頻繁に姿勢を変えていたパロムが遂に耐えきれなくなった ベッドに広げた手足をばたつかせ 
「こら、パロム!」 
 ベッドをめちゃくちゃにする弟の足をポロムが押さえ付ける 
「退屈なら呪文の書き取りでもなさい!」 
「えー、ヤダっ」 
「いついかなる時でも精進を忘れてはいけないと、長老様がいつも仰っているでしょう!」 
「パロム、ポロム。」 
半ば乾いた髪に緩くタオル巻いたカイン 部屋に戻ってきてみれば、案の定パロムが暴れ出していたようだ。 
「あっ、か、カインさん、今静かにさせますから!」 
ポロムは慌ててパロムの口をぎゅーぎゅー押さえる。 鼻まで塞がれたパロムは息苦しさに抗議の声を上げることも出来ずばたばたもがいた。 
「ああいや、もし手が空いているなら、しばらく相手をしてくれないか?」 
言って、抱えていたものを子供たちの目によく見えるよう掲げる。 
 昔、父とよく遊んだボードゲーム エッジの持ち込み荷物に埋もれた倉庫から引っ張り出してきた 両陣に別れて展開した駒を各決まりに従って盤上を移動させ敵将を追いつめる戦略性の高いゲームだ。バロンでは割とポピュラーで、子どものみならず大人にも人気が高い 
 白黒格子に色分けされた盤上に、箱から取り出した硝子製の人形が付いた駒をばらばらと広げる。 
「わっ、何だこれ!」 
パロムが目をきらきらさせながら、駒の一つを取り上げる。 
「針に気を付けろよ。」 
駒は押しピン式でコルクボードに刺す形式・旅などの際に携行する用 
 双子は興味津々で駒を手にして眺めている。この反応を見たところ、彼らはこのゲームを知らないようだ。カインは一際立派な駒・帝を手に取り振ってみせる。 
「交互に一つずつ駒を動かしていき、この駒を取られた方が負けだ。それぞれの駒には動き方の決まりがあって――」 
「お、戦陣盤か?」 
倉庫で埋もれた荷物からボードを探し出す間に風呂を終えたらしい烏の行水ッジ、水気をふんだんに含んだ濡れ髪がしがしして盤の上に外の雨を持ち込む 
「バロンではケッズと呼んでいる。」 
カインが布巾を滑らせた後に、エッジ慣れた手つきで駒並べ エッジの完成させた初期布陣を見るとどうやらルールも同じっぽい 
保護者二人が分かるなら、子供と大人の対で2チームに別れた方がいいか 
「平野戦ルールは分かるか? 上級大将を外して砦を大砲に変えるんだが。」 
「”ぶっかり”な、りょーぅかい。」 
 簡易ルールも通じるようだ カインはポロムと、エッジがパロムと組む。 
「うっし、手加減しねぇぞ~? なっ、パロム!」 
「おーっ!」 
「フッ、こちらのセリフだ。なぁ、ポロム?」 
「はいっ!」 
カイン、エッジチームにペンと皮紙渡し 参謀が司令官に説明する用兼チーム内で作戦会議する用 
先攻後攻じゃんけんで決めてゲーム開始 子供の意見を聞きながら進めていく形 合議の末に大砲を南へ一マス動かし、パロム軍に行動権が移ったところで、ポロム司令官が血相を変えて卓の上に身を乗り出した 
「待って! 今の無し、無しにしてくださいませ!」 
 盤上に覆い被さってうーんうーん考え 歩兵を手にしたパロム司令官にやにや 
「へっへー! ”待った”一回したら、おやつ一個ね!」 
「い、いいですわよ。カインさんっ、作戦変更です!」 
「ああ。」 
意外にもポロムが一番熱くなっているようだ。カインは大砲を元の位置に戻し 
 結局勝負は千日手に 帰って来たら続きをやろうってことで眠った子供達に毛布掛け 
 
 カイン旅の準備終え その後貯蔵棚から酒瓶を取る 氷室の氷砕き杯に放り込み 
「エッジ。」 
木戸の向こうの雨音を見ていた忍者に酒瓶と対の杯を掲げてみせる。 
「お、珍しい。こりゃ当分上がらねぇな。」 
「そうか要らんか、悪かったな。」 
