バブイル。雲さえ貫き立ちはだかる白亜の怪塔。海路で来ると、エブラーナの陸地より先にこの塔が見える。現代のもののみならず、古い時代の海図にさえ目印として描かれている。 
 間近に立って見上げる。この巨大さがそのまま月の民という存在の大きさを示しているかのようだ。もし敵対することになったら、勝てるんだろうか――勝算は無いに等しい。鎧の隙から入り込んだ海風が、知らず唇を噛ませる。 
 正直を言えば、怖い。 
敵として立ちはだかる月の民の強大さ その恐怖の裏にあるのは、この塔にいた当時の記憶 
――もし、また…… 
※洗脳時の記憶はある。誰に洗脳されたかも分かっている。 
 しかし、肝心の『そもそもいつ、どうやって洗脳されたのか』が分からない 気が付いた時にはゴルベーザに従うことが「当然の正義」となっていた・自分が「変わった」自覚など全くない、その覚えもない だから、もしかしたらまた洗脳されてしまうかもしれない そもそも、今だって、本当に洗脳されてないと言えるか? 自信がない。 
「おーい、カンテラ頼まぁ。」 
 エッジの声にはっと我に返る。※カイン頭を振り、ぐっと肝を据える。ここまで来て怖気づくなど カインは前を行く仲間たちの背中を見る。今は余計なことは考えず、目の前にある目的をしっかり見据える。 
 
 塔の腹中に侵入する前に、洞窟を踏破しなければならない。種子が潜んでいる可能性がある。遭遇した場合は確実に処理しなければ。明かりを隅々まで回し、一行は周囲の影の中に至るまで十分目を配り警戒しつつ洞窟を進む。 
 通路が直角に折れた先で、足元に黒ずんだ血の後が見つかった。翁率いる斥候隊は、ここで種子と遭遇したようだ。 
「あの時、お前がルビカンテと戦っていたのもこの辺りだったな。」 
 さらに奥へと続く細い通路の手前、見覚えのある景色に些細な疑問が浮かんでくる。 
「あの慎重なルビカンテをどうやってこんな場所におびき寄せた?」 
「ん? そりゃあ……まぁ、そうか、流石に知らねぇわな。」 
 足元の土を軽く散らしたエッジは、歩みを緩めず首だけ振り向けた。 
「この洞窟は元々、エブラーナを襲った地上部隊が拵えた路でよ。」 
「なるほど、敢えて敵の懐に……というわけか。」 
 カインの口を感心が突く。鬼手ではあるが、それなりの手勢が残った状態なら、平野がほとんどを占める国土内を闇雲逃げ回るより良策かもしれない。一見危険な敵の懐だが、逆に出撃準備が整う前なら少数の兵力でも充分叩ける。加えて、洞窟内という地理条件も少数側に有利に働く。 
「で、あン時ゃちょうど地上の様子見に来たルビカンテを、運良くとっ捕まえたトコだったってぇわけよ。」 
「運良く? 俺達が来なければどうなっていたことか。」 
 上級大将の座を預かるルビカンテに単身挑んだ無謀者の、案の定ずたぼろになった姿を思い出す。熱伝導の極端に低いミスリル編みの帷子さえ焦がすほどの炎から、よくも生還出来たものだ。 
「隊長、そのるびかんてって奴に負けちゃったの?」 
「当然だ。そもそも無謀過ぎる。奴がもし……――」 
 少年の無邪気な問いに軽く応じたカインは、しかし、自ら発した言葉の違和に口を噤む。奴がもし退かなければ、確実に命はなかった――いや、違う。その逆を問うべきなのだ。 
 ルビカンテはなぜ退いた? 
 伺い聞いたところでは、必要以上の殺生を厭う気質ではあった。しかし、目前に綻んだ復讐の芽を、摘まずに捨て置くなどという甘い判断はしない筈だ。 
 実力に奢り、他愛もない相手と見くびったか? ※考えられない エッジの身のこなし、そして通常火炎遣いの弱点である引火性の高さを狙った戦術判断といい、一見して分かる手練のそれだった筈だ 
 では、余裕は単なる虚仮脅しに過ぎず、実際は即座に退却せざるを得ない状態にあったのだろうか? ならばなおさら、残りたった一押しの余力を出し惜しむまい。 
 一度解れた疑いは、蔓を引き抜くように波及する。ルビカンテが退却したことと、エッジが命を永らえたこと、この二点は揺らぎようのない事実。だが、この二点が不自然なく成立する推移こそが考えられない。※まさに、これまでの考え通り、偶然・幸運によってしか両立しえない二つの事実。その、他の可能性の考えられ無さが却って怪しい。 
「隊長かっこわりー!」 
「うるせ。……しかし、ま、ルビカンテ直々のお出ましは多分、聖騎士様ご一行のエブラーナ上陸を受けてじゃねぇかな。」 
 疑念を先読んだかのような、飄々としたエッジの口ぶりが勘ぐりを更に深める。まるで自分たちと合流することさえ計算尽くだったようにすら思える。もしかしたら実際にそうなのかもしれない――たとえば、あの逼迫した状況になければ、彼の仲間入りは円滑にいっただろうか? 
