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◇◆  Memories 1 ◇◆
 仕事疲れがピークを催す木曜日。一時間の残業を経て、漸く解放されました。
 じめっとしているものの、空は未だ明るく、夏の匂いが漂う夕焼け具合。
 というか、夕焼け雲って薄気味悪いよね。空が朱色なのも、その要因なのだろうけれど、何かこう、生き物って感じがしない? 虫っぽい感じの。
 否、ちょっと待て。ということは、意思を持ち合わせた巨大な虫雲ってことだよね?
 なにやら余計に気味悪くなったのですが、自分の思想を撤回することは可能ですか?

 こういうときは、厭な事柄から大いに目を逸らし、萌えに走るのが一番です。
 ということで、駅までの道程を歩みながら、我が妹へ携帯メールを送信することに致します。

【件名】 How are you ?
【本文】 Hi! I love you!

 あの宴会から、こっそりと英語の勉強を始めて数週間が経つ。
 勉強と言っても、どこぞの教室に通っているわけではなく、萩乃ちゃんお勧めのゲームソフトを購入したまでだ。
 毎日毎日、暇さえあれば電源を入れ、タッチペン片手にカリカリと問題を解き、少しずつレベルは上がっているものの、DVDの字幕を消すまでには至らない。
 このソフトを制覇したとき、果たして私は英語が出来るようになっているのかと、考えれば不安になるけれど、アーの過去形がワーだということすら忘れていた私なのだから、それはそれで、よし。多分。

 萩乃ちゃんは、何やら楽しげなサークルに加入したらしく、大学生活を享楽しはじめた。
 私はそんな萩乃ちゃんを喜ばしく思うけれど、石岡兄の心中は複雑なようで、自分よりも帰宅が遅くなっただとか、休日なのに出掛けるだとか、ボソっと文句を呟いたりする。
 さらに、萩乃ちゃんがバイトを始めることに対しては、頑として首を縦に振らない。
 そう考えてみると、私もバイトの経験が一度も無い。
 私の私生活に、余り立ち入ることのない克っちゃんだけれど、この件に関してだけは、どこまでも立ち入った。つまり、絶対にバイトは許さないと、克っちゃんが言い続けたってことだ。
 何故、バイト禁止なのかは知らないけれど、これはあれだ、剣道部の掟だ。きっと。

 巨大虫雲の視線を気にしながら、改札よりも手前に建つ、駅ビルの中へ走り込んだ。
 するとそこで、聴こえ始める着信音。この音楽は、正しく我が妹からの着信だ。
 けれど通話ボタンを押した途端、美しい声で奏でる、我が妹のヘンテコ発言が炸裂した。
「あ、お姉ちゃん? ウサギとカエルのどっちがいい?」
 どちらが良いかと聞かれても、どちらも余り、私の好みではないのですが。
 それでも、ここでウサギを選ぶと、何やら勘違い女決定の予感がするので、ここは一つ、後者の方をチョイスさせていただこうかと存じます。
「カ、カエルかなぁ?」
 すると我が妹は、屈託のない朗らかな声で、訳の解らぬことを言いました。
「じゃあ、語尾にゲロね? で、私はピョン」

 この娘は、いきなり何を言い出すのだろう。きっと、逢魔が刻の巨大虫雲に、やられちゃったんだな。
「萩乃ちゃん、一体何を」
「ダメダメ! 言葉の最後に、お姉ちゃんはゲロってつけるぴょん」
 ぴょんってお前。可愛いから許すけど。全くもって、可愛い娘は、何をやっても許されるから得だよね。羨ましっ。
 けれど萩乃ちゃんは、何処吹く風の如く、飽く迄も陽気に話を続けます。
「で、これを、三人に移したら勝ちなんだぴょん!」
 ちょっと待て待て。移すって、伝染病なのか、これ。
 方言は移るというけれど、流石にこれは、退かれるだけで移ったりしないだろ。多分。

 それでも、我が妹に頼まれたら、厭とは言えない姉心。
 特にあの、はにかみ屋さんな萩乃ちゃんが、こんなにも生き生きと楽しさを表現しているのだから、協力を惜しんだらいけないような気さえする。
 なので当然、通話を閉じた後、真っ先に実行を試みるのは、あの男の他ならない。
 まぁ、何と言うか、実験台には打って付けな選択だよね。今日は丁度、木曜日だしさ。
 ということで、やってきましたビデオ屋さん。さすれば直ぐに、目敏い伊達眼鏡が光る……

「まっつもっとさん! 今日は遅かったですね」
「おう、これはこれは、ナナワくんではないゲロ」
 両掌を擦り合わせながら、ゲロ語尾添付の戯言を開始すれば、このツッコミキングが黙っていられるはずなどない。
「ゲロってあんた…新種の嫌がらせかよ……」
 ほ〜らきた。見えない巨大蜘蛛の巣に、引っかかった哀れな獲物よね。
 なんというか、その、夕焼けのツッコミキングって感じで。雲だけに。