踵を返した瞬間、脇を駆け抜けた一陣の疾風が酒瓶を確保した。 
飾り気の無いグラスに純度の高い酒を汲む 二人無言で掲杯交わし 
「子供達どうしよう?」 
きしんで杯の壁を叩く氷の音 双子の穏やかな寝息 
「置いて行くと言って聞くとは思えない 確実に月へ行きたがる」 
氷の表面に砕け水面に溶ける部屋の灯火 
「月は安全か? 月の民の真意は?」 
「どこまでいっても五分五分 しかし、信じられる余地が五分もありゃ充分かも」 
 カインの懸念顔にちらり目をやり それに、とエッジが続ける 
「最悪戦うことになっても勝算は充分ある」 
「魔法のことか?」 
バブイルの塔での会話を思い出す。エッジは頷く。 
「今回はミシディアの全面協力を得られる、これが勝算」 
エッジは更に言葉を連ねる 
「クリスタル戦役時の奴さんらの行動 真っ先にバロンを落とした理由 バロンはクリスタル保有国ではない。丸無視してしまっても構わない存在だった。なのになぜ、将軍に王の成りすましをさせるなどという煩雑な策を用いてまでバロンを落とした?」 
「敵に回ったら厄介だから 赤い翼がある」 
「他国から……そうだな、近間でダムシアンから救援要請を受けたとして、二度目の襲撃ってのは無ぇんだよな。バロンは世界の警備兵ってわけじゃねえ、国境線越えて自由にってのは基本無理」 
「クリスタル収集のために各地へ兵力を輸送しなければならない問題がある 大量輸送する手段として飛空艇が……――ああ、成る程な……。」 
 テレポがある 飛空艇の搭乗員数は8人 テレポは術者によりけりだが平均して一術者で6人は運べるらしい 
「そう、クリスタル収集の”道具”は、ミシディアでも良かったんじゃねえか? ミシディアをバロンと同じ方法で落とせるなら、攻め込む必要すらないかもしれねぇ。魔導師のお偉方に出向かせクリスタルを貸せと言わせりゃ、いかにも尤もらしいじゃねえか。」 
そこで発想逆転 バロンはミシディアを落とすための道具ではないか 
「ゴルベーザにバロンを落とさせ、ミシディア遠征 クリスタル保有国は四カ国 その中からミシディアを真っ先に狙った理由?」 
「一番遠かったからでは? 作戦遂行速度の問題 戦線最外部のミシディアを叩けば、周辺国はミシディア陥落の報が周知する前に叩ける」 
何となくエッジの言わんとする先が見える 
「戦で最も有利なのは言うまでもなく初戦 戦てェな始まったが最後勝っても負けても消耗する一方 初戦が最も戦力が充実している そのうえ奇襲ならなおさら負ける道理が無い そこまで万全の勝ち体勢を整え臨んだのは、それだけの強敵だと見なしたからでは 正面戦争では勝てない ……釈迦に説法しちまうようだが」 
論の後を専門家に任せる カイン頷き 
「飛空艇対地上部隊はほぼ一方的なゲーム 実際に、事情の異なるトロイアを除き空爆に成す術なく  そもそも、ゴルベーザの目的はクリスタルただ一点 バロン軍自体消耗兵器で一向構わない・飛空艇すら失っても構わない・内政を考えなければいくらでも増産をかけられる なのに、初戦にミシディアを選んだ 地上で唯一対空攻撃可能な国 飛空艇を失うリスクがあるにも関わらず」 
「その通り。ミシディアの魔法をこそ最も厄介に思ったからでは?」※対空戦闘能力ならジオットも持ってる そこを最後に回したことから物理兵器はあまり警戒してないっぽい…? 
エッジお代わり注ぎ 瓶片手にラベル見てる 
「美味ぇなこれ。」 
「気に入ったか?」 
バロンの大衆酒 王族の舌には親しまぬだろうと思ったが バロンで広く親しまれている食中酒 原料である麦の採れた畑の名(地名)と製造年号だけが書かれた簡素なラベル 
 故郷に起きた異変を解決するため、今や月へまで向かおうとしている 本当に解決に近づいているのか? 
