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◇◆ 彼が盗んだもの 一直線っ! ◇◆
 世の中に、GPS機能たるものが登場して早数年。
 さらに、いちナビ・ここナビ・どこナビなんて代物が、出回っちゃっている今日この頃?
 ということで俺はこの場を借りて、そんなスーパー開発者さんたちに感謝状を贈ろう……

 あんたはエライっ!(小松の親分風)

 ちみっこ文子は明らかにちみっこく、ちみっこ歩行を駆使して動くから見失うことが多々あった。
 けれどこの機能のおかげで、全くもって見失うことがない素敵加減。
 だから今日も、こうして携帯片手にピコピコと探索している俺を見て、  ワトソンがゲンナリしながら言い出した。
「ルパンくん、それはある種のストーカーですよね?」

 ある種とは、どんな種なのか考えあぐねている俺の脇から、カクカクと首を横に振るゴエモンが反論する。
「いやいや、野性の動物を愛する者としては当然です」
 ゴエちゃん、カクカク加減が素敵だね。
「皆さんが、動物愛護の心を持っているなど到底思えませんけど……」
 ワトソンくん、それは聞き捨てならないぞ。

「何を言ってるの! 俺はダックス協会会員よっ!」
 文子とミーが写る、携帯の待ち受け画像をワトソンへズイッと突き出し叫べば
「お、俺だって、野鳥の会会員よっ!」
 台詞とは全く関係のない、ドーナツのキーホルダーを突き出しながらゴエモンも叫ぶ。
 そこで慌てて鞄の中を弄ったワトソンが、本物の会員証を手にして黄門さまへ早代わり。
「そ、それだったら、僕だって天体観察会会員ですよっ!」
 星は動物だったのか……(しし座って言うしね)

「しかしまた、よく文子がそんな機能を付けることに同意したよな?」
 ワトソンの会員証をマジマジと覗き込む俺たちに向かって、顎をさする次元が妙な疑問を口にする。
 だからくだらないとばかりに、当たり前の答えをサラッと告げた。
「暗証番号さえ知ってりゃ、楽勝でしょ?」
 すると、三人三様の、いいかんじに目を細めた思案顔が俺に向かって放たれた。
 な、何を考えているのかな君たち?(バラバラです)

 ここで、やつらには内緒で皆にコッソリ教えよう。
 昔から文子の暗証番号は、【0235】で統一されているオクダ。(フミコだけに)
 そしてその番号を、熟知している俺はスゴイオクダ。(魔女っぽく)
 ちなみに、俺の暗証番号は……(それは内緒♪)

「どうせ、久島さんは0235辺りで、ルパンくんは2323ですよきっと」
 な、なぜ分かったんだワトソンくん……(ハッカー?)
「そーいや、俺の暗証番号ってなんだっけ?」
 ゴ、ゴエちゃんのは知らないな……(俺に聞かれても)
「まぁよ、どうでもいいけど、文子は見つかったの?」
 あ、そうだった!(いちナビ発動!)

「駅ビルに、文子発見っ!」
 携帯に表れた立体地図画面に、ピコピコと点滅する文子マーク。
 誰と一緒に居るのかまでは分からないが、駅から繋がる建物に入ったのは確実だ。
 それでも、駅ビルの何階に漂っているかまではわからない。
 だから文子クラスが行きそうな場所を、ワトソンが予測する。
「駅ビルといえば、婦人服売り場ですよね」

 そこで案の定、ゴエモンが真っ向からそれを否定し、お決まりのアフォ会話発動。
「えぇ? 駅ビルといえば、ケーキ屋売り場だろ?」
「待て待て、『屋』は売らねーだろ」
「ばっ! ケーキの複数形を、ケーキ屋って言うんだよっ!」
 ゴエちゃん、何かが違うよね……(でも納得)
「そうなると、八百屋は800の複数形ということになりますよ?」
「当たり前だろ? 800は複数じゃねーか」
 ま、まぁ、そうだよね……(何かが違うけど)
「じゃーよ、ジーンズ売り場はどうなるんだよ?」
「ばっ! 当然、ジーン屋だろうが」
 か、感動を売る店みたいだね……(ジーンとね)