 とりあえず、彼がかつても今もこうして仲間として同じ側に立つことを選んでくれたのは幸運と言えるだろう。相変わらず肩にパロムを装備した後姿を見る。 
 そして、その幸運はこの道中の味方もしてくれるようだ――種子を始め、敵性生物との遭遇無く、一行は洞窟と塔を隔てる壁面に相対した。壁抜けで内部へ。さすがに塔の壁を抜けてはステュクス入ってこれないだろう。ふぅと息吐く一安心が緊張を解す。 
深閑とした塔内を充たす薄灯りがカンテラの火を滲ませる。照明がぼんやり付いているということは、まだ辛うじて塔は生きている。人間で言うならば、完全な眠りには落ちず、微睡んでいるような状態だ。 
「ここからどうやって地底へ?」 
「そりゃお前、クリスタルルームの落とし穴でよ――」 
「ドックへ行っても飛空艇はもうないぞ。そこで行き止まりだ。」 
 瞬間、エッジが僅かに浮かべた計算違いの表情を、残念ながら見逃すことが出来なかった。 
「……おい。」 
 催促を食ったエッジはお手上げをそのまま動作にして示す。カインはやれやれと肩を落とした。この男は計算高いのか考え無しなのか、全く得体が知れない――とはいえ、彼の見込みを当て込んで鵜呑みにしたまま確認を怠ったのは自分の手落ちだ。 
 というわけで、正攻法を当たることになった。 
 地上部と地底部は実質別々の建物、隣り合った別棟となっている。これを繋ぐ連絡通路がある。 
「ひとまず、管制室へ行ってみよう。」 
 カインは提案する。連絡通路が生きているかどうか確認するためと、また、塔全体の状態も把握するために塔の全機能を司る管制室へ行く。管制室は地上三階にある ※カインを除いたメンバーにとっては未踏階となる 
 北のエリアへ抜ければ管制室のある棟へ直通のポータルリフトがあるはずだ。ここからそう遠くはない。 
 カインの先導で通路を進む。活動停止した機械類を横目に、北区画を抜け、管制室行きポータルのある小部屋の扉に到着する。扉の前に立っても開かない。カインは目の高さにあるボックスに手を伸ばす。 
「パロム、この四角い部分に弱めの雷撃魔法を当ててみてくれ。」 
 光の失せた箱の外装を外し、まさに何らかの動力源を埋め込むために開いているのだと言わんばかりの空きを指差す。電撃魔法によって、ドアを開く程度の一時的な電力供給ならば可能であるかもしれない。 
「りょーかい! ちょっとだけサンダー!」 
元気良く答える少年の指先を踊った電光がボックスに吸い込まれる。目算通り、ドアはするりと開け、薄暗い縦空洞が愛想も無く立ちはだかった。入り口の扉の電源が落ちている以上、ポータルリフトの使用に至っては望むべくも無い。 
「仕方ないな……。」 
 カインはホール内に顔を差し込み、壁に沿って視線を巡らせる。入り口すぐ脇の壁面に登攀に利用出来そうな手がかりが見つかる。わずか一握りばかりの粗末な取っ手が、前腕長ほどの間隔で縦に並んでいるだけの簡素なものだ。リフトの機能維持・調整用作業足場として完成させるために梯子か何かを掛けるためのフックとして取り付けられた金具だろう。 
 取っ手を掴み、引っ張り強度を確かめる。見た目の細さに依らず頑丈な手応えを感じた。ちょっとやそっとの荷重ではびくともしなさそうだ。 
「よし、行けるな。」 
「距離は?」 
「およそ十五メートル程度になるか……三層上だ。」 
 背嚢から野営に用いるロープを取り出し、背負紐に用いて子供達を背中に固定する。先頭を行くカインが即席電源供給係のパロムを、後に続くエッジがポロムを背負う。子供と荷物と自重が足された重さが、掌に取っ手を深く握り込ませる。 
「下を見るなよ。」 
「へっちゃらだい!」 
即座に返される元気な声が微笑を誘う。高いところが苦手ならしいパロムだが、答える声に怯えはない。光量の薄さが丁度良い目隠しの役目を果たしているのだろう。 
カインもエッジも揺らぎのない確実な登攀で目的階を目指す。登攀開始より十数分。二つの扉を数え、腕にやや疲労が来た頃、目的階の扉が頭上から降りてきた。 
「ここだ。」 
扉上部のプレートの数字を認め、カインはドアのロックを示す。通路側と違って、ホール内部は電源部がほぼ剥き出しとなっている。 
「サンダー!」 
パロムは片手でカインに掴まり、もう片手で目の前に一文字描く。サンダーの電光が四角い部品の表面に青白い電光を起こす。あんぐりと口を開いた扉からポータルホール内部に立つ。小さな電光がエネルギーを供給し、道を塞ぐ扉板を巻き上げる。先に続く真っ直ぐな廊下 
歩きつつ記憶を手繰り寄せる。皮肉なものだ。ずっと忘れようと、目を向けないようにしていた記憶なのに、今は一個所たりと見落としのないよう※目を皿にして見渡している。 
 陶器に似た表面の金属タイルに覆われた壁面。壁に手を触れ、手を触れた感触を足がかりにバブイルの塔の構造を脳裏に呼び起こす。 
 通路。あの時は何の感情も意志も持たず、まるで運ばれていくような気持ちで通り過ぎていた場所だ。 
 内部構造の記憶と共に、あの当時の気持ちまでもがどうしても一緒に蘇ってくる。不気味な高揚感。優越感。こちら側に与そうとしないセシルたちを愚かと見なし、その反抗に哀れみさえ感じていた。親友の愚考を改めさせ、それが叶わぬほどに愚かならばいっそ愚行をこれ以上重ねる前に生の枷から解き放ってやるのがせめての情けと、本気で思い込んでいた。悪いことをしているなどとは微塵も思わず、ただ全て良かれと、全てこの世界のためと、たとえ親友を殺めてしまうことになってしまってもそれは善なのだと、本気で心から信じていた。恐ろしいことだ。 