 そこで目を輝かせ、哀れな獲物に更なる罠を仕掛けようと試みる。
「いや、違うんだゲロ。実はだゲロ? まぁ、色々あってだゲロ?」
 けれど仕掛ける前に、その千里眼で、あっさりと見破られました。
「あ、解りました…その発信源は、石岡さんでしょ?」
「ナナワ、やはりお前の眼鏡は伊達じゃないゲロ……」
「いや、だから、伊達だゲロ。…あっ」
 移るのか。移るんだな。先ずは一人目ゲットだゲロ。
 というかお前、自ら率先して罠に掛かったな。この、夕焼け未だ未だツッコミ此畜生キング!

 けれど七和は妙に楽しげで、萩乃ちゃん並みのテンションにて語る。
「石岡さんに会ったらヤバイな。俺なんか絶対、ナナワは牛で! とか言われそう!」
 一体全体、これの何がそんなに楽しいのだろう。けれど乗り遅れては、年の差を感じてしまうので、そのノリに便乗しようと思います。
「ちょっと待てっ! 何、瞳光らせて、メール打ってんですかっ」
「いや、こういうものはだな? 素早く対応するだゲロ」
「止めてくださいよ、もー! …あっ」
 もーってお前。誰にも強要されていないのに、牛ボイスが伝染することってあるんだね。

 ところがそこに、七和とは正反対な、ノーリアクションキングが登場した。
「煩いと思ったら、やっぱりお前らか……」
 矢っ張りという副詞は、相変わらず可笑しいですが、お前らという複数形は、責任転嫁上、とても有効な代物だと思われます。
 けれどここで、責任逃れ台詞をゲロ添付で言い出すと、克っちゃんの眉間筋が浮かび上がりそうなので、口を開くことが躊躇われるのは私だけでしょうか。
 否、私だけではありませんでした。七和も同じようでした。

「……何故、黙る?」
 妙な沈黙を破ったのは、他でもない克っちゃんだ。
 どうやらこの男は、煩いと文句を放ったくせに、黙られると不安になるらしい。
 だから、待ってましたとばかりに口を開けば、七和もそれに便乗する。
「克っちゃん、そんな難しい顔ばかりしていると、萩乃ちゃんにゴリラって言われるゲロよ?」
「ちょっともー、松本さん! 兄にウッホは似合わないでしょっ、もーっ!」
 ゴリラの語尾はウッホなんですね。私的には、ウッホッホなんですが。ま、どちらも大差ないけど。
 それよりも何よりも、そんな台詞を克っちゃんに、言わせたいなどと思った私を許してください。

 するとそこで、全ての状況を把握した克っちゃんが、深い溜息を吐き出しながら呟いた。
「石岡の失態は、それが原因か……」
 この台詞から察するに、石岡兄もまた、動物受難に陥っていたのだね。
 まぁ、一番近い親族だけに、それを免れることなど出来ないだろうけれど。
「ねぇナナワ、やっぱり石岡兄とくれば、マンドリルだよね?」
「マンドリルってあんた…そんな動物、誰も知りませんよ」
「失敬なっ。マンドリルに謝れっ! …あ、ゲロっ!」
 霊長目オナガザル科だよ。赤い鼻で、青い頬で、黄色い髭なの。すっごい派手なの。

 世の中に、マンドリルを知らない人間がいるなど信じられん。
 なんたって、あの名作アニメの重要且つ感動シーンは、マンドリル抜きでは語れないと言い切っても過言じゃないはずだ。それなのに、そのアニメの題名が思い出せないから腹立たしい。
 けれど克っちゃんが、その腹立たしさを、あっさりと拭ってくれました。
「マンドリルって、キングのだろ?」
 そうだ。そうそう。キングキング。崖の上からさ、ライオンの赤ちゃんを高々と掲げるの。朝日がすっごく眩しいの。あ、夕日かも。
「エグザクトリー! こって、こって、万歳してさ、ダ〜ズメンヤ〜っ、ヒワワ〜って!」

 これほどまでの、素晴らしいアキレス腱伸ばしを披露してやっているというのに、牛に戻った七和は、もしゃと口を動かしながら突っ込みを入れる。
「エグザクトリーってあんた…しかも、それを言うなら、Nants ingonyama bagithi Babaだし」
 何だそれ。何語だそれ。そんな知識があるくせに、何故、マンドリルを知らんのかね。
 これだから七和は、未だ。なんだ。ライオンとは掛け離れたキングだし。
 克っちゃんを見習え、克っちゃんを。決して、人様の揚げ足を取ったりしないぞ。お前にみたいに。
「それで美也? あれはどんな声で鳴くんだ」
 褒めた傍から、揚げ足を取りましたね。何やらとても、損をした気分です。しかも多大に。
 けれど、そう言われればそうですね。しかし、ドリルと言うくらいなのだから……

