INDEXMAINNOVELBROSIS フォントサイズ変更   L M D S
◇◆ Nandasore! 3 ◇◆
 チューハイやカクテルの、空き缶が転がる秘密基地。
 飾り気のない部屋だけに、巨大ベッドに凭れて、弟相手にくだを巻く。
「何でみんな、内緒内緒って、私を仲間外れにしてコソコソと」
「誰も美也を、仲間外れになんてしてないじゃん」
「してるよ! してるじゃん。聞いたもん。本間から」
「あぁ、石岡さんが、俺の会社へ来たって?」

 本間と別れ、待つこと数分で弟が現れ驚いた。弟のジムがあの店の近所だと知り、尚驚く。
 多分本間は、それを知りつつ、あの店に私を連れ立ったのだと思う。
 別段、私を思いやったわけではなく、水さんの仕事が終わるまでの繋ぎに、私を利用したまでだ。
 こういったことに関して、あいつは昔から抜け目がない。
 迎えに来た弟は、車だっただけに、そのまま居酒屋へ行くことができなかった。
 駐車場へ車を停め、そこからまた繁華街へ繰り出すには、時間が遅すぎる。
 ということで、コンビニで大量のお酒とツマミを買い込み、秘密基地へと雪崩れ込んだ。

 迎えに来た弟の顔を見て、少しばかり安心した。本間が不機嫌だったと告げたこともあるけれど、この穏やかな表情からして、何かを深く思い悩んでいるようには見えなかったから。
 それでも、弟に悩みが有る事には変わりがない。
 だからチューハイの缶をぺこぺこと潰しながら、弟へ切り出した。
「ねぇ亮ちゃん、私じゃ頼りにならない? 相談にも乗ってあげられないの?」
「別に、石岡さんは俺に相談があって来たわけじゃないよ」
「萩乃ちゃんのことだけじゃないよ。亮ちゃんだって悩み事があるんでしょ?」
 そこで弟は、飲もうとしたお酒を口元に宛がったまま、動きを止めて率直に答える。
「あるよ、沢山」

 遣る瀬無い。そんなにも呆気なく簡単に言われてしまうと、無性に物悲しくなる。
 やはり私では、何の役にも立たないのだろうか。
「それを、私には全然言ってくれないよね……」
 両膝を立て、そこに顎を置きながら呟けば、弟は頬杖をついて切り返す。
「俺は言ってるよ? いつでもちゃんと美也に伝えてるけど?」
「聞いてないよ。聞いてません」
「そうだね、美也は聞いてない。でも俺は言ってる」
 聞いてない。否、覚えていないんだ。私はいつもそうやって、話を右から左に流してしまう。
 でも今日は、今日こそは、そんなことをしないと約束する。その証拠として正座で誓う。
「ちゃんと聞く。ちゃんと聞くから、話して?」

 姿勢を正して、弟の正面へ向き直り、誓いの言葉をだらだら告げる。
 けれど弟は、最後まで言わせることなく、話を展開させた。
「亮ちゃんはお節介って言うけど、私は…その、お姉ちゃんらしく、弟の悩みを聞い…」
「では、相談に乗ってもらおうかな? 美也さまに」
 思わず顔が綻んだ。つい、弟を抱きしめようと腕が上がるけれど、これをやると、何やら怒られそうな予感がしたから、自分の身体を抱くだけに止めた。
「うん。いいよ? もう、何でも言って!」

 遂に始まった、弟の悩み相談。心躍らせて待ち構えたけれど、意外な言葉に驚いた。
「俺って、すごいやきもち妬きなんだけど、これって治らないのかね?」
 十数年一緒に暮らしてきたけれど、そんなことには全く気がつかなかった。
 弟も兄も、とにかくドライな人間だ。やきもちを妬くなど、父の専売特許なはずだ。
 それでも申告してくるからには、妬く相手が居るからであり、それを気づかされたことになる。
「もしかして、彼女にウザイって言われちゃったの?」
「いや、やきもち妬いてることにも、気付いてないんじゃない?」
「何だそれ? 鈍感な女だね? あ、ごめん……」