 考えてみれば、現在も状況自体にそう大差はない。だが少なくとも、今この場所にいるのは自分の意志で、自分の望みに従っている。今ここにいるのは、自己満足のためだ。親友や祖国のためなどと思い上がっているわけではない。そう自分に言い聞かせ、自覚をしっかりと刻み込む。 
 カインは、立ち止まろうとする自らの意志に従い歩みを止めた。 
「ここだ。」 
カインの指示によりパロムのサンダーが開いた扉の先は、何とも奇妙な広間だった。 
 天井から紐カーテンのようにぶら下がるメタリックな色の管。高さも大きさもばらばらの塀のようなものが、入り口を抱く形で緩い曲線を描いている。 作業途中で放棄された晶石の石切場のようだ。薄い銀色一色の視界は、実際の気温よりずっと寒く感じさせる。 
「ここが管制室だ。」 
言って、確かこんな風に操作していたはずと、塀の一つに取り付いて手を翳してみる。しかし、緩やかに揺れて見えるパネル上の微かな光は、何の変化も起こさない。 
カインは腕を組む。クリスタルが揃っていない状態でも動いていた筈だが、目論見が外れた。休止状態の塔を生き返らせるために、必要な手順があるのだとすれば、次元通路を動かす以前の問題が発生していることになる。 
※塔の全機能を把握しているわけではないが、操作を見る・調べる機会はいくらでもあった。 カイン、己の迂闊さに苛々 バロンの生活とはあまりに異なる様々な仕掛け――得体の知れない仕組みの機械らしき物(分かっていることは、エネルギーが流れると動く仕掛けで、エネルギー体に相当するのがクリスタルらしいという程度) 少しでもまともな頭があれば、どういう仕組みで動くのかとか疑問を持って調べただろう 当たり前のように使うだけで、なぜ調べなかったんだ自分 これでは、ただ目が開いていたというだけ・何も見てなかったのと一緒だ。 
 苛立ちカイン、思わずパネルばんっ叩き 
「カインさん……」 
ポロムおろおろ 
 室内を一周させたエッジは思案顔でうーんと唸った。 
「蔵書保管庫のような場所はねぇか? 俺の読みが外れてなけりゃぁ多分、手引書みてぇなモンが有るんじゃねぇかと思うんだが。」 
「名案だ。」 
 相棒の漕ぎ出してくれた助け舟に乗り、カインは早速踵を返した。ポータルリフトへ通じる方とは別の扉から出る。やっぱり廊下。今度は両側に扉並び。同じ階の別の部屋。パロのサンダーで扉開き。書棚ではなくロッカーが整然と林を成している。一つに近づいてみるが、取っ手も何も見あたらない。四角い区切り模様の描かれたただの柱にしか見えない。 
「うおー何だこりゃー……」 
「文書を保管しておくための棚らしい。」 
 無駄だとは思いつつ、ゴルベーザがやってたように手翳し。電力来てないからやっぱ開かない。カイン仕方無し小刀抜いてどうにか一個こじ開け。中身は空。 
「外れか……。」 
「ンな事で幸運使っちまってもつまらねぇ、地道に行きましょうや。」 
 ひらひらと舞わせる手の上で、工具代わりとなる苦無が踊る。 
「ねねねニィちゃん、このぺたんこのドアも、サンダーしたら開くやつ?」 
パロムの掌が棚の扉をぺんぺんと鳴らす。 
「ああ、そうだ。しかし、これだけの数となると――」 
 魔力の消耗を案ずる顔の下で、双子はうんと頷きあった。 
「ニィちゃん、隊長、ちょっとどいてて!」 
「一気に行きますわ!」 
威勢よく名乗り上げた双子は鏡対象の舞を舞う。繋ぎ合わせた小さな手から眩い雷撃束が迸った。ばーんとシンバルのような大音声とともに、全ロッカーの扉が威勢良く開く。聴衆の喝采を受けた名奏者は揃ってえっへんと胸を張った。 
文書漁り開始。ロッカーによって時間の流れからさえ隔てられた内容物は、そのほとんどが紙でさえない何に使うのかも不明な品々。 
「見込みが外れたか……。」 
がらくたと同等の価値でしかない品々をもてあましたカインが一言。僅かな紙類には目を通し終えた。どれも目的のものではないようだ。 
「いーや、当たりだ。」 
がらくたの山に埋もれた相棒に一言。エッジロッカーの前でニヤリ。自信たっぷりに持ち上げられた手には一際古い書類。他のものと明らかに違うそれは、透明な硝子板に挟み込まれている。 
「これは……!」 
書を挟み込んだ硝子板の一つを受け取ったカインは目を見開いた。文字こそ長い年月に掠れているが、図解が豊富に入っている。塔の各部を解説した板書。記憶と合わせれば何とか出来そうだ。 
「こいつはエブラーナ城の宝物庫にあった代物さ。……いやまぁ、元を辿りゃ先祖方がここから拝借してきたんだろうけどよ、古文書の類だけ綺麗さっぱり持ち去られてたんでな。」 
何せ敷地内、庭のど真ん中にぶち建ってるモンを放っておいたワケがない――エッジの言 エッジの先祖が調べ、いくつかの品を持ち出し、エブラーナ城内に保管していた この古文書――塔の取り扱い説明書――回収がエブラーナの襲撃理由か 
「まさかお前さんの記憶一辺倒で塔を完全に動かせるとは思っちゃいねぇさ。」 
「人が悪いな、そんな大事なことを黙っているとは……」 
ほっとしつつも悪態が口を突く。先に言っておいてくれれば、重荷を背負わずに済んだものを。 
「――だな、すまねぇ。」 
裏を掻く彼ならではの判断。しかし、今の謝罪はきっと本心からだろう。 