 ギャイギャイゾロゾロと駅ビル内を探索し、三階の服売り場で文子を発見。
 予想の的中したワトソンが、密かにガッツポーズを決める中、  制服よりもさらに短いスカートを手にした文子に、たまらず口を出す。
「あ、ダメダメ。そんな短いスカートじゃ、勝負にならないしぃ」
「あ、そんなのもダメダメ。首筋を隠さないと、誰かに噛まれちゃう!」
「あ、それもダメダメ。それは俺の趣味じゃ……」

 デカイ目で、ギロっと俺を一瞥してから、無言でその場を立ち去る文子。
 どうやら、せまっ苦しい通路をチョコマカチョコマカ移動して、俺を撒く気らしい。
 けれど俺に、そんな手は通用しない。
 だって、下着売り場でも平気だもん。(うふ♪)

 文子を追いかけ、初めて足を踏み入れた下着売り場で、ブラックウォッチ柄のブラが目に止まる。
 その古風さと、素晴らしいチェック加減に超感動!
 もう、それから目が離せない。チェック好きには、たまらぬ逸品だ。
 そこでそれのBカップを手にして、文子へ叫ぶ。
「文子、俺はこれがいいっ!」
 ところが、振り向いた先の文子が手にしている下着はアニマル柄。
 しかもあなた、金色よ?(ラメってるわ!)
 捕食者になってどうするのっ!(小さな猛獣?)

「キャー! そんなのは、もってのほかよっ!」
 我を忘れてブラックウォッチを放り投げ、捕食者に成り下がりかけた文子へ駆け寄れば
「うるっさいな、もうっ!」
 シャイニーレインボーなアニマルブラをワゴンの中に叩きつけ、歯を剥き出した文子が怒鳴り散らす。
 既に猛獣化しちゃったのね……(でも可愛いけど)

 仕方がないからセレブ猛獣使いに変身して、ちみっこ猛獣を調教している俺の背中に手が宛がわれた。
 どうせまたゴエモンが、おいしいツッコミを期待しているに決まっている。
 だから、成り行き任せの期待通りに話をふった。
「んまぁ〜 聴きました奥さん? 最近の女子高生は……」
「それは奥さんじゃなく、マネキンだっ!」
 ところが、マネキンの方へ視線を向ければ、遥か向こうで中島と戯れているゴエモンが目の片隅に……
 あれ? じゃ、この手は誰の手なの?(嫌な予感)

 俺の台詞に反応して、マネキンの腕が独りでに動く。
「いやぁぁぁぁ〜っ!」
 俺にしがみつく文子を抱きとめながら振り返れば、瞳を爛々と輝かせる福島の笑顔。
 その恐ろしい光景に、たまらず俺も叫び狂う。
「いやぁぁぁぁ〜っ!」
 姉さん、あんたの笑顔は凶器だわ……(スマイルウエポン)

               ◆◇◆◇◆◇◆

 悪魔の偉業に、ぶっ倒れた文子を背負っての帰宅途中。
 文子の重みで俯き加減な俺の目の前に、生成り色の道着がヒラっと舞い落ちる。
 顔をあげなくても分かる。これはもう、すんばらしく厄介な男の登場だ。
「ルパ〜ンっ! 今日こそはお前を……って、なんだお前、既に背負い投げの稽古か? 良い心がけだ」
 ダミ声で、ケツのように割れた顎を持つ男。
 一学年上で、柔道一直線なこのおっさんに、追われ続けて早数ヶ月。
 そう、それは、入学早々に行われる部活勧誘に遡る――

 柔道部時期主将と呼ばれるこの男は、巨体ゴエモンに目をつけた。
 けれど勧誘途中で、部費がゴエモンの菓子代で消えることを悟ったこいつは、ターゲットを俺に変更した。
 そして意味もなく、毎日毎日柔道着で俺の前に現れるのだけれど……
 トレンチコートの方が似合うよね?(しかもベージュの)

