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◇◆ Regalo 2 ◇◆
 結局彼の誕生日も、私の誕生日も、クリスマスさえも、なんだかんだと彼に嵌められて、 作戦を実行することのないまま今に至る。
 これじゃいつまで経ってもその日はこないと思い直し、考えあぐねた結果、形から入ればなんとかなるかもと思いつき、 お店まで買いに行く勇気のない私は、インターネットで目的の品を選び出す。

 そんな大それたものじゃなくて、でも明らかに、勝負に出た下着。
 赤、黒、白、さてどれにするか! と、意気込んだところで電話が鳴りだした。
 電話の主は彼の祖母である高遠さんで、彼に良く似たトーンの、穏やかで上品な日本語が受話器から流れてくる。
「新月ちゃんから、なにやら楽しげなお話を伺ったのよ。だから無粋だけれど率直に言うわね?  満月ちゃん、悪いことは言わないわ、緑になさいな」

 高遠さんの言葉を聞いて、思わず画面を振り返り、そして部屋中の壁を見渡した。
 新月や高遠さんが、隠しカメラで覗いているのではないかと疑わずにはいられない。
 けれどそれは、私の杞憂に過ぎなくて、高遠さんの続く言葉で本来の意味が解った。
「お正月のお着物なのだけれどね? 新月ちゃんは藍で。満月ちゃんは緑で仕立ててみたの。だけれど新月ちゃんが、 満月ちゃんなら藍を選ぶだろうって言うから……」

 高遠さんが言う楽しげな話というのは、お正月に控えたイタリア旅行のことだった。
 新月がイタリアへ行きたいと言い出したのがきっかけで、日本には帰省しない浅海さんへ新年のご挨拶と、 彼の母親である美寛さんのお墓参りを兼ねて、新月と武頼くん、そして彼と私の四人で、元旦から出発する予定だ。

「緑はね、本当に着こなすことが難しい色よ。けれど満月ちゃんは、とてもその色が似合うのよ」
 その言葉で閃いた。
 高遠さんのセンスは、間違いない。赤でも白でも黒でもなく、私は緑を買うべきなんだ!

 それから優に数十分、高遠さんと世間話を話しこみ、ようやく電話を切って、いそいそとパソコンの前に戻る。
 頬杖をつきながら画面を眺めまくり、もうダメだと諦めかけたときにそれを見つけた。
「こ、これだっ!」
 座りながら飛び跳ねて、別に期限があるわけでもないのに、慌てて購入を申し込む。
 メールアドレスを打ち込み、住所を打ち込み、鼻息荒く操作を終えて申し込み完了。
 そんな自分に感極まって、意味もなくパソドブレを一人踊り、ウインナ・ワルツへ移行したところに聴こえる彼の声……
「ま、満月さん?」

 その日から、まだかまだかと待ち構え、ようやく届いた小包を小脇に抱えて、いそいそと寝室に向かった。
 綺麗に包装されたそれをそっと取り出せば、写真で見るよりも数倍綺麗な色とデザインだったから、感嘆の溜息をつきながら身体に当ててみる。
 彼も居ないことだし、少し試着をしてみようと試みて、クリームがかった淡い緑のレースを、ひとつひとつ丁寧に着込んだ。
 ガーターベルトを嵌め終えて、恐る恐る鏡を覗き込んで愕然。
「こ、これじゃ、本当にギャンブラーだよ……」
 彼の前に、この姿で現れる自分を想像し、そんなことをするくらいなら裸のほうがまだマシだと身震いしながら振り返れば、 寝室のドアに寄りかかり、面白そうに見つめる彼の姿……

「なるほど。ここ数日の満月さんのそわそわは、それが原因だったんですね?」
 含み笑いを漏らしながら、目を細めた彼が言い放つ。
 パソドブレを見られてしまったときよりも、数十倍恥ずかしい現状に慌ててシーツを引っ張るけれど、反対側から即座にシーツを押える彼が、 そんな私の行く手を塞ぐ。
「い、いや、あ、あの、そのね?」
 穴があったら入りたい衝動に駆られながら、ギャンブラーな下着姿のまま言い訳を試みるけれど
「一緒にシャワーを浴びますか? それとも、そのままで待ちますか?」
 限られた選択肢しかくれない彼が、優しい口調なのに、有無を言わさぬ決断を求めるから
「こ、このままでいいです……」
 彼から目をそらしてつぶやけば
「では、そ・の・ま・まで、待っていてくださいね」
『そのまま』という部分を、嫌と言うほど強調した彼は、それだけ言うと寝室から消えた。

 ただ一人ポツンと寝室で縮こまり、作戦を考え付いた日から今までの日々を省みる。
 あの時はこうなって、この時はああなって……
 悶々と、そんな作戦の失敗を振り返ったときに、いらぬ勇気がこみ上げてきた。
「怖気づくな私。今日こそ作戦を実行するチャンスじゃないか!」
 そうやってつぶやきながら自分自身に渇を入れ、用意していた物を枕の下に隠し込む。
 そして部屋の明かりを消してベッドランプを灯すと、赤ずきんのオオカミみたいな気分でベッドの中に潜り込み、何も知らない彼を待ち構えた。

 バスローブ姿の彼が、ドアを開けた途端、その薄暗さに固まっているのが見える。
 自分の心臓の音が、彼の元まで届いてしまいそうだけれど、ここまできたら止める訳にはいかない。
 だから彼がベッドの端に腰を下ろした瞬間、勢いよく飛び起きて、たじろぐ彼を押し倒した。
「ま、満月さ……」
 正真正銘、本物の驚き声を上げる彼。
 そんな彼の声に触発されて、押さえ込むように彼の上に乗り上げた。