「八つ当たりだ、忘れてくれ。」 
 カインは軽口を詫びる。 
 言えなかった理由は分かる。※国家元首として国の財宝に纏わる情報をおいそれと明かせないだろうし、何より友人として――もし説明書があると始めから知っていれば、洗脳時の記憶と向き合う覚悟をせずに、仕方なくで塔に来ていただろう・どのみち結局は公の益のために仕方なしなし崩しに行き着く前に、自らの意思で洗脳時記憶と向き合う決意を固める機会をくれた・選択を尊重してくれた 
 今はまず地底へ行くことが優先だが、後のことも考えるとこの取説を捨て置く選択肢はありえない 手分けをして文書の複写を作成することにする 
「こんなもんかねぇ〜?」 
一字一句違えれば意味をなさないかもしれない、自然と根詰まる転写筆記作業の分担を終え、エッジはのびのびと腕を伸ばす。 
「元文書は暫くこの書庫に保管しておきたいんだが、構わんか?」 
次いで、図版を中心に分担していたカインも作業を終える。現所有者に伺いを立てる。 
「おうよ。結局ここが一番安全だろうかんな。」 
快く同意したエッジは、全員のメモを手早く頁順に纂めてザックに突っ込み、携帯食を取り出す。 
 資料を読むことによって、操られていた当時目にした光景の数々に理屈が裏付けされていく。その理屈を完全に理解できたとは言えないが、塔内至る所に存在する、魔法さえ及ばない不可思議な仕掛けの数々――それがいまや、明快な原理の掌中にある。 
 例えば――押したり引いたりせずとも勝手に開く扉。上部から見えない光のカーテンが吊られており、それを遮ることによって人の存在を感知し、壁の中に取り付けられた複数の滑車のようなものにエネルギーが注がれ回って開く仕掛け。 
 例えば――懸架具の一切を使わずに上下移動する小部屋(リフト)。小部屋の外壁とそれを通す筒の内壁が磁石のようなもので出来ており、反発と吸着を繰り返すことによって移動する仕掛けだ。また、このポータルリフトの外壁の磁石は、リフトと通路を繋ぐ扉へ電力を賄う機能も持っているらしい。リフトと扉と別々に電池を用意しなくていい合理的な仕掛けだ。 
 理屈さえ知れてしまえば、何れの種明かしも単純といえる仕組みだ。全く同一物をというと無理だが、幾つかに関しては、部品を既存のもので代用すれば同じ仕掛けの物を作り出すことさえ出来そうだ。 
※ 高度な魔法によるものだと思っていたものは全て機械仕掛けだった。塔内部の仕掛けに魔法を使ったものが見当たらない。塔内部の仕掛けの動力は全てクリスタルに完全に依存しており、故に、クリスタルなき現在、塔の全機能はほぼ死んだも同然の状態になっているというわけだ。 
 塔の仕様が判明していくにつれ、操られていた時の記憶を思い起こすたび覚えていた恐怖が、僅かずつだが確実に薄れていくのを感じる。月の民は、決して太刀打ちできない運命の具現ではない。恐るべきはその技術――しかしそれは、対抗できる。 
「手応え充分て顔になったじゃねぇか?」 
エッジが笑いながら声を掛けてくる。この塔へ足を踏み入れたとき、自分がどれほど思い詰めた顔をしていたか想像に難くない。カインは苦笑する。 
「しかし、驚かされるな。魔法を用いずにこれだけのものを作り出せるとは……」 
 油断を戒め、カインは慎重に息を吐く 
「……魔法ねぇ。」 
 エッジが意味深く間を持たせる 
「どうした?」 
「いや、もしかして奴さんら魔法はあまり得手じゃねえのかもな。」 
「それはありえないだろう、フースーヤ老は優れた高位の魔導師だ。」 
「本当にそう思うか? こいつらよりも?」 
 言って、エッジは天才双子魔導師を指す。そう問い返されてしまうと言葉に詰まる。双子を見る。ポロムはそこらにあった箱を組み合わせた簡単な書卓を設え、パロムは床にべったりと座り込み、それぞれ腹ごしらえに勤しんでいる。 
「そう言われると難しいな……分からん。」 
「確かに、俺も専門家じゃねぇから何だが、身内の贔屓目承知で、爺さんの魔力にリディアや姉ちゃんの魔力、ガキどものそれが劣るとは思えねぇんだがどうよ?」 
 返答は主観で良かったらしい。カインは慎重に頷く。 
「……まぁな。しかし、ゼムスの最終決戦時の熾烈な攻撃は……――」 
最終決戦の地で浴びた猛攻 ビッグバーンやブラックホール 
「ありゃ、魔法なんか?」 
「魔法だろう。※黒魔法にメテオを返してきた。」 
 それだ、とエッジは人差し指を立てる。続いて、エッジは後ろ髪を結わえている紐をもたげた。 
「こいつ、咬煌ってんだが覚えてっか? エネルギー吸収材なんだが、ルビカンテの野郎のマントを見る限り、連中が似た理屈のモンを持ってんのは確かだ。奴さん、変身する前に爺さんら煽ってやたら魔法使わせてたろう。」 
つくづく、相棒は思ってもみない視点からものを見てみせる。 
「ところで前提をまず確認しておきてぇんだが、ゼムスは月の民ン中じゃあ相当、ややもすりゃあ爺さんより強力な魔力の持ち主、ってぇ認識で合ってるよな? でなきゃあ封印すんのは容易かったろうし、封印された後で念波を通す綻穴も作れねぇ。つまり、ゼムスは月の連中が総力かけても完全に封じ切れなかったほど強力な魔導師ってわけだ。ここまでは?」 
「異議なしだ。」 
 カインは頷く。するとエッジは、よしきたとばかりに膝を打った。 
「なら、ゼムスの魔力の具合を検証すりゃあ、月の民魔法苦手論を実証できるよな? で、奴さんの魔力の分かり易い指針として・表すものとして、洗脳・念波を検証することにする。」 