 弟の口端がひくっと持ち上がる。いくら姉とは言え、弟の彼女を虚仮にしては拙い。
 だから瞬時に謝った後、姉らしい実体験に基づいた深い言葉をかけてやる。
「治さなくて平気だよ。私はさ、好かれてる気がして、ちょっと嬉しかったりするよ?」
 けれど、謝罪が足りなかったのか、弟は片方の眉毛を上げて凄み始める。
「へぇ。誰に妬かれて嬉しかったの?」
「いや、私の話じゃなくて、亮ちゃんの話でしょ?」
「俺は、そっちの方が気になるけどね」
 弟が少し怖い顔をしながら、ゆっくりと近づいてくる。思わず目線を逸らし、話も逸らす。
「か、彼女は幾つ? もう、どれくらい付き合ってるの?」

 そこでようやく弟の動きが止まり、安堵の溜息をそっと吐いたところで、またもや意外な言葉が、弟の口から吐き出された。
「彼女じゃないよ。俺の片想い。でも絶対、手に入れるけどね?」
 こんなにも可愛い弟に、落ちない女がこの世に存在すること自体が気に入らない。
 ここは一つ、私がその女に説教を食らわせてやる。
「何だそれ? 亮ちゃんの何処が気に入らないの。その女、一辺呼んでこいっ」
 ところが弟は、明後日の方向を見ながら溜息を吐く。
「何時になったら、気付いてくれるんだろうね……」

 何やら、今の言葉は、レモンの香りが漂っていたような。
 そこで、萩乃ちゃんの姿が頭に浮かび、はたと気がついた。
「も、もしかして亮ちゃん、告白しても気付いてもらえないとか?」
「当たり。何度好きだと言っても、相手にされず?」
 身体が怒りで、否応なくわなわなと震える。両拳を握り締め、感情を爆発させた。
「なんてふざけた女だ! 普通は気付くだろ? 可笑しいよそいつ!」
「それだけじゃないよ? 他の女と俺をくっつけさせようとすんの」
「ひ、ひどっ! 亮ちゃん可哀想……」

 口を手で覆い、泣きそうになる想いを堪えて囁く。
「そんなことされても、その人が好きなの? 違う人じゃ駄目なの?」
 私の隣に落ち着き、同じくベッドに凭れ掛け始めた弟は、真剣な瞳を湛えて私に言った。
「駄目。他の女なんか眼中ない。好きだよ、凄く好きなんだ」
 堪らず腕が動き、レモンの王道を貫く、素晴らしき弟を抱きしめる。
「くぅぅぅ。亮ちゃん、あんた男だね。私、感動しちゃった」
 それなのに、姉の気持ちを知らぬ弟は、お酒をずびっと啜りながら小言を呟いた。
「はぁ。これだよ……」

 抱擁を解き、弟の両肩を何度も叩いて気合を入れる。
「そんなに好きなら、ずっと言うしかないよ。きっと亮ちゃんの想いは届くよ!」
「ほんとに届くのかね?」
 弟の諦めに似た口調に腹が立ち、肩に置く手に力を込めて、気持ちも籠める。
「諦めちゃだめだよ! ちゃんと好きだって。やきもち妬いてるって、他の女なんか紹介するなって言わなきゃ!」
「とりあえず、他の女を押し付けるのは止めさせたいよね。あれは腹が立つ」
「そうだよね。どうしてそんなことするんだろ……」

 弟は私の手首を掴み、にと意地悪な笑みを浮かべて、自分の企みを私に溢す。
「それって、ちょっと強引に、解らせていいと思う?」
「いいよ、強引で! あ、でも、犯罪っぽいのは駄目だよ?」
 簡単に背中を押してしまったものの、飽く迄も相手は女性だ。
 生涯心に残ってしまうような、傷をつけてしまったら可哀想過ぎる。
 それに弟が、警察のご厄介になることだけは、姉として助言者として、阻止しなければならない。
 ところが弟は、意地悪加減に磨きをかけた微笑で、私を見据えながら明言する。
「大丈夫だよ。後で絶対覚えてろって言っといたし。ね?」

 その言葉は、昨日言われたばかりだ。あれは余り、良い言葉だと思えない。
 特に想いを寄せる女性へ向けて、放ってはいけない台詞だとも思う。
「亮ちゃん、私にはいいけど、あんまりそういった言葉を女の子に言うのは……」
 けれど弟は、もうこの話は解決したとばかりに、話を大きく切り替えた。
「美也、石岡さんと一緒に買い物したんだって?」
「え? あ、萩乃ちゃんが言ってたの?」
「うん。とにかく、彼女は美也が大好きだって言ってたよ」
 その言葉は、私に破顔一笑を齎した。押えても押えても頬の緩みが止まらない。
「ほ、本当? 萩乃ちゃんが、私を好きって?」

