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◇◆ お願いセニョリータ! 2 ◇◆
 やばい。この状況に耐えられん……
 これはもう、列記とした蛇に睨まれた蛙だ。いや、マングースか?

「次元くぅ〜ん!」
 アップルパイに、生クリームとジャムをぶっかけたような甘ったるい声が響く。(つまりクソアマ)
 70歳の文子を想像したときよりも、激しく粟立つ俺の柔肌。(気分は五穀米)
 震度最強の震源地状態で机の下に潜り込もうとするけれど、既に一味の満員御礼。(by国技館)
 ダッシュで教室隅の清掃用具ロッカーを開け、そこに隠れようとすれば、開けてビックリ。
 両腕を交差したワトソン発見!(ツ、ツタンカーメン?)

 やばいじゃない! 俺はどこに隠れればいいの〜!

 とりあえず、6年生を送る会で披露した秘儀『木の精』になりすまし、両手を広げ、息を止めて佇めば
「いやだ次元くぅん、ハニワの真似? すごい上手!」
 必殺技をもろともせずに、こともあろうかハニワと言い切る女の登場。
 この声の主は、俺が数日前に助けたっぽい感じの女子であり、隣のクラスの生徒ということが判明した今日この頃。
「これはきっと、神様からの素敵な贈り物だわ」
 こんな感じで目をギラギラと輝かせ、助けてくれた恩返しと称した、鶴の仇返しを日々繰り広げられている。

 普通の状態ならば、こんなおいしいシチュエーションを逃すやつはただの馬鹿だ。
 だけど、はちみつをたっぷりとかけてもらっても、プーさんだってこいつだけは食いやしない。
 顔が不細工だとか、体系がいまいちだとか、そんなことすら問題外。
 大体、遠目でも文子と間違うくらいなんだから、容姿はそんなに悪くない。
 それでも敢えて言おう。こいつの正体を知ってからというもの、俺の中で繰り返される格言がある。

 君子、危うきに近寄っちゃダメ。(試験にでるよ!)

 そう、始まりは弁当だった――
 弁当箱片手に現れた彼女は、可愛らしく頬を染め
「た、食べてもらえますか?」
 そう言って、おずおずと俺に弁当箱を差し出した。
 なんだかめちゃくちゃ手の込んだ、素晴らしく旨そうな弁当の中身を見て
「うっわすっげぇ!」
 食い意地のはったゴエモンが、雄たけびを上げると同時につまみ食う。
 ちょっと優越感に浸りながら、先端に鳥の巣を作られちゃうほど鼻高々に
「どうだゴエモン、紳士の勲章の味は!」
 どんな味かはさておいて、思い切りゴエモンの肩を叩けば、突如としてゴエモンの動きが止まり固まった。
「おい、ゴエモン?」
 妙な角度で固まるゴエモンに不安を感じ、肩を揺すって問いかけるが応答なし。
「今、煙のようなものが、口から吐かれませんでしたか?」
 眼鏡を光らせフレームを持ち上げるワトソンが、興味津々でゴエモンを覗き込む。
 それでも依然として固まったままのゴエモンに、これはただごとじゃないと一味が騒ぎ出す。
「久恵、ゴエモンの好物を目の前でチラつかせてみな!」
「あ、うん、わかった!」
 恵子に言われた久恵が、アーモンドチョコをゆっくりとゴエモンの前で動かすが、瞳孔は一点を見つめて開いたまま。
「口の中に、それを放り込め!」
 両手で無理やりゴエモンの口を開いたルパンが、久恵に命令し
「いくわよっ!」
 プロ野球選手バリに振りかぶった久恵が、狙いを定めてチョコ豪速球を投げ込んだ途端……
 ガリガリとか、バリバリとか、なんだかとっても痛そうな音が響き渡り
「お、俺、マジで死ぬかと思った……」
 息を吹き返したゴエモンが、ラマーズ法を思い起こす呼吸法を施しながら涙混じりにそう言った。

 や、やっぱりチョコは明治だよね!(ロッテかも…)

「ねぇ、なんだかこのお弁当、バスクリンの匂いがしない?」
 由香さん、弁当が入浴剤の匂いって……(でも森林の香)
「というか、これは海苔だとばかり思っていましたが、引っ張り出してみればほら……」
 そ、それは、イモリの黒焼きじゃ……(尻尾無し)
「うっわ ゴエモンの口から、ピロピロって出てるのは何っ!」
 文子、多分それが尻尾かと……(以下自粛)
「あ、ダメでした? やっぱり、道端で売ってるマンドラゴラじゃ効果ないですよね……」
 マンドラゴラって、あなた……(てか、まだ居たの?)