「ああ、それでいい。」 
「よし、じゃあ最初に結論だ。ゼムスの念波は、青き星の民にとっちゃ無視することができる程度のものでしかねぇ。」 
「まさか。」 
いきなり突拍子もない結論だ。カインは半ば呆れる。予想通りの反応に、エッジはにやりと笑った。 
「じゃあ聞くぜ。この星の全員の中から、なぜゴルベーザだけが洗脳された?」 
 エッジの質問に、カインは為す術なく首を傾げる。 
「爺さんが白状してんだよ、『ゼムスの念波を月の民の血が増幅した』ってな。普通、魔力が高い即ち魔法抵抗力も高ぇんじゃねぇ? 青き星の民が魔力で月の民に劣るなら、爺さんの言うことァは筋が通らねえ。ガキの目の前でわざわざ偽りでっち上げてまで親父を貶すこともあるめえし。」 
「ふむ……」 
カインは唸り、反論を探す 
「……老は『悪しき心あれば誰にでも付け入られる隙はある』とも言っていた。ゴルベーザが悪しき心を持っていたからでは?」 
「おうそれそれ。その爺さんの言葉、俺も引っかかってたんだが、当時ゴルベーザはまだガキだったろ? たかだか十やそこらの子供が持つ悪しき心なんざお前、たかが知れてらぁ。悪しき心がゼムスの念波を吸着するってぇ理屈でいくなら、この星に数多いる成人の悪党どもなんざ、よほどゼムスの影響を受け易かった筈じゃねぇか?」 
「その通り、他にも被洗脳者が居たのかもしらん。ただ、計画を成就させられなかっただけで……すまん、話にならんな。」 
 カインは横槍を早々に引き下げた。存在する証拠を示せない以上、少なくとも論上に於いてそれは存在しないと同義を成す。 
「……では、同じ月の血を引くセシルが洗脳を逃れた理由は?」 
「そこまでは分からねぇが、赤子だったからで済むんじゃねぇかな。もしかすりゃあ一緒にゼムスの声を聞いていたのかもしれねぇが、言葉の意味が理解できねぇだろ。よしんば、首の据わってねえ赤子が凶暴になったつったって、あらあら今日はご機嫌斜めなのねーってなもんだ。」 
「では、封印によって本来の魔力を発揮できなかったのでは? そして月とこの星との距離の問題もある。」 
 いよいよ興が乗ったか、エッジは食事の皿を床に置いた。尤も、それは既に空になっていたが。 
「封印の問題だが、鍋の底に空いた穴に気付かなかったか、継ぎ当てられなかったか何れにしろ、奴さんを凌ぐ魔力の持ち主が月の連中の中にゃいねえってことで、こりゃゼムスは月の民の中で最強の魔導師説、つまり前提の補強として機能する。」 
※エッジは更に言葉を重ねる 
「次に距離を片付けるぜ。月と青き星間での念波のやりとりなんだがな、同じことを成し遂げた者が青き星にもいるんだよな。ミシディアの長老だ。」 
 あの日、ゼロムスの猛攻に晒され絶命の危機を迎えた自分たちに、ミシディア長老が成し遂げた奇跡 自分たちの無事を祈る人々の想いを月まで届けた 確かに聞こえ、立ち上がる力をもたらしてくれた皆の祈り 
「よしんば、あれが長老の力によるものでなかったとしても、だ。声を届けてきた中で本職魔導師といったら……だぜ? 貶めるつもりじゃねえが極論を言えば、ゼムスと同じことが、あの飛空艇オヤジでさえ出来ちまったわけだ。」 
 魔法はよく分からん!がもっぱら口癖の技師の顔が頭に浮かぶ。 
「もう少し行ってみっかね。何ともお誂え向きに、月の民と青き星の民が同じ洗脳術を掛けたらどうなるかってぇ直接の比較対象として、ゴルベーザが――」 
 立板の水がふと途切れた。自分を気遣っているのか。 
「続けてくれ。」 
 カインは先を促した。当事者では持ち得ない客観視点を是非聞いておきたい。 
 軽く苦笑いのような表情を浮かべ、エッジは先を続ける。 
「ゴルベーザが受けた洗脳と、お前がゴルベーザに受けた洗脳、強力さで言や後者の勝ちじゃねぇかね。そりゃあ、お前に悪い心がねぇとは言わねぇが、そもそも奴さんの洗脳を受けたのはお前だけじゃねぇ。近衛の兄ちゃんの親父を始めとして、幾人ものバロン兵……俺の親父とお袋も或いは勘定に入るかもしれねぇ、そして、ヤンだ。」 
 力強く発した二文字の名に被せ、エッジはぽんと膝を打つ。 
「バロンの連中や俺の二親に心昏い部分がなかったかどうかは定かならねえが、ヤンに関しちゃあ奴さんは高位のファブール僧、心の清さはお墨付だろ。ってぇこた、悪しき心云々は戒めの箴言に過ぎず、であると同時に、これだけの人数をして抗いかねたゴルベーザの洗脳を強力と呼べねえ道理はねぇだろう……ゼムスのそれよりもな。」 
 ご静聴どうも、とエッジは話を切り上げる。 
 講義は終わった しかし、カインはその先を考える。 
※「……しかし、そんな洗脳の魔法が存在するものか? 人の心を操るような……パロム、ポロム。」 
 突然話を振られた双子はびっくり顔 ポロムがおずおずと口を開く 
「あの……白魔法にそういう術があると聞いたことがありますわ。コンフュと対を成す術だとか。」 
少女の気遣い目線が顎の辺りに触れる カイン頷き促し 
「大丈夫だ、ポロムがそんな魔法を使うとは思っていない。」 
少女ほっとした顔 
「コンフュは全てを嘘にします。……その魔法は、全てを真実にしてしまうのだそうです。でも、心にもない行動をさせられるような魔法ではありません。ですから、カインさんに掛けられたのは、別の魔法だと思いますわ。」 