「今、松本さんの頭の中は、きっと電動ドリルの金属音で埋め尽くされてますよ」
 私の思考を読むな。語るな。当たっているだけに反論できないだろ。
 こういうときは、話を大きく展開させるため、本人に直接聞くのが最もかと思われます。
 そこで、大いなる現状逃避をしながら、いそいそと携帯を操り、渦中の人に電話を掛けました。
「あ、兄? 兄は何の語尾指定だゲロ?」
「み、美也さんは蛙ですか…私は犬なんだわん。あ、いや、もう勘弁してください……」
 兄お前、まさか会議で、そんな戯けたことを言い放ったんじゃ……

 ビデオ屋帰りの大通り。数ヶ月前の木曜日から、こうして克っちゃんとともに、夜道を歩くことが通例となっている今日この頃。
 お目当てのDVDが、全て貸し出し中だったらしい克っちゃんは、何も借りずに店を出た。
 私と言えば、最近、東映アニメシリーズに嵌っている。しかも二十世紀ものが最高だ。
 薄っすらとしか記憶にないのだけれど、どれもこれも、居間のテレビで、克っちゃんと一緒に観ていたアニメだったと思う。
 特に克っちゃんは、サッカー少年の成長を描いたアニメが大好きで、その主題歌をよく口ずさんでいた。蝶のサンバが、どうのこうのってやつね。

 そんな怪しい記憶を七和へ告げると、七和は事も簡単に、そのアニメのDVDを見つけてくれた。
 懐かしさに惹かれて、そのシリーズを毎週一本借りているのだけれど、話が進むに連れて、一人のキャラクターに好感を抱くようになっている。
 否、主人公ではなくて、主人公のライバルなんだけどさ、裕福な家庭で育った主人公とは違い、家がとても貧しいの。なのに、気高いの。そこがカッコイイの。

「日向くんって、カッコイイよね!」
 DVDの袋を抱き締めながら、相変わらずの唐突さで切り出した。
 すると、少し躊躇ったものの、日向くんが何者なのかを理解した克っちゃんが、ふと笑みを零した後、ぼそと告げる。
「小次郎か? でもお前は、翼が好きだっただろ?」
 翼と呼ばれる彼は主人公だ。明るくて優しくて、王子様のようなキャラだと思う。
 当時の記憶は曖昧だけれど、克っちゃんが断言するのだから、私は翼くんが好きだったのだろう。

 未だ実母が生きていた頃の克っちゃんは、翼くんに似ていた気がする。
 自分のことを優先的に考えることが出来たから、王子様でいられたんだ。
 けれどその後、克っちゃんに圧し掛かった負担は、並大抵のものじゃない。
 自分の全てを犠牲にして、私の世話をしなければならなかったのだから。
 だから克っちゃんは、その時点で王子様役を退いた。声を上げて笑う克っちゃんを、目にしなくなったのも、この頃からだと思う。

 あの頃の私は、こんなことを考えもしなかった。
 やってもらうことが当たり前で、何でもかんでも克っちゃんを頼り、自分で出来るはずのことまで、克っちゃんに押し付けていた気さえする。
 母さんと亮がやってきてからは、私は末っ子という立場を退いたわけで、克っちゃんが強いられたものよりも、断然生ぬるいものだけれど、兄弟の世話というノルマが課せられた。
 別段、亮の面倒を見ることが、苦だったわけではないけれど、克っちゃんにぴったりと寄り添う時間が急激に減り、苛立っていた時期もある。

 それでも克っちゃんからしてみれば、両手放しの、万々歳だっただろう。
 漸く、自分だけに集中することが出来た克っちゃんは、自室に籠もることが多くなった。
 だから益々、克っちゃんとの距離が遠ざかってしまった気がして、私を置いていかないでくれと、懇願し続けたのかも知れない。まぁこれは、推測だけど。
 兎にも角にも、石岡兄の言う通り、私は克っちゃんに依存し過ぎているのだと思う。
 けれど少しずつ、亮のお蔭で、それが解消されているとも思う。

 亮が克っちゃんの代わりを担っているのではなく、私自身の価値を、亮は教えてくれる。
 誰に頼らなくても、私なら、自力で遣り果せるはずだと、断言してくれるんだ。
 亮は思ったことを、全て口にする。私に関してのことは、ほとんどがお世辞だろうけれど、それでも誰だって、褒められて悪い気はしない。はず。
 逆に克っちゃんは、何一つ語らない。私が悪いことをすれば、それを嗜めることはあっても、自分の感情を言葉で表すことをしない。
 けれど極稀に、吐き出すことがある。そしてそれは、とても短く、とても深い……