「マンドラゴラって、ナンダゴリャのお友達?」
「ルパンくん、その2つは、決してお知り合いじゃないと思いますよ……」
「それって、黒魔術の媚薬じゃなかったっけ?」
「そんなものが、道端で売ってるこの町内?」
「丑刻参りは、試してみた?」
「いやだぁ、まだなんですぅ〜。効果ありますかね?」
 すっかり他人事の、楽しそうな一味の会話は、彼女を交えてどこまでも続く……
 って、ちょっと待て。

 丑刻参りは、恋愛成就の祈りだったのかっ!(違うだろ)

 けれど、話はそれだけでは終わらない。
 妙な息苦しさに襲われて、胸を掻き毟りながらベランダに寄りかかれば
「東! 西! 南! 北!」
 音読み漢字を発して、指で空を切る彼女を階下に発見。(お、陰陽師?)
 眠れぬ夜を過ごし、フラフラになりながらクラスへたどり着けば
「ラミパスラミパス〜ルルルルル〜」
 俺の机の周りに、白チョークで六角形が織り成す輪が描かれて(古代文字入り)
 ロ、ロウソクまで灯っちゃってるじゃないですか〜っ!(もはや召喚魔術)

   そんなことを、しでかし続ける彼女の名は、奥田裕子16歳。
 ごく普通に恋をして、ごく普通に、愛する人を振り向かせようと頑張る健気な女の子。
 けれど彼女には、人には言えない秘密がありました。
 そう……

 奥田さまは魔女だったのです――

 弁当事件の頃とは打って変わって、恐怖を覚えた一味たち。
 あれから妙に嗅覚が優れたゴエモンは、魔女が半径20メートル内に近づくと意識を失い
「あなたは敵!」
 そうやって、いきなり腐った卵を投げつけられた文子は、吐き気が止まらない。
 文子を庇い、モロに腐った卵をかぶったルパンは
「もう、お嫁にいけない」と、えらく真剣に泣き出す始末。
 更に、久恵と恵子は、髪の毛をゴッソリ引き抜かれ
「コックリさん、今度死ぬのは誰ですか?」
 そこで名を予言された、何事にも動じないワトソンまでたじろいで……

 誰もが隠れるこの状況?(トップに戻るよ♪)

「もう、いい加減にしてくれないかしら? あなた、迷惑になっているのがわからないの?」
 読んでいた本をパタンと閉じて、鼻頭に青筋を立てたリアルフジコが振り向きざまに言い放つ。
 魔女に喧嘩を売った度胸に三千点! と言いたいところだが、恐ろし過ぎて声に出ない。
 今までのロリ顔は、演技だったと確信できるほどの豹変振りで、魔女がすくっと立ち上がり
「あら、あなたが編入早々、ルパンくんに振られちゃったという噂の子ね?」
 扇子を持たせたら、激しく似合いそうな高飛車態度で言い返す。
 魔女のその一言で、クラス中の視線がルパンに降り注ぐが、当のルパンは我関せず。
 逆に文子がようやく視線を合わせてくれたと、妙なテンションではしゃいでいる。
 そんなルパンを横目でチラッと見てから、鼻の穴が丸見えになるほど顎を持ち上げ、リアルフジコが受けて立つ。
「あなたみたいな、姑息な真似をしないだけだわ」
「だからって、私の次元くんにチョッカイださないでくれるかしら?」
 いつから俺は魔女のものになったのか不明だが、とりあえず今は言わせておこう。
 けれど、この言葉にに反論した次のリアルフジコのセリフが、起こしちゃいけない者を呼び覚ました……

「勘違いしないでくれるかしら? あんな男に手を出すくらいなら、ワトソンのほうがマシよ!」

 人混みジャングルが、その霊気にあてられ自然と道を開け始める。(もののけ?)
 青白いオーラを纏い、毛を逆立てた獅子が、そのアーチを優雅にくぐり進む。(スーパーサイア人)
 俯いたまま徐に長い髪を片手で掻き揚げ、それと同時に目をカッ開く。(そこでビームだ!)
 けれど予想に反して、獅子が放った言葉は……

「ほぉ?」

 ビームよりも強力なその一言で、全ての人間の、全ての機能が停止した。
 たった一言で、クラス全員の全機能を停止させ
 たった一言で、魔女まで黙らせるこの女子の正体は……

 悪魔?

 は、激し過ぎるよセニョリータ!(フォー!)


 〜その頃のワトソンと文子〜
「ワ、ワトソン……ゆ、由香が……」
「く、久島さん……ふ、福島さんが……」
「ほぉ?って、ほぉ?って言ったよ!」
「えぇ、ほぉ?って言いました!」
「でもなんで、みんながワトソンを見てるの?」
「え? ひぃ〜〜〜〜〜っ!」




END
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photo by ©ひまわりの小部屋