少女は、自分がセシルに剣を向けたことを考慮して付け加えたのだろう。しかし、自分が受けた洗脳は十中八九それの可能性が高い――心当たりは、ゴルベーザが行った赤い翼隊長就任演説の場 否応にも衆人の耳目が集められる、まさに洗脳魔法をかけるにはうってつけの場 演説の内容自体は、後から思えば論拠などまるで存在しない空論・大嘘もいいところ しかし、自分は疑いなく信じた――”正義”に背を向けた親友に対し、剣を向けることを何ら躊躇わぬほどに 
 
腹ごしらえを終えた一行は管制室へ戻った。いよいよ地底への道――可動通路を動かすための仕組み作りに取りかかる。クリスタルが無い状態では塔の全てのシステムの完全稼動は出来ない。必要最低限の場所へ、エネルギーを効率的に回す必要がある。 
※取説から得られた情報 クリスタルが無い状態でも機械類を動かすための、いわば緊急電力みたいなものが存在すること その施設は管制室に隣接している 管制室へ戻って隣の部屋へ通じる扉を開く 
 室内には、碇をひっくり返したような形のオブジェが等間隔で並んでいる 資料に示されていた記号の付いた場所を目当てに、オブジェの蓋を開ける 蓋で平衡を保っていた宝石のような小石の山が、からからと音を立てて崩れるた 
「何だこりゃ、白硝鉱か?」 
「ああ、言われてみれば確かに似ているな。充電石といって、クリスタルのエネルギーを石の形に結晶させたものらしい。」 
 内部から石をかき集める。掌にすっぽり収まるサイズのバームクーヘン型の物が七個積みあがった。 
「全ての石を抜いて集めてくれ。」 
 カイン、他のオブジェを指さし作業指示する。集まったのはちょうど二十個。 
「足りっかな?」 
「足りるようにするさ。」 
※乾電池持って管制室へ戻る 
 取説の塔内マップを見ながら、地底までの最短経路を作るパズルを埋める。制御装置そのものの稼動に八個、地底側入り口扉の開閉用に二個(地上への橋形成も含)、可動通路の維持に四個で残り三個、これならリフトも動かせそうだ。八層分の下り時間の短縮になる。地上地底のリフトに二個ずつ計四個使って、一個余る計算だ。 
 早速、塔内設備制御装置の動力パネルを外す。クリスタルから動力を引くためのプラグを外し(PCモニタのように、ソケットに爪を差し込むのではなく脇に付いてる金具?で固定)、ソケットにちょうどぴったり嵌るサイズの充電池を詰め込む。ソケット穴は充電池八個分の深さ。盤面にべったりと両腕を付けて見学しているエッジ カインが蓋を閉めた瞬間、警報が鳴り響いた。仰天して飛びのくエッジと入れ代わり、盤面に並んだスイッチのうちオンに切り替わっていたものを見つけて切り替える。 
「何だ何だ?」 
「生命探知システムだな。」 
 盤面上で先ほどまでオンラインで表示されていた上から二列目の文字を読む 
「タンチシステム付けておいたら、ステュクスが来たらすぐ分かるかも!」 
傍らに駆け寄ってきたパロムが名案とばかりに声を上げる。 
「回すエネルギーが惜しい。この石はあくまで予備だから、あまりエネルギーは蓄えられていない。それに、塔にとっては俺達も侵入者だ。現在は防衛システムが働いていないから実害といえるものはないが、俺達が塔内にいる間はアラームが鳴り続けるようになる。各機能のオンオフだけならば俺たちにも出来るが、各機能の設定そのものを変更するためには、ゴルベーザの手が必要らしい。」 
「手ですか?」 
 弟の逆側にポロムも歩み寄ってくる。双子を両脇に侍らせたカイン 説明するより実際やってみせるのが早い。盤面の横に据えられた、いかにも手を置いてくれといわんばかりの板に手を乗せるが何の反応もない。静脈認証されれば青いスキャン光が走るはずだ。 
※「ちょっと待てよ、ゴルベーザの手がなくても次元通路は動かせるのか?」エッジ、当然の疑問 「それは大丈夫だと思う スイッチを切り替えて指定の場所に明かりを点けることは誰でもできるが、配電盤の中を弄ってスイッチの接続先を変えるには、専門の職人が必要という道理 専門の職人というのがゴルベーザの手にあたる」 
「ま、何から何までというわけにゃいかねぇか。」 
「所詮俺たちが作ったものではないからな。必要な機能が扱えるだけでも御の字だ。」 
 可動通路制御システムをスイッチ一つで起動させる。ナビ代わりに、順路にのみ非常灯を付けておく。 
 準備が整い、いよいよ地底へ 扉横のボックスに制御装置と同じ要領で充電池を設置する。そうするとちゃんとリフト動く。(クリスタル設置時はレジューム機能利く・停めたところに停まったまま。充電池使用時は一定時間目的階が押されない場合充電池のあるフロアへ戻る)リフトで地上一階へ降り、渡り廊下制御室目指して歩き。たいした距離ではない。 
渡り廊下制御室・地底との接続部にたどり着き。ボックスに充電池設置してパネルを操作。機械音がしてシャッターが上がるように扉が開き、手前から奥へ向かって上から柔く光る丸い輪が降りてきて、長い通路を形成する。雰囲気抜群の演出に、エッジは手を叩いた。 
「おおー!」 
 長い通路を抜けて再びリフト乗り階下へ降り(ゲームマップ地底1F)。暗い廊下に、幾何学模様を走る光がぼんやり照らし出される。 
 エッジが襟元に指を入れて風を入れる仕草を取る。幻想的で無機質な空間と、ひんやりとした光景に反してじわりじわりと肌を蒸す暑さを増してくる空気 そのギャップが何とも言えぬ不快感を思わせる 
「出口だ。」 