「美也?」
「ん?」
「お前は一番の宝物を、人に譲ることができるか?」
 又だ。今日は皆、あんた一体、何を言い出すんだデーだよね。
 克っちゃんもまた、巨大虫雲に、やられちゃったんだな。魔が差すって感じで。
「ゲ〜ロ、ゲロゲロ。おまいさんも、遂に逢魔……」
 蛙口調で嘲笑い、人差し指を突き出して見上げた先には、暗闇でも解る、世にも恐ろしい眉間筋。
「美也……」
 拙い。慌てて人差し指を引っ込めた後は、克っちゃんの問いへ、真剣に答えることを誓います。はい。

 私が亮へ譲った宝物は、数限りなくある。亮だけではなく、友達へも然りだ。
 けれど、イルカの抱き枕も、虹色の毛布も、キラキラ鉛筆も、その他諸々も、確かに大切な宝物だったけれど、それらは全て一番ではない。
 克っちゃんは多分、私の一番を知っている。だから、正式な回答は『出来ない』だけれど、克っちゃんにはこれで通じるはずだ。
「あげないよ、アレはお墓に持っていくと決めてるのっ!」
 そこで克っちゃんの歩みがひたと止まり、少し驚いたように目を見開いて、確定に近い質問を投げた。
「じゃお前はアレを、あげたんじゃなくて、隠したのか?」

 隠したとは何事だ。否、でも、事実そうなんだけどさ。
 アレとは当然、私の宝物であり、それは実母の形見品だったりする。
 何故、どうして、私の手元にあるのかは、遥か記憶の彼方だけれど、実母本人から貰った記憶はある。一コマ分程度の記憶だけど。
 私はそれを、肌身離さず持っていた。けれどある日を境に、とある場所へ封印した。
 それは中学生に進学する頃であり、校則違反を恐れたことと、実母の形見を持ち続けることに、母へ対して妙な疚しさを抱いたこと。そして、亮や友達の強奪から逃れるためだ。
 なんというか、強請られたり、頼まれたりすると、断り切れない自分を知っているからこそ、持っていること自体を直隠したんだ。

「か、克っちゃんだって、隠してたじゃん!」
 逆に私も、克っちゃんの一番を知っている。十年以上前の一番だけど。
 けれど、当時から秘密主義男だっただけに、私はそれ自体をしっかりと見せてもらったことがない。
 それでもそれは、矢張り実母絡みの代物で、妙に薄べったい。
 だから私は、実母の写真なのではないかと睨んでいる。
 ところが克っちゃんは、それを否定も肯定もせず、もっと複雑な言葉で私を混乱させた。
「あれは、ただのオプションだ」
 オプションってお前。ゲームじゃないんだからさ。否、ゲーマーだから、仕方がないのか。

 そこでまた克っちゃんが、珍しく自分の足元を見つめながら、不吉なことを言い退ける。
「もしも、アレを奪われたら、お前はどうする?」
「ぬ、盗まれないよ! やめてよ、縁起でもないっ」
「だから、若しと仮定しただろ?」
 そんなものがあってたまるか。どこぞのコントじゃあるまいし。もしもシリーズとかさ。
 けれど、そんな疑問を投げ掛けられると、途端に不安が込み上げる。
 隠したと言っても、頑丈な金庫に仕舞ったわけではない。毎日それを、チェックしているわけでもない。だから若し、気づかぬうちにアレが無くなっていたら……

「か、か、克っちゃん、どうしよう!」
「落ち着け。ただの空想話だろ?」
「落ち着けないよ! 一大事なんだよ? 克っちゃん早く帰ろう!」
「これだから、お前と話すと疲れる……」
 失敬な。自分から話題を振っておいて、疲れるとは何事だ。疲れるとは。
 けれど、そんな嫌味に反応している暇はありません。一刻も早く、アレの所在を確かめなければ。

 居間にも寄らず、一目散に自室へ雪崩れ込み、アレの無事を確認した。
 クローゼット内の棚上に並ぶ、箱の中の箱の中の箱の中だ。こう、マトリョーシカっぽく。
「あった! あったよ、あったじゃん、なんだよ克っちゃんもーっ!」
 あ、もーって言っちゃったよ。七和じゃないのに、格好悪い。
 というか、よくよく考えてみれば、家の中へ隠しているのだから、無くなるはずがないんだよね。
 亮は強請るけど、盗んだことなど一度も無いし、遊びに来た友達が、こんな場所でゴソゴソとやっていたら、流石の私も気づくしさ。

 安堵の胸を撫で下ろしながらも、久しぶりに手にした宝物に、思わず頬が緩む。
 正真正銘、本物ダイヤのシグネチャーリング。
 これが、かの有名なブランド指輪だと知るのは、実は成人してからだったりするのだけれど、それはどうでも良い話だよね。
 否、良くありません。こんな高い代物を、肌身離さず持ち歩いていた私です。
 改めて思うけれど、無知って強気だよね。失くさないで本当に良かった。私。

