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狂い蝉

07 25 *2010 | 学怖

ファイル 68-1.jpg

ちまちまとついったーで書いていた荒新のSSみたいなもの。
文字書きじゃない人が文字書くもんじゃないなと思った
割とひどいですが一応まとめ

 季節外れの蝉が鳴いていた。周りには文化祭などで使われた道具やセット、壊れたギターや何年も前のプリントなどが乱雑に置かれている。物置のような狭い教室だった。古ぼけたラジオをつけて、ノイズまじりの音楽番組を流す。何処からか持ってきた古いポットで、彼がコーヒーをいれた。
 ここで僕は勉強をして、彼はぼんやりとするのが最近の放課後の過ごし方だった。温かいコーヒーが体にしみる。この部屋に暖房機具はなかった。ガタガタと窓ガラスが悲鳴を上げる。ラジオから、その音に対抗するように音楽が流れ出した。とある新人のデビュー作だそうだ。歌詞は夢に溢れていた。
 夢が溢れすぎて、夢しか見ていない曲だった。そんな物は珍しくもないが、今の僕にはそれがとても憎たらしく思えたのだ。手を伸ばしチャンネルを右に回した。
「あ、何だよ。今の歌結構好きだったのに」
 丁度時報が流れた。彼は不満を言えどもチャンネルを戻す事もなく、軽快に喋る男女の声を聞いていた。

 誰かに追われているんだ。彼は気付かないのか。
「裏切られるのには慣れました。信じるなんて馬鹿らしいんです」
 下校時間のチャイムが鳴り、暫くして見回りの教師が歩き出したのを見るとその部屋を出た。三年は下駄箱のある階が違う。彼が一階に降りていくのを眺めながら僕はそう呟いた。
 靴を履きかえ階段を降りる。昇降口前のよくわからないモニュメントの前で彼は待っていた。受験を既に終えたせいか鞄はぺしゃんこだ。強い風が吹き僕はマフラーを巻き直す。また蝉の声が響く。一匹だけいる季節外れの蝉。気が違っていると思った。
 そして何故か僕は言ったのだ。
「裏切られる事には慣れました。信じるなんて馬鹿らしいんです」
 彼は脈絡のない言葉に驚いたようだった。そして何かを言いたそうにこちらを見たが、そのまま歩き出した。気が違ったのは僕なのか。蝉は己の夏を信じたままだ。真夏を見せた孤独が真っ赤に燃えている。


 あの日は特別会話もせずに帰ったのだ。そんな事を蝉の声を聞き思い出す。今日は物置教室に、僕一人。三年生は一限しかなかったようで、流石に待っているという事はなく彼は帰宅していた。いつもの時間いつもの場所で、いつもと違い僕一人。追われているのだ。こういう時にまた実感する。
 僕は改めて部屋を見渡した。色褪せたがらくた達の城のようだった。何となく片付けを始めた。整理整頓をする。置くべき場所に置くべき物を、そんな物があるかはわからないが。古いギターの弦は弾け、何年も前の破裂しそうな缶ジュースを大量に発見する。移動可能な黒板には、彼の落書きが残っていた。
 帰宅する生徒の声が遠くに聞こえる。邪魔な「タコ焼き一皿50円」の看板を退けたら窓が開くようになった。やかましい蝉の声が聞こえる。蝉は相変わらず一匹だけ生きて鳴いていた。お前には羽があるのだから何処かに飛んでしまえ。もしかしたら季節外れの気違い蝉が他にもいるかもしれないだろう。


 今日もまたいつもの部屋で彼と二人。僕は勉強をしている。彼はたまにこちらを覗くが、ラジオに耳を傾けたままだ。掃除をして発掘されたソファ(だったもの)に腰をうずめている。今日は蝉の声が聞こえない。澄んだ、しかしどこか白っぽいような雲のない空が燃えていた。
 彼はふと窓を開け、下を見た。
「蝉が落ちてる」
 季節外れの蝉も、寿命は同じだけだった。あいつの叫び声は確かに僕を狂わせたのだ。彼はぽつりと呟いた。
 「…何か小難しい考えてないでさ、笑いたい時に笑えばいいし怒鳴りたい時に怒鳴ればいいだろ。よく解らないけど」
 何だか僕は素直になれた気がした。あの蝉は僕を壊していた。彼の肩をソファに押し戻した。彼はなにも言わず、抵抗もしなかった。ソファが悲鳴を上げる。僕は彼の目を見ていた。彼はどこか遠くを見るような笑顔だった。僕の前髪が彼の額に当たっていた。鼻の頭が触れた。ラジオの音はもう聞こえない。

 帰る時、蝉が鳴いていたであろう場所に来てみた。上から見たのと同じように蝉がそこに落ちていた。夏によく見かけるジジジ、と悲鳴を上げながらのたうち回るようなものではなく、完全に動きを止めているようだった。僕は初めて狂った蝉の姿を見た。そこに居たという存在をようやく認めた気がした。
 そして、その存在を認めたからこそ、僕はその蝉を踏みつぶした。先程の部屋での事を何故か思い出していた。彼は僕をじっと見ていた。あの時何と言っていただろうか。今この蝉は何を考えているだろうか。僕は何を言いたかったのだろう。素直にものが言えれば良いのだけれど、それはとても難しく感じた。


 風が窓を揺らして音を立てていた。物置のような狭い教室で、古ぼけたラジオをつけて、ノイズまじりの音楽番組を流す。ポットが空焚きをする音が聞こえる。僕は水を入れ、湯が出来るのを待った。ぼんやりとしていると、夢を叫ぶ歌がラジオから流れ出す。夢が溢れすぎて、夢しか見ていない曲だった。
 その歌詞は何かを思い出させ、軽く照れくさい気分を覚えた。そっとラジオのボリュームを右に回した。背中にあるソファの感触は、少し硬くてあまり心地が良いとは思えない。僕は目を閉じる。風の音は聞こえない。人の声も聞こえない。ただ雑音まじりの歌が響いていた。五感が鈍る、希薄になっていく。
 僕達は生まれた時も考えも違って、それでも同じ部屋で過ごしていたのだ。あの時間は確かに僕の中に存在していた。恐らく彼の中にも存在していたと信じている。僕は彼を見るのをやめた。もう桜が咲く季節になる。硬いソファがギィと笑った気がした。彼もきっと笑うだろう。
 今なら過ぎる時を怨む言葉も怒鳴るように叫べただろうか。よくわからなかった。


 
私がよくわかんねーよって話。
・時間の変化とお互いの考え方の違いと変化 ・荒井君は新堂さんに卒業して欲しくなかった。けどそんな言ってもどうしようもない事を言うつもりは無い。最後まで素直になれる事はない。新堂さんはそれをわかって何かを伝えたかった ・荒井さんはもう少し新堂さんを信じられたら良かったのかもしれない
ちなみに元ネタの曲(※一応V系注意)
 ttp://www.youtube.com/watch?v=iVMSBFIfnR4

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