充電池を嵌め込みエントランスのブリッジを作成 光輪が回転して一枚一枚浮き出てきて橋を形成する 
 
 ブリッジを渡りきると溶岩熱が一気に押し寄せてきた。少広間ほどの距離を隔てているにも関わらず、ごぼごぼと音を立てて溶岩が吹き上がるたび、相当の熱を肌に感じる。高位ドラゴンのブレスにも匹敵する灼熱の海は、鋼さえ溶けきるのに数分を要さない。 
 地表とは真逆転した色彩の中、熱に揺らぐジオット城のシルエットを目指す。しばらく歩いた一行は、早々に無益な忍耐を投げ捨てた。必要最低限文明的と言える着衣を残し、増えた荷をマントに包んで頭に乗せる。 
「ジオットの領地はどうなっているだろう?」 
 片手で自分の頭上を押さえる傍ら、空き手を少女の荷運びの介助に添えたカインは、一行の耳目を顧みる。 
「地底の事情はよく分かんねぇからな……。」 
「分からないのか?」 
残念な答えに納得しきれず、カインは怪訝を顔に出す。 
「何だよその意外そうな顔は。」 
「本当は知ってて隠してるんじゃないのか?」 
「違ぇって……またぞろパロムに妙なこと吹き込まれちゃ堪んねぇからな、種明かししてやらぁ。」 
エッジは懐のポーチを探り、栞のような札を取り出す。透明な膜の内部に丸い白花の房を付けた草がパッケージングされている。 
「これは?」 
「山彦草の仲間だ。乾燥した山肌が好きでな、ダムシアンの一部にも似たようなのが生えるらしい。で、この草を持ってるモン同士簡単な信号を送ることができる。とはいえ、あまり離れると使えねぇから、この草を持たせた部下を世界中に散らして連絡網を形成してる。その連絡網を担う者を、俺らは”草”と呼んでるわけだが――」 
「そのままだな。」 
「うるせぇ言うんじゃねぇそんなとこでカッコつけたって仕方ねぇだろが! ……とまぁ、いくら何でも地底までは草を送れねえかんな。」 
国家機密だぜと釘を刺してエッジは話を切り上げる。口外無用を請け負ったカインは、改めて地底の大地を見据えた。情報のない状態で未知にも等しい世界に臨む。不安が半分、好奇心が半分。 
 
 ジオット城。溶岩の赤光に照らし出されたその姿は威風堂々、偉容、圧巻だ。 
「王様、地上からのお客さんが来たラリ〜!」 
 人身丈の半分に辛うじて兜の角部分を届かせるほどしかないドワーフ達の歓迎を受け、城を歩く。各施設を上に積まず、地下地上一階の建物内に並べた平方面積の広い城だ。だが、全体として低い天井が実際の面積より肩身を狭く思わせる 
踊るような足取りで先導するドワーフが謁見の間の扉を開ける。赤絨毯の終着点に据えられた玉座の主は、一行を見るなり椅子の上に立ち上がった。 
「おお、そなたらは!」 
椅子の上でぴょんぴょんと跳ね飛ぶ王の目前に一行は膝を折る。 
「ジオット王、お目通りに預かり光栄に思う。我々は――」 
「覚えておるぞ、セシル殿の仲間じゃな! 久しいのう、元気でおったか?」 
遂には王は椅子から飛び降り、一行の堅苦しい礼儀を払って回る。未知の世界に、こちらの顔を見知った者がいてくれることのなんと心強いことか。 
「ジオット王、此度は頼みがあって参じた。貴国所有のクリスタルを、何卒お貸しいただきたい。」 
「良いぞ!」 
「実は――……は?」 
 電光石火の快諾に、カインの声がすっぽ抜ける。 
「何に使うのかは……?」 
「聞かん! そなたらは信用できる!」 
 一行が顔を見合わせる暇すらなく、きっぱりはっきり言い切ったジオット王は、性格そのままの豪儀な笑いを響かせた。 
「そなたらに渡せば良いんかの?」 
カインが戸惑いがちに頷くを見るや否やクリスタルルームの扉がばーんと開かれる。 
「よし、では持って行くが良い! なに、遠慮は要らん!」 
開け放たれたクリスタルルームの前で、王が大きく腕を広げる。 
「ただ、封印の洞窟にある分は少しばかり待ってもらわねばならん。そなたらは先に、城の分を持って戻るが良い。残りはジオットの名にかけて必ずそなたらの元へ届けよう。どこへ運べば良いんじゃな?」 
「差し支えなければ、封印の洞窟へは我々が。」 
 話の切れた隙にカインはどうにか意向を差し挟む。クリスタル貸与の申し出に好意で応じてくれたドワーフ達をそこまで頼り切るわけにはいかない。 
「ふむ。差し支えなどないが、そなたら、今回は”ヒクウテイ”とやらを持って来んかったようではないか? あの空飛ぶ船が無くば、溶岩の海を越えられんじゃろう。」 
 落ちかけた顎を辛うじて押さえる。屈強なドワーフ達といえど、溶岩を生身で越えられないという条件は同じだ。しかし王はクリスタルの回収を請け負った。つまり、彼らは空を飛ぶ他に封印の洞窟へ行く術を持っているということだ。 
「他に封印の洞窟へ行く術は?」 
「”眠り”を待たねばならん。」 
「眠り?」 
「うむ。溶岩の熱が鎮まる時のことじゃ。」 
「運良くそろそろその日だったり?」 
「その反対で、ついこの前じゃ。次回の眠りは二巡週と少し先になる。」 
「まぁそう巧くはいかねぇか……。」 
「弱ったな。」 
二週間ちょい。充電池の残量が案じられる。任せてしまうべきか。 
※溶岩の距離はどれくらいだろうか? 何とか越えられないものか――心当たりとして真っ先に、鮮やかに思い浮かんだのは、ミシディア長老が嬉々として撫でていた大砲。選りに選ってそれを真っ先に思い浮かべた自分の無謀に頭痛を禁じ得無い。大体、あの大砲は着地点が不確かだ。失敗したら目も当てられない。 