 『K to M』と、指輪の内側に掘られた文字を見る限り、これは父が実母にプレゼントしたものだと思う。
 何故実母が、これほど高級で大切な代物を、五歳そこそこだった私に託したのか解らない。
 さらに、一つ手前の箱に収納されている、レースの布切れなど、完全なる謎だ。
 なんというか、その、ゴスロリの三角巾って感じなの。給食当番っぽいの。レースだけど。
 そこでそれを手に取り、徐に髪へ宛がって見た。
 クローゼットの扉に添え付けられた、鏡を見ながら確信する。矢張りこれは三角巾だ。多分。

 けれど確信は、直ぐに疑問へ戻りました。
 何故なら、三角巾のように、項で結べるほど大きな布ではなかったからです。
 ということは、ねずみな小僧の如く、鼻の下で結べば良いのでしょうか。否、それは変ですよね。
 でも、挑戦した私は、勇気ある者だと思います。つまり、私は勇者です。
 ところが、その素晴らしいタイミングで、ノックとともに克っちゃんが現れたから大変だ。
「おい、美也……っ、ぐぷっ」
 ぐぷってお前。ゲップじゃないんだからさ、お腹から噴き出すのは止めようよ。

 目頭から額を掌で押さえ、くつくつくつくつと、執拗に声無く笑い続ける克っちゃんが、漸く、途切れ途切れの台詞を吐き出した。
「お前は、それも、くっ、隠してた、のか」
 くっ。の部分だけ、厭に甲高かったのが気になるのですが、それは、しゃっくりの一種ですか。
 それでも、無かったことにしたいと心から思うので、三角巾の話は、全てスルーしようと思います。
「克っちゃん、ほら、あったよ! 全く、人騒がせなんだから」
「お前が、勝手に騒いだんだろ?」
 まぁ、注意深く考えれば、そうとも言えるかも知れません。否、その通りですね。

 さらに、注意深く考えてみると、何故克っちゃんが、あんなことを言い出したのかが気になり始めた。
 もっと早くに気づくべきだったけれど、それはそれだ。
「克っちゃん、もしかして、宝物を奪われちゃったの?」
 秘密主義の男が、仮定法を使う時。それは、自分の身に、同じ出来事が起きたときだ。
 だから直球で問い掛けたけれど、変化球で投げ返された。
「いや、そう思っていたが、どうやら奪われていなかったらしい」
 何だそれ。自分の宝物なのに、他人事のように話すのは可笑しいだろ。

 克っちゃんは、いつもこうだ。それがどんなに厭なことでも、喜ばしいことでも、こうやって顔色一つ変えず、平然と言い退ける。
 私は、こんな克っちゃんに苛立つ。腹立つでも可だ。そしてそれを、人は逆ギレと呼ぶ。
「克っちゃんのことだから、平気な顔で譲っちゃうんでしょ?」
 人間苛立つと、片側の眉毛だけが、妙にひくつくよね。ピクピクとさ。
 そんな私の眉毛を見つめながら、克っちゃんが真顔で言い返す。
「平気なわけがないだろ」

 そうなんだ。そうなんだよ。平気じゃないのに、平然を装うんだ。
 他人様相手ならば、そうするのが大人の嗜みなのかも知れない。だけど、家族にまでその姿勢を貫くから、堪らない気持ちになるんだ。
 我慢に我慢を重ねて、克っちゃんは何時、何処で、その積もり積もった我慢を吐き出すのだろう。
 そう想うと、何も出来ない自分が遣る瀬無い。そして、逆ギレる、と。
「じゃ、なんで平気なふりをするの? 普通なら」
「普通じゃないからだ」
 確かに、オプションなんて普通じゃないけれど、そこまで斬り捨てなくても良い気がするのですが。

 それでも、この場は退いた方が賢明です。これ以上の戦いは、避けた方が無難です。
 なので私は勇者を辞めて、とても明るい賢者に転職しようと思います。賢明に。
「克っちゃん、今日の夕飯は、冷しゃぶなんだよ。豚だけど」
「何で、そんなことを知っているんだ」
「だってさっき、母さんにメールで聴いたもん」
「そんなことをメールで問うな」
「なんでだよ? 普通だよ、普通。これぞ究極の普通!」
 大袈裟な体現法を加えて断言し、そのまま、そそくさと階下へ向けて歩み進む。
 深過ぎる溜息とともに呟かれる、克っちゃんの嫌味は、聴こえなかったことにしよう。

