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◇◆ 彼が盗んだもの 5 ◇◆
 おかしい。絶対におかしい……
 人差し指の上でバスケットボールを勢い良く回しながら、 体育館の向こう半分でバレーをやっている文子を眺めて頭をひねる。
 せっかく同じクラスになれたんだから、もっと過激にアピールしようと閃いて、 やっぱりスキンシップが大事だと、あの手この手で試したけれど……
 なんだか最近、文子のやつ怒ってない?

「ルパン! お前、サボってないで参加しろよ!」
 そんな俺へ、最近妙に仲良くつるんでいる高梨が、コートの中から怒鳴り始めた。
 確か、あいつには彼女がいたよな? 後で相談してみるかな……

 丁度いい具合にボールが転がってきて、そこからはバスケの試合に没頭した――

 体育館からの帰り道、先を歩く文子の背中を見つめながらつぶやいた。
「俺の何がいけないんだ?」
 俺の視線の先を見て、そのつぶやきが何を意味するものかを悟った高梨が
「すべてがいけないだろ? てか、お前ヤバすぎ?」
 眉間にしわを寄せ、呆れ果てた顔で言い出した。
 そんな高梨の言葉を聞きつけて、石川までもが加わってきて
「膝カックンはヤバイよなぁ?」
 俺の肩に腕を置き、片眉をあげて小刻みに頷いている。
 なんでだよ? 最高峰のスキンシップじゃないか。

 更に、少し前を歩いていた若狭がいきなり立ち止まり、振り向き様言い放つ。
「いや、手首の運動のほうがマズイと思いますよ?」
 そう言い終えた瞬間、眼鏡が光る。(玉虫っぽく)
 三人に見つめられ、口を半開きにしたまま額をこすり考える。
「なんで?」
 悩み抜いても答えは出ない。
 だから戸惑いながら聞き返せば、全員が大笑いをしながら俺をバカにしはじめて、 一通りの笑いと侮辱がおさまると、なぜか円陣を組んでの会議が始まった。
 な、なにかしら、この軍団……

 教室に戻ってからも俺の席を取り囲み、ああでもないこうでもないと、討論を続けるおかしな軍団。
 それは、休み時間という時間の全て使い込んで繰り広げられ、怒涛の昼休みへと突入した。
 腕を組んでふんぞり返る俺を頭を、強引に下げさせ輪の中へ引きずり込んだ高梨が
「そこでルパンが強引に、こうするって寸法」
 目を輝かせ、指で何度も素早く唇をこすりながら、信じられないことを言い出した。
「お前、それじゃ鬼畜だろ!」
 高梨の提案に驚いて、叫びながら頭を上げれば、 バカだのアホだの罵りながら、軍団全員の手が俺の口を塞ぐ。
 大声を張り上げてしまったことに気が付き周りを見渡せば、運よく文子は教室に居ず、 代わりに興味津々でこっちを見ている翔也と目が合った。
 エセプリンスは鬼畜がお好みのご様子?(エセプリ?)
 けれど今度は石川の手が伸びてきて、またもや俺の頭を強引に下げる。
 大声を出してしまわない様に、両手で口を塞げと命令され、 渋々その通りに口を覆う俺も参加して、作戦会議は延々と続く。

 高梨が人差し指を俺に突き立て、真剣な面持ちで言い出した。
「いいか? お前には強引さと度胸がある。それに妙な自信もだ。だが、いかんせん幼稚だ」
 他の二人が胸の前で腕を組み、うんうんと頷く。
 そんな二人を見て自分も頷くと、更に高梨が続けた。
「確かにスキンシップは大切だ。でも、お前はその方法を大幅に間違っている」
 高梨の言葉に、石川の鼻からせせら笑いがこぼれる。
「頭に顎を乗せちゃマズイだろ」