 照れ続ける私に、弟は軽く相槌を打つと、これまた軽いノリで聞いてくる。
「お兄さんも居たのに、女二人で何を買ったの?」
「あぁ、下着下着。流石に男の人とは、萩乃ちゃんも買えないじゃない?」
「また美也も、付き合いと勢いで、一緒に買ったでしょ」
 勢いは余計だが、確かに買いました。しかも、本間と勝負も致しました。負けたけど。
「本間との勝負に負けただけだよ? でも、あいつが異常だか」
「へぇ。勝負下着を買ったんだ」
 地雷を踏んだのですね、今私。単独事故とも言いますが。

 又もや上がり始める弟の片眉毛。単独事故なのだから、寛大な心で許してくださると有難い。
「本間さんに負けたってことは、今着けてるんだよね?」
「いや、ま、まぁ、そうなりますかね?」
 復讐を誓ったマフィア顔が、蛇のような狡猾さで近づいてくる。
「美也、誰に見せるため、着けていったの?」
「ちがっ、だ、だって、箪笥の肥やしになっちゃうのはイヤじゃん!」
 両手で白旗を揚げるものの、弟は許してくれないらしい。
 あっと言う間に、例の顔へ切り替え、首を傾げながらのお強請り要求。
「じゃ、俺が見るよ。美也、見せて? お願い……」
「うぅぅぅ。い、いいよ……」
 や、やっぱり言っちゃった……

「へぇ。こんなの買ったんだ」
 セーターを脱がされ、けれどスカートは穿いたままな、中途半端の惨めな格好。
 さらにブラを見つめる弟の眼が、哀れ感を色付けしている情けなさ。
 けれどこれは、私だから似合わないのであって、萩乃ちゃんなら似合うはずだと期待を込めて、弟の視線から逃れるように言い訳を試みた。
「や、え、あ、変? やっぱ、私には似合わないよね?」
 ところが弟は、似合う云々ではなく、下着そのものを査定する。
「いや別に? 下がガーターベルトだったら退くけど」

「えぇ! ひ、ひくの? 駄目なの?」
 それは拙い。勝負なのに、見せた瞬間、その場の空気が乾くのは悲惨すぎる。しかも本人否定だし。
「脱がせづらいじゃん。それとも何? つけっぱなしですんの?」
 そう言われればそうだ。何故、そこに気がつかなかったのだろう。
「あ、そ、そうか。そうだよね……」
 ガーターベルトを選択したのは、この私だ。萩乃ちゃんに何と謝ろう。
 それでも、ガーターベルトを着けなければ、どうにかなるかも知れない。
「で、でも、それさえなければ……」
 けれど、そんな淡い期待も、弟の言葉で真っ二つに切り裂かれた。

「勝負下着ってさ、脱がせたくなる下着でしょ? こう、ムラっとさせて」
「あ、えぇ。その通りですよね」
「でも、ムラっとはさせるけど、脱がせたくないやつは無意味だよね」
「こ、これはどちらに属するのでしょう?」
「明らかに後者だよね。そんなにスケスケじゃ……」
 私の知識など所詮こんなものだ。姉風を吹かせたくせに、ちっとも役に立たない。
 けれどそこで閃いた。萩乃ちゃんのサイズは解っている。ならば今度の休みにでも、弟と一緒にあの店へ出向き、弟本人に選んでもらえば良い。そしてそれを、萩乃ちゃんへプレゼントするんだ。

「りょ亮ちゃん、あの、今度さ?」
「でも、こんなの見せたら、男は形振り構わず襲い掛かるだろうね」
「ほんと? ほんとに? 亮ちゃんも襲っちゃう?」
「好きな女なら襲うよ? こんな風に」
 その台詞を最後に、指を絡ませながら手を固定され、キスすることなく唇が首筋を這い始める。
「わ、私を襲わなくていいよ」
 否定の言葉を投げかけながらも、既に身体は火照って顎が上を向く。
「何で? 美也以外、誰を襲うの?」

 亮の手が、スカートを脱がせに掛かる。
 見られた方が良い結果に繋がるはずなのに、見られたくない一心で言葉が零れた。
「りょ、亮ちゃん、ひいちゃうよ…ガーターベル……」
「美也、こんな下着で誘っといて、止めてもらえるなんて虫が良すぎるよ」
「さ、誘ってなんか…はぅっ」
 薄いレース越しに、胸の中心を撫で上げられ、頭がベッドにくっついたまま離れない。
 拒否など口ばかりで、身体は亮が脱がせ易いように、腰をふと浮かせる。