「本当に俺達は正しい道を歩いているんだろうか?」 
「どういう意味だ?」 
当然の問い返し カイン俯き 
「迷ったままここまで来てしまった 本当にこれでいいのか」 
「いいかどうかは分からない いいか悪いかはこれからの話」 
相棒は軽く応じる  
「迷いを抱いた心で本当に事を成し遂げられるのか」 
「おう、好きなだけいくらでも、大いに迷いねぇ。迷うのはいいこった、迷わねぇよりずっとな。」 
エッジの答えは揺るぎない 
「そんなものか……。」 
確かに、洗脳下にある時は”迷い”が全くなかった 
 
翌朝快晴に恵まれ。岩肌の纏う雨上がりの晴れやかな香り。昨夜の雨は、旅立つ者らに最高の顔を向けんとした大地の入念な洗顔だったか 
風向きも良好 煙玉で祈りの塔へ戻り長老と再会。 
「皆、よくぞ無事に戻った!」 
クリスタルは全て揃った。これで月へ行ける ということでやっぱり図書室会議 
 議題に入るよりまず先に、目下最大の懸念事項を確認 聖水アンプルの件 
「人間に使えそう?」 
「トロイアと協力体制が整った。今しばし時間が必要じゃが、大丈夫じゃ!」 
エッジの顔に安堵の色が浮かんだのが見える。また、長老にとっても大朗報 万一ステュクスに寄生されても元に戻る方法が確立されていれば、情報隠蔽が解けた時に民を恐怖に怯えさせずに済む 混乱が避けられる 
※対処法の確立によって祈りの塔の箝口令が一部解かれた 上級職員はワクチン揃うまで一時しのぎの石化要員として必要国へ派遣が可能  
後顧の憂いも減っていよいよ月への表敬訪問 詳細な手順を確認する段階に来た 
「問題の、次元通路の使用方法だが……。」 
資料の写しを卓上に広げる。 
「操作自体は、すまないが、資料と首っぴきで実際やってみなければ分からないとしか言えない。」 
 ひどくまだらで、時系列がばらばらになった記憶。任せておけと宣言したあの日より、おのおののシーンの概形こそ何とか欠けを埋めてきたものの、それぞれを時系列順にうまく繋げられている保証が持てない。 
 旅の合間に読み進めた取説の、次元通路の動作に関して書かれた一枚を手に取る 
「問題は、照準合わせだな……。」 
照準に関しては簡素な記述のみしかない。操作自体は簡単なようだ。目標となる月を探してくれる機能があるらしい。 
だが、問題は算出までに掛かる時間だ。前回使用時は目的地である月が目視できる場所にあった。今回は、最悪全周天をしらみつぶしに探さなければならなくなる。そうなったら、一体どれだけ時間が掛かるのか。 
「月の現在の方向に見当が付けられればな……」 
ここまで来て、やはり難関が待っていた。しかし長老は穏やかな笑みを崩さない。 
「実は、次元通路の起動にあたって、協力を申し出た者がおるのじゃ。」 
「一体誰が?」 
「私の知識がお役に立てれば良いのですが。」 
こつんノックと共に入室してきた声 
「コリオ教授!」 
 地底に通じる井戸の村アガルトに居た天文学者 月を望遠鏡で追いかけていた教授だ 強力な助っ人に一同の顔が晴れる 
 挨拶も早々に、早速席に就いて机に積まれた資料を黙読する教授 さすが普段から書に親しんでるだけあって速読 既読枚数が増えるごとに教授の顔がまるで見えない光に照らされているかのように輝いていく 一行の期待が膨らむ 
「凄いぞ! 思っていたよりずっとお役に立てそうです!」 
読み終わりに紙面を軽く叩いた教授 
※「なんとこの次元転送装置は、奇しくも、”コリオ式自在拡大鏡”と同じ構造なのです!」 
「ジザイカク……ダイキョウ?」 
耳慣れない単語に、カインは首を捻る。教授の研究室にそんなもんあったっけ? 一際目を惹くでかい天体望遠鏡を始めとして、雑多な品が溢れる部屋 一体どれだろう? 机にあった一輪挿しの花瓶みたいな形の模型のことか? 