 どうやらさっきの出来事を言っているらしい。
 だけどそれは、決してマズクないはずだ。(逆にウマイ)
 中間テストの範囲が貼りだされ、掲示板を見ながら懸命にメモを取る文子を見つけ、 その後頭部があまりにも可愛かったから、ちょっと頭を乗せてみただけだ。
 でもなんか怒ってたけど……(なぜなの?)
「まぁ、あの後、賭けに持っていったから結果オーライということで」
 両手で石川を制しながら、高梨が言い放つ。
 あ、あれは、別に本気で言ったわけじゃない。
 ちょっと文子をからかいたくなって、どっちの順位が上になるかを賭けたんだ。
 そんな俺の心を読んだのか、横目で疑惑の視線を向けながら石川が言う。
「問題は賭けの戦利品だろ? ルパン、お前は何にする気だったんだ?」

 本気じゃないから、そんなもの考えているはずがない。
 だからとりあえず、親指と人差し指を広げ、その間に顎を置いて悩み
「あ! 購買のパンを買ってこさせるとか?」
 素晴らしいアイデアが閃いたから意気込んで答えれば、石川が鼻を膨らませて怒り始めた。
「こ、こいつ……だから幼稚だって言うんだよ! それじゃパシリだろ!」
 なんでだよ? 文子がパンを買ってくるんだぞ?
 閃きをけなされて腹が立ち、以前から気になっていた言葉を石川に向かって吐いた。
「なんだよ『ゴエモン』なクセして!」

 そこで俺の台詞に高梨が吹き出し、慌てて口を手で覆う。
 そんな高梨を横目で見た後、いきり立った石川が
「ゴエモン言うな! だったら高梨は大介じゃねーか!」
 顔を真っ赤にしながら、隣で笑う高梨を顎で指す。
 へぇ。俺は『高梨タカナシ』だと思ってたよ。(適当です)

 ん? でもちょっと待てよ? 次元の名前って確か……
「次元の名前って、大介じゃなかった? なんだよお前ら、ルパンと愉快な仲間たちぃ?」
 両腕を広げて、抱擁を求めれば
「愉快じゃねーだろ! どうにかして、ルパンの一味に仕立て上げるのはやめろ!」
 自分が巻き込まれたことに、腹を立てた高梨が立ち上がり叫ぶ。

「今はそんな話をしている場合じゃありませんよ! というか、本当に久島さんに勝てるんですか?」

 そんな若狭の言葉で一斉に動きが止まり、各々が弾き出した答えは
「そーでした……」
 三人そろってつぶやいた。


 ――か、かてた……。


 図書室に通いまくったし(文子を見ながら)
 ほとんど徹夜で勉強したし(文子を想いながら)
 前からずっと思っていたことだけれど
 やっぱり俺ってば、やれば出来る男?

 第1学年 1学期中間テスト 学年順位

 1位 497点 海東則巻
 2位 484点 結城さやか
 3位 483点 石橋翔也
 4位 481点 福島由香
     :
     :
 15位 469点 久島文子

 答案が帰ってきたときの文子の笑顔を見て、もしかしたら負けたかと思っていたけれど、バリバリ余裕のブッチギリ?
「お前、すごい爪の隠し方してるな!」
 俺の背中を思い切り叩きながら、高梨が誇らしげに嫌味を言い放つ。
 それは、喜んでいい言葉かしら?(深爪程度に?)
「これで予定通り、事が進みそうだぞ? 今、教室でワトソンがすげぇの作ってるし」
 俺の首に腕を回し、ニヤケ顔の石川が耳元で囁く。
 すげぇのって、すげぇな。(呪文みたい)

 もう、すげぇなってほど、鼻高々になりながら教室に戻ると
「出来ました!」
 得意満面に、妙なノートを差し出してくる若狭。
 何のことだと思いながら、渡された若狭のノートをパラパラとめくれば、 ページの間から舞い落ちるカードが一枚……


 予告状

 本日午後12時
 ふ〜みこちゃんの 『く』 のつくものを
 いただきに参上します――

 怪盗 LUPIN


 なんだこれ? 『く』のつくものってなんだ?
 こんな手の込んだものを、わざわざ作って何をする気なんだ?
 口をかっぴろげながら作った張本人の若狭を見れば、 気味悪く笑いながら、若狭が俺に向かって投げキッス。

 若狭……お前って……(バイ?)
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photo by ©かぼんや