 ここでサラっと紹介しよう。
 彼の名は、戸塚金司。おっさん顔の、金を司るセブンティーン?(見えないけど)
 ゆえに当然、俺たちの間で呼ばれるあだ名は……

「と、と、と、とっつぁ〜ん!」

「とっつぁん言うな! 俺は戸塚であって、とっつぁんでは断じてない!」
 いや、バリバリのとっつぁんだろ?(おっさん顔の戸塚だよ?)
「まぁ、なんだ、それはそれで、どうだ? 柔道部に入る気になったか?」
 どれがどうで、どうなんだ?(しつこいのもそっくりね)
「ま、まさかお前……その女に技をかけたのではあるまいな?」
 寝技はかけてみたいかも?(今すぐにでも♪)

 ところがそこで、上手い具合に背中の文子が寝言を叫ぶ。
「上等だ! やってみろっ!」
 え? いいの?
 こうしちゃ居られない。この場を切り抜け、文子の部屋に直行だ!

「とっつぁん、俺は柔道に目覚めた。ゆえにこれから稽古に励む!」
「な、なにぃ? よし。だったら俺も一緒に……って、待てルパ〜ンっ!」
 とっつぁんのダミ声を背中に聴きながら、文子を背負ってひたすら爆走。
 あの発言で、とっつぁんの勧誘がより面倒になること受け合いだけれど、寝技の方が大切だ。
 しかも勘違い文子は、未だリアルフジコに恋焦がれ、デートに誘っちゃってるし。
 ここは一発ガツンと、文子の身体に叩き込むっ! って、何を?(さぁ?)

 一度も止まることなく久島家に走りこみ、玄関先で犬の散歩に出かけるらしき文子の母親とバッタリ遭遇。
「あらノリちゃん。なによ、またこの馬鹿が何かやらかしたの?」
 俺の背中で眠る文子を呆れ顔で指差し、弥生オカンの爆弾投下は続く。
「加藤さんちの前がゴミ集積所だから、あそこに捨ててきちゃってよ。あ、でも今日は資源ゴミだから無理ね……」
 何のゴミならオッケーですか?(プラスチック?)
「ま、恭子ちゃんとミーちゃんが待ってるから、私はアルちゃんと散歩してくるわ。悪いけど、その粗大ゴミを何とかしといて?」
 そ、粗大ゴミだったのか……(でも、ちみっこいよ?)

 弥生オカンとアルセーヌが、俺の母親との待ち合わせ場所へ向かって歩き出す。
 けれど数メートル歩いたところでオカンが振り返り、閃いたとばかりに言い出した。
「あ、ノリちゃん? うちで晩御飯を食べていきなね?」
 そんなオカンを笑顔で見送りながら、不自然に輝く瞳で返答する。
「じゃ、遠慮なくいただきます♪」

 どこもかしこもヒヨコで埋め尽くされた、ちみっこ文子のヒヨコ部屋。
 なんでここまでヒヨコ好きなのかは知らないが、似たもの同士ってことで片付けよう。
 ピンクのヒヨコ柄なベッドカバーを捲り上げ、背中の文子をようやく降ろせば
「ん〜っ…フジコちゃん……」
 ゴロンと寝返りを打ちながら、嫌な寝言を吐く文子に腹が立ち、速攻で耳元に愛の呪文を囁いた。
「ルパンって言え。ルパンルパンルパンルパン……」
 けれどそこでまた、歪んだ薄笑いを浮かべて文子が寝言を言い放つ。
「それだけは嫌!」
 こっ! か、かわいくねーっ!(いや、可愛いんだけどね?)