 胸の谷間を唇が這い、指は双方の突起をレース越しに弄ぶ。
 溶け出した蜜が、真新しい下着に、染みを描いていくのが分かる。
 それでも頑なほど、レース越しに責め続けられていた。唇も指も、決して直には触れてくれない。
 そして、唇が唇に、重なり合うことも決してない。
「りょ…亮ちゃ…ん…?」
 いつもとは違うそれに戸惑い、躊躇い勝ちに、キスを強請りながら名を呼んだ。
 けれど亮は顔を背け、淡々と言葉を吐きながら、執拗に尖る隆起を指で責める。
「美也ごめんね。キスはできない。美也は妹が欲しいんでしょ?」

 何故、妹を欲しがると、キスをしてもらえないのだろう。
 抵抗という論点から大幅に掛け離れた、疑問ばかりが頭を廻る。
「ふあぁぁ……っ」
 生温かい刺激が、胸から伝わる。レースに唾液を染み込ませ、亮が頂にしゃぶりついていた。
 いつもとは全く違う感触。いつもとはまるで違う刺激。
 何で、何故、どうして、いつものように抱いてくれないのだろう。
 亮の頭をきつく抱きしめ、泣きそうな声で喚いていた。
「亮っ…亮ちゃんっ」

「ん? 俺に彼女ができたら、美也を抱くことができないよ。彼女に悪いから」
 灰色がかった意識の中で、自分の心と心が鬩ぎ合う。
 抱いて欲しい。否、駄目だ。彼女に申し訳がない。でも抱いて欲しい。せめてキスだけでも。
 脱がせてもらえない。触れてもらえない。そんなことが、酷く悔しい。
 それなのに亮は、やはり直に触れることのないまま、レース越しに秘裂をなぞる。
「くぅぅぅ……っ」

 不意に身体が浮かび上がり、ベッドの上に降ろされた。
 ようやく、ちゃんと抱いてもらえる。ようやく、亮が諦めてくれた。
 にっこりと微笑んで腕を伸ばし、キスを求めて頭を上げる。
「美也、案外強情だね」
 けれど亮は応えてくれず、それだけ言い捨てると、レースの中に指を潜りこませ、行き場を失い溢れかえった蜜を掬い、固くなった蕾を直に捏ね始めた。
「くぁっっ!」
 勢いよく流れ込む電流に、身体が仰け反り、腿が震える。
 レースに阻まれても尚、繊細に素早く動く指は、肉芽を甚振り、私を絶頂に押し上げていく。

「ああぁぁっ、……?」
 最後の階段へ足を踏み入れようとしたとき、急に動きを止められた。
 短く浅い呼吸を繰り返しながら、到達することのできなかった身体で亮を見上げる。
「美也が妹欲しいって言うし、俺、頑張るから、美也も我慢してね」
 首を傾げて天使のように可愛らしく微笑みながら、悪魔のような冷たい言葉を亮が言い放つ。
 呆気に取られて息を止めれば、また指の動きが再開する。
「んあぁぁ……っ」

 亮の中指が、つるりと中へ入り込み、そんな中指に代わって、親指が肉芽を強く捏ねる。
 胎内で蠢く中指は、襞を弄り、ざらざら感を運びながら要処を擦った。
 それでも身体は知っている。絶対にこの指で、私はイかせてもらえない。
「が、我慢できないぃ…んぁぁっ」
「だって、妹が欲しいんでしょ?」
 灰色だった意識は、汚染物質を含んで汚泥と化し、澱んだ感情を湧き上がらせていく。
「妹いらない…妹いらないっ!」
 亮の腕を強く握り締めて叫ぶ。それでも亮は、指と言葉で私を責め続ける。
「俺に彼女がいても無理だよ?」

 どんなに懇願しても、身体は中途半端に高められ、そしてそのまま突き落とされる。
 爆ぜることができず、燻り続ける身体と心は濁りきり、悋気と独占欲の塊になっていく。
 亮は、二度と私を抱いてくれないのだろうか。亮は、違う誰かをこれからは抱くのだろうか。
 ああやって愛しげに、ああやって愛でながら、私ではない誰かを愛するのだろうか……
「だめっ、亮ちゃんは彼女作っちゃだめっ」