「はい! この次元転送装置は、友人から依頼を受けて作っている最中の機械と正に同じ作りなのです。お恥ずかしながらずっと頓挫していたのですが、いやはや、劇的な解決方法ですよ! ここを見てください!」 
瞬間、教授の目が猛禽類のそれの光を宿した。 教授、身を乗り出し書類を突きつける 
「全くもって素晴らしい! ※対象物のより精細な像を得るためには、どうしてもレンズの距離を近付けなければなりません。しかしそうしますと、レンズに入る光の量が減り、像を捉えることが出来なくなってしまうのです。ああ、大いなるジレンマ! この問題をいかにして解決したものか……それが、何とここに! ここにその術があったのです! 細いガラス瓶にうまく水を注ごうとしたら、一体どうしますか。そう、漏斗、漏斗を使うのです! ええもちろん、そこまでは私も考えた! しかし! 既成概念に囚われ、柔軟な発想が出来なくなっていたのです! 漏斗で水を集める、その前の段階に着目すれば良かったのです……! なぜ漏斗は水を集めることが出来るのか? そもそも、漏斗とは何か、どういう働きを行う道具であるのか。分かりますか? そうです! 漏斗の曲面は、自由自在に溢れんとする水の流れを変えて整える働きをしているのですね! そう、流れを変える、屈折の向きを変えれば……こうしてはいられない! 精油工房に手配しなければ……あっ、この資料、後で写しをいただけます?」 
堰を切り丸太をも押し流す怒涛の勢いで喋り出した教授に長老がのけぞる。半ば以上目にもとまらぬ速さで駆け抜けた演説は、どうも盛大に脱線したらしい事だけは辛うじて分かった。 
 皆の呆気顔に気付いた教授は赤面し、コホンと咳払いで喉の調子を整える。気まずい雰囲気の中、エッジは頭にわしわしと空気を入れ替えた。 
「あーっと……そんでよ、その……こっちから向こうに品を送るこたぁできるもんかね?」 
「あ、いいえ、あ、はい、すみません。大丈夫ですよ! この次元転送装置では、クリスタルのエネルギーを……えぇ、これはどう訳せば良いのかな? えー……磁力魔法のようなもので枠を作り、その内部にクリスタルのエネルギーを閉じ込めることによって、望遠鏡のレンズに相当する部品を動的に形成しますから……そうですね、つまり、向きをくるっと反対にしてしまうことも簡単なんです。」 
教授は望遠鏡に見立てた筆を手に取り、くるりと実際回してみせる。 
簡単にできるって 良かった 学者による理論の後ろ盾が付くとやはり心強い 安堵が腑に落ちる。 
「えー、それで、照準合わせについてですが、月が去った方向は観測結果から大体割り出して来ました。」 
コリオ教授による解説。普段学徒を抱えているだけあって、手慣れた様子で解説を始める。 
「現在は望遠鏡でその姿を捉えることは出来ませんが、少し前までは見えていましたから、軌道を変えていないことを祈りましょう。」 
コリオ教授持ってきた数式見せ 月が去った方向を計算して出したやつ アガルトから見上げた、カインの目には馴染みのない星図だ。一方、エッジにとってはややずれているが、見慣れた星空となる。 
「最も有力な候補はここです。」 
 扇座の一等星に傘を掛けるように三つの点打たれ 三つの点の正確な中心に×印を濃く刻み 
「とても運が良かったと言えます。月の去った方向が日の光の裏側へ回ってしまっていたら、次の季節を待たなければなりませんでした。」 
「失敗の種類と可能性は?」 
エッジが合いの手 ※オッカムの剃刀 机の上で片付けられるものは全て片付けておく 
 
※月の現在値の見当が間違っていた場合は? 
その場合はしらみつぶしとなり時間が掛かる 目安一巡週で正しい位置を見付けられる ただし、可能性は非常に低いものの、現在恒星の裏側となる宙域だった場合、次の季節(一年後)を待たなければならない 
 
※月ではない別の場所に繋がってしまう可能性は? 