「じゃあさじゃあさ、ニィちゃんがジャンプでビューンって――」 
「無茶を言うな!」 
 エキセントリックな順に述べられる案。カインはすかさず少年の無謀論に蓋をする。少年は頬を膨らませた。 
「なーんだぁ――」 
「悪かったな大したことのない竜騎士で。」 
パロの頭ぽふん掌被せぐりぐり。こういう行動が自然に出てきた。昔シドにされていたようなことを、今は自分が少年にしている。フッ笑い。 
「だが、策はある。上手くいくかどうかは分からんが……。」 
 ちょうど自分がまだパロムくらいの年の頃、シドが面白い実験をしてみせてくれたことがある。たき火の上で紙袋を浮かせてみせてくれた。熱された空気は軽くなる。軽くなった空気を詰めた袋は、浮力を持つ――シドの飛空挺の浮遊体の理論の基礎だ。シドの飛空挺を作るには、もっと高度な姿勢制御部の理論についてそれこそシドに匹敵する専門知識が必要だが、浮いて進むだけの単純なものならば、今手持ちの知識だけでも作れるかもしれない。 
「溶岩を越える道具を作りたい。すまないが、手助けをしてはもらえないか?」 
「おお! 無論じゃ、遠慮は要らん! おっと、ここでは何じゃな。」 
王はパブラリホーに一行を招く。パブへ行き着くまでに見物にドワーフたちは集まって来て大部隊となった。 
辻画家のような見物人に囲まれた中で、カインは道すがら練った簡単な案を図に描く。浮遊体を上部に据えた、ちょうど飛空挺をひっくり返したような構造だ。パラアンカー様の風受け推進装置付き。 
※「俺たちが四人、ちょうど飛空艇乗員の半数となる。とすると……確か……――」 
カインは飛空艇のスペックを元に連立式を起こす。 
「単純に半分なら、おおよそ2300立方メートル。ま、大は小を兼ねらぁな。」 
エッジが素早く頭の算盤を弾く 
「耐熱に優れた布と縄とバスケットが必要」 
必要な物頼み 
「布はミスリルメッシュを使うラリ!」 
「縄は鋼線でいいラリ?」 
「熱に強くて軽い籠ならば、戦車の砲塔が使えるラリ!」 
簡単な数値と略図を記した草案をドワーフに渡す。双眼鏡のような眼鏡を掛けた白髪交じりの年配ドワーフは、略図を瞬く間に詳細な設計図へと描き変える。 
※「気球の制御だが、長く燃える熱源と風が必要」 
「長く燃える熱なら、マグマの石があるラリ!」 
※「オイラだって出来るぜ!」 
「風なら、戦車用の換気扇が使えるラリー!」 
「私のエアロもきっとお役に立てますわ!」 
制御機構は機械と魔法の二段構えで※ 
「よぅし皆のもの、早速作業にかかれい!」 
「ラーリホー!!」 
ドワーフたちは勇んでパブを後にする。 
「手伝おう。」 
後に続こうとした一行を王を引き留める。 
「その前に、そなたらには大事な仕事がある! 残った者は歓迎の宴の用意じゃ!」 
 
 ほとんど城を上げての盛大な宴から二日経過 来賓としてごろごろするのには半日で音を上げた 
 というわけで、”特別作業監督”の冠をありがたく頂戴してドワーフたちの作業見学に ドワーフ達働き者 24時間を作業員を入れ替えながら休み無く城地下の工場フル稼働 
 休み無く回る機械の排熱のため、天井に三基の大型ファンを回して外気循環していても尚暑い ドワーフですら袖無し衣服を選ぶ室温なのだから、地上の人間などなおさら軽装でなければ追いつかない。しかし、軽装を通り越して短パン一丁にサンダルエッジ どこの海水浴客だお前は 
「もう少し格好を取り繕え。」 
解体作業を後回しにされた戦車の前面張り出し部分・ボンネットに座ったエッジ、悪びれもせず言い返す 
「丈が違うだけじゃねーか。」 
膝下数センチの差が生み出す文明感の差を主張してやろうかと思ったがやめた カインは額を蒸らした汗の分だけ冷却水代わりのエールを口に含む 作業監督とは名ばかり、設計にしても組み立てにしてもドワーフに一日の長がある。ほぼ任せきりで、呑気な工場見学観光状態だ。 
 しかしすごい工業力 揃った部品の組み立て作業見ながらつくづく感心 頭の中の朧なイメージが着々と現実の姿を備えていく行程 紙の上の数値が持つ意味を実際目の当たりにすると、その巨大さに驚かざるを得ない。 
 そして、そんな巨大な代物をいとも易々と作り上げていく体の小さなドワーフたち 
「敵に回したかねぇなぁ……」 
とっくりと作業に見入るエッジ。小気味よく働き回るドワーフ達の様子を肴に冷たいエールをあおる。 
「ジオットは、青き星の全国家中唯一ゴルベーザ率いる赤い翼と正面から対峙し、撃退まで叶えた国だからな。」 
 カインは相棒に同意する。バロン主力の全部隊を投入したとしても勝負になるか怪しい。ドワーフは友好的で穏和な種族。この種族と戦火を交えなければならなくなるような事は起こらないと思うが、もしそうなってしまったら全面戦争は全力で避けなければなるまい。 
ちょうど、気球制御の補助を行う役割のパロポロ用の椅子の取り付け作業が完了したようだ。これも戦車の部品を流用している。運転席の椅子だそうだ。ドワーフの背丈に合わせた椅子が双子の背丈ぴったり。揺れたりして落ちないように簡易ハーネス付き ルカから借りたサマードレス姿のポロムと、エッジと同じ短パンパロム ハーネスの調節を終え、枠に半固定されたそれをブランコのように揺らして遊んでいる姿が見える。 




LastModify : February/27/2016.