 いつも以上にドキドキしながら、彼のバスローブに両手を這わす。
 肌蹴た彼の素肌に、そっと手のひらを滑らせて、窪む胸の真ん中にそっと口づけた。
「Luna piena?」
 彼の腕が伸びてきて、案の定私の目を覗き込もうとするから
「駄目! 今日は、動いても見ても駄目なの!」
 そう言いながら、枕の下に隠していた目隠し用の布を取り出して、開いた口の塞がらない彼の瞳に巻きつけた。

 首を捻りながらも、命令通り動かない彼を上から見下ろして、この胸に包まれて、この腕に抱かれている自分を想像し、ただそれだけで身体が火照る。
 けれど気を取り直し、彼にいつもされていることを思い出しながら、耳たぶをそっと噛んだ。
 ピクンと揺れる彼の身体が、なんだか可愛らしく思えてきて、調子づいた私はさらに耳を舌で舐め、濡れた耳に息を吹きかける。

「満月……」
 またもや伸びてきた彼の手を、そうはさせるものかと押さえ込み、舌は耳を滑りおりて首筋をたどる。
 鎖骨にそってそっと口付けながら、厚い筋肉に包まれた胸の先端を口に含んだ。
 息を飲む音とともに、今まで以上に揺れる彼の身体。
 彼の手が届かないところまで下がりながら、私の行動に彼が感じてくれることが嬉しくて、米粒のような小さな先端を、執拗に舐め挙げた。

「満月、後で覚えてろよ」
 鋭い言葉を投げかける彼を上目使いで見上げ、目を見なくてもいいのなら、彼なんてチョロイと片口を上げながらニヤリと微笑んだ。
「今、笑ったな?」
 どうしてバレたのかと一瞬ビクついたものの、目さえ見なければチョロイんだともう一度自分に言い聞かせ、一人納得しながらバスローブの紐を解く。
 袖は通したままだけれど、バスローブが肌蹴て、しなやかに締まる彼の身体が露になる。
 そして充分にうっとりと見惚れてから、ただ一枚だけ纏ったままの生地に視線を注いだ。

「Rilassa……」
 甘ったるい声で囁きながらボクサーパンツに手を伸ばし、その上から膨らむ彼自身をなぞる。
 そして、そっと手を中に滑り込ませ、直にそれを握り締めたところで、彼よりも私の方が大きく息を飲んだ。
 硬く反り立つそれに直接触れて、恥ずかしさと興奮と、訳の分からない感情が駆け巡る。
 それでも何よりも勝った興奮は、恥ずかしげもなく彼のボクサーパンツに手を掛けた。

 阻むものの無くなった彼自身は、天井よりも鋭く立ち聳えているから、思わずゴクッと唾を飲む。
 けれどようやく我に返り、それをまた握り締めると、意を決して舌先でチロっと舐めた。
 それだけで、彼も、彼自身も同時に揺れる。
 そんな彼の動作に自信をつけた私は、くびれた部分までを口に含み、先端に舌を這わせた。
「うっ……」
 初めて彼の口から言葉が漏れて、その行為が正しいものだと証明された気分になり、ますます調子に乗った私は、 ゆっくりと、できるだけ喉深くまで、固く滑らかな彼を咥え込んだ。

 彼を咥えたまま、リズムをつけて上下に首を振る。
 けれど少しずつ早まっていくそのリズムに、言葉にならない大きな溜息を彼がついた。
 何かいけなかったのかと動きを止めれば、その一瞬で組み敷かれ、目隠しをしたままの彼の下に転がった。
「あ、まだ駄目!」
 思い切りな抵抗を試みるけれど、あっさりと彼に翻されて、逆に意地悪い声が耳元で囁かれた。
「覚えてろって言っただろ?」

「満月、何か勘違いをしてるな?」
「な、何が?」
「俺の目を見なければ、平気だと思ってるだろ?」
「へ、平気だもん」
 彼の片眉が、目隠しの上からでもゆっくりと持ち上がるのが分かる。
 それでも、目さえ見なければ平気だと高を括り、彼の腕から脱出をしようとすれば、  両手で頬を固定され、身動きがとれないまま唇が塞がれた。

「……愛してるよ、満月」
 珍しく日本語で囁き続ける彼の低い声に、絞られるような感覚が身体を走る。
 下着越しに全身をくまなく愛撫され、そのじれったさに呻き声をあげれば
「脱がすのが、もったいないでしょ?」
 見えないくせに、意地悪な台詞は深みを増して、言葉だけで私の身体を翻弄する。
 指や舌、そして言葉で私を酔わせ、彼自身を使うことなく絶頂を迎えさせられて、 小刻みに震えながら、そこでようやく気がついた。
 私、ほとんど目を閉じてるじゃん!

「Grazie Luna piena……Era un grande presente.」
 目隠しを取り外した彼が、ブルーの輪を湛えた瞳でそっとつぶやいた。
 彼は、ちゃんと私の真意に気付いてくれていた。だから堪らず彼にしがみつき、泣きそうになりながら叫ぶ。
「Ti amo Rilassa……Ti amo da impazzire!!」
「Io anche……Ti amo…Ti amo……」

 キラキラと輝く銀色の瞳に吸い込まれながら、彼に出逢え、彼に愛され、そして彼の全てを愛することができる喜びを、 誰もかれもに感謝して、心と身体は天を舞う。

 死ぬまで一緒。死んでからも一緒に――


Fine

※ Luna piena(満月・マツキの愛称) / Rilassa(寛ぐ・寛弥の愛称)
   Ti amo(愛してる) / Io anche(僕もだよ) / Regalo(贈り物)
   Ti amo da impazzire(気が狂うほど愛してる) / Grazie(ありがとう)
   Era un grande presente(素敵な贈り物だったよ)
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photo by ©clef