「お前ほど、普通から掛け離れた女はいないだろ……」

 冷たい豚しゃぶを、ポン酢でさっぱりと頂いた。上に乗っかる、ざく切り水菜の方が多かった気もするが、お腹がいっぱいになれば、それでよし。
 父さんは、胡麻ダレが無いことに不貞腐れていたが、敢えて言おう。梅雨はポン酢だ。多分。
 母さんは最近、雑穀米に凝っている。粟とかひえとか押麦などの色々な穀物を、白米に混ぜて炊く代物で、確かに母さんの言う通り、美容と健康に良さそうだと思う。
 けれど、美容より、健康より、白米を欲する気持ちが強いのですが。頼むよ。
 さらに母さんは、克っちゃんの食欲がないことを気に掛けているけれど、こちらも敢えて言おう。老いだよ老い。などと口にしようものなら、確実に雷が落ちること受け合いですね。

 克っちゃんは昔から、高温多湿になると食欲が落ちる。
 それを百も承知な母さんは、克っちゃんをメインにした献立作りに精を出す。
 だから父さんが不貞腐れるわけで、さらにこれがまた、悪循環だったりする。
 否、実はあの男、食欲が落ちるというよりも、異常に梅を欲するのだ。梅雨だけに。
「母さん、梅干ある?」
 けれどこの事実を知る者は、私以外に居ない。何故なら、克っちゃん本人が直隠すからだ。
「あるわよ。でも、何すんの?」
 そして、その事実を知っている人間は、確実に共犯者の道を歩む。
「え? 食べるに決まってんじゃん。何? 肌に擦り込むとでも?」
「あんたなら、鼻の穴に突っ込むことも可能」
「失敬なっ!」

 ということで、梅干とジャコの雑穀チャーハンを作りました。
「美也あんた…まだ食べんの?」
 恐ろしくげんなりしながら、母さんが隣でほざいておりますが、ここは克っちゃん威厳保持の為、反論を飲み込もうと思います。悔しいけど。
 否、というよりも、こちらを制作した理由は、克っちゃんの体調を深思してのことではなく、実は自分の為だったりします。
 背に腹はかえられぬと申しますが、この状況は、こちらの慣用句がぴったりかと。

「克っちゃん、このDVDさ、私のパソコンじゃ読み取れなくてね?」
「だから?」
「こ、こちらで拝見させていただくことは、可能でしょうか……」
 本日借りたサッカー少年物語は、えらく反抗的で、何度試してみても観られない。
 居間のテレビは父さんが、名監督風の佇まいでプロ野球を観戦中だし、亮は未だ帰宅していない。
 克っちゃんは、明らかに仕事を家に持ち帰った雰囲気満載だが、テレビは空いている。テレビは。
 しかも空いているのは、高性能、高画質を誇る、大きなハイビジョンだ。

「け、決して、お仕事の邪魔はしないと誓います。このように、ヘッドフォンも持参致しましたし、こちらのポテトチップスは、唾液で湿らせて音を立てないようにですね?」
「その皿は?」
「お客様、流石はお目が高い! こちらは、美也スペシャルと申しまして、胡麻油で炒ったチリメンジャコに、梅肉を混ぜ合わせた逸品で、高級南高梅とまではいかないものの、そこそこの梅」
「……解ったから、入れ」
 よしっ。見事賄賂成功。この男の弱点を知り尽くした、素敵な私に乾杯!

 いそいそと部屋に入り込み、もう撤回はできないぞとばかりに、ポジションをゲット。
 露店商人の如く、持ち込んだ品々を周囲に並べ始める私を、怪訝な顔で見つめながらも、チャーハンを食べ続ける男は、とても嫌味ったらしい口調で、ぼそと呟いた。
「美味いな」
 もっと美味しそうに言え。美味しそうに。何故、眉間に皺を寄せながら言うのかね。
 それでもそれに触れることなく、どこまでも高飛車な台詞を放つ。
「当然だ。この美也さまが作ったのだから」
 ところが、克っちゃんから戻された答えは、聞き捨てならないものだった。
「だろうな。普通じゃ、これは食べられない」

「克っちゃん、何? 知ってはいるけど感じ悪いよ?」
 チャーハンのお皿を奪い取り、威嚇を強めて文句を垂れる。が、途中で気分が萎えました。
「この傑作のどこに文句が……すっぱっ! 何これっ!」
 上手く説明できないのですが、この味を簡潔に申し上げると、ずばり梅です。梅チャーハンではなく、チャーハン梅って感じで。比重的に。
 悪阻の酷い妊婦さんでも、こちらは流石に食せません。逆に危険な感じで。塩分的に。
 けれど克っちゃんは、くつくつ笑いを醸し出し、私の手からお皿を奪い返しながら鮮明に告げる。
「でも、美味い」

 この男の味覚は確実に可笑しいと、今、此処に断言する。
 それでも、克っちゃんの異常な梅摂取は、過去の心的外傷が原因なのではないかと思う。
 そして克っちゃん本人は、何故こうなったのかの理由を知っている。
 だから、誰にもバレないように、こっそりと梅を貪るんだ。私にはバレてるけど。