「美也、俺は誰のもの?」
 欲しくて堪らない亮の唇が、目の前で揺れていた。首を傾けてキスを強請るけれど、答えなければ駄目だとばかりに顔を背けられる。
 亮はずるい。私の欲しいものを全て知っているのに、目の前にぶら下げて私を焦らす。
 この唇は私のものだ。誰にも渡したくない。絶対に渡さない。
「み、美也の! 美也のものっ!」
「うん。全部、美也のもの……」
 亮が微笑む。亮が囁く。そして亮が繋がる。欲しくて狂いそうだった唇で、私の喘ぎを呑み込みながら、ゆっくりと確実に私の中へ沈んでくる。
「ぐんぅぅぅっ!」

「亮ちゃん…亮ちゃんっ」
 息継ぎの合間に、何度も名を喚く。それでも足りない。もっともっと、唇で伝えて欲しい。
 何を伝えて欲しいのかなど解らない。それでも重ねて欲しい。厭という程ずっと。
「美也…好きだよ……」
 頭の中で、亮の囁きがくるくる回る。私も好き。亮が好き。この気持ちは今までと何か違う……
 それでも亮が動き、快意が身体を貫けば、そんな思考は何処かへ消え飛ぶ。
「ああぁっ、りょ、亮ちゃっ…だめっ、イクっ…んあぁぁっ」

 ブラもガーターベルトも着けたまま、座る亮の上に跨っていた。
 肌の全てで亮を感じたいのに、下着に阻まれ、それができない。
「も、もう、絶対、こんなの着ない……」
 亮の額に自分の額を押し当てて、半べそながらに呟いた。
 すると亮は、さわさわと私の身体に指を這わせながら、戸惑い勝ちに私へ問う。
「ん? 何で? そそるよ、凄く」
「だ、だって…ぬ、脱がしてもらえないから……」
 その言葉で、亮が艶やかに笑う。私の頬を両手で包み、蕩けるようなキスを齎しながらそっと囁く。
「美也、好きだよ。すごく好き」

 ホックを解かれ、ストラップが肩から滑り落ちていく。
 亮の目の前に差し出された私の胸。まるで食べてくれとばかりに、ふるっと揺れる。
 期待通り、眼を閉じた亮が胸の隆起に吸いついた。その心地良さに深い溜息が零れ、顎が上がる。
 まるで氷水へ浸かったように、ぴりぴりと身体が痺れ、敏感に研ぎ澄まされていく。
 亮の髪に両指を差し入れ、声にならない喘ぎを漏らし続けた。
「美也…包んで…俺を美也で包み込んで……」
 その言葉だけで襞が揺れる。亮の全てを絡め取りたいと、私の襞が訴えている。
「っあぁぁ……」
 腰を浮かし、自ら亮を包み込む。分け広がる襞がひくひくと、絡み吸い付き締め上げていく。

「亮ちゃんっ、亮ちゃんっ!」
 亮の肩に掴まりながら、止まることなく身体が撥ね続けていた。
 胸を這う滑らかな舌の感触と、中心の蕾を捏ねる指の動きに、蕩けて溺れて我を失くす。
 ぐちゅぐちゅと、自分の蜜が淫らな音を奏でていた。私もこの蜜のように溶けそうだ。
 身体が熱い。高く高く打ち上げられて、吸気の音すら高くなっていく。
 瞼を閉じても光は消えず、限界を感じ取った瞬間、亮の指が蕾をきゅっと摘み捻った。
「いやあぁぁぁっ!」

 意思とは無関係に、身体が大きく震える。一定の律動を保って、びくんびくんと揺れ続ける。
 それでも亮は止めてくれない。するっと私を押し倒し、横向きにさせたまま片脚を持ち上げる。
 深く繋がるように、交差された互いの身体。それを解っていながら、亮が限界まで押し込んだ。
「りょ、ふっ、ふか、深いっ…ああぁっ」
「やば。美也そのカッコ、そそり過ぎ」
 ガーターベルトの合間から覗く秘処が、亮を咥え込む姿を、本人に見せ付けていた。
 堪らなく恥ずかしい。羞恥が込み上げ、顔を両手で覆いながら中心に力が入る。
 襞の中で亮がぴくんと揺れた。けれど、それを感じられたのは一瞬だ。