同種の装置間でしか接続されない こちらから望遠鏡で覗いた時、あちらも望遠鏡の反対側から覗いて初めて転送できる 同じ望遠鏡の筒の両端 
 
※転送の回数制限は? ※立て続けに使用できないのは分かっている。 
「理論的には何度でも。現実的には、多分厳しいでしょうね……詳しくはもっと調べなければなりませんが、クリスタルは環境からエネルギーを得ているようです。転送機を動かせるエネルギーのチャージにどれだけ時間がかかるかが不明で……送る物にもよるようですが」 
「巨人降臨の際、次元通路起動にかかったクリスタルのエネルギーチャージ時間は一巡週だ。」 
カイン思い出し 一週間ならそう待ちきれない期間でもない  
 
理論はほぼ構築完了。机の上にあったものは大方片付いた。後は実地での実践あるのみ。 
子供達はここまで根気よく付き合っていたが脱落 うつらうつらしてる双子に部屋で休むよう言い聞かせる 
「パロム、ポロム、部屋へ上がって休め。」 
「うー……ヤダ、ニィちゃんたちと一緒にいるー……」 
「皆様と一緒に起きてられますわ……」 
「おう、だから俺様たちと一緒に寝ようぜってこった。」 
エッジカインそれぞれ双子抱き上げ 会議もお開きに 
 机の上の一枚の書類 月の位置を示した天体図 月への切符だ 
 
たっぷり寝て英気を養った一行とコリオ教授、朝食を済ませ準備を整えていざ出発。試練の山デビルロードでまずエブラーナへ。デビルロードの使用が初めてである教授に念のため魔法補助を施し、全員問題なくエブラーナの地を踏む。 
「しかし便利なものだな。」 
白靄を湛えるデビルロードの前に立ったカイン エブラーナのデビルロードは、四方のみに煉瓦を積み風を避けるだけで天井の無い、小屋とさえ呼べないほど簡素なものだ。屋根が設けなかった理由は、エッジの部屋の窓の真下(裏庭)窓から飛び降りればそのまま飛び込めるようにだそうだ それを聞いた時から、もう塞がせることは諦めた  
「まさかエブラーナから試練の山間のデビルロードも計算の内?」 
「いーや、こればっかりは全くの偶然! マジでバロンに通るはずだったんだぜ。」 
「何故だろうな……。」 
「お前が何か妙な呪いでも掛けたんじゃねえの?」 
 エッジは呪い師を真似、ちょいちょいと指先で招く仕草をする。 
「俺にそんな力があるわけがない。あるとすれば試練の山自体にだろう。」 
「セシルさんがパラディンになった場所ですものね。」 
「何かあるんかねぇ?」 
ふーむ? 月の民について、知り得るとも思えなかったことが大分分かってきた デビルロードは月の民の技術 きっとこの怪も、そのうち明快な答えを得られるだろう。いずれ訪れるその日を楽しみに待つのも悪くない。 
前回と反対の門から城へ入り、前回と同じ歓迎が一行のお喋りを止める。 
「ジェラルダインの!」 
杖を付いた剛髭の豪族がのっしのっしと歩み寄る。 
「首尾はどうだ?」 
エッジの問い掛けに豪族はふんと鼻を鳴らした。 
「造作もないわ! あのような化生に遅れを取るなど……エディックの未熟者め、鍛え直してくれる!」 
「まぁそう言ってやるねい。」 
懸念された通り、あれから幾度か少数のステュクス種子出現があったようだ。しかし今のところばっちり撃退成功しているらしい 
そんな事情を聞きながら エッジが使う特殊消耗品の幾つかを補充し  
「出発前にじいやの顔見てっていいか?」 
もちろんと快諾 そして石像じいやに出立を告げるため置き場所に見に行くと 
「まぁ、石頭拝んだところでうぉおう!?」 
じいやと他三人がかさこ地蔵状態になって祀られてる 武運長久とか書いたよだれかけとかかけられて 四体の石像を取り巻く供物の山 
 確かに顔見知りの精巧な石像を放置しておけない気持ちは分かるが、これは何というか明らかにいろいろとやり過ぎだ ※かなり初期の段階で目的を違え、引き返せなくなってしまったようだ。 
「何事だこりゃあ……」 
「確かに、つい手を合わせたくなる気持ちにはなるが……」 
じいやの石像とかいかにも霊験灼かっぽそう 子供が走り来て夕飯に好物が出るようお祈りしていく エッジが子供呼び止め 「じいやさんが何でもお願いかなえてくれるんだって!」って子供答え 
「……俺たちも願っておくか」 
「何でだよ!?」 
双子さっそく手組み合わせなむなむ 
「エッジさんが丁寧な言葉遣いになりますように!」 
「隊長が意地悪しなくなりますように!」 
カインも手合わせなむなむ 