 実母の死は、私たちに大きな影を落としていると思う。
 けれど、その頃の私は幼過ぎて、死という言葉すら、理解できていなかった。
 だから私の思い出は、曖昧で、断片的で、不確かなものばかりだ。
 でも克っちゃんは違う。多分、私よりも正確な、数多い記憶を持っている。
 そしてそれは、とても辛い記憶だ。

 記憶が曖昧な自分を歯痒く思う反面、そんな自分だからこそ、気楽で居られるのだと思う。
 それでも矢張り、何でも半分ずつ分けて欲しい。
 まるでトランプを配るように、一袋のポテトチップスを平等に分けていたのだから、記憶だって、痛みだって、平等に分け与えて欲しいと願うんだ。
「ねぇ克っちゃん、その梅中毒の原因ってさ……」
「お前の雨嫌いと同じだろ」

 雨嫌いは語弊だ。正確には、夜の激しい雨が苦手なだけだ。嫌いじゃなくて苦手なの。しかも夜限定。
 高所恐怖症や閉所恐怖症と、同じ類のものだと思うけれど、夜雨恐怖症とは言わないよね。きっと。
 激しい雨と暗闇が、全てを奪って行くような気がすると言うか、悪者の音や姿を、闇と雨が隠してしまうと言うか、何と言えば良いのか解らないけれど、それが堪らなく怖いんだ。
 けれど克っちゃんは、梅が怖いわけではない。逆に、梅が好きだとしか思えない。
「全然違うよ! 私は雨を貪ったりしませ〜ん」
 語尾を過度に伸ばし、絶好調な舌好調で嫌味を吐き出したけれど、相手の方が何枚も上手でした。
「美也、観ないのなら……」

「み、観るよ! 観ます、観せます、観させます!」
「誰にだよ」

 ヘッドフォンを装着し、ベッドに凭れ掛かりながら、リモコンの三角ボタンを押した。
 映画会社の純和風な映像が流れた後、ホイッスルの音とともに、愉快な主題歌が流れ出す。
 こう言っては悪いが、この時代のアニソンって意味不明な歌詞が多いよね。
 その癖、妙に脳裏へこびりつく曲調でさ、意味不明なのに覚えちゃうの。しかも歌っちゃうの。
「ちょっと、あれぇ見なぁ〜」
「美也、煩い」
「あっ、ジグザグサンバっ!」
「おい美也」
「チャンバも走るぅ〜。って、チャンバって何!」
 とりあえず、画面にツッコミを入れてみたのですが、いかがでしょう。
 というか今一瞬、克っちゃんの深く長い溜息が、聴こえた気がするような、しないような。

 怖いもの見たさで右を見て、克っちゃんの動向を確かめた。
 すると、半口を開けた、お疲れ顔の克っちゃんが目に映る。しかも、物凄く猫背なの。
「あれ? 克っちゃん仕事しないの? 疲れちゃった?」
「美也、カスを溢すな」
「何、一緒に観たいの?」
「だから、薙ぎ払うな。おい、吹き飛ばすな。こら、擦り付けるなっ」
「もう! 克っちゃんが、ごちゃごちゃ煩くて、聴こえないじゃん!」
 あ、また言っちゃった。もうさ、こうなったら、ウシガエルってことで、どうでしょう。
 否、そんなことを考えている場合ではなく、ああでもなく、こうでもなく……拙い。只管。

 遠目でも解るほど強烈な、眉間青筋を立てた克っちゃんが、テレビのジャックから、ヘッドフォンのコードを引き抜いた。
 矢張り一緒に観たかったのだな。などと思えないのは、青筋さんのお蔭です。
「話が違うよな? お前は俺に何と言った?」
「ややゃ、克っちゃん? ごごごめっ、ごめっ、」
 両腕を駆使して抵抗を試みましたが、当然、全て無駄に終わります。
 さらに、今更ですが思い出しました。この男は格闘技アニメをも、こよなく愛しておりました。
 ほら、額に肉って描かれてるやつとか、七つのボールを集めるやつとか、アタタタ叫ぶやつとか。
「克っちゃんギブ! ギブギブ〜っ!」

 身体の数箇所を、思い切りチョップされました。それも二本指で。
 今、私の秘孔を突かれた。私はもう死んでいる。って感じなんですが、ひでぶ、ひでぶ、ひでぶ、などと連呼するべきでしょうか。
 否、それよりも、その名も偉大なカメハメハじゃなくてよかったです。
 あんな波動を受けたら、うっかりロマンチックになりそうですよね。南の島っぽく。
 こうして、微動だにせず床に伏せる私の耳に、あの独特な、ポリプロピレンの音が届く。
 もしかしてこの音は、いやいや、もしかしなくても……
「あっ、克っちゃん! それ、私のム〜チョ!」