「いやぁっ、ふかっ、あた…あたって…だめぇっ!」
 抉って抉って擦り上げ、突き上げられる塊が壁を打つ。
 襞の要処を直撃し、壁を貫くその酷烈さに、口を閉じることができず、涎が垂れる。
 それでも、持ち上げた私の片脚をぐっと折り曲げ、さらに深く深くと、亮が抉る。
「やめ、やめっ、りょうちゃっ、狂っちゃ、狂っちゃうっ!」
「…俺も…狂い…そっ」
 亮がくる。私の中で爆ぜるため、勢いを増した亮がくる。
 閉じられた目の中に、幾つもの光の粒が揺らめき、明滅を繰り返す。
「い、一緒に、一緒にっ……んあぁぁぁぁっ!」
「っ…美也、美也っ」

 やばいです。またやってしまいました。何故こうも、身体は弟を求めるのでしょう。
 今回は、一語一句、自分の発した言葉を覚えています。故に、言い訳が通用しません。
 感じ捲り、乱れ捲り、さらに不可解な言葉を投げつけました。
 私の記憶が正しければ、何時から我が弟は、私のものになったのでしょう。
 思い切り明言し、しかもそれだけでは飽き足らず、彼女を作るなとまで言い切りました。
 誰でも構いません。どなたか、こんな私を怒り、そして救ってください……

「ねぇ美也、それは、誰に宛てた作文?」
 横を向く私の肩に、後ろからキスを施しながら弟が問う。
 主催者に決まっている。我ながら、この作文は完璧だ。
 きっと作文コンクールに出展すれば、賞という賞を掻っ攫うに違いない……って何だそれ。

「いえ、こちらは作文などとは違いまして、感情の赴くままに言葉を発しただけであり、誰に宛てたわけでも、何方かに聴いて欲しかったわけでもなく、強いて言えば、自分自身?」
「つまり、独り言ね?」
「あぁ、もう、そうでございます。私もそのように申し上げたかったわけでありますが、何せ幾分ですね? 頭が混乱していると申しますか、どのように言い逃れようかとばかり考えている故……」
「いらない言葉が多くなる?」
「いやもう、パーフェクトでございますね! それほどまでの御方ですから、きっと、つい先程の営みにて私が口走ってしまったことなど、露ほども気に留めず、記憶の彼方へ押しやっ」
「あ、それは無理だから。絶対に忘れない」
「チッ」

「チッ? 今、美也はチッって舌打ちしたよね?」
 仰向けに転がされ、身体全体で身動きが取れないように抑え込まれた。
「し、してないよっ、りょ亮ちゃんの勘違いだってば!」
 どんなに弁解しても聞き入れてくれそうにない弟は、悪魔のような狡猾微笑みを浮かべながら、私の口調を真似てほざく。
「や〜ん亮ちゃん、狂っちゃ、狂っちゃうっ! って、今直ぐまた、言わせてもいいんだけど?」
 弟の中心が高まり始めたことを、私の肌が感じ取る。
 拙い。酷く拙い。ちょっと欲しいかもって思っちゃった自分が、一番拙い。

 弟の身体を力一杯押し退け、裸なことも忘れて正座に勤しむ。
「こ、今回は、どのようなお約束をすれば……?」
 すると弟は、うつ伏せに突っ伏したまま、有言実行を囁いた。
「自分の言った言葉には、責任を持ちましょう。かな?」
「あ、それなら大丈夫です。私はいつでも狂ってますから」
「違うでしょ? 妹いらない! でしょ」
 そうだった。私はそう断言した。しかも連呼して。
 急に身体の力が全て抜け、へなへなと仰向けに転がった。

 天井に萩乃ちゃんの姿が浮かび上がる。それなのに、愛しい萩乃ちゃんが遠ざかって行く。
「うわ〜ん。萩乃ちゃ〜ん! 折角、キャッツアイだったのに〜!」
 天井へ腕を伸ばして、戯言を叫びながら、萩乃ちゃんの残像を追いかける。
 そんな私を半口開いて眺める弟は、溜息混じりの哀れみを述べた。
「別に俺とくっつけなくても、石岡さんは美也の傍に居てくれるよ」
 そこで、ふと閃いた。そうだ。萩乃ちゃんを妹にする方法が、まだあったじゃないか。
 何で最初から、これを思いつかなかったのだろう。だから私は、何時までも駄目なんだ。
 よし。こうなったら、明日からでも作戦開始だ。新たな勝負下着を手に入れよう。

「亮ちゃん、私、頑張る! 石岡さんと私が結婚すれば、萩乃ちゃ」
「美也、お前、マジでぶっ飛ばすっ!」
 何だそれ。なんでぶっ飛ばされなきゃならないんだ。変な亮ちゃん。多分。
← BACK

INDEXMAINNOVELBROSIS
Image by ©ふわふわ。り