「エッジが真面目になりますように。」 
「止めろお前ら爺の小言のネタ増やすんじゃねえ!!」 
エッジに追い立てられ城を後にする 
 
 昼食を挟んでバブイルの塔入り口への到着を果たした一行は、まず塔の機能回復に取りかかった。カインとエッジがリフトホールを登攀し、地下五階のクリスタルルームにクリスタルを設置する。 
規定の場所に心臓を据えた塔は、照明を一際明るく輝かせ、塔の機能が全回復したことを知らせる。もう電池切れの心配はない。リフトで登ってコリオ教授と双子迎える。 
管制室にてシステム起動。最上階(地上十三階相当だが、地上三階~十二階はポータルのみ)の次元転送装置へ。 
書面上の文字の羅列でしかなかった学者刺激成分を目の当たりにしたコリオ教授は感激ひとしお 全力タックルの勢いでコンソールに飛びつき、パネル上を指先がはしゃぎ回る。 
機械の設定は教授に任せて、あとは結果を待つばかり と息を付いた直後 
「何てことだ!!」 
教授の叫びが一行の体を金縛った。カインの額にすっと冷たい血が流れる。 
「どうした!?」 
「現在の月の位置が表示されています!」 
コリオ教授は落胆した様子はなく、コンソールと顔を突き合わせている 何と親切設計 起動と同時に勝手に接続先を探してくれたらしい 
「さすがは月の民……といったところか。」 
「至れり尽くせりだねぇ。」 
送信受信設定も画面に表示される指示に従ってボタン一つ いざ次元通路起動 足下が震動したような感覚の後、光の柱が立つ 
「成功です!」 
コリオ教授、手続き完了を高らかに宣言する 次元通路接続確立 
「コリオ教授、留守中危険が迫ったらすぐに逃げてくれ。」 
「ご心配なく。これを持ってきましたから!」 
コリオ教授、ばばーんと書類入れ・バインダーを翳し 金属の留め金で四隅を補強した分厚いバインダー 鈍器としてかなりの威力を誇りそうだ そんな重いもの持ち歩いてたのか教授 学者の一念岩をも軽々 
とにもかくにも、一行互いの顔見合わせ覚悟完了 
「……行こう。」 
深呼吸一つ この星の空気を肺いっぱい詰め込む 四人揃って光の柱の中に足踏み入れ 四人が横一列に並んでも一回り余るくらいの大きさ 
 ポロムが伸ばした手をカイン繋ぎ。きらきら光の粒子が体を包み 光の壁の向こうでコリオ教授が旅の無事を願うサイン 
 ずぅん降下感と共に視界真っ暗になり 
 
 ぱっと光に包まれたかと思えばまた真っ暗 
徐々に目が慣れてくる 見慣れぬ場所 雰囲気はバブイルの塔とそっくり 
薄闇の中に人影がある 
「お前達の来るのを待っていた。」 
声が一歩前に進み。朧灯りがその人物の輪郭を浮かび上がらせる。黒いヴェールを肩に纏った深い樹木の幹の色の髪をした男。 
「ゴルベーザ……!」 
カイン声上げ ポロムじーっ凝視 兜の下の素顔は初めて見る バロン戦役を起こした張本人で、セシルの兄 
「探す手間が省けていいや。」 
エッジ腰帯に手を添える。その利き手の指は柄に添えられている。カイン一歩前へ踏み出す。 
「聞きたいことがあって来た。」 
「ああ、知っている。」 
ゴルベーザの答えが暗い覚悟を強いる 出来ればその答えは聞きたくなかった 
「ならば、知っていることを全て教えてもらおう。」 
ゴルベーザ眉顰め 
「私からお前たちに話せることは何もない」 
「……そうか。」 
力づくで聞き出すしかないようだ 戦闘態勢 剣と槍を向けられゴルベーザきょとん 
「何の真似だ?」 
「そいつも知ってんだろ?」 
ゴルベーザ唸り 
「違う……と言っても、信じる気はなさそうだな。」 
「証明できるのならばな」 
「いいだろう……。そちらがその気なら、身に振り掛かる火の粉は払うまで。」 
 ゴルベーザの周囲に黒い靄渦巻き竜を象る 
「下がれ黒竜。彼らの誤解を解くのにお前の力を借りるまでもない。」 
 しかし、忠実な幻獣は退く気ないようだ 二対二でちょうどいい 双方相手の出方伺い 
そこへ髭の気配。 
――双方、剣を収めよ! 
 重々しい声が響き、気配に振り向く間もなく、双子がしゅるんと白い輝きに包み込まれた。 
「ヒゲ怪獣だー!!」 
「きゃああああ!!」 
相次いで響くいたいけな悲鳴 
「伯父上、子供達に!」 
「パロム! 待ってろ!」 
「ポロム! 今助ける!」 
三人一斉に髭に向けて武器構え 
「……何故そうなるのかね。」 
髭、やれやれと肩を落とす 




LastModify : October/14/2022.