 見上げれば、克っちゃんが私のポテトチップを食べているから戴けない。
 辛い方はよく見かけるけれど、酸っぱい方は、なかなか売っていないんだぞ。しかも、スティックタイプは特に売ってないんだぞ。
 それなのに、飲むように口の中へ流し込んでいるのですが、ぶっ飛ばしていいですか。
「こっ、なんでそんな、そんな、大人食べしてんだっ!」
 叫んだ後、直ぐに後悔したものの、案の定、後悔箇所の揚げ足を取られ、開き直られました。
「大人だから? 美味いなこれ」
 何、その笑顔。チャーハン梅のときみたいに、眉間に皺を寄せながら言え。眉間に皺を。

 結局、私のムーチョは物の見事に、克っちゃんの腹へ全て収まりました。
 この梅中毒男の元に、梅味ポテトチップなどを持ち込んだ私が悪いのですね。
 そこで、とてもご満悦顔の克っちゃんは、持ち帰った仕事を完全に放棄し、DVDを観る気満々で、ベッドの上に腰掛けました。
 食べ物の恨みは恐ろしい。特に私の恨みは深く重いと断言する。
 だから、恨めし顔で克っちゃんを見上たけれど、今回もまた、とても軽く躱れました。
「美也、観ないのか?」

「み、観るよ! 観ます、観せます、観させます!」
「だから、誰にだよ」
 
 床へ投げ出された脚に、無意識下で近づき、そのまま頭を乗せた。
 無意識というよりも、雀百まで踊り忘れずと言った方が正しい気もする。なんというか、習慣って恐ろしいよね。固定化するに至った反応様式っていうの?
 幼い頃、居間でテレビを観るとき、克っちゃんはいつもソファーに座り、私は床へ座った。
 克っちゃんの脚と、ソファーが作り出す角に身を置き、どちらにも平等に凭れ掛かるんだ。
 だって、ほら、人間ってさ、角っことか、隅っこが好きじゃない? 否、私だけですね。
 そうやってテレビを観てみるうちに、床に座ったまま、克っちゃんの膝枕へ移行していくのが通例で、最終的には、そこでうたた寝をして、克っちゃんに起こされた。

 絶対の安心感。克っちゃんが齎すものは、これに尽きる。
 学校で遭った、厭なことも何もかも、克っちゃんに触れているだけで忘れることができたんだ。
 それからもう一つ、克っちゃんの特技があった気がする。
 否、摺り足とか揚げ足取りなどなど、彼には沢山の特技があるけれど、そういったものではなく、こう、誰にも真似できない特技だったはず。
 そして私は、その特技が大好きだったはず。なのに、忘れた。
 人間は忘却の生き物と申しますが、全く持ってその通りですよね。特に私が。

 それでも、無意識で行動を起こすのは、私に限ったことではない。
 克っちゃんもまた、視線は画面へ釘付けのまま、膝に乗っかる私の頭を撫で始めた。こちらの場合は、昔取った杵柄って感じで。
 さらに、画面の中の主人公がボールを蹴った瞬間、克っちゃんの左脚がぴくんと動く。
 昔はこの後、ゴールが決まると、撫でていた私の髪を、勢い余ってくしゃくしゃにした。
 けれど今は、そんなことをするはずがない。わけがない。
 つまりこの男は、思いっ切りそれをやらかしました。確実に無意識で。

 きっと克っちゃんの部屋には、タイムマシーンがあるんだな。
 電化製品の種類は変わっても、昔から機械に囲まれた部屋だったし、チェスができちゃいそうな、白黒市松模様の絨毯も健在だ。
 だからこうやって、克っちゃんの膝枕で古いアニメを観て、頭をもしゃと乱され、楽しげな鼻歌が聴こえてきたりすると、昔に戻ったような気分になる。
 勿論、私は今が好きだ。母さんや亮が居ない生活など、考えたくもない。
 けれどあの、克っちゃんと二人切りだった毎日も、大好きだった。
 だから偶には、こんな風に昔を懐かしむのも、悪くないよね。多分。

 エンディングテーマが流れ始めた頃、不意に克っちゃんが、私の前髪を掻き揚げた。
 言われなくても解る。この動作は、『おい美也、寝るな』だ。
「寝てないよ。大丈夫。寝てないってば」
 首を捻って見上げれば、真上に覗く、克っちゃんの切れ長流し目。
 こちらも、言われなくても解る。この表情は、ずばり、嫌疑。
「嘘じゃないよ、嘘じゃないもん」
 するとそこで、克っちゃんの細めた流し目が、そのままの形で徐々に見開かれて行く。

「ち、誓うよ、命賭ける! いや、書ける!」
 どんな文句を目で語られたかは、ご想像にお任せします……  
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