 寝ている文子に手を出すなど、日本男児としてあるまじき行為だ。
 それでも、家までのタクシー代は、キッカリ貰わねば割が合わない商人根性?
 しかも、本人が嗾けたのだから言い訳無用!(寝言だけど…)

 ベッド脇に腰を下ろし、文子の耳を指でなぞりながら、ふっくらとした頬に口づけた。
「ひゃっ…フジコちゃん……」
「違うだろ? ルパン。ルパンって言えよ」
 耳元で低く囁き、そのまま耳たぶを軽く噛めば、ようやく零れる俺の名前。
「んっ…ルパン……」

 寝言だろうが、好きな女が漏らす甘い声に、反応しない男は居ない。
 だからそのまま文子の上に乗り上げて、脈打つ首筋に唇を這わせた。
 そこで無意識に俺の髪へ指を差し入れ、懇願するように頭を反らした文子が囁く。
「ルパンお願い。噛まないで……」
「噛まないよ……」

 こうやって、潜在的にも本能も既に俺を受け入れているのに、何かが文子の邪魔をして、意識が戻れば拒絶する。
 いつになったら、自分の心に気付いてくれるんだと想うけれど、それが文子なのだから仕方がない。
 だから少しずつでいい。
 少しずつ、少しずつ、こうして触れながら、文子の心を占領したい……

 鬢から長い睫毛に零れ落ちた後れ毛を指でそっと払いのけ、依然として俺の髪を弄る文子の腕にキスをする。
 くすぐったそうに肩をすくめ、目を閉じたまま微笑む文子が、可愛くてたまらない。
 ゆったりと半円を描く文子の唇を、何度も親指でなぞっては啄ばんで、文子の目覚めを促した。

 少し長めに唇を重ね、此れ見よがしな音を立てて離せば、その音が目覚めの呪文のように、文子の瞼がゆっくりと上がる。
 俺の髪から指を滑らせ、さっきの俺と同様に、文子が俺の唇を親指でなぞる。
 そしてまたゆっくりと瞳を閉じて、いざなうように首を斜めに傾けた。

 そんな文子の仕草で、抑えていた感情が堰を切ったように流れ出し、息を吐く間もないほどの荒く激しいキスを繰り返す。
「ふぁっ…んっ…っつ!」
 文子の漏らす喘ぎ声が、微妙な変化を遂げていく。
 そこでようやく唇を離し、シャツのボタンに手を掛けながら文子に囁いた。
「俺の名前を呼べよ……」
「ル、ルパン……」

 唇は、顎から真っ直ぐに首筋を辿り、少しずつ露になる文子の肌を滑り降りていく。
「んっ…ルパン…ルパンっ!」
 必死で俺にしがみつく文子の腕を掴み、そのまま片手で頭上に押さえ込む。
 全てのボタンを外し終え、開けた文子の胸元をきつく吸い上げて
「俺の刻印……」
 一点だけ赤く染まる肌に、また口づけた。

「あっ…やっ…ルパ…んっ!」
 仰け反る文子の背中に右手を回し、唯一纏うブラのホックを外す。
 その瞬間、弾けるように揺れ動く文子の胸。
 ブラから零れたそんな胸のふくらみに、何度も何度も吸い付くようなキスをして、  邪魔なブラを拭い去ろうとした矢先……

「だーーーっ! ルパ〜ンっ! その寝技は、教育的指導だ〜っ!」

 窓の外から放たれるすんばらしいダミ声に、冷凍マグロよりもカチンコチンに固まった――

「と、と、と、と、と、と、と、とっつぁ〜ん?」
「だ〜か〜ら、俺はとっつぁんじゃないと言っとるだろうがっ!」
 そこで文子が我に返り、飛び起き様に毒を叫ぶ。
「ぬおぉっ! 窓からオヤジ!」
「失敬なっ! 俺はまだ十七歳だっ!」

 肌蹴た文子の身体を慌てて毛布で包み、アクセクしている俺を尻目に怒鳴り合いは続く。
「嘘を吐けっ! 図々しいにもほどがあるだろ!」
「嘘じゃない! 列記とした、高校二年生だ!」
「お、お前……何年ダブっちゃったんだ……」
「さ、淋しげに言うな! ダブっちゃおらんっ!」

 文子の言い分も分かるけど、なんかちょっと可哀想……(えぇ、俺が)
 というか、ここって二階だよね……(背伸びかな?)
 あぁ。なんかこの先も、こうやってこいつに邪魔されそう……(確実な予感)

 そして、話はこのままワンダーランドに突入する――(後編へ続く♪)
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photo